2021/08/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からソルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 私設美術館」にヘルティナさんが現れました。
■ヘルティナ > 白亜の壁を埋め尽くさんばかりに飾られた絵画に、天鵞絨の敷かれた台座の上に鎮座する宝飾品類。
緩やかに足を進める度に、大理石の床を叩いた靴の踵がカツン、コツンと音色を奏でてゆく。
「――へぇ……。流石に、此れだけの場所を態々作ってまで、見せびらかせているだけの程はありますわね……。」
此処は或る貴族が邸宅の一部を改装して作られた施設の美術館。
女のような富裕層でも無い、素性の知れぬ者でも自由に出入り出来る程度に開かれた門戸は、
平民や旅人にも芸術に触れより身近に感じることで、教養を深めてもらおうという主人の計らい。
――などでは無く、己のコレクションを見せびらかしたいという自己顕示欲の現れだろう。
この街の人々もそれを知ってか、真紅のドレスを纏った女の他に来館者の姿は疎らで、
つい先程も、一晩雨風を凌げそうな場所目当てでやって来たと一目で判る冒険者が警備の私兵に摘まみ出されたばかりであった。
まぁ、下手に騒がしいよりはこの位静かな方が良いけれど――
そんなことを考えながら、変わらず緩やかな動きで足を進めて。
女はそれらの展示品をひとつひとつ、興味深そうに眺めてゆく。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 私設美術館」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
静寂を好ましく思う彼女の思いを知ってか知らずか。
少し離れたところから零れ聞こえるのは、二つの足音と話声。
気配を探る迄も無いだろう。彼女の元へ近付いて来るのは、美術館の主人と思わしき貴族と、その貴族に展示品の説明を受ける少年。
ぺらぺらと若干――いや、過大な自己顕示欲を節々に匂わせる様な主人の声色が、彼女の耳元にも届くだろうか。
一方、その説明を受けている少年は美術品の類にはさして興味を示す訳でも無く。
時折無難な相槌を打ちながらも、傾聴している、という気配は感じられない。
そんな二人組は、彼女の近くまで歩みを進めて――少年の方が彼女に視線を一瞬向ける。
僅かな思案顔の後、追従する館の主人に小声で何事かを囁けば…恭しく一礼した主人は、その場を立ち去るのだろう。
そうして一人になった少年はゆっくりと。カツリ、コツリと革靴の音を響かせながら彼女に近付いて。
「……騒がしくしてすまなかったな。あの者も、悪気があった訳では無いのだが」
――と。先ずは彼女の芸術鑑賞を妨げた事に対しての非礼を詫びるのだろう。
■ヘルティナ > 暫くの間、そうして独り館内を巡っていた頃。
遠くから大理石の床を叩く靴音と話し声を伴って近付いて来る気配がふたつ。
其方へと金色の瞳を向けて視線を投げ掛けると、初めに目に入ったのは心なしか見覚えのある貴族の男。
数瞬の間を置いて思い出す――確か、この館の入り口近くに飾られた肖像画、此処の主人だ。
次に女の視線が移った先に捉えたのは、彼と言葉を交わす一人の――中性的な顔立ちをしているがすぐに少年だと判断する。
初めは主人の子息かとも思ったが、似ても似つかぬ面影と、
少年の方へと恭しく一礼して去っていく主人の姿にすぐに認識の誤りを訂正し。
「――御機嫌よう……?いいえ、別に……私一人の為の場所と云う訳でも無いのだし……。
此方こそ、お邪魔をさせていただいてますわ……?」
その容姿とは些かかけ離れた口調で語られた謝罪の句に、ほんの一瞬瞳を丸くしたものの。
すぐに取り繕ったようにドレスの裾を軽く持ち上げて会釈をしながら、女は目の前の少年へとそう返した。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
彼女迄の距離をあと数歩、というところまで詰めて、足を止める。
其の侭、会釈した彼女を一瞥した後――
「ふむ、であれば良かった。……まあ、私の方もさして興味の無い美術品の蘊蓄に辟易としていたところもあってな。
