2020/10/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエンジュさんが現れました。
エンジュ > (かつん、かつん、かつん―――――長い裾を器用に捌きつつ、歩く女の靴音、一人分。
 この辺り一帯はとある貴族の私有地である所為か、綺麗に舗装された石畳の街路を足早に辿るも、
 擦れ違う者は皆無で―――――しかし、ふと足を止めると。)

「……ふぅ、ン―――――…?」

(肩越しに振り返ってみても、ソレらしき人影は見当たらない。
 だが、再び歩き始めると――――追尾する足音が、聞こえて来るような気がするのだ。

 単なる気の所為かも知れないが、そうではないかも知れない。
 つい先刻、とある貴族の邸宅に拉致同然に連れて来られた挙げ句、
 仕事の依頼をすっぱりと断ってきた身には、追われる憶えも一応はあった。
 たとえ追い縋られ哀願されようが、強引に連れ戻されようが、返答を変える気は微塵も無いのだが―――――)

「………に、してもォ……気分は、良くない、やねェ………」

(溜め息ひとつ、仄白い呼気が夜空に翳む。
 仕掛けて来られないうちに、兎に角、人通りのある方を目指すが吉、とばかり、
 歩く速度をもう少しだけ上げた。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にトレジスさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にアイゼンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からアイゼンさんが去りました。
トレジス > (貴族の依頼と言う訳ではなかった。ただ、珍しくも高い効能を持った治癒術の使い手が来ると聞いて興味を持ったのだ。
貴族相手に尻込みもせずに、自己の意思を強く出して断りを入れた相手の声は隣室にいた自分には良く聞こえていた。
半開きの扉から見えた、貴族の邸宅から外に出ようとしていた女は男の性欲を刺激するには十分すぎる見た目だったために、こうして後を付けてくるような形で付いてきたが。)

「――――気付いたか。」

(小声でつぶやく。明らかに足を速めた様に見える相手。体力にはそこまで自信がある訳でもない。
だから走り出すのではなく。小声でつぶやいた時よりは大きな声で彼女を呼び止めようとした。)

「失礼、お嬢さん。少しお話があるのですが。」

(その声に足を止めるかどうか。それは相手次第。
足を止めて此方を振り返る事さえあれば連れ去る時間稼ぎの話に持ち込む腹積もり。
少々張り上げた声は路地に反響し、相手には届いた筈。さて、相手の反応はどうだろうか。)

エンジュ > (女は特段、貴族を嫌っているという訳でも無かったが。
 依頼の内容が、そして何より依頼主の態度が気に入らなかった、
 それだけで女にとっては、充分過ぎる『否』の理由で。

 だからたとえ追って来る相手がとんでもない強面でも、
 一度断った依頼を受ける気は無かったのだが。
 ―――――男が選んだ呼称に、思わず足を止めてしまった。)

「――――お嬢さん、ッて……、」

(振り返った女の表情は、ごく僅か、気恥ずかしげに顰められていた。
 そんな呼称を投げ掛けられることは珍しかったから、つい、うっかり足を止めてしまったが。
 我ながら『お嬢さん』らしくないという自覚はあるから、もう、何とも。
 はて、使用人らしい風体とは思えない―――――そもそも、顔に見覚えが無い。
 殆ど変わらぬ高さにある、相手の顔を細めた眼差しで見遣り)

「……人違いじゃあ、なさそうだよねェ。
 何だい、話、って」

(ほかに人通りも無ければ、確かに呼び止められたのは己だろう。
 胸下辺りでゆるく腕を組み、小首を傾げて相手の返答を待ち)

トレジス > 「えぇ、お嬢さん。貴女で間違いがないです。」

(少し呼吸を整える様に一度深呼吸をして見せる。ふぅ、という呼吸音から追手にしては体力の無さが伝わるかもしれない。
但し、同じくらいの背丈の相手。その目を真っ直ぐに見つめる自らの紅の瞳の魔法は発動が始まっている。
ゆっくりと催眠術を掛ける為の物。こちらの言葉に誘われるまま、危険な【研究】施設へ自分の意思で向かうのだと認識させる為の物。)

「えぇ、実は――少し出産をしたばかりの親娘の衰弱が激しくて。
お嬢さんの扱う治癒術は非常に効果が高く、普通の薬では耐えられないかもしれない位衰弱している親娘も、貴女ならば。もしかしたら救えるのではないかと思いまして。」

