2021/10/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にカーレルさんが現れました。
■カーレル > 劇場前の大通りは貴族が馬車で乗り付けるためのロータリーになっていて、
今宵も様々な貴族や商人たちが家紋入りの馬車で乗り付けて上演される歌劇を楽しんでいるようで
それは劇場の外からでも往来を見ていればよく判る
中には見知った家紋、紋章入りの馬車がやってきて首のあたりをひんやりとした秋の夜風が撫でていくようであるが、
おそらくはまあ、自分の考えすぎであると思う
そういった金持ち連中が集まるところには得てして物売りであったり、
素性の知れない怪しげなやつだったりがチラホラと散見されるのだが、
そういう連中から今宵はさる貴族の老夫婦をお守りするのが依頼であった
…と言っても、自前の護衛を引き連れているから自分は劇場の中までは入っていけないのだけども
そもそも、一番襲われやすいであろう馬車の乗り降りのタイミングだけ、
自分は盾役として選ばれた、と言われればその通りで、お守りする、なんていうと少々誇張がある気がしないでもない
…ただ、払いは良い。護衛対象の老夫婦も貴族にしては感じの良い人物で、
矢弾の盾として市井からチョイスされた自分にも、よろしく頼む、なんて一言をくれたりするのである
というわけで、自分は馬車の往来する隅っこで物売りに来ていた少年と肩を寄せ合って腰を下ろし、
馬車に入った家紋でどこどこの家、と家名当てゲームを楽しんでいるわけである
この物売りの少年も元はどこぞの商家で丁稚をしていたらしく、なかなか商家に詳しい
小銭を賭けながら遊んでいるが中々強かな少年である
勝ったり負けたりしているうちに歌劇の幕も降りてぞろぞろと劇場から人々が出てくると、
そんじゃ頑張れよ、と少年と互いに挨拶を交わして別れ、出てきた老夫婦が馬車に乗り込む際に、
劇場の警備員、老夫婦の連れている護衛らと協力しながら手早く老夫婦を馬車へと乗り込ませれば仕事も終わった
最後に馬車の小窓から品の良い老婦人がご苦労さま、と声をかけるのを見て、
40年前ははさぞ良い女であったろう…なんて事を思いつつ、未だ馬車の往来の激しい入り口を避け、
コートの内ポケットから煙草を取り出せば、ポッと先端に火を灯した
「静かな夜で助かるわ…」
行き来する馬車の列を遠目に眺めながら、襲うなら乗り込んだ後だな…等々、
剣呑なことを考えたり考えてなかったりしながら、ふ、と紫煙を吐き出した
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ――ガラガラといくつもの車輪が何重奏おも奏でる賑やかな中に、その音に混じって微かに軋みを立てていた一組の車輪が停止した。
それは平民地区の馬車乗り場から出発しこの富裕地区ロータリーを終点とした一台の乗合馬車。
貴族は基本的に専用馬車を所持している為、まったくお呼びでないものだが、平民地区から富裕地区へ所用のある、馬車代くらいには困らない平民のためのものだ。富裕地区までの用事がないにしても、平民地区の主要通りを走るため、日々の足として使用する者も多い、というかそちらがメインのようでこうして終点まで乗り付ける者は少ない。
ましてやこの時間となればこんなところでわざわざ降りる者は、この地区へ戻る貴族かまたは――、
「――っ、は……ここ……どこ……?」
居眠りカマして乗り過ごしてしまった間の抜けた平民だ。
今日は依頼者である貿易商の主人から気前よく、自宅へ戻る足として馬車の木札を頂戴し、普段滅多に乗ることのない都市馬車に乗ったのであるが……窓の外を見ている内にうとうとと船を漕ぎ出し、停車場をとっくに通過して終点まで乗り過ごして今に至る。
終点ですよ、と御者に起こされて慌てて降りた、明らかに見覚えのない上、舗装される石畳も上質どころか一部タイル張りとなっている、巡る馬車も降りる者の服装も総てが上等……という普段まったく縁のない光景にロータリーでひとり茫然と立ち尽くしていた。
「ええぇー……」