丁度貴女の姿を見かけたものだから、抜け出すのに利用させて貰った。『麗しの美女が鑑賞しているのを邪魔するのは如何なものか』とな」
彼女の言葉に穏やかに微笑み、丁寧な会釈には緩やかに手を振って応える。
その態度は――まあ、平たく言えば偉そうなものだ。
謝罪の言葉も、次いで投げかけた言葉も。子供らしからぬ"貴族"としてのその口調は、奇妙な程に違和感が無い。
「随分と熱心に見られていた様だが、美術品や芸術に関心が御有りなのかな。であれば、声をかけてしまったのは申し訳ないと思う次第だが。
さして興味の無い美術品よりも、見目麗しい美女と語らう時間の方が得難いものだと思ってしまってね」
此方に向けられる金色の瞳を見返しながら、クスリと笑みを零す。
口説いている、というよりは本心なのだろう。
美術品に興味が無い。彼女の様な美女と会話を楽しむ方がマシ。
但し、その為に彼女の時間を邪魔する様な事はしたくない。
些か尊大な物言いではあるが、虚偽の気配は感じられないだろうか。
■ヘルティナ > 「……あら、それはそれは……心中お察し致しますわ……?
私のような女を捕まえて『麗しの美女』などと言うのは如何かと思うけれど……。」
二言三言聞いただけでも、先程の己の認識に誤りは無かったと認める程に自己顕示欲を滲ませた屋敷の主人。
彼の講釈と云う名の興味の無い自慢話を延々聞かされる立場を考えると、
多少の口実を用いてでも抜け出したくなるのは已む無しと、唇の端を笑みの形に歪めて。
「――そうですわね……美術品、というよりも美しいものや珍しいものには何でも興味が有りますけれど。
嗚呼、構いませんわ?此処のものが見たいのならば、また後日足を運べば良いだけの話ですし。
けれど、麗しい美女と語らう時間をお望みでしたらば、この様な場所で私などを相手にするよりも、相応しい場所が幾らでもあるのではありません……?」
まだ幼さすら感じられる見目とは裏腹に、尊大な、しかし確かな口調で語る目の前の少年。
その差異に少しばかり驚きはしたものの、言葉の端々から垣間見える誠意もあってか決して不快では無く。
女の方も指先を口許に添えて微かに笑みを零しながら、ひとつ、ふたつと言葉を交わしてゆく。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「美しさというのは、何も外見だけの話ではない」
彼女の言葉に、小さく肩を竦めてみせる。
「勿論、貴女は十二分に美しい。そこいらの女では相手にならぬだろう。しかし、見てくれだけ美しい者と話していても、面白くは無いだろう」
彼女と交差していた視線は、興味が無い、と言っていた美術品へ向けられる。
「しかし貴女には、此処の主人が虚栄心の為だけに集めた美術品を理解する教養がある。突然話しかけて来た横柄な子供にも、礼儀を以て当たる品位もある。
勿論、その燃える様な髪も、白亜の様な肌も、黄金の瞳も美しいと
思う。しかし、私は何より貴女の立ち振る舞いを先ず美しいと思うがね」
美術品を眺めながら――しかし結局その芸術性や価値を理解出来なかったのか、改めて彼女に視線を向け直して。
「まあ、私の様な子供に褒め称えられても貴女を満たすかどうかは分からぬがね。少なくとも、無益な世辞は言わない主義だ。
素直に受け取って貰えれば嬉しく思うよ」
と、緩やかに口元に笑みを浮かべた。
とはいえ、自分よりも少しだけ背の高い彼女と視線を合わせようとすれば必然的に僅かに見上げる形になり――その事実に、僅かに顔を顰めてしまうのだが。
■ヘルティナ > 小さく肩を竦めて見せてから、語られる少年の言葉とその節々に織り交ぜられる女への賛辞。
それらにほんの少しばかり擽ったそうに金色の瞳を彷徨わせるものの、やがてクスクスと笑みを零しながら。
「――まぁ……随分と嬉しいことを言ってくれますのね……。
この街で出会った貴族の男達よりも、ずっと紳士的な殿方に出会えて私も光栄だわ……。」
見目の歳の割には――と云う感想は流石に失礼にあたると感じ飲み込んでから、
ほんの少し、浮かべた笑みの形を悪戯っぽく歪めて見せながら女は言葉を返す。
「本当は、ただ猫を被っているだけなのですけれど……。
でも、それは貴方の所為でもありますのよ?
