2020/08/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエイガー・クロードさんが現れました。
エイガー・クロード > 無言で背に布で包まれた槍を背負い夕方頃の富裕地区を歩く一人の騎士の姿
鎧が揺れる音のみが響き、周囲に同じような騎士の姿はない

「(まったく嫌になっちゃうわ。毎日毎日没落寸前とかアタシが女口調の男だからとからかって。こっちだって好きでこんな口調になったわけじゃないのよ)」

心のなかで愚痴を溢すこの男騎士
いちおう長く続く貴族の家だが没落寸前であることを周りによくからかわれているのだ
男にしては肌が手入れされているほうで、化粧も女性のようなものをしている
一瞬だけ女と見紛うかもしれないが、一瞬にすぎず、すぐに男であることがわかるだろう
所作からも確かに貴族の出であることがわかるものにはわかるかもしれない

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル > 「――ッきゃあああぁぁー!!」

 悲鳴と重なる駆け足の音。夕間暮れの静かな街角を裂くように響き渡り、ドップラー効果で騎士の背後へと一直線に迫っていた。
 悲鳴を上げて夢中で駆けているとあるヒーラーの背後には、吠えながら迫る野良犬。追いかけてくるそれから逃れるために走り回った挙句、生活圏である平民地区からこんなところまで来てしまった。
 普段用もないのでなかなか来ないこの地区。無論地理も碌に把握していないのでどこをどう走っているのか自分でも全く分かっていない。
 その上、背後に迫る犬を泣き叫びながら振り返り距離を確認しながらの、前を見ないでの駆け込みだったので、直進の先に槍を背負った騎士の姿も見えておらず、そのまま相手が気づいて避けなければ体当たりのごとく勢いで全身でぶつかっていく定めにあった――……。

「いやあぁぁぁー!」

 大の犬嫌いは、とにかく犬から逃げ切ることに必死。
 悲鳴を上げながら突進中。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエイガー・クロードさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエイガー・クロードさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエイガー・クロードさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエイガー・クロードさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエイガー・クロードさんが現れました。
エイガー・クロード > 「っ!」

その悲鳴にはじかれるように振り向く。
見れば平民らしき少女がこちらに向けてものすごい勢いでかけて来くるのと、そのさらに背後に迫る野良犬の姿を認識した。
なぜこんなところに少女が?という思考をするもすぐに切り替え、その少女の突進に備えた。

重心を両足に寄せて、少女の突進をうけとめる。
受け止めた瞬間、少女への衝撃を少しでも和らげるために後ろに軽く飛ぶ、果たしてそれで衝撃が殺せるかはわからないが、これで少なくとも怪我は互いに負わないだろう。

そしてすぐにでもその瞬間が終わったら、野良犬を追い払いに行くつもりだ。

ティアフェル > 「きゃああぁぁ―――っふ、あっ?!」

 ぶつかる前に悲鳴に気づかれる。それはそうだ。しかし、こちらは気づいていようがいまいが、逃げることに必死で、行く手に何が、誰がいるかなんてことすら読めておらず、そのまま猛ダッシュで突っ込んでいったが。
 
 どすん、とぶつかった衝撃は、こちらが突進してくるのに備えてくれていたので思っていた程のものではなかった。それでも鼻をぶつけてしまったが。鎧に包まれ鍛えている騎士なのだったら小柄な女の一人のタックルはさほどでもなかったかも知れない。

「ご、ごめんな、さい……ッ!」

 一瞬何が起こったのか分からなかったが、半瞬措いて状況を把握すれば鼻を抑えつつ慌てて謝罪を口にしたものの――

「きゃーっ」

 野良犬がまだ追って来てかなり迫っていることを察すれば悲鳴を上げて、なりふり構わずその背後に勝手に隠れるという無礼な真似をした。

エイガー・クロード > 確かに勢いこそあるものの、相手が魔獣でもなければ大型な男でもない。
であるならば、こちらへのダメージはほとんどないようなものだ。

「無事?」

その顔を覗くようにして安心させるように笑おうとしたが
次の瞬間、悲鳴を上げて背後に隠れる彼女を見て(あぁ、大丈夫そうね)と安堵した。

そして迫っている野良犬が自身――本来は少女を狙ったものだが――に飛び掛かった瞬間、その野良犬の口に、鋼鉄の籠手で包まれた腕を突っ込む。
本来の腕なら牙が突き刺さるがそんなことは起きず、そのまま犬を壁に投げつける。
これがもし貴族の犬だったら面倒だが、首輪もなければそんな躾をされているわけでもないだろう。