寝ぐせのついたアホ毛をひょこ、と飛び出させながら途方に暮れる、その場からいくらか浮いたヒーラーが一人。
■カーレル > ロータリーに他の馬車と見比べて一段…いや、二段、三段程も見劣りする馬車が入ってくる
これは王都内を循環する乗合馬車で王都で貴族の屋敷で下働きなんかをしている家人なんかがよく利用している
平民地区から富裕地区へ乗り入れる路線は基本的に貴族の発行する木札が要るから、
そこで怪しい人物を跳ねることが出来るので治安向上にも一役かっているとか、なんとか
しかし、こんな刻限に入ってくる乗合馬車はおそらく最終便だろう
降りるものも、乗り込むものもそうはいないはずである。いないはずであった…
陽が落ちると吹く風は秋のそれ
少々、肌寒くあるが北国生まれの自分からすればむしろこれくらいの方が過ごしやすい
柄にもなく煌々と明るい劇場にコトコトと馬車の車輪が石畳を滑っていく音が心地よく、
静かで良い夜だ、なんて思いつつ吐き出す紫煙の向こう、吹き抜けていく秋の夜風に揺れるアホ毛を見た
どこか見知ったような気がするアホ毛を確かに見た
「…嫌ですわ、田舎者丸出しの娘ですわ、オホホ」
劇場から出てくる綺羅びやかなドレスに身を包んだご婦人が遠目に佇む彼女に視線を向けている…ような気がする
続いて劇場の警備員がその視線に気がついたか、そちらへ視線を向け、二人、三人と集まり何やらヒソヒソ語りだす
…こんな堂々と乗り付けてくる襲撃者もおらぬであろうが
ともかく、衆目を集め始めた様子であるから面倒になる前に呆然とする彼女に近づいていき悪態をついてみる
自分にしたって物売りよりは素性の知れない怪しげな人物に見えぬこともないから、
さっさと彼女を引っ張ってこの場を離れようと思う
とりあえず、劇場の警備員には任せといて、と遠目に合図を送っておくとしよう
「…という冗談はさておき、さっさと離れるぞ
今しがた劇場の演目が終わったばっかりで警備員も貴族の護衛もぴりぴりしてっから」
ほらほら、帰るのよと彼女の腕を無理くり掴んでグイグイ引っ張っていこうとしてみる
飼い犬か何かを引っ張っていく要領で…いや、彼女は犬嫌いであったけれども
■ティアフェル > やってしまった……こんなところにこんな時間こんな格好で突っ立っているなんて、ちょいレアな羞恥プレイに等しい。
いっそ全裸なら、『ああ、そういう……』みたいな眼で一瞥されるだけで済んだかも知れない。まっぴらご御免過ぎるが。
劇場を終着としているだけあって、開演前の時間帯には演目に出演する階級を持たない歌い手や演者が多くここで降りるくらいで他には平民地区へお忍びで出かけたという変わり種貴族くらいしか降車することはない――のだから、ちょっとは機転を利かせて起こしてよ御者サン…!と若干八つ当たり気味な気持ちで拳を握り、後続もなければ平民地区へ戻る馬車もない、終発で終点までという最悪コースを行ってしまった身としては、まあまあ絶望感を噛み締めていた。
心なしか、周囲の人々の視線や囁き声がまるで己を咎めているような。嘲笑っているような。被害妄想でなければそんな気がして、落ち着かない気持ちで。取り敢えず目立たないように迅速にかつ隠密に逃走しよう、と算段していた折に。
「………? ………!?」
薄っすら聞き覚えのある、オネエ調の声があからさまに己を侮蔑する声。
どこのオカマよ、と振り返った先の顔に眼が飛び出た。
そうそう神出鬼没がウリ……何でも屋とやらでは当然というか、別段珍しいことではないはずであろうが、何せ顔を見るのも久し振りなのですっかり驚いて声を失い。
「え……? あ。え……ま、待ってよ……」
衆目を集めていることを察してとっとと撤収させようと機転を利かせて、警備にまで合図を送った上で腕を引く彼の行動の速やかさにすっかり気後れしたこちらはついて行けずにどこかぽかんとした顔と声でぼやけた反応を示し。
少々たたらを踏みながら半ば引き摺られて行くように回収される状態だったが、その最中。
「えー……、カーレル……さん? 本物? 生きてたの?」
こいつはこいつでそれなりに無礼かも知れない声を上げていた。