2020/11/05 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にアイゼンさんが現れました。
アイゼン > 麦の収穫を終えた頃、冬の訪れを前とした街角。
荷台から溢れ落ちそうな飼葉を縄で括り付けた農馬車、秋で労務を一区切りつけた父親が率いる家族連れ。
買い付けに走る商家の使い。夏の重い湿気は孕み落としきった軽い風が、賑わいに沸く街路を駆け抜ける。

―――ぽん、ぽん、ぽん
通りが二手に分かれる三角州のような位置で、黒づくめに白仮面の姿が大道芸を魅せる
宙に放った朱色の手毬。右手で投げれば受け取る左手。捌く両手は流れるように
胸の前で掲げた白手袋の間を手毬が渡り、ひとつがふたつ、ふたつがよっつと、宙に踊る手毬の数が増していく
それらが八つになるころには、寸分たがわず続く放物線の軌跡。彩色の残像が宙にアーチを描く
今や繰り返し描かれる放物線は白手袋の制御を忘れて、それ自体が意思を持って宙を踊る
見上げれば刻は昼と夕の狭間。底を茜に焦がされた空と、いまだ蒼き天頂との境界を手毬の赤い列が縫い交う

黒い帽子に黒い外套。顔を覆う仮面は、白地に口紅差す道化の化粧。
声と表情を消して自らも背景と化したかのよう。踊る手毬のみが衆目に訴えかける意思をもつ
毬の行列は働き蜂の勤勉さのように、迷いなく澱みなく。

アイゼン > ―――ぽん、ぽん、ぽん
空を描く軌跡は転じて地に。両手袋が手毬の行く先を地面に変えて、手毬の行列は下へ弦を描く。
宙に描いていたのと同じ曲線で流れる毬は、蟻の行列を思わせる整然。同じ地点を叩き続ける
やがて手毬の色が変わる。毬は地に弾んだ順に青く染まり、さながら花の色づきかのように
貴族街と商街区の分路。ここで足を休めて眺める人々の目に、色を映していく手毬の華。

アイゼン > ―――ぽつり ぽつり
やがて街路に手毬のものでない点の影が浮き上がる。それは地に染み広がるや否や、瞬く間に石畳に吸い込まれていく
気づけば空は夕闇とは違う薄暗さで覆われ、身重な雲が抱え込んでいた雨粒を振り撒き始めていた
雨は人々を追い立てて、その歩みを今日の行き着く先へと促す
人々は街路を急ぎ流れる川となり、辿り着く事を放棄したいくつかは途中の宿場に身を寄せる
客に雪崩れ込まれた酒場や宿は、急ぎ慌てて明かりが灯される
窓に映る、料理長が急ぎ前掛けを着ける影、宿帳の束を宙に広げながら受付に走る宿主の影。

人々の早足に流れる雑踏と翻る袖裾。佇む道化はなおも毬を放り続ける。
広場に建立された彫像のように、それ自身が街の背景に固定されたかのように

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にジーゴさんが現れました。
ジーゴ > 雨が降り出した。
獣の毛が覆う頭は多少濡れても問題はないが、それでも
足早に通り抜けようとした道で見慣れない物を見つけたから、思わず立ち止まって見上げた。
道化を見上げるのは、お使い中の使用人か奴隷か、と言うような風貌の少年。

富裕地区はもちろん、人通りが多い場所は仕事でもなければ来ないから、道化師を見たのなんて初めて。
なんでこんなに綺麗に玉が動くのか、見とれて釘付けになる。
驚いて上を向いたままの獣の耳と、不躾なまでに興味津々な視線が道化に注がれる。思わず、飛んでいる球に手をのばそうとして、それが叶うかは分からないけれど、綺麗な玉に好奇心のあまり手をのばした。

