2020/05/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にヒュエルさんが現れました。
ヒュエル > しばらく足を踏み入れていなかった富裕地区の、市民達が想い想いのひと時を過ごす広場。
その隅で、少年は静かに佇んでいた。

「………はぁ」

薬師の仕事の件でここまでやってきたのだが、どうやら待ち合わせをすっぽかされたらしい。
手に持った品物の袋を見て、困った、という風に肩を落とす。
ここでいつまでもじっとしてたって仕方もないのだが…

もしかしたら、遅れてでも来ていないかと思い辺りを見渡す。
見ようによっては少々怪しげとも取れる姿がそこにあった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にロゴスさんが現れました。
ロゴス > 「何してるの?」

そんな怪しげな姿に不信感を抱いたのか、話しかける人影があった。
こちらも同じ程に富裕地区には似つかわしくない、ミレー族の少年。
周囲を行き交う人々は、ヒソヒソと声を漏らしながら彼を避けていく。
自然と、二人の周囲の空間は空白が広がっていった。

ヒュエル > 声をかけられ、其方へと目を向ける。
と、そこには自分と同じくらいの年頃の少年がいて、少し驚いたように目を丸くした。
オッドアイが珍しいのか、思わずその顔をじっと見つめてしまいながら。

「……あぁ。ちょっとね、約束をすっぽかされて…」

言いながら片手に持った袋を軽く揺らす。
周囲の人々が此方を遠巻きにしても大して関心がないのか。彼に対する態度が変わることはなかった。
むしろゆっくり会話ができてラッキーというように話を続ける。

「君は?こんなところで、何か用事でもあったの?」

ロゴス > 右目が黄色、左目が青色。
猫で言えば金目銀目と呼ばれるその双眸は、半目に近い薄目でじっと少年を見ていた。
そしてすんすんと鼻を鳴らす。

「ふぅん。災難だったね。
 ふぁ……僕は仕事の帰り。特に何ということのない、護衛の仕事」

ミレー族の少年は眠たそうに目を擦る。
金縁の防具に大振りな剣は、彼が冒険者であるということを強く印象付ける記号であった。
それと同時に、彼の財力を含む実力を顕著に示すものでもある。装備品の質は、冒険者の質に直結するからだ。
そしてミレー族ということを隠さず、富裕地区にまで出入りする胆力は、彼の力を示すのに十分だろう。

「ハーブ類の匂い……それも一日二日触った程度じゃない。医者か薬師、調剤師かな。
 もしその中身が僕に役立つものなら、買い取ってもいいけど」

袋を揺らしただけで、中身については一言も語っていないのに、匂いだけである程度の推測をしてみせる。
ミレー族なだけあって、五感の鋭さは常人を軽く超えているようだ。

ヒュエル > 金目銀目は、珍しいのもあるが綺麗だった。
だから見とれてしまったのもあり、やがて思い出したように視線を逸らす。

「護衛か。…冒険者だったりする? って、その格好で訊くのは野暮ってもんだね」

大振りの剣と防具。いかにも、荒事をしていますと言わんばかりの服装だった。
ミレー族は知り合いや友人にも多い。その実力を疑うことはないし、彼らも以前よりは随分と市民権を得られてきたと思うが…
この周囲の反応をみると、まだまだ蟠りは深いらしい。特にこの辺りでは。

「……ほんと? そうしてくれると助かるよ。
僕はヒュエル。一応、この街で薬師をしてる。…この中身は、なんてことない調合薬」

五感の鋭さは流石というべきか。
中身について説明する時、少々口籠る。言いづらそうにまた口を開き…

「ただまぁ…疲労回復に効果はあるんだけど。少し、気分が高揚するような効果も追加されてる」

ロゴス > ミレー族の少年の雰囲気は緩く、冒険者特有の剣呑さはあまり感じさせない。
寧ろ眠たそうにしているその様子は、かなり鈍感そうにも見えるか。

「うん、ギルドにも正式に登録してるよ」

片手半剣(バスタードソード)にラウンドシールド。
動きやすさを重視しつつも防御力を確保した、胸当てと具足。
そして全身を覆う外套は、冒険者の中でも戦士タイプのテンプレートと言える姿だろう。

「ヒュエル。ふぅん……僕はロゴス。
 疲労回復に、気分が高揚……精力剤の類かな。
 本来の相手は何に使うつもりだったんだろうね。誰かか、もしくは自分か。
 いいよ、買い取る。値段は交渉次第だけど」

言いにくそうにする少年の言葉の本質を、ズバズバと言い放っていく。
少年よりもこの手の事柄に忌避感は薄いらしい。

ヒュエル > 話したところ、雰囲気は今の所とても緩い。
戦いの場だとまた違った風になるのか。ただの薬師である自分には確かめようもない。
だが、彼はなんとなく興味深かった。学者気質の好奇心が胸を擽る。

「そっか。じゃ、その護衛の仕事もギルドの依頼なんだね」

さておき、言い淀んだ内容についてズバズバ彼が言ってのけるなら、ちょっと意外そうに瞬いた。
その手のことについて、さして興味があるようには見えなかったのだが。

「……そうそう。誰に使うつもりだったのかは知らない。僕は言われた通り作っただけだし。
値段は……うーん。買ってくれるだけでも有り難いし、これくらいで…」

告げた値段は、一般的な傷薬の相場、およそ3割引くらいだった。
元々商売は得意ではない為、いつも安価で設定してきたのだが…
この際、贅沢は言っていられない。

ロゴス > こちらも、ヒュエルと名乗る少年の所作には好奇心を抱いていた。
顔付きや所作、話し方に一種の洗練された気品がある。
しがない薬師としてはやや不自然で、彼の身の上に少し興味があった。

