2021/07/24 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にミシェルさんが現れました。
ミシェル > 夜、富裕地区にある公園。
昼間は賑わっていたそこも、夜ともなると人気は無く、
魔導街灯の光に虫が飛び交うばかりとなっている。
そんな公園のベンチに、一人の男装の女が無防備にも寝転んでいたが、
ふと、彼女は瞼を開け、伸びをしながら起き上がる。

「……あー、寝すぎたかな」

周囲の暗さにミシェルは呟くと、背中を背もたれに預け座り直す。
研究の合間の休憩のつもりが、思ったよりぐっすり眠っていたらしい。
帰らなきゃなと思いつつも、ぼんやりと座って星空を眺めている。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリリアさんが現れました。
リリア > (富裕地区に、とある用事で出向いた帰り道。すっかり夜も遅くなり、人通りもまばらな道を足早に帰っていく神官女は、あたりを気にかけるように時折周囲を眺めながら、歩みを進めていく。

少し近道しようかと思い、公園を通り過ぎる途中で、ベンチに寝転ぶ人物を見つけて。

富裕地区だからこそ、リッチな誰かの命や財布を掠め取ろうとするものは少なくないと考えて、このままここで横たわっていると相手のためにならないと、声をかけようとしたところで、相手がひょいと起き上がるのが見えて)

あの、ご無事ですか…?

(咄嗟にかけた声は、どこか中途半端なものとなり。星を見つめる女性は、男装で中性的な顔立ちながらも、とても美しく見えて。もしかしたら誰かを公園で待っていたのかもしれない、と、今更に自分の呼びかけが恥ずかしくなり)

すみません、いきなり声をかけてしまって…。夜は、この辺りは人通りが少ないので、心配になってお声をかけてしまいました。

(時差で、パッと顔を赤くしただろうと)

ミシェル > 「ん?」

いきなり声をかけられ振り向けば、美しい金髪をした女性が一人。
どうにも聖職者然とした雰囲気だが、それにしては服装が…派手だ。
まぁこういう服装をしているのは冒険者か何かだろうと推測する。

「無事?あぁ、心配してくれているのかな?単に寝ていただけだよ」

ミシェルは笑う。

「これでも宮廷魔術師でね。そこらのごろつきに何かされるほどヤワじゃないし、そもそもこの地区にごろつきはいない。
貴族の私兵とかなら別だが、私も貴族なんだから大っぴらに襲うわけがない」

実際、富裕地区は王国内で治安が保たれている数少ない場所だ。気を付けてさえいれば、女性の独り歩きも問題はない。

「それより君こそ大丈夫なのかい?見たところそういう自分も一人のようだけど…」

リリア > 相手の身分を耳にすると、瞳を丸く見開いて。
品のある振る舞いや余裕のある言葉遣いにも合点がいき。

「そうだったのですね…、宮廷魔術師さまとは存じ上げずに、ご無礼を致しました。本当にすみません…! この辺りの土地には、まだあまり明るくなくて…」

自分は来訪者の立場だが、彼女にとってはおそらくこの辺りは勝手知ったる庭なのだと理解し。
釈迦に説法、とでもいうような、恥ずかしい思いにまた頬を赤らめて、ペコペコと頭を幾度も下げて。

「私は帰る途中なのですが…。思っていたよりずっと遅くなってしまって。少し不安だったので、つい、女2人になれれば、と思ってお声をかけてしまいました。宮廷にお仕えなさっていること、知らなかったとはいえ、不躾にすみません」

冒険者としてダンジョンに同行した経験はあるとは言え、基本的に後衛職として生きてきた女に戦闘スキルは全く備わっておらず。
襲われればひとたまりもないのは自分だけだったなと、ひとり苦笑を漏らして。

ミシェル > 急に畏まり申し訳なさそうに頭を下げる女性を見て、ミシェルは苦笑する。

「いやいやいいよいいよ、気楽に気楽に。別に宮廷魔術師って言ったってそんなに偉いわけでもないからさ」

やたらとぺこぺこされるのも何だか変な気分になる。
まぁ貴族怒らせたら何されるかわからないもんね…と一人納得はするのだが。

「他所から来たのかい?ここら辺に住んでるのはほぼほぼ貴族だと思っていい。
面倒くさいのに当たりたくなかったら、あまり声をかけないほうがいいかな。僕が言うことでもないのだけど」

言っていて悲しくなるが、横暴な貴族がいるのもまた事実。
うかつに話しかければ目を付けられる。そうなれば、金と権力に物を言わせて酷い目に遭わされるだろう。彼女美人だし。