私、そもそも礼節を弁えない殿方相手に態々こうして猫を被ったりなどしませんもの。」
不意に、金色の瞳が目の前の紅色と重なったのだけれども。
ほんの少しだけ、女の方が見下ろすような形となっていることに僅かに顔を顰めた彼の様子を見て取れば、
クスリ、とまたひとつ口許からは微笑が零れ落ちて。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「猫を被っているのは私も同じさ。貴女も此の国の貴族達と交友があるのなら、その醜悪さも多少は耳にしているだろう」
勿論、全ての貴族が…とは言わない。
けれど、此の国において王侯貴族とは欲望の儘に喰らい、犯し、嬲る。
そんな者達ばかり。それは勿論、自分にだって言える事。
顔を顰めてしまった事を彼女に悟られた、と理解したから。
いや、理解したからこそ――言葉を続ける。
「教養と品位を持ち得る貴女と。行儀のよい美術品が並ぶ此の館だからこそ、私もこうして大人しく語らっているだけ。
貴女の様な美女であればそれこそ……」
其処で、もう一度美術品に視線を戻す。
掲げられた絵画。そこに価値を見出す様な性質ではないが――
「…この美術品の様に、大袈裟に飾ったりなどはせずに。
獣が牙を突き立てる様に、貴女を視ている……かも、知れないな?
だから、礼節を弁えているからと言って、それを紳士的だなどと思うのは早計やもしれぬぞ」
と、揶揄う様な子供らしい口調と――ほんの少し垣間見せた、獣の様な獣欲を交えて。
にこり、と彼女に微笑んでみせるのだろうか。
■ヘルティナ > 続く彼の言葉には、小さく首肯を返して見せる。
交友らしい交友といえば片手の指で数える程度の女であっても、
この国の貴族達の持つ『裏の顔』の噂は聞き及んでいる。
「……えぇ、そうでしたわね……。
尤も私としては、その醜悪さもまた人間らしくて好ましい、と思っておりますけれど。」
言って、傍らに飾られた絵画の一枚に視線を向ける。
そこには一人の美しい裸婦を絡め取るかのように抱いた男と――その背後に宿った醜悪な悪魔の姿が描かれていた。
或いは、それは人とは異なる魔に属した女がつい饒舌になって漏らした本音なのかも知れず。
「――勿論、その浅ましい牙が私自身に向かない限りは、ですけれど。
獣が相手では態々猫を被る必要も、礼節を重んじる必要も無いでしょう……?