「うん。最近は……くぁ……誘拐事件が多発してるからね。
 箱入り娘を抱えた富裕層も気が気じゃないみたい」

欠伸をしながら、そんな話を。
被害者はミレー族が多いらしいが、人間もかなりの数に及ぶ。
警戒を強める風潮は不思議なことではないだろう。

「随分と安いね。それでいいなら言い値で買うよ。
 ……というか、本当にその値段でいいの? 安すぎて悪い気がするんだけど。
 僕からサービスしてあげてもいいくらいだよ」

懐から金貨袋を取り出し、そのまま支払う。
ずっしりと重たそうなそれは、かなりの量の金貨が入っていそうだ。

ヒュエル > 気品が感じられる立ち居振る舞いは、かつて貴族だった経験が無意識に活きているのだが、
勿論今ここで話すようなことでもない。
何かしら機会があれば話すかもしれないが…

「誘拐事件か。…ちらっとそんな話は聞いたことあるよ。
僕に直接関係がある話題でもないから、聞き流してはいたけど…」

人間だろうがミレー族だろうが、被害が多ければそれだけ警戒も強まる。
だから少し物々しいんだな、と勝手に理解した。

「ロゴスが買ってくれなきゃ100%損してたところだったんだ。この値段で全然大丈夫だよ」

支払いを終えれば、薬が入った袋を彼に手渡した。
程よい重さのそれは、軽く振ると液体が揺れる音が響くだろう。

「ロゴスからのサービスね……僕と一夜を共にしてくれるの?…なんてね」

冗談めかして言ってのけた後、くすくすと肩を揺らして笑う。

ロゴス > 秘密を抱えるのはお互いに同じ。
初対面であるならば、お互いに興味はあっても深く詮索しないのもまた自然な流れだろう。

「うん、色々と噂話は聞くけれど……どれも断定するには根拠が薄いから、みだりに話すことじゃないね」

何にせよ、そういうわけで護衛を頼まれたのだが、何事もなく終わったのだ。
これで金が貰えるというのだからボロい儲け話ではあったのだが、少々拍子抜けでもあった。

「そう。じゃあ遠慮なく」

交渉成立。金貨と薬品の入った袋を交換する。
袋の中から瓶を一つ取り出して、軽く振って色合いを眺める。

「んー? 別にいいけど」

そしてヒュエルの冗談めかした発言には、真顔で承諾するのであった。

ヒュエル > 「下手に話して、それが誰かに聞かれて広まったら面倒だからね」

どこにだって聞き耳を立て、噂を触れ回る者はいるものだ。
口を閉じる仕草を表すように、人差し指を自身の唇に押し当てた。

薬の色合いは、一見爽やかな薄緑色。
瓶の半分ほどまで満ちており、一口分だろうか。それが三つほど袋の中に入っている。

「……えーと。僕の言ったこと、わかってる?
……ロゴスって、こういうのも平気なタイプなんだ?」

先程のやりとりから、性に関することは理解が深いのだとは感じていたが。
首を傾ぎ、その眠そうな瞳をじっと見つめて問う。

ロゴス > 「特にこの街ではね。やっぱり君、ただの薬師にしては切れ物だね」

強い同意を示し、こちらも耳を欹てる仕草をする。
猫のような耳はその仕草に合わせてくるくる動き。

薬の瓶を開けて、直接ではなく仰いで匂いを確かめたりした後に、瓶を仕舞った。
薬品類の扱いにも慣れているようだ。

「うん。ヒュエル、綺麗な顔してるし全然イケる。
 あ、そうだ。ついでに君の家に泊めてよ。僕は宿代が浮くし、Win-Winじゃないかな」

ふにゃ、と柔らかい笑みを浮かべて肯定する。

ヒュエル > 「どうも。この仕事してると、何かと貴族に接する機会が多くてさ。話が聞こえてきちゃうんだよ」

耳を攲てる仕草に、蒼色の瞳を細めた。
香りを仰いで確かめる、その仕草が手慣れている。
冒険者というだけあって、一通りの道具の扱いを知っているらしい。
また興味がむくむくと心中で湧いてくる。

「ん? …それくらいなら全然構わないよ。ここから少し歩くけど……じゃ、行こうか」

此方もつられたように笑みを浮かべ、さぁ、と促した。
彼と共に自宅へと戻っていく。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からロゴスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からヒュエルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にオブシダンさんが現れました。
オブシダン > 王都富裕地区にあるいずれかの建物。
貴族か豪商の邸宅か、その地下にある奴隷の部屋か。あるいは宿屋の一室か。
そこが何処で、誰のもので、何のための部屋か。
――そんなことはどうでもいい。

夜気を入れるためか、換気のためか。
開かれた窓から黒い翅が、ひら、ひら――と其処に舞って来た。
黒紫の燐光を音のない粉雪のように散らしながら、室内を飛ぶ。
そこに誰か寝ているかも知れない。起きて蝶を視線に捕えるかも知れない。
もしくは、誰もいない部屋を無為に舞うだけかも知れない。

きっと、それは気にすることはないだろう。
ただ、黒紫の燐光を散らしていく。
それは幻燈。幻燈。触れるものを刹那にして永劫の夢に導くそれ。
触れたものが見るのは幸せな悪夢か、悍ましい幻想かは、まだ誰にもわからない。