2021/06/01 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にハイディさんが現れました。
ハイディ > 「大丈夫、私一人で出来るわ。貴方は、院長の御用を済ませていらして」

瞼を閉じた侭、口許だけで微笑を浮かべてそう告げると、
相手の修道女は恐らく、申し訳無さそうな顔で―――――けれど明らかに、
ほっとした様な、或いは、嬉しそうな「顔」をして。
では、そうさせて頂きます、と言い残し、建物の方へ去って行った。

あの程度の「本音」なら見慣れている、特に害があるものでもない。
ふっと小さく息を吐いて、足許に置いていた持ち手つきの桶を両手で持ち上げた。
向かった先は裏手に設えられた、古びた井戸である。
井戸の辺に立ち止まり、再び持ってきた桶を足許に置いて、
湿った木で出来た井戸の蓋を一枚ずつ取り除き、釣瓶を操って水を汲みにかかる。

盲いてはいても、此の程度の作業には慣れていた。
幼い頃から暮らしている場所であるから、特段、危険も感じない。
夏を迎えた所為か、水面は随分と深い所にあるようで、
少しばかり骨の折れる作業になりそうだ、とは思ったけれど。
外に出て、見知らぬ人々に会わねばならない仕事よりは、ずっと気楽だった。

ハイディ > 持参してきた桶に水を溜めるまで、三度、釣瓶を操る事になる。
此の手で一度に持ち上げられる重さには、やはり限りがあるからだ。

「ふ……ぅ、……此の位で、良いかしら」

なみなみと綺麗な水を溜めた桶を見下ろし、ひとつ頷いてから、
脇に立てかけていた板を戻し、元通り井戸に蓋をする。
其れから、ずしりと重くなった桶の持ち手を両手で掴み―――――、

「……そう言えば、此れ、何処へ持って行くのかしら」

肝心の部分を聞き損ねていた事に気づき、僅かに眉根を寄せたものの。
恐らく、時間帯を考えても厨房であろうと思い直して、
ぐっと両腕に力を籠めた。

少しばかりふらつきながらも、建物の方へ向かう。
足取りは盲目の娘にしては、とてもしっかりしたものだった――――――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からハイディさんが去りました。