2019/09/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区【イベント開催中】」にヴィルアさんが現れました。
■ヴィルア > 「ああ、そうだ。先の襲撃は既に聞き及んでいると思うが、魔族が本格的に侵攻しはじめたらしい。魔王の可能性もあるようだ。
運よく私の部下は護衛を犠牲にして生き残れたが、このままで終わるつもりはない。ついては―――」
とある貴族の邸宅。
そこで別の貴族と交渉する男の姿。
先日、ある魔族と取引を交わしてあの有名な砦をより血なまぐさい戦場にする代わりに見逃された。
その契約の履行は果たされなければならない。
王都内でも有名な、武力を主とした貴族家に交渉をしに来たのもそのためだ。
ここが終われば兵団にもそれとなく部下を使って噂を流すつもりだ。
自分が直接体験した、と話してしまうと後々不都合があるかもしれないため、被害を受けたのは自分の側近だということにしておく。
こういった手合いの貴族は金だけではあまり動かない。
正義感と愛国心…そんなものがある貴族の方が稀だが。
それを煽り、ダメ押しに金の事情…戦争によって得られる利益をちらつかせれば、受けない者はそうそう多くない。
「では、日取りはまた伝えましょう。ご協力、感謝します」
恭しく礼をして、邸宅を後にする。
通りに出れば、ふ、と息を吐いて。
これからあの砦に送られるであろう兵達は、単なる犠牲だ。
自分が助かるための生贄。
まるで自分も悪魔になったようだな、と自嘲しながら…護衛を侍らせ、次の目的地へと歩いていく。
■ヴィルア > (さて、蹂躙ではなく争いが所望とのことだったからな…
あまりに弱すぎる者たちだけではダメだ。少しくらいは魔族に対抗できるような人材を要請しておかないとな)
自嘲しながらも、頭はしっかりと回す。
何せ自分が生き残るためなのだ。手段は選んでいられない。
ここで犠牲を払えば…もしかすると活路を見いだせるかもしれないからだ。
今は従順に仕事を果たし、信頼を得て、あの魔族の隙を見つけ―――…
(いや、これは無駄な思考だな。…一考する価値はあるが。)
そもそも実現するかはわからないが、やってみる価値はある。
ただの人間が、武力で魔族を制することもあるのなら。
武力以外でも制する可能性はあるはずだ。
その可能性を求めて、彼は王都の夜闇に消えていった。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区【イベント開催中】」からヴィルアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区【イベント開催中】」にバージルさんが現れました。
■バージル > 伯爵家の屋敷から少し離れた、街外れと呼ぶべき場所。
こじんまりとした教会の建物を囲むように、幾つかの墓石が並ぶ其処は、
今の時期であれば芝は黄金色を纏い、木立を抜ける風には微か、
薫り高い秋の花の香りが混じっている。
轍の痕が残る細道へ馬車を止め、近習の随行を制して、
大きな白薔薇の花束を抱え、漆黒の上衣を翻しつつ独り向かう先は、
己の秘密を守り、静かに逝った≪妻≫の眠る場所。
彼女の印象其の儘の、白い墓石の前に片膝をつくと、花束を其処へ供え。
慰撫する指先で墓石の、滑らかな表面をそっとなぞり。
「……随分長いこと、放っておいて済まなかった。
色々と忙しかったんだけれど、…やっと、少し時間が出来てね。
寂しかったかな、……其れとももう、向こうに好い人が出来た?」
妻に対する、というより、何処か友人に対するような気安さ。
彼女と己の間に在ったのは、―――そう、きっと、友情に近い何かだった、と。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区【イベント開催中】」にヴィルアさんが現れました。
■ヴィルア > 教会というのは、生きている民の信仰を受け、その心を安らかにする役目と共に。
亡くなった者もまた安らかに眠らせる役目も果たす。
また、一部の教会は、政治と絡み合う部分もある。
そんな場所に、既に轍があることに少し驚きながらも。
ある要件でこの場所に約束があり…、一人の青年が同じく馬車に乗って姿を現す。
こんな場所に刺客もいないだろうと護衛は付けず。
馬車を降り、教会の中へ入っていこうとしたところ。
轍を作った要因であろう人物を見つける。
(確か、あれは……)
一つの墓に優しげな視線を向けているその横顔は、見覚えがある。
華やかな貴族の集まりにも、ほとんど参加せず。
稀に参加したとしても喪服のような黒を基調とした服装で非常に場から浮いていた伯爵家の当主だ。
王族の姫を娶り、順風満帆だったはずだが次の年にその妻を亡くし…それからずっと、そのスタンスを貫いている。