ティアフェル >  前方不注意でいきなり突撃してしまったが、ともあれ、第一声で怒られるということもなく、安否を確認する声にこくこくと首を縦にしながら、条件反射のように相手を盾にする構え。

「ほ、ほんとに、ごめん、なさいっ……身体が勝手に……!」

 悪いとは思う。だけど、ゴブリンやスケルトンくらいなら涼しい顔で張り倒すが、犬だけは駄目。知らない騎士を富裕地区で犬からの盾扱いして背後に隠れるなんて良くないことだが、犬だけは。震える声で謝罪をするが、だからと云ってポジションを変える気はなさそう。
 
「ひっ――…」

 しかし、飛びかかって来た野良犬のぱくりと大きく空いた牙の並んだ口に籠手を突っ込む反撃に目を見開いて息を飲み。その上、軽々と壁に叩きつけられた犬が、弱弱しい悲鳴を上げて地面に倒れひくひくと痙攣する。
 一連の状況を遅れて呑み込んだため、ややあってから、口を開いた。そろそろと盾にしていた背中からひょっこり顔を出し。

「あ、ありが、とう…ございます…! あ、それで、本当に、その……咄嗟に…あの、済みませんでした……」

 犬恐怖の余りの暴挙。相手は少々風変わりな様相だが、貴族で騎士のようだ。場合に依っては穏便に済まないかも知れない。少々引き攣り気味の青い顔で頭を下げ。

エイガー・クロード > 「……」

何も言わず、犬が痙攣してしばらくは動けないことを確認してから少女に振り向く。
そしてもう一度少女の体を軽く確認して微笑んで頷く。

「いいのいいの。これが騎士の務めだしね。
それより、怪我はない?」

少し腰を低くして、目線を合わせて心配をする。
男性ならともかくこんな少女が自身に猛突進したのだ。勢いを殺しはしたがもしかしたらと思うのも無理はない。

ティアフェル >  犬が行動不能になったことを確かめてからこちらへと振り向く所作に、反射的にびくり、と背筋が伸びる。
 硬くなったが、笑みを向けられて目線を合わせての言葉に少々肩の力を抜き。

「助かり、ました……、ほんとに、犬、マジ無理。ほんとやばくて………。
 怪我……、あ、全然全然、大丈夫。わたしヒーラーだし……ていうか……ここは、どこ……?」

 ふるふる、と首を振り髪を揺らしながら、鼻の先が少し赤くなった程度。一応冒険者の端くれなのでどうということもない。へいき、と笑い返して。
 それから落ち着くと、はた、と思い当たった。自分はどこまで逃げ込んでしまったのだろうと。
 きょろきょろ辺りを見回し。

エイガー・クロード > 「ん、何にもないならよかったわ」

そう笑いかけて、少し赤くなった鼻を見るがまぁ、何も言わないのなら大丈夫だろうと。
そして肩の力が抜けたのを見てまたクスクスと笑う。

「まぁ女の子だもの。苦手な物なんてあるわよねー。
ここは富裕地区の一角よ、間違って迷ったのなら平民地区まで案内しましょうか?」

そう提案してから低くしていた腰を戻す。
ともあれ大きな怪我もなく、ぶつかっていたのが自分でよかったかもしれない。
もしぶつかっていたのがタチの悪い貴族だったらいったい何をされていたか……。

ティアフェル > 「お陰様で! っはー、一時は死ぬかと思ったー……」

 たかが犬で大袈裟だが、当人は死ぬ物狂いで逃げていた。安堵して胸を撫で下ろし自然な笑みも零れ。
 それから、相手の笑声を聞くと少々照れたように頬を掻き。

「そう! 女の子ですもの! やむを得ない。
 富裕地区……そんなところまで……道理で汗だく……っはー。一週間分走ったー…。
 あ、どうもご親切にありがとう、えっと、騎士様……オネエなの?」