アイゼン > 雨模様の空をを恨めし気に仰いでいた仮面が、視界の下方から感じる圧力に引っ張られて顎を下げた。
宙に揺れる紐を見る猫のような視線と目が合えば、それは犬科の耳をもつ少年だった
しかもそれは毛じゃらしにそうするように、手毬に手を伸ばす―――やはり猫なのか
毬の一つを見事に捕られ、道化師は残った7つを地面に跳ねさせながら少年を眺める
「それを握ってごらん。色が赤く変わるだろう」
その手毬は温度で表面の色を変える仕組みだった。常温であるなら赤く、冷たい地面の石畳にぶつけるなら青く
人の手にあるなら、青くなっていたそれは鮮やかに色を変えるだろう、と軽い雨音響く中、仮面が教える

ジーゴ > 「あ、ごめんなさい…」
鞠を一つ手にすることには思いがけず簡単にできたけれど。
あまりに鞠に集中していたからだろうか、相手が上手い道化師だからだろうか。
鞠の背後にいる仮面がこちらに話しかけてくるとは思いも寄らなかった獣はちいさく震えて謝った。

「え?いろが?」
怒られると思ったのに、かけられた言葉は予想外のもの。
手に入れた鞠を両掌で覆って。
少し高い子どもの体温で包み込んで、暫くしてから掌を開いた少年はぱっと輝くように笑って道化を見上げた。

「あかい!」
満足そうに言ってから、もっと色が変わるだろうかと再び両掌の中に鞠をおさめて。
また、地面を跳ねる鞠に注目した。がんばればもう一個くらいとれないだろうか、と機会をうかがって。

アイゼン > 「謝ることはない。その魔法の球は、真実を映す球―――」
道化の役に入り込んだ大仰な抑揚で少年の手に包まれた毬の説を述べ始める
人が話している間にも、少年の2つめ狙う目の動きと、獲物を窺う耳の揺れ。
少し意地になって腰を落として、油断なく残りの毬を跳ね続ける
「それを触れた相手が人間ならば赤く染まろう。しかし人でない者が触れれば青く染まる」
道化師が扱う残りの7つは青色で踊り続けている。私は恐ろしい人外なのだぞと演技をかける
もっとも、道化師は手袋をしているので手の温度が移らないのは当然の仕組みなのだが。
脅しの演技の割には、大人げなく残りの球を捕られまいと前傾に傾けた姿勢。大人げない。
「欲張りめ、もう一つを手にしたなら、それが青く染まったらなんとするか」

ジーゴ > 「お前、ニンゲンじゃない?」
道化の言葉は難しくて、あまり分からなかったけれど、
目の前の相手がどうやら人外であることだけはわかった。
ただ、人外であるということがどういうことかまでは理解せずに。

「かっこいい!」
素直な感想を漏らした。
ニンゲンじゃないから、こんなに綺麗に鞠が跳ねるんだろうと勘違いして、尊敬の眼差しとぴこんと立った獣の耳で相手を見つめた。
獣の身体能力があれば、もう一つ鞠を手に入れることができるだろうか。
タイミングを見計らってもう一度手をのばす。

アイゼン > 道化の子供向けの恐ろし気な演技は、少年から意外な反応を引き出してしまったようだった。
子供なら英雄に胸を焦がし、化け物に恐れおののくべきであろうそこで、あべこべな応えをする少年。
思わず仮面の下から素の声が飛び出した
「憧れちゃだめだろうに!」

道化が上擦る声を上げる間に、またひとつ減った毬の数。少年の手にはすでに指の熱で赤くなり始めた2つ目の毬。
「むむ…なかなかやるな。ニンゲンめ。褒美を遣わそう―――らるはいむ、べーす、おーさ、らがにえ」
跳ねる毬を、巣穴に逃げ込む子兎を迎える母兎のように、戻ってくる順にコートのポケットにしまい込んだ。
そのコートで自分の身を抱くように包むと、何やら聞いたことのない呪文を唱え始める。
やがてばっと開かれたコートが勢いそのままに肩から脱げて上空に持ち上がり、全面を広げて二人の頭上で止まる
あらかじめ仕掛けられた細糸で宙に浮かんでいるだけなのだが、天幕となり二人を雨から護った
おそらくは、雨宿りをするために店に入るにも、支払うものが手持ち少なさそうな少年のために。
―――道化も貧乏だった。なので雨の中も街路で立ち竦んでいたのだった