「ふーん、帰る途中か…。しょうがないな、送って行こうか。
家はどこなんだい?付き合うよ」

ミシェルは立ち上がって伸びをすると、改めて彼女に顔を向ける。

「僕はエタンダル男爵家のミシェルだ。君の名前は?」

リリア > 「少し用事で立ち寄ったんです、今日は…。恩人が、この辺りに暮らしていらっしゃるので。家はまだ遠いので、今日はこの辺りで宿を探そうかと思っていたんです。
貴族の方への謁見に伺った商人や冒険者が使う宿があると、噂で伺っていたので…」

自分が幼い頃から世話になっている教会の、いわゆるパトロンにあたる貴族への挨拶伺いを済ませてきた帰り。
いくばくか悪戯はされたものの、今年もつつがなく教会へお金を落としてくれることを約束された。その帰路だ…とは流石にいえず。
とはいえ嘘をつけるほど器用でもないため、恩人との表現にとどめ。

男爵家の御令嬢だと気がつけば、さらに目を丸くしてぺこぺこと頭を下げただろう。
孤児の生まれであるせいで、なおさら、貴族には畏敬の念が強く。

「ミシェル様…。お名前まで、ありがとうございます。わたくしはリリアと申します。しがない神官ですが、お口汚しでなければ、お気軽にお呼びくださいませ」

ミシェル > 「ああなるほど、あそこの宿屋か。ここからだとちょっと歩くね。
そこに案内すればいいのかな?じゃあこっちだよ」

ミシェルは歩き始める。

「いやいいって!頭下げないで!僕は君みたいな美人に頭下げさせる趣味はないって!
…ごほん、リリアだね、短い間だろうけどよろしく頼むよ」

またぺこぺこと頭を下げ始める彼女を慌てて止める。
そして咳払いしてから、手を差し伸べる。握手のつもりだ。

「神官なのか…主教ではなさそうだね。どこかの少数宗教だろうかな?」

ノーシス主教ならもっと質素な服を着ているだろう。
その他の宗教にも、彼女の特徴的な服装に該当する宗派は思いつかなかった。

リリア > 相手の親切な申し出に、思わず笑顔になって。

「ありがとうございます。…とても頼もしいです」

助けになれればと思って声をかけたはずが、すっかり助けてもらってしまっている。
だが、堂々とした彼女の振る舞いを見ていると、これが、真の貴族なのかもしれないと、心のどこかで納得する自分もいて。

「ミシェル様は、本当に暖かなお方ですね。貴女を見ていると、ノーブレスオブリージュとはこういうことなのかもしれないと思わされます」

相手の握手に応じながら、敬意を示し。よもや人体実験も厭わない人物などと知るよしもなく。

自分の宗教について問われると
「えぇ…。ミシェル様がおっしゃる通り、あまり信徒は多くないんです」
と頷いて見せて。

「内側に閉じている教えなんです。大勢の人を集って希薄な信仰を捧げるより、ひとりひとりが厚い気持ちで神にお仕えして祈りを捧げることを重視しているので…。私は、子どもの頃に教会に拾っていただいたので信徒となることができたのですが、外部との接触には消極的なもので…」

話を聞いてもカルト、内実もまたカルトである。

「それで、…時折、資金繰りに困ることがありまして…」

と、今日の謁見を思い出して、うっかりそんなことを口走って。
勘が良ければ、資金繰りのために貴族へ謁見に来たのだと、容易く看破されただろうと。

ミシェル > 「ははは、君は人を褒めるのが上手いね。貴族らしくないとは言われることはあってもそんなこと言われたのは初めてだよ」

魔導研究のためなら何でもやり、私生活では女に手を出しまくる彼女ではあるが、女を何人も射止められるのは外面を良くしてこそ。
もはや素の状態で女性に対しては紳士的なふるまいが出来るのだ。

「あー…なるほど、なるほどね……」

しかし、次の話を聞いて、ミシェルは少し苦笑いをした。
ミシェル自身は信仰心は薄いものの、魔術研究を行う者としてある程度宗教についても詳しい身だ。
そんな知識が、これは相当怪しいタイプのカルトだと告げている。

「資金繰りね…」

そんな名目で、こんな美女を、こんな露出の多い恰好をさせて、貴族のもとへ向かわせる。
まぁ…十中八九そういうことなのだろうなと、ミシェルは思っていた。手を出したらなかなか厄介なことになりそうだなぁなどと、理性を働かせつつ。

リリア > 「ミシェル様は、本当の意味では貴族らしい方だと思いますよ。人の上に立つ方って、無意味に権力を振りかざす必要は無いのだと理解していらっしゃるというか…権威を言葉で示さなくても、立ち居振る舞いや言動から、自然と品格が知れるものですから」