 汗を拭いながらぺこりと頭を下げつつ。遠慮のない問い。
 いい人、と思ったが、どうにもタダのイイ人ではない。癖のある人だ。ご親切にしてもらっている分際で、案外ずばん、と訊きやがった。かくり、と小首を傾げて悪びれた風もなく。

エイガー・クロード > 「死ぬなんて大げさよー。あんなの頭を蹴ってしまえば何もできないわ。
まぁそれができたら苦手なものと言えないし仕方ないけどね?」

よかった、どうやら緊張はもうしていないようだと少女の言葉遣いを見て思った。
だが次の一言に一瞬、固まってしまう。

「一週間分……まぁもともと平民地区みたいだし仕方な……」

オネエ……面と向かれてそんな風に言われたのは地味に初めてだ。
とはいえ、別に自身はゲイではない。確かに女言葉を使うが……いや女言葉を使う男をオネエと言うんだったか。

「えぇ、まぁ……オネエに入ると思うわ。直接聞かれたのは初めてだけど」

ティアフェル > 「そりゃー、苦手じゃない人はそーかも知れないけど……。
 そう、犬に追っかけられるくらいならオーガとこんにちはしてる方がマシッ」

 力強い本音。
 相手が貴族にしては親切で気安いものでついつい普段の調子で話し始め、表情も喜怒哀楽を伴う自然なもの。

「このあっついのに猛ダッシュとか……痩せたかな……」

 気にするのは年頃の娘らしいもの。こんだけ汗かいたら絶対減ってる、とそこでプラマイゼロを図り。
 そして、思わずまともに素で訊いたが。失敬だったかも知れない。
 認める返事が来ると、そーなんだあぁーと目を丸くして開いた口に手を当ててどこか感心したようにぐるり、と彼の様相を見廻して、それからじーっと化粧の乗った顔を見つめ。

「おー……オネエの騎士様初めて見たー。わあぁ……。
 でも、なんか、イイネ!」

 いちイイネした。親切でオネエで貴族で騎士。大分盛り込んでいるが、元来珍しいものは大好物。ぐっと親指を立てて、いいと思う!と全肯定の構え。

エイガー・クロード > 「オーガこそワンちゃんみたいなものだと思うけれども……」

もっとも、それは自分基準での話だが。
感情表現が豊かでコロコロと表情が変わる彼女を見てると、なんとくこちらも楽しい気分になるのは気のせいだろうか。

「まぁ……瘦せたいのならあと数十分ぐらい走り続けないと、かな?」

そんな悩みも、理解できるし、昔は私も悩んだものだと思う。
そして目を丸くして自身を見つめる彼女を見て、また奇異な目で見られるかと思ったが。

「…ふふ、そんな風に全力であたしのことを認めてくれたのもあなたが初めてよ」

口元に手を当てて、クスクスと笑う。
貴族らしく美しい所作なのもあいまって、本当に女のような動作だ。

ティアフェル > 「違うもん、オーガはオーガだもん、犬じゃないもん……」

 断固首を振った。犬と分類されるものは苦手だが、そうとも云えないものはセーフという自分基準。
 
「やーぁぁ…もー無理ー……逆にあんまり鍛え過ぎると筋肉つきすぎちゃう」

 中身だけではなく本格的にゴリラ化するのでムキムキは避けたい。
 頭を抱えてふるふる首を振り。ウェストだけうまいこと絞れてますように、と都合のいい願を掛けた。

「わたしは、素敵だと思うよ? 髪とか伸ばしたりしないの?
 あんまりどっぷり女らしくはしないんだね? あ、でもその口紅の色カワイイー」

 あんまりオネエなる存在は身近にはいないものだから物珍しさもあるが何となく楽しくなって、しっとりとした立ち振る舞いの彼に、女友達のような気安さで。

エイガー・クロード > 「ふふふ…」

思わず、といった風に笑う。そんな風にまで犬を苦手とする人間は見たことがないから。
それにオーガと犬を同列するほど苦手な人間なんて…と。

「多少体に筋肉がある程度の方が、健康的で好きな人も多いわよ?」

こう見えて体の鍛え方は研究していたことがあった。
だから先ほどぶつかった時にこの少女の筋肉の付き方もなんとなくわかる。
……見た目とヒーラーという言葉に反して、かなり筋肉はついている方だが。

