2020/10/28 のログ
ご案内:「王都マグメール富裕地区/ドゥッカ人形店」にラルカさんが現れました。
■ラルカ > 今夜は少し冷えるようで、通りを行き交う人の歩調はいつになく忙しなく見える。
ガラス窓の内側からは良く見えないが、空には重く黒い雲が立ち込めて、
そろそろ雨でも降り出すのかも知れない。
そんな夜でも、人形を買い求めに来る客人は居る。
いまも、店番の男は一体の人形を傍らに置き、煌びやかな装いの貴族らしき男性を前に、
その人形がいかに優れているか、滔々と並べたてているところ。
笑えば大輪の薔薇のよう、立ち姿は可憐でありながら、
抱き寄せればひどく柔らかく―――――など、など。
そんな様子を横目に見ながら、少年人形はちらちらと、扉の方を窺い見る。
いまならば、もしかして、ほんの少しの勇気を出せば。
この足で、外の世界へ踏み出せるかも知れない。
―――――そんなことを考えていると知られれば、修繕に出されてしまうだろうか。
けれども考えているだけなら、実行しなければ、きっと。
そわそわと、大人しく座っていられずにドレスの裾で足がもぞつく。
ほんの少しなら、――――そう、ほんの数分程度なら、などと。
■ラルカ > ――――――不意に、きゅ、と片腕を掴まれた。
「きゃ、―――――ぇ、あの……?」
掴んだ手の持ち主は、隣に飾られている黒髪の「姉さま」。
言葉が無くとも何事かを察したのか、静かに頭を振る彼女の言わんとすることを、
出来損ないの人形も、言葉にされる前に気づいた。
「ありがとう、姉さま、……ごめんなさい、ぼく、」
だめだ、ということは知っている。
だから大丈夫、思っただけで実行したりはしないから―――――
少なくとも、今夜、は。
―――――いつの間にか、冷たい雨が降り始めていた。
ご案内:「王都マグメール富裕地区/ドゥッカ人形店」からラルカさんが去りました。