2020/10/22 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/王立図書館」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > ――石造りの重厚な建物の中に一歩入れば、壁一面にびっしりと収められた様々な分野の書籍が入館者を圧巻する。
一生かかっても読み切れない程の本の森の中。魔法書関連のコーナーの片隅に設置された閲覧机に普段より小奇麗な身なりをした薄茶髪の女が分厚い一冊を広げて。
「―――……、…………」
目で文字を追いながらうつらうつら。眠たげに瞼をしばしばと瞬かせていた。
ここのところ、回復術が使えなくなったお蔭で日銭を稼ぐため下働きに走り回り、時間が空くと魔法を取り戻す方法を探して奔走しと、ほとんど休む暇もなく動き回っている。
必然的に睡眠時間も慢性的に不足していて、静かで落ち着いた館内で難しい文面なんかを前にすると、一気に睡魔が襲ってくる。
開いている本も回復魔法に関する書なので、寝てる場合ではない。時間が惜しいのだからしっかりきっちり目を通して何か魔法を回復させる手掛かりはないか探さなくてはならないのだが――。
「…… ――― ………、」
ね む い。
寝ちゃだめだ、寝てはいけない、と思えば思うほどに瞼は余計に重たくなって、身体から力が抜けていく……。
こくりこくりと落ちそうになる首。どうにか睡魔に抗おうと、欠伸をしたり頬を抓ったり目を擦ったりと足掻くが……それもそろそろ限界で。
「………………………Zzz……」
とうとう、とろりと瞼が落ちて、すぅ――と眠りの縁へ誘われていってしまう――
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/王立図書館」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■クレス・ローベルク > 魔法の理論と実践系統の本を抱えて、男は閲覧机を捜していた。
流石、王立図書館といった所だろうか。
蔵書に比して人の数も多く、そして座れる場所は少ない。
どうしたもんかなあ、と思っていた所、ふと知り合いの女性の姿を見つけて。
「……」
無防備な寝姿に、じわりと悪戯心が芽生える。
普段、身内相手のセクハラは控える質だが、しかしこうまで無防備であれば、それは多少悪戯されても仕方ないだろう。
そう、理論武装とも言えぬ理論武装を完了し、男は気配を殺して近づいて。
「……」
まず、そっと開いていた本を、ティアフェルの前からどける。
その際、閉じてしまったが、開いていたページはノンブルを見て覚えているので問題なし。
そして、耳元で、なるだけ大きく、しかし他の席の客に迷惑にならない程度に、
「起きろー、起きなさーい。起きないとくすぐっちゃうよー?
さーん、にーぃ、いーち」
ぜろ、まで言ったら首筋を爪でやさしく引っ掻いて擽ってみる。
尚、彼女が大きな声を出して怒られる可能性は、当面見て見ぬ振りの方針である。
■ティアフェル > 眠るつもりはなかったのだが、抵抗むなしくついに陥落して船をこぎ始めてしまった女――そんなところにやって来た、利用者たる知人。
まさかそれなりに警備の行き届いた館内で害されることがあるとは欠片も思ってはいないので、それはそれは無防備。
チョッカイなんてかけ放題な防衛力などゼロ状態。であったので、気配を消して近づかれても当然まったく気づくことなく、机に突っ伏してほのかな寝息を零していたが……。
「…………ぅ゛……?」
耳元で響いた声にさすがにぴくりと反応して小さく唸り、そのまま呼びかけられただけでも目を覚ましそうだったが――カウントダウンののち、首筋に伝う爪の先の感触に、びく!と脊髄反射で大きく震えて、反射的に―――、
「虫ー?!」
寝ぼけて羽虫でも這ったのかと錯誤して、声を発すると同時にべっちーん!と平手がそちらに炸裂するのだった。手か、狙いが外れて頬などに当たったかどうかは、悪戯仕掛け人の立ち位置に依る。
■クレス・ローベルク > 当人としては、本当にただの悪戯のつもりだったのだ。
まあ、そりゃ囁く際に顔を覗き見るとか、多少髪の匂いとか嗅いでも仕方ないよね!ぐらいの下心はあったのだが、あったのだがしかし。
まさか、ノータイムで平手が飛んでくるとは全く思わずに。
「ぶっ……!」
見事に顔が90度右に向けられるレベルの直撃を受けた。
油断と言えばそれまでだが、しかし眠ってる奴がいきなりこっちを思いっきりビンタするとか、流石の英雄のなりそこないも、流石に経験の外である。
拳ではない分、ダメージはないが、その分ひりひりする痛みが継続的に来る。
まあ、彼女のバカ力をまともに受けて、頬骨を骨折しなかった分だけ感謝すべきなのかも知れないが。
「お、おお……いひゃい……」
頬が痛みに縺れてちょっと上手く喋れない剣闘士。
情けない声を出し、ちょっと涙目である。
■ティアフェル > 「虫、虫……!………は? あれ……?