「そう?ありがとう!髪は兜をかぶる時の為にあんまり長くできないのよねー。
それにいちおう、アタシ自分の事男だとはわかってるし、化粧だって好きだからしてるけど、あまりにもやりすぎると逆に違和感感じちゃうのよね~。
あら、ありがとう。よかったら同じのを貸してあげましょうか?」

そんな気やすい彼女の言葉に段々とこちらも慣れて、そして楽しくなってきたのか、ついつい盛り上がってしまう。

「あ、名乗り遅れてごめんなさいね。アタシの名前はエイガー・クロード。
騎士をやってるわ、あなたのような素敵なお方の名前を教えてくださってもいいかしら?」

ティアフェル >  笑い声を聞いて少し、むぅ、と眉を寄せてしまう。他人からしたら確かに面白いのかも知れないが、当人からしたら日常に支障を来たす死活問題でもあるのだ。
 しかし、笑わないでとは云えない。…自分でも失笑ものだと自覚済み故に。

「でもあんまりムッキムキはやだなー。肩幅とかもりっとしたら困る。
 これ以上ゴリラ化したら野生に還されてしまう……」

 可笑しな懸念を口にして大真面目に難しい表情を浮かべて、悩まし気に腕組みをした。
 か弱い、と主張するには無理のある、そこそこの体術を操れる程の筋肉の持ち主。

「なるほどー。そうね、長いと蒸れちゃうしね。
 んー……確かにあんまり盛っちゃうよりはそのくらいナチュラルな方が似合うかも……。
 え? ほんと? いいの? 嬉しー」

 メイクの話を異性とする稀な機会がやけに面白い。きゃっきゃしながら。ぜひぜひと肯いて。
 ついでに化粧の話をしていると汗臭いかも、と気になってウェストバッグから消毒液を取り出してペタペタ肌につけ。まず匂い菌を殺菌してから、しゅ、と柑橘系の香りのコロンを一振りし。

「あらあらこちらこそ……。そんな素敵なんて、上手いんだからッ。もっと云ってもらっていいですか。
 エイガー…さん?
 わたしはティアフェル。ティアって呼んで。冒険者でヒーラーなの」

 前半厚かましい本音を織り交ぜながら自己紹介。よろしくです、と会釈し。

エイガー・クロード > 「あら、ごめんなさい。不快にさせるつもりはなかったんだけれども……」

少し頬を膨らませた彼女を見て、申し訳なさそうに。

「まぁそうねー。でも筋肉の付き方も鍛え方次第で美しくなれるわよ?
アタシみたいにね」

そういう彼は体格こそ大きいがゴリゴリに筋肉がついているようには見えない。
それでも先ほどの衝撃の殺し方からして、相応に鍛えているのはわかるだろう。
「ゴリラ、というけど私からしたらまだまだネコちゃんよ」
そうニコリと笑い。

「えぇ、それに兜を特注にしないと収まらなくなるしねー……髪を掴まれるのも痛いとかじゃなくて単純に知らない人に触られるのが嫌だし。
男も女も、素を混ぜながら美しく彩る方がいいわ、あなたとかきっとそうよ!」

よくよく見れば磨けば絶対に光るであろう少女の顔立ちを見て断言する。

「えぇ、あんまり厚く口紅は塗れないしね。
……消毒液はあんまり頻繫にやると逆に肌荒れの原因になるから注意したほうがいいわよ?
それと……そのコロン、いいわね。結構好みのにおいかも」

そう言いながら少女から香るにおいをよく感じて。

「うーん、もっと云うにはもう少し魅力的な部分を知ってからになるかしらね?
えぇ、エイガーでいいわ。よろしくね、ティアちゃん。
とても可愛らしい名前ね」

名前をほめながら、こちらも軽く会釈する。

「さ、エスコートさせていただいてもいいかしら?マドモアゼル」

と、恭しい片手を出して。

ティアフェル > 「んーん、不快って訳じゃないない」

 いやいや、と慌てて首を振って、拗ねただけですと微苦笑した。

「んー……そっかなあ。バランスよくつけばいーけど……。
 でもやはり、乙女的には柔らかく繊細な体型をキープしたい……」
 
 乙女、と図々しい主張をしながらやはり悩まし気に首を捻り。
 そんな風に綺麗につけばいいのだろうが、しかし柔らかさも保ちたい。
 まだわたしのゴリラさを知らんのだ…とネコちゃん扱いに遠い目をして薄笑いを浮かべた。

