2020/09/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリトさんが現れました。
■リト > 「ふあぁ」
建物からして豪奢な劇場や、商会が立ち並ぶ富裕地区の一角。
普段は賑わいを見せるこの大通りも、夜更けてしまえばすっかり人気がない。
通りの中央に等間隔で設けられた長椅子の一つに腰かけ、ドレス姿の少女はただ欠伸を零していた。
見ようによっては、家を追い出されたどこぞの令嬢…に見えなくもない。
「もう帰ろうかな」
そんなことを呟いて、片手にある小さな銀色の鍵をくるくると弄ぶ。
どこか遠くから、男の下卑た笑い声が響いてきた。
それにも興味を見せず、何とはなしに夜空を見上げて小さく息をつく。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にネスさんが現れました。
■ネス > 静まり返った浮遊地区の住宅街の上を、一人の吸血鬼が飛び回っていた。獲物を探すためだ。
最近ではまともな食事も取れておらず、飛行も至極不安定で、月光を背景に飛び回る彼女の姿は、深手を負った鳥の姿に見えなくもない。
誰でもいい。とにかく血を吸わなければ……。
それだけを考えて、飛び回っていると、背高な建物に激突。
頭から血を流した少女の体は中央通りのレンガの上へと転がり落ちていく。
■リト > ぼんやりしていると、何やら鈍い音が聞こえて、それから屋根を転がり落ちてくる姿が見えた。
驚いて近寄ってみると、頭から血を流して倒れている姉の姿。
「…ネス!? えっ、どうしたの…大丈夫!?」
慌てて駆け寄り、そっと抱き起こす。
怪我の具合を確かめて、意識があるかどうか確認しようと顔を覗き込む。
■ネス > 意識は失っていなかったが、自分を抱き起こす妹の姿に一瞬言葉を失い、上手く声が出てこなかった。
激しい頭痛に頭を抑えながら、ネスは体を起こそうと上半身に力を入れる。
しかし、やはり血が足りていないようで、体はプルプルと震えるばかりで、体を起こすことは出来なかった。
「リト……血、血が欲しい……」
掠れた声で血が欲しいと告げる。
震える指先で、リトの手を握り締める。
姉の威厳もない、弱り切った姿だったが、そんなことも言ってられないくらい、辛そうな表情を浮かべている。
■リト > 意識は失っていないらしい。
しかしすっかり弱っている様子に、少女は眉をひそめる。
最近城にいないことが多かったが、あまり心配してはいなかった。
もう少し気にしてみるべきだった…と後悔しながらも。
「……わかった。とりあえず、私のをあげる」
手を握り返し、彼女の口元に自身の首を近づけた。
あまり吸いすぎないでね、とは流石に言えない。
姉の身体を抱き寄せるようにして、吸血の時を待つ。
■ネス > 口元へ近づけられた妹の首。自分と同じく、病的なまでに白い。
吸血鬼は人間の血しか好まない。が、しかし、飢餓状態にある吸血鬼にとってはあまり関係の無い話で。
今のネスには妹の首ですらとてつもなく美味しそうに見えるご馳走だった。
「はぁ、はぁ……でも、でも……」
吸血鬼にとって、吸血鬼の血液というのは人間で言う酒に近い物で、一口でも口にしてしまえば酷い酩酊感に襲われる。
媚薬にも近いそれは、吸血鬼の理性を完全に奪い去り、血と性を求める獣のような存在へと変えてしまうのだ。
それをわかっているネスは、妹の血液を貰うことに躊躇いを感じていた。
■リト > 少し考えて、ここでは色々と都合が悪いと知る。
片手に持った鍵をぎゅっと握ると、城へ直通のゲートが虚空に開いた。
「……ネス。ほら、一旦家に帰ろう。
それから私の血を吸って。…ね?」
促すように言いながら肩を貸し、ゲートを潜る。
一瞬でそこから二人の姿は消え失せ、静寂だけが辺りに残った。
後のことはもう、二人のみぞ知ることとして。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からリトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からネスさんが去りました。