2020/10/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエンジュさんが現れました。
エンジュ > 「だァから、あたしは売りモンじゃないの、…さっきから、そォ言ってンでしょォ?」

(もう何度繰り返したか知れやしない、既にウンザリもグッタリも、
 ポーズでも見せかけとも違う、紛れも無い本音になってしまった。
 心なしか常よりも怠そうな表情で、恐らく眉間の皺も五割増し。
 しつこく絡みついて来ようとする男の腕を、ストールを翻して払い除けたが、
 別の方から伸びて来た腕に、今度は肩を掴まれてしまう。
 振り解くにも難儀しそうな、大きな掌と太い指の圧力が双肩に食い込み、
 すっかり標的にされた格好の女は紅い唇を尖らせ、深く深く溜め息を吐いた。)

「全く、オトコってのは単純なのが多いやねェ…!
 平民の女が、お貴族サマの屋敷から出てきたら、泥棒か売春婦の二択かい?
 こちとら、ちゃあんとした商売してきた帰りなンだよ、
 ……好い加減、離しちゃくれないかねェ?」

(疲れてるんだ、帰りたいんだと、もう何回訴えただろう。
 なのにこの、身形ばかり上等でも品性の下劣な連中と来たら―――
 石を購入してくれた貴婦人の邸宅前から、彼是半時程も。
 絡んで絡んで離れてくれない、全くもって厄介な連中だった。
 お貴族サマたちは午後のお茶の時間なのか、人通りも少なくて、助けも見込めそうにない。)

エンジュ > (背後から、壮年の男の声が掛かったのはその時だ。
 振り返って、瞬きをひとつ、それからほっと息を吐く。

 先刻、辞してきた屋敷の執事が駆け寄ってきて、
 お忘れ物です、と取り出した小さな袋。
 受け取ったそれをさり気無く引っ繰り返し、掌の上に煌めく大粒の宝石を取り出して)

「あら、嫌だ、あたしったら、…大事な売り物、置いて来ちゃうなんてねェ。
 ごめんなさいね、随分走らせちゃったでしょォ…、
 奥サマに、宜しくお伝え下さいな。
 次にお邪魔する時は、コレより綺麗なの、用意して伺います、って」

(そうして、優雅にワンピースの裾を摘まんでお辞儀をひとつ。
 男達が一瞬、毒気を抜かれた風なのを察知して、
 掴まれていた肩を、そっと逃がすことも忘れない。

 後はもう、のらりくらりと逃げ出すだけだ。
 人目がある処で尚、纏わりつける程、タフな人種でも無さそうだし。
 女が無事に自宅へ帰り着いたのは、とっぷりと日が暮れ落ちる頃であったという―――。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からエンジュさんが去りました。