クレス…さん? 何してんの?」
首に虫が。気持ち悪い!と絶賛寝とぼけ中で慌てていたが、べしゃん、と平手で潰したかと思った虫の代わりに――頬に一発食らったばかりの剣闘士の姿がある。
相変わらずいつでもどこでも闘牛服なんて目立つことこの上ない姿なので誰かなんてすぐ判る様相。寝起きだとて間違えようもなくって、きょとん、としたように目を瞬き。
それから、痛がっているそちらと自分の掌を見比べ。
ああ、と遅れて状況理解すると。
「っは。自業自得だし」
同情の余地なし、と謝罪の意思なんぞ欠片もなく鼻で笑う。
……なお、いくらなんでも羽虫を叩くのにそんなに全力は揮いませんけどと云いたい。
たかが平手で骨が折れる訳がない。どんだけゴリラだと思われているのか。
閲覧机に肘を立て頬杖ついてそちらを眺めながら。かるくにやつきながら。
「あなた殴られ慣れてる立場っしょ。わたしの平手でそんなダメージって大丈夫?」
■クレス・ローベルク > 「ひゃ、ひゃなで笑いやがった……!?」
あまりの冷酷さに唖然の表情。確かに自業自得なのでぐうの音もないが。
とはいえ。流石にある程度すれば痛みも治まる。
あたた、と頬を一擦りして、
「いや、試合とか有事の時は我慢が効くけど、突然は流石に痛いって。常に殴られても殴り返せるぐらいの緊張状態にいたら、身が持たないしさ」
と言いつつ、取り敢えず向いの席に座る。
さっき閉じた本を、元のページに開き直しつつ。
「……にしても、随分難しい本読んでるね。
タイトルの意味ぐらいは何となく解るけど」
男が持ってきた本の、1.5倍ぐらいある本を眺めつつ。
一応、何となしに文章を目で追ってみるが、全く理解が追いつかない。
男は魔術師ではないので当たり前ではあるのだが。
ちなみに、男の持ってる本は『魔術中論』とか『戦士のための魔術論』とか、まだ魔術学院の生徒が使っているようなものばかりであったりする。
■ティアフェル > 「うふふっ、いやー目が覚めたよ、むしろせんきゅう」
多少舌足らずな語調で苦情がくるのでくすくすとおかし気に肩を揺らして。
要は油断していたのでクリティカルに痛い、との感想に笑み含みに肯いて。それから赤くなっちゃってるので少々眉根を下げ。
「そっかそっかぁ、じゃあごめんね。痛いねー。よしよし痛いの痛いの飛んでけー」
向かいに座る彼に半腰で伸び上がって彼の頬に手を伸ばし、唱えながらなでなで、と優しく撫でてお詫び。
それから、開いたままのページに感想が来ると、ああ、と肩を竦めて、すとんと座り直し。
「眠くなりそうな内容でしょ……。回復魔法理論全集なの……。
正直座学は苦手だから……地味にツライです。
――クレスさんは……対戦相手に関する勉強かな?