「あー。それは分かるかも。わたしもそれも気になってアップにすることも多い。
 まあそうかしら! わたしもっともっと輝けるかしら…!」

 お優しい言葉を全面的に真に受けて、速やかに図に乗った。
 キラキラした目をして両手を組み合わせ、夢見がちな顔を晒す。

「そこはだいじょーぶ。ちゃんと低刺激。
 汗臭いのはやっぱり気になるお年頃。
 そう? じゃあ、ちょっとお裾分けー」

 男性がしても違和感のない爽やかなライムの香り。誉められたもので嬉し気に表情を綻ばせ、背伸びして、シュ、とその首筋辺りにひと吹きしようか。

「ようし、それでは美辞麗句を用意して待ってて。わたしの魅力でメロメロに……」
 なる訳がないが、お調子な科白を軽口めいて口走って、名前を誉められ「ありがと」と屈託ない顔で笑った。

「っふふ、よろしくお願いいたしますわ、騎士様」

 ここはひとつ乗ってみる。芝居がかった声を発しては少々はにかみつつも差し出された手を取って軽く腰を静める礼をした。

エイガー・クロード > 「そう?それならいいんだけど」

その苦笑にこちらも苦笑で返して。

「それはわかるわ。アタシは職業柄体格の良さがそのまま有利になるから仕方ないけれども……あなたは違うしね」

そんな乙女の悩みを理解できるのか、時折頷くなどする。
果たして彼女の言うゴリラがどこまで本気かわからぬ彼は甘く見るしかなかった。

「えぇ、きっともっと輝くことができるし、それだけの素材はあるわ!」

決して彼は噓やお世辞で言っているわけではない。
ただそれ以上に彼女がどれぐらいお転婆なのかを理解していないだけなのだ。
それでも、夢を見ている子の願いを叶えたいと思うのは、間違いではないだろう。

「あら、出過ぎた言葉だったかしらね?まぁ汗臭いかどうかは気になるわよねー。
ん……いい香りね」

そう言いながら吹きかけられたライムの香りを感じて、少し彼も肩の力が抜ける。

「んふふ、アタシがメロメロになる前に他の男が黙ってないんじゃないかしらね?」
そんな、屈託のない笑みを見てそう零した。

「それではこちらへ……なんてね?ちょっと臭すぎたかしら?」
少し恥ずかしそうに笑うも、同時に楽しそうに笑い、取ってくれた手を柔らかく握って案内する。

ティアフェル > 「ぜーんぜん、気にしないでー」

 にこ、と拘りなく笑みを刻むとまた一度、ふる、と髪を揺らして首を振り。

「うん。無理なのは承知でできれば小ウサギのごとく愛らしくなりたい……揺れる乙女心」

 ご理解得られて安心した上で、ゴリラがなんぞ無茶を云う。
 今後中身を知れば、ゴリラ感は伝わるだろうが、伝わって欲しくはない。

「エイガーさん…! わたし…わたしがんばるッ!
 見ててあの星に誓う!」

 三文芝居の様相を呈していた。止められないので調子に乗りっぱなしとなり、煌めく瞳は一夜箔輝きだした宵の明星を示した。

「んーん。ご心配痛み入ります。
 癖がないからいいでしょ。柑橘類だとあんまり嫌がられないしね」

 職業柄香水の香りには気を遣う。あまりしないが身だしなみとして持ち歩くのは柑橘類が多く、気に入ってもらえて満足げな顔。

「……………そんな男どこにいるの? 目の前に連れて来られない限りわたしは信じない」

 薄っぺらいプライベートを嘆く昨今、お世辞はいいのよ…と乾いた笑いを零した。

「ううん、わたしはお姫様扱いとかべたべたに甘くされるのだーい好き。だーれもしてくれないけどねー」

 周囲から雑に扱われることが多い故に稀にこんな扱いを受けるとテンション上がる。
 にこにこと上機嫌そうに手を握り返して、馴染みのない地区の案内をお願いし、場所の説明なども時々求めついでに道も覚えておこう。
 送ってもらう途中でも、楽し気に言葉を交わしつつ、知った場所まで同行していただき、またねーと親し気に笑って手を振り別れたとか。