2021/05/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリュクスさんが現れました。
リュクス > 未だ子供とは言え、まがりなりにも当代侯爵の身。
お茶会やサロンパーティ、観劇など、貴族同士の付き合いに呼ばれることも増えてきた。

声をかけてくれた老伯爵に丁寧に礼を述べ、劇場を出たところで、
ふと、思いついて足を向けたのは、劇場裏手の細い通り。
ぼんやりと灯りのともる店先へ、ひょいと顔を覗かせ、

「マダム、……この花の、白はあるだろうか?
 こちらの色もとても素敵だとは思うのだけれど……」

店先に並ぶ色とりどりの花のうち、楚々たる佇まいの薔薇を指し示す。
淡い薔薇色も確かに綺麗なのだけれど、もしも出来るものならば。

店番の女性は笑顔で、白もございますよ、贈り物ですか、と尋ねてきた。

「ああ、そう、贈り物なんだ。
 母が……それに、妹も。
 白のほうが、とても好きだったんだよ」

僅かばかり翳りを帯びた微笑に、相手は何かを察したものか。
ほんの少し眉尻を下げて頷き、でしたらリボンも白がよろしいですね、と。
礼を告げて、女性が花束を作ってくれるのを待ちながら、
心なし、ぼんやりとした眼差しを往来へ向けて。

リュクス > 出来ましたよ、と声をかけられて、振り返った鼻先。
ふわりと漂いくる懐かしい香り、眼前に展開された小さな花園に、知らず表情が緩み、

「――――――ああ、……ありがとう、とても綺麗だ」

両腕でやっと抱えられるほどの大きさ、けれど告げられた価格はさほどでもなく。
恐らくは色々と察した女性のサーヴィスなのだろうとは思ったが、
『少年』は懐から、告げられたよりだいぶ多い金額の銀貨を女性に握らせ、

「良いから、取っておいてくれないか。
 少し季節はずれだろう、……それなのに、こんなに綺麗に作ってくれて。
 ――――――また、きっと来るから。
 その時には、またサーヴィスしてくれるだろう?」

そう告げると、相手は仕方ないという風に笑って、銀貨をポケットにおさめた。

彼女に軽く手を振って、花束を抱え、もとの大通りへ出て行く。
帰宅したら真っ先に、乳母にこれを活けて貰おう。
そう考えただけで、足取りは幾らか軽くなり――――――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からリュクスさんが去りました。