偉いよねー。そういうストイックなところは結構好きだよ」
彼の選んだタイトルにめをやり。魔術を齧らない者となると、恐らく広く楼だと思われる魔術関連の書籍を確認して頬杖ついてしみじみと。
■クレス・ローベルク > 「くっ、屈辱だけど、何か逆らえない……!
畜生可愛い女の子でなければ暴力で解決しているのに……っ!」
と言いつつ、されるがままに、撫でられている男。
年下扱いは屈辱的だが、それはそれとして女の子に自ずから触られるのはやっぱり嬉しいもんなのである。
チョロいと感じるが、しかしこればかりは性分である。
「んー、まあそんなとこ。魔術師戦は、訓練だけじゃどうにもならない所があるから、知識も欲しいしね。
っていうか、それは君だって同じというか……むしろ、分野が特化してる分だけ、技術の上達が大変だよね」
こうして、努力中のティアフェルを見るのは初めてだが、やはり基本的には頑張り屋、努力家なんだよなあとしみじみ思う。
普段、治療を受ける男からすれば、回復魔術など殆ど奇跡の様なものなので、その努力の価値も解ろうというものである。
「にしても、寝落ちするほど疲れてるならちょっと休憩入れた方が良いんじゃない?
うっかり涎がページについたら、怒られるかもだしさ」
と、何気なく言ってみる。
尤も、男は彼女の境遇に詳しいわけではないので、あくまでも一般論としての忠告であるが。
■ティアフェル > 「あらー。まあまあな意地っ張りなのねえ……まあ、それも下心に屈服してるけど」
成人男性としての矜持は多分にお持ちらしい。ふむ、と訳知り顔で肯いて。
結果、こっちとしては、どうして欲しいねん、という心境になるが……その都度対応しようと流し。
「なるほどねえ。魔法を跳ね返してくれるようなアイテムもあるけど、ルールによってはNGになるだろうし、可だったとしても多用すると見ごたえ薄くなって観客には不評だしね。
……まあ、ね。ていうより、わたしは……今魔法が使えなくなっちゃっててねえ……」
別に隠している訳でもないので、ぽそ、と口にした。聞かれてもないことを云うのは厚かましいことになるような気がしてどこかバツが悪そうに呟くと。開いたままのページを見やって、メンタルを削ってくるような難解な専門用語に溜息を吐き出し。
「……それはそうだけど、ゆっくり休んでもいられないわ。
こんな状態続けてもいらんないし。ヒールできないヒーラーなんて……価値がない」
思わず愚痴っぽくなってしまって、いった後ではっと気づいて口元を覆うと作り笑いしては今のなし、と首を振って。
「なーんちゃって。愚痴ちゃった。ごめん忘れて忘れて」
■クレス・ローベルク > 「まだ未熟だった頃に、そういうアイテム使ったら、余りにも強すぎて観客からブーイング喰らった事あるから、あんまり"詰み"になりやすいアイテムは使いにくいんだよねえ」
と、遠い目をして頷く男。
あれは酷かった。「マジックアイテム見せびらかしたいなら店でも開けよチキン野郎!」とか、対戦相手のどうすんだこれという視線とか、色々。
勿論、それも実力の内と言えなくもないが、ショーとして見栄えが悪いのは確かである。
「マジで?……そりゃ、何ていうか、大変だな」
だが、そんな思い出がたりより、よっぽど衝撃的な事があった。
愕然というなら、今こそ愕然とした。
彼女が回復魔法が使えないなど、それこそよっぽどの事だというのはよく分かる。
男にとっての足や腕同様――少女にとっては、少女そのものである筈なのだから。
だから、価値がない、という自嘲的な発言をスルーしたのも、その気持ち自体はよく分かるからで。
「まあ、そういう状況なら愚痴ぐらい言うだろうし、聞き流すけれども。でも、うーん」
と、腕を組んで考え込む。
男は別に魔術師という訳でもないので、彼女にとって具体的な力になれる訳ではないのだが。
しかし、そうは言っても、知り合いの窮地である。
何か力になってやりたいと、そう思うのだが。
「(相談できる魔術師に心当たりなんてないし
仕事の斡旋とかも、ヒールができない今だと自信ないだろうなあ)」