ジーゴ > 「え…お前、かっこいいまぞくじゃないの?」
魔族にさえ憧れるのは、そもそも魔族のことさえよく知らないからだ。素の声にもきょとんと首を傾げるばかりだ。

「すげー、まほう!?」
手に入れた二つ目の鞠よりも、面前で宙に浮いたコートが
何らかの詠唱と共に上へ登ってくのをみて歓声を上げた。
完全に相手のことを魔法が使える魔族だと信じ込んでいる。

「ね、ね、他のまほうは?」
完全に信じ込んだまま期待するように相手を見上げた。
興味が逸れた2つの鞠は少年の手の中で赤く色を変化させたままで。

アイゼン > 「私がカッコイイというのは良いだろう、合ってる。しかし人外魔族がカッコイイというのは
 ―――むむ?」
純粋なものが混じる少年の問い掛けに、図らずも矛盾を突き付けられて仮面が悩みに揺れる
どうやら、化かそうとしたつもりが、こちらがやり込められてしまった
更には少年の輝かしい瞳でもって追撃―――次なる魔術を求める声に仮面が窮する

「勇敢なる少年よ。ならば命の水を与えよう」
その場で向き合うと、片手を空に挙げて見せる。開いた五指は雲を掴むかのように折り曲げられる
挙げていた腕を腰元に下すと、次には逆の手。また雲を引きちぎろうとするように指が蠢く。
そうして見るものの目を、空に向かう手のひらの動きに集中させた後、
死角となる自分の腰の後ろからカップを取りだし、次の瞬間には空にカップを掲げる手。
続いてもう片手。空に二つのカップが掲げられた
「飲んでごらん。かっこよくなれる水だ」
少年に差し出されたカップには、腰の後ろでボトルから注いだ甘めに仕立てた紅茶が湛えられていた
雨に追い立てられて小走りに歩んできたであろう少年に、一杯を勧めた。

ジーゴ > 背格好にしても幼いその思考は、簡単に誘導にのってしまう。空に上げられた片手を興味津々の期待を込めた眼差しで見つめて。

「まぞくのおにーさん、すごい!」
魔法のリクエストは叶えられ。
手に持っていた鞠を小脇に抱えるようにして、差し出されるカップに喜んで手をのばした。
甘い物が好きな少年はその味に喜んで笑みを深める。

「オレ、もっとカッコよくっちゃうね」
冗談めかしたように笑うと口元から、獣の尖った牙が覗く。
「あ…、ね、おにいさんもかっこよくなった?」
気がついたとばかりおそらく、自分で出した『命の水』を同じく飲んだであろう相手の仮面へ不躾に手をのばそうとして。

アイゼン > 「魔族では、ないんだがなぁ…」
今や仮面の下は素の声をだだ漏らす。溜息で萎むように身を屈めていくと仮面に丁度少年の手が当たる
ずらされた仮面の下は年相応の人間の顔。それも少年の純粋さという鋭いものでやり込められた表情。
今や少年勇者に仮面をはがされ、人間に戻った道化は、笑みに覗く少年の犬歯に肩を竦める
―――獣人と純粋人間。まるで立場が入れ替わったようだ。


「君のおかげで人間に戻れたよ。最後の魔法だ。私が人なら―――中身が暖かくなるだろう」
中身を残してる自分のカップを両手で包み、捧げ持つようにして頭を垂れて大仰に念じる。
しばらくの演技の後、少年に差し出し、その両手に滑り込ませた。
雨で包まれた外気にても、飲み物に温かさを伝えるのは人の手。
手で包めば紅茶がかすかに温まり、喉に通りやすくなるのは当然のことだろう。
人の魔法など、かほどもの。されど心に伝わるものがあれば、それはいかなる魔法にもできない事であると―――