(声は意図的にゆっくり。虹彩から向けられた視線、それを見ている相手の心を、意識をゆっくり催眠状態に堕とす。
その時間稼ぎと共に、薬に耐えられない程の衰弱した――子供を引き合いに出したのは、相手の良心に訴えかけるようにして話をより長く聞かせる為。
長い時間会話をすればその分、自分の魔法も相手には深く掛かるという期待値もあった。)

エンジュ > (―――――嗚呼、まただ。

 お嬢さん、と呼ばれるには相応しくないというのに、
 そう繰り返されては何とも、どんな顔をしたら良いものか迷う。
 相手が男にしては小柄で、明らかに体力も無さそうに見えるから、
 女にも一応、人並みには存在する警戒心が、ほんの少しだけ弛んだ。
 何気無く正対した眼差しに、罠が潜んでいるとは気づかず)

「―――お産……?
 あァ、……そりゃあ、心配なことだね、ェ……赤ん坊の方も、かい?」

(先刻、一刀両断に切り捨ててきた依頼とは、掠りもしない内容だ。
 決して絆され易い性質ではないと思うが―――出産したばかりの母親と、
 生まれたばかりの赤子、双方の生命に危険が、と聞いて、
 そうかい大変だねェ、のひと言で済ませるほどの鬼でもなく。

 ―――――思案気に眉を寄せて、暫し、逡巡する間を空ける間にも、
 男が仕掛けた視線の罠は、確実に女の四肢を、意識を絡め取り始めていた。
 女がそれと気づけぬほどにさり気無く、音も無く染み入るように―――)

「―――――解ったよ。
 力になれるかどうか、……取り敢えず、見るだけはしてみようじゃないか。
 ……こっから、近いのかい?」

(組んでいた腕を解き、ひとつ、首肯を返す。
 この男がそもそも、何処で己の噂を聞き及んだのか。
 声を掛けてくるタイミングが良過ぎないか、という疑問が、
 女の頭に浮かぶことは無く―――――女自身がそうと気づかぬままに、
 操り人形と化した女は、男のテリトリーへ連れ込まれることになろう。)

トレジス > 「幾分早産にはなってしまいました。その為に赤子も、母親の方も衰弱が激しく。その、薬を試そうにも衰弱を考えると……。」

(色素が抜けている眉を潜め、僅かに目線を伏せる仕草。
嘘はついていない。母親と子供の関係や、母親について誰の母親なのかは伏せている。
実際には研究の為に母親に魔物の種を無理矢理に孕ませた結果なのだ。
伏せた目線をもう一度彼女の瞳に向ける。どうやら情に訴えるのは悪くも無かった様だ。

承諾の返事を向けた時。明らかに男は喜んだ表情を浮かべていただろう。
上手く行けば治癒術。それを利用する事で自分の研究にも役に立つ。
――母体として優秀でもあれば両立させた存在になり得るのかもしれない。)

「――ありがとうございます!えぇ、ここから一度大通りを横切る形ですが、距離は10分程度も歩けば到着する場所です。
では、此方へ――。」

(催眠術で絡めとる相手。その相手を先導する様にして一度大通りに出て。また裏路地を伝う様にして自分の地下研究施設。
悲惨な出産や受精を繰り返す場所に案内をされる事になる。
そこから先、どうなるのかは――彼女への研究次第となるだろう。

目撃者は語る。黒いローブを着た男の後をついていく女性がいた。ただ、鎖で縛られたりではなく、自分の意思で付いていったように見えた、と――。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からトレジスさんが去りました。
エンジュ > (男の語り口にも、表情、仕草にも、特に不審な点は見出せない。
 それは既に女の意識が阻害され始めていたからかも知れないし、
 女が存外、情に流され易い一面を持っていた、ということかも知れない。

 ともあれ―――――欠片ほどの疑念も持たぬまま、女は男に連れられて歩き出す。
 拘束されていたのは四肢ではなく、女の意識の方であり、
 少なくとも他人の目からは、女が自らすすんで、男について行ったように見えたことだろう。
 誰かが疑念を抱いたとしても、心配し、探してくれる家族も無い身ではあったが―――――。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からエンジュさんが去りました。