そう考えると、精々話し相手になるぐらいしか思いつかない。
とはいえ、同情とかそういうのを見せるのは、かえってストレスだろうし、逆にその他の世間話ばかりするのも不自然だ。
だから、意識して軽く、少女の悩みから敢えて距離を取る様な感覚で
「まあ、でも要はスランプっしょ。
俺も、そういう事あったな。思ったように剣振れなかったりとか、妙に集中できなかったりとか。ひどい時には試合中すっ転ぶとか……うん」
あれは酷かったなーと思う。
後でスポンサーや運営にも怒られたし客も当然ブーイングの嵐だしで。
それを乗り越えたから今の自分がいる、とも言えるが、当時にそんな事解る訳もないし、できれば無かった方がありがたかった。
「考え方や心の持ちようであっさり治ったりもするんだけどね。
その"あっさり治る"が何時来るか解んないから、きっついよねえ」
と、万感の思いで嘆息する男。
どうやら、少年期時代のちょっとしたトラウマと言った風情で。
■ティアフェル > 「まー……観客の気持ちになったら容易に想像は着くわね……。
クレスさんからしても、同業者にそんなヤツいたら『空気読めよー』って思うんじゃん?」
ビギナーにやらかしがちな事案。事故みたいなもんだ。微苦笑しながら肯いて見せるが。 続けてうっかり暗くなりがちな話題を口走ってしまったので何となく気まずい。
「マジでー。じゃ、愚っ痴ろー。もう夫の浮気に悩む妻くらいの勢いで愚痴るぞー」
愚痴愚痴な性格に成り下がってしまっている面倒くさい女。
へへへ、と冗談めかして笑って。別に云っても大丈夫ならぐだぐだうざいこと云おうと親切心に付け込んで厚かましいことを決めて。
しかし、話題選びに気を遣っている気配を感じるとさすがに『あー悪いな…』と気が咎めて気づけば弱音になりそうな二の句を飲み込んだ。
そして同じような経験談を語ってくれる言葉に耳を傾けて、うんうんと相槌を打ち。
「クレスさんにもそういうことあったんだぁ。
それで、どうやってそのスランプから脱したの? 何も特別なことはしなかったの?」
思うように戦えない状況に陥ったという例は参考になりそうで少し食い気味に尋ねて。
じーっと言葉を待った。
プロの剣闘士からすると、かなり追い込まれたのではとは想像に難くない。
空気を重くしたくはないが思わず真面目な顔になって。
■クレス・ローベルク > 「昔は『剣闘士?勝てば良いんでしょ?』ぐらの子供だったんだよ。今から考えるととんでもない厄介だけどさ!
……お、おう。それはマジに長くなるやつだね?」
と、聞いて身構えてしまうが、しかしその後の話運びでワンミスした。
具体的に言うと、
「(あ、やっべ。自分語りやりすぎた)」
と、こっちも少しばかり反省。
あちらの愚痴の呼び水程度と思っていたのだが。
こういうのは加減が難しいなと思うが、しかし。
それが真面目な表情に変わると、こちらも少し緊張する。
とはいえ、その辺は上手く笑顔でごまかしておくのだが、特別な事をしなかったかと言われるとうーん、と考える。
正直、やってた事の意味としては、あまり変わらなかったりする。あちらの勉強は、恐らくこちらにとっての鍛錬だろう。
だが、強いてあげるなら、
「んー、まあそりゃ鍛えまくったりはした。
したけど、直接的な原因は多分――娼館に行った事かな」
と、とんでもない事を言い放つ男。
だが、男はといえば冗談めかしたりするでもなかった。
むしろ、顎を触って、記憶の中を探っている様子でさえある。
「まあ、当時は外の世界に出たばっかりで、色々緊張してたんだろうな。
でも、当時童貞だった自分は、そりゃもう娼婦の子に絞られてね……。それでもうめっちゃ恥ずかしいとこ見られてさ。
それで、緊張が取れちゃった、みたいな所がある」
勿論、これはあくまでも過去からの推論であるが、しかしあながち的を外してはいないだろうと考える。
スランプの原因は、不調というより、寧ろ不調の結果――というと一般化しすぎかもしれないが。
とはいえ、そこで男は笑って、
「まあ、良い風に言うなら、『自分の感情を解放した』って感じなのかな?