相手の苦笑と口ぶりから、察されたことを知り、こちらも苦笑を返して。自身の宗教が原因で人と距離ができるのは、今に始まったことでも無いと諦観がにじみ。

「閉じた教えであろうとすることと、神に仕えない方へ頭を下げてお金を作ることとは、矛盾していると思うんですよね…。神が欲するのは信仰心であって、金銭による供物では無いと、教えているはずなのに…。神への信仰は許可しないのに、財布はいいように使うようで、あまり、良い気持ちはしなくて」

知り合ったばかりの、道中の他人だと思えば、そんな言葉もこぼれて。
信仰は揺るがないが、自分の上に立つ宗教家への疑問はあるといった様子。

「何だか愚痴っぽくなってしまってすみません。…ミシェル様は、公園で何をなさっていたのですか」

そう尋ねる頃には、宿もそろそろ近づいてきただろうかと。

ミシェル > 「そもそも人の上に立つ事があんまり無いんだけどね…」

貴族らしく領地はあるが人任せにして放置しているし、同僚と共同研究したり助手を頼んだりすることはあるが基本的に一人で研究することが多い。天才は孤独…とか言うつもりはないが。

「まぁ神様は信仰心食ってるんだろうけど、信者はお金が無いと生きていけないし、貴族の間じゃ教会や僧会に寄付することが自分の信仰の証明みたいな考えのもいるし、その貴族が幸せならいいんじゃないかな…」

良心的な貴族はよく主教の教会に寄付するし、ミシェルもたまに寄付することはある。
それが生臭坊主を生むことはあるのだが、寄付自体は彼ら彼女らが生きていくには不可欠なのだ。

「僕かい?恥ずかしながら公園で休憩していたらそのまま寝ちゃったみたいでね…思ったより疲れが溜まっていたらしい」

なので、リリアを送れば自分もこのまま屋敷に帰ろうかなどと話しながら、歩いていく。

リリア > 「立場への気負いが無いのは、良いことですよ」

相手の、どこか放任の滲む言葉には僅かに笑いが溢れて。
男爵家の娘でありながら公園でのんびりと寝ているあたり、奔放な人間なのだろうと理解していて。

「…ミシェル様のおっしゃる通り、当人が納得できていれば良いと思います。宗教や信仰は、そういうものです。…他人の目にはまやかしに見えるものを、握りしめて、信仰と呼ぶ。…自己満足でしょう。そのために、他人を食い物にすることが、私の腑に、落ちないだけなんです。自給自足でやっていったり、生業を持つ中でやりくりしていける宗派だって、世の中にはいくらでもあるのに」

寄付する人間のことを否定しているわけではなく、寄付に最初から依存する組織の体質が、信徒をほとんど増やそうとしない自分達の教義と矛盾している——、と、言いかけて、語りすぎたと気付いて口をつぐみ。

「休憩、…宮廷魔術師の研究か何かの途中でしたか?」

そんな中で時間を作ってくれたことに、今一度感謝の言葉を伝えて。

「今夜は送ってくださって、本当に助かりました。ここまで来ればもう大丈夫です。悩みごとまで聞いてくださり、ありがとうございました」

宿屋が近づけば、そう言って深く頭を下げただろうと。

ミシェル > そういうものかな、と笑う。
別に今更貴族らしい貴族になるつもりも、自分の人生を改める気持ちもない。
これからも自由奔放に生きるつもりである。

「んー、まぁ、悩みがあるなら初対面の僕よりもっと力になってくれる人がきっといるんじゃないかな。不満があるならそれをはっきり言えばいい。それでないがしろにされるなら、その時は遠慮せず出ていこうよ」

勿論自分が力になれるなら頼って貰ってもいいのだが、と付け足して。
信仰とはデリケートな話であり、リリアのそれの話を聞くのに自分が適任とはどうにも思えなかった。
と、そうこうしているうちに目的の宿屋は目の前だ。

「ああ、研究途中だったけどスランプ中だったから、良い気分転換になったよ。気にすることはない。
こちらこそ、喜んでもらえてありがたいよ。それじゃ、またどこかで会おうね、リリア」

そう言い残し、手を振って、女男爵は背を向け暗闇の中に歩き出した。

リリア > 「…初対面の方だから言える愚痴です。解決策を探したいんじゃ無い、ただ聞いて欲しくて…。変なお話に、巻き込んでしまってごめんなさい。ミシェル様。どうぞ、気をつけて帰られてくださいませ」

ぺこりと、もう一度頭を下げて。
気の良い貴族が立ち去るのを見送り、宿へ姿を消しただろうと。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からリリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からミシェルさんが去りました。