喪に服すにしても長く、この国の貴族としては貞操観念が硬いな、という印象だったが…それほどその姫を愛していたのだろうか。
伯爵という地位にも興味があるし、話すことに損はないだろうと判断して。
教会のシスターに少し約束は遅れる、と言伝してから、墓に参っている相手に近づいていく。
「…風が気持ちのいい、良い日ですね。故人を悼むにはぴったりです」
できるだけ不信感を抱かせないよう、穏やかな口調で話しかけてみよう。
相手が自分のことを知っているかはわからないが、仕立てのいい服から自分の身分は察してもらえるか。
■バージル > 普段、例え父の代から屋敷で働く、じいや、ばあやの類であれ、
感情の儘に表情を歪め、或いは緩ませることは恥と躾けられてきた。
然し――――振り向けば教会の建物も望めるとは言え、此処は墓所である。
此処に在るのは己と、死者たちのみ、となれば、己の箍も若干弛みがちに。
花を供えた墓石の前に片膝をつき、墓石を緩々と撫でながら、
囁く声音で≪妻≫との会話を楽しんでいたところ。
明らかに此方を認識して放たれた声に、墓石へ触れた手を其の儘に振り返る。
視線の角度が下に過ぎたか、初めに映ったのは良く磨かれた靴の爪先。
其処から失礼にならぬ程度の泰然たる態度で視線を上げ、
上等そうな着衣と、其れを纏う青年の貌を視野に収めると、
振り向く間際に引き結んだ唇へ、ごく僅かながら柔らかな笑みを浮かべて。
「……此れは、…確か、リルアール家のご子息でしたね。
其方のご親族も、此の墓所に眠っておられるのでしたか、
――――お母上は未だ、ご健勝であられた、と記憶しておりますが」
相手の家名を口にするまで、生じた間は秒にも満たない。
常に喧騒から一歩引き、冷静に王侯貴族の動向を観察している己には、
彼が何処の家の者であるか、思い出すのは容易かった。
そして、――――己の存在が貴族社会に於いて、悪目立ちしている自覚はある。
当然、己を知っていて声を掛けたのだろう、と、確信した口調で挨拶を省いた。
■ヴィルア > 急に声をかけたにも関わらず、すぐに自分の素性を口に出す相手。
声をかけるまではこちらを認識した様子はなかったため…見ただけで思い出したことになる。
ということは…夜会にほとんど参加しないながらも、目立った動きはしっかりと監視していた、ということか。
「流石、若くしてウォルストックを継がれた御仁だ。
――幸いなことに、今はまだ両親とも健在です。家督はそろそろ譲られる頃合いですが。
奥方が亡くなられたのは…確か、3年前…でしたか。…随分と、仲がよろしかったのですね」
ここは、富裕地区と区切られているとはいえ少々街から離れている場所だ。
そんな場所まで、伯爵家当主が出向き。
優し気に語り掛けながら墓石を撫でる姿は…ただ単に番となっただけではない想いが感じられて。
簡単に受け答えをしながら、その仲の良さに言及する。
「…私は未だ、妻を取っていませんが。…それほど愛せる人に出会えるとは、とても」
くすり、と爽やかに笑い。
自分についての黒い噂まで知られているかはわからないが…わざわざ、話した印象を悪くすることもない。
まずは相手の想いを尊重し、持ち上げて…少しでも印象を良くしていこうと。
■バージル > 社交界にも権力争いにも興味は無いが、侮られたい訳でも無い。
少なくとも王都に居を構える貴族に関しては、其れなりの情報を得、
観察することである程度の力関係も把握しているつもりではある。
そんな己の認識に拠れば、彼は若き野心家。
生産と物流を生業にしている、家と爵位を彼が継いだなら、
きっとリルアールの名はますます王都に、他の都市にも轟き、
彼の立場を揺るぎないものとするだろう。
―――――既に、其の片鱗は見え隠れしているようでもある。
「貴殿のようにしっかりした後継者が育っていれば、
ご両親もきっと安心しておられるでしょうね。
私など、父も母も心配で、おちおち墓に入ってもおれぬ、と思っている筈です。
案外、其の辺りに漂って、私を監視しているかも知れない」
既に二人とも鬼籍の人である両親について、軽く肩を竦める戯れを交えつつ。
彼の口から≪妻≫のことが語られれば、さり気無く伏せた眼差しで墓石を一瞥した後に。
「親族や古くから居る使用人には、後添いを、とせっつかれてばかりですが、
……此ればかりは、ね。なかなか、思い切れません」
ふ、と、溜め息にも似た笑みを零してから、細めた眼差しで彼を仰ぎ見て。
「貴殿は未だお若いのですから、此れから、幾らでも出会いは御座いましょう。
じっくり腰を据えて、最高のお相手を選ばれたら宜しいのです、
……先は、長いのですからね」
飽くまでも≪彼は≫と限ったかの如き物言いは、己はもう、
終わった身、とでも言わんばかり。
数年を経ても喪装を解かぬ青年貴族として、最も相応しいであろうスタンスを保っていた。
其処で漸く、己が未だ跪いた儘であったことに思い至る。
すっと立ち上がり軽く膝頭を叩くと、背筋を伸ばして彼に向き直った。
其れで―――――と、やんわりと微笑んだ儘、微かに首を傾がせ。
「本当は此処に、どんな用事でいらしたのです?」
何気無い風を崩さずに、そんな問いを発するのだ。
■ヴィルア > 互いに相手を値踏みしながらの会話は非常に刺激的だ。
いくら約束があるとはいえ、これに替えられる時間はあるまい。
「謙遜を。私と違い、あなたが望めば、その血筋を継ぎたいと名乗り出る女性も多いでしょう。
…望まないのなら、養子でも取れば喜ばれるのでは?」
自分のことを大したことはないと告げる相手に苦笑いを見せる。
世襲とはいえ、若くして伯爵を継ぎ、王族を娶り…大きな動きを見せずともその地位を維持していることを考えれば。
未だ、貴族内の力としては上から数えた方が早いと、彼は判断する。
戯れには、安心させるための助言を出したりもするが。
跪いたままであることは、特に気にしない。
自分よりもその墓石の近くに顔を置くのは、ある意味自然にも思える。
ただ、優美な仕草で相手が立ち上がれば身長の関係で、未だ少し高い目線から笑みを絶やさず。
「ああ。私は…、新たに孤児院をいくつか経営しようと考えていましてね。
教会というのは孤児が捨てられたりすることも多い。そんな子供らを育成し、将来は私の力となってもらう…。
遠回りですが、恩を売れることを考えれば悪くない」
これは、実際に大きく告知していることでもある。
聞こえる言葉だけなら、慈善事業と言ってもいいだろう。
将来労働力にするとはいえ、それまでにどれだけの期間がかかり、金がかかるかも不透明だ。
疑いどころとしては、どう力になるのか、どこに恩を売るのか…、そういったところか。
「…こちらの仕事にまでお気遣い、ありがとうございます。
あなたに関する悪い噂もいくつか聞き及んでいましたが…あなたと話していると…噂は所詮、噂だと感じますね」
自分の話もそこそこに、話題を自分の望む方に変えていく。
そう。その横顔を見て、聞いてみたくなったことがあったから、話しかけたのもある。
その好奇心を満たすため、口を開き。
「ただ、根も葉もないだろうとはいえ、そういったものも気にした方がいい。
例えば…あなたが自分の妻を殺めただとか。後は…本当は別に愛する者がいて、妻はそれを隠すための隠れ蓑だった…など、ね
…もちろん、実際に話した私は信じてはいないが…。噂が広まることを止める手助け程度は、したいと思える。」
嘘を交えた言葉を表情を変えずに告げる。
流れている噂は本当だが、むしろ自分がのし上がるため、その噂を広めたいとも思っている。
未だ青年貴族としての表情がどう変わるか。あるいは変わらないのか…、相手がどう反応するか、悪辣な楽しみを胸に抱えて。
■バージル > 例えば夜会に自ら赴き、積極的に腹の探り合いをしたい、とは思わない。
然し、当然のことではあるが、降りかかる火の粉なら払うに越したことは無く、
時には降りかかる前に、火種を消しておくべき事柄もある。
何方にせよ、得意である、とは言わないが――――。
「……青臭い、と笑われても構いませんが、
私が自分の子を産んで欲しい、と思ったのは、亡くなった妻だけなのですよ。
いずれは何処かから、養子を迎えねばならないかも知れませんが」
其れ、をするのは未だ早い、と、思う向きが―――主に≪妻≫の実家の人間に―――
存在するのも事実である。
立身出世に然したる興味は無いが、好んで新たな敵を作りたいとも思わない。
其れが王族ともなれば尚更であり、――――彼ならば、言及せずに済ませた部分にも、
直ぐに思い至るのではないか、と、ただ微笑んでみせる。
―――立ち上がってもやはり、彼我の上背の差は歴然としていた。
見上げる高さに気後れするほど繊細な神経など、とうに磨滅して久しいが。
「孤児院、ですか……成る程、ご立派なお心がけですね。
此方の教会には、私も幾らか寄進をしておりますので…もし、
お力添え出来るものならば、と思いまして、出過ぎたことを申し上げました」
妻の眠る場所であるから、つい、気になって問うてしまった。
少なくとも表向きの理由は、其れで片付くであろう、と。
彼が其の孤児院で、どんな子供を、どのように育てて≪役立てる≫のか、
語られた言葉を額面通りに受け取った訳では、勿論、無い。
だからこそ、―――――ある程度、予測はしていた。
此れまで、陰で噂する者のみならず、こうして面と向かって疑惑を口にする者など、
幾人も居たからである。
首を傾げた角度も、細めた眼差しの色も、穏やかに口許を彩る笑みも、
呼吸するのと同じ自然さを保つ儘。
く、く、とごく小さく肩を揺らして、口許へ軽く拳にした片手を宛がう。