精神が肉体に与える影響ってのは、ヒーラーなら経験あると思うけど、多分その延長」
と、最後だけちらっとヒーラーのお仕事に絡めて言ってみる。
勿論、これが正しいかどうかなど解らないが、少しでも少女の役に立てばいいと思う。
そうでなくとも――男のアドバイスどおりに動けば、少なくとも一旦は、勉強から手が離れるだろうし、それはそれで気分転換になろうと。
■ティアフェル > 「確かに最初はそうなるよねー。
ただ騎士のトーナメントとは違うからなー。負けても受ければ官軍の世界だもんなぁ」
敗北が本当の敗北とはいえない難しい世界。何を知っていると云われれば一般的な見解以外は持ってないが、それくらいは理解できる。
そして、自分が愚痴ってる場合でもない心境になって、迷惑なくらい真顔。
そう云えば業種違いのスランプ状態、の話は聞いてこなかった。
相手にとってはやめて欲しいくらい居住まいを正して拝聴するが。
「それかぁぁぁー……」
最後までまじまじと聞いて頭を抱え込んだ。
彼の場合はホルモンバランスの不調が要因であったのだろうか。思春期の難しい性徴故の変化ということなのか?と思慮して「うー」と唸り始め。
しばらくそのまま突っ伏して「ぁー」だの「ぅー」だの勝手に苦悶していたが。
だしぬけにがば、と顔を上げると。ぱたん、開いていた読みかけの分厚い書を閉じて。
「クレスさん、ちょっとお願いが」
図書館に本を読みに来たところ申し訳ございませんが、と前置きして、不意に口にした。
■クレス・ローベルク > そう、剣闘士とは色々面倒な世界なのだ。
そういう意味では、患者との関係性や社会福祉、それに場合によっては宗教や科学とも繋がりやすいヒーラーに通じる所はあるのだろうが。
しかし、かといって、戦闘職とヒーラーである。
真逆であるがゆえに、そこまで"通じる"とも思っていなかった、のだが。
「え、あれぇ……?」
何か、凄い通じた。
泥沼と倒木だらけの道だと思っていたら、意外と煉瓦敷の一本道だった、ぐらいの衝撃。
さっきまで齧りついていた本さえ閉じるその勢いに、こちらが飲まれそうになり、
「え、あ、うん。元から、今日は休みだし良いけど……?」
と、うっかり頷いてしまった。
■ティアフェル > 何だか何気なく相談したが別方向からの意見もなかなか腑に落ちる。
その、思春期の経験辺りは……それはこの人特有のアレなんだろなと、自分の状況とはまた違うものを感じたが、云っている意味は理解できて。
それから眠くなるばかりの書を閉じて、要望にあっさり肯く相手に。そうこなくちゃと指を鳴らす代わりにぐっと親指を立てて。
「今から超自棄酒を開始したいとー思い―まーす。
付き合ってくれない? クレスさんだったら泥酔ボロカスなったところを手籠めとかアホいこと考えないもんね。安心。
そんなセコイことするクレス・ローベルグではないからさ」
にっこりと閉じた本を抱え朗らかに笑い掛け。
今まで気絶していたところで、この人は指一本触れずに見守っていてくれたばかりなのでそこら辺の信頼は厚い。
闘技場での彼の評判を知る者にはとても妙な話に感じるだろうが事実としてそうなのだ。
世論よ、見てみろと主張したくなるほどだ。