その牙を突き立てられる前に、此方から爪で引き裂いて差し上げるまでのこと……。」
目の前の少年の見目と口調からは想像がつかぬような、獣じみた欲望。
僅かに垣間見せたその存在を知ってか知らずか、女もまた冗談めかした口調でそんな言葉を口にして。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
彼女が視線を向けた絵画へ、釣られる様に視線を移す。
男と女と――醜悪な、悪魔。
此の場合、悪魔として描かれているのは男の方なのだろうか。それとも――
「人間らしい、か。確かに、清廉潔白なだけの者よりは、幾分面白味もあろうというもの。
英雄色を好む、という諺もある。欲望の儘に力を振るう事に、憧れを抱く者も少なからず人の世にはいたのだろうな」
コツリ、コツリ、と足音が響く。
数歩の距離を保っていた少年が、彼女にゆっくりと歩み寄る。
「それは恐ろしい。されど、美しい薔薇には棘がある、とも言う。
唯々諾々と従う女よりは、其方の方が私は好ましく思うよ」
あと一歩、の距離まで近づいて足を止める。
そして、ゆっくりと彼女に差し出される右手。
「私の名はギュンター。ギュンター・メルヒオール・フォン・ホーレルヴァッハ。
此の国で王族を頂く家に連なる者。今は、王位を目指すだけの小童に過ぎないがね。
もし良ければ、貴女の名を教えて頂いても構わないかな?」
名も知らぬ彼女に、握手を求めて警戒心も見せずに右手を差し出した儘。
垣間見せた獣欲などどこ吹く風、と言うかのように首を傾げてみせた。
■ヘルティナ > 別に、女とて唯の蒐集家に過ぎず絵画の歴史や時代背景までをも知り尽くした訳でも無く。
傍らに飾られたその絵画の作者が、何を思ってこの絵を完成させたのか――
その真意を推し量ることは、終ぞ無かったのだけれども。
「――でしょう?清濁を併せて呑んだ上で、どのような類の欲望も受け入れている。
この国を訪れてからまだ然程永くはありませんが……。
もしかしたら、この国のそんな処が意外と気に入っているのかも知れません……。」
視線を件の絵画から目の前の少年へと戻し。
クスリ、と笑みの形をまた悪戯っぽく歪めて見せてから。
「えぇ……殿方が獣の牙を隠しているように、
美しい女性もまた鋭い棘を隠し持っているものです。
どうか貴方も、そのことを努々忘れてしまいませんよう……。」
ふと視線を落とせば、握手を求めるように差し出された少年の小さな手。
ほんの少しばかり、思案するような間と素振りを見せてから、そっと伸ばされた女の手がそれを取る。
「――ヘルティナ。由緒ある家の者でも無いので、姓は特にありませんわ……?
どうぞお見知り置きを。王族のギュンター様……?」
王族の連なり、王位を目指す者――目の前の少年から名乗りと共に告げられたその言葉にも驚いた素振りは見せず、
それどころか腑に落ちた様子すら垣間見せながら、女はそう自らの名乗りを返した。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「人の欲、浅ましさ。それらは時に醜く、時に美しいものだ。
だから私も嫌いではない。好ましい、とも思わんがね。
民草が求めるのは、己の欲望を叶える事が出来る強い王だ。今の此の国には、無いものだがね」
悪戯っぽく微笑む彼女に、ゆるりと唇を緩める様な笑み。
まるで、自分はその様な王になれる、とでもいう様な傲慢さ。
「成程、その忠言しかと覚えておこう。
しかし、時に思うのだ。その鋭い棘すら握り潰す様な豪胆さが無ければ…美しい花を得る事は、出来ないのではないか、とな」
重なる二人の手。白く柔らかな彼女の手を、陶磁器を扱うかの様にそっと握り返す。
それは彼女を労わる様であり、尊重する様なものであり――獣が、牙を突き立てる獲物の柔らかさを確かめている様な。
「ヘルティナ、か。今日の出会い、真に良いものであった。
おかげで、退屈な芸術鑑賞で終わらずに済んだというもの。
……されど」
ゆっくりと手を離す。そして、穏やかに微笑んだ儘。
もう一歩、彼女に近付いた。互いの距離は、握り拳一つ分くらい、だろうか。
「此の侭、鋭い棘を握り潰して。美しい花を手折ってしまいたくもなる。
どうかな、ヘルティナ。互いの親睦を深めるに相応しい場所へと赴く、というのは」
名乗り返した彼女に、先程までと変わらぬ穏やかな笑みの儘。
傍から見れば、嫋やかな淑女と語らう貴族の少年でしかない。
しかし、間近で彼女の黄金の瞳を見つめる少年の瞳には――静寂な美術館に相応しくない、仄暗い獣欲が見て取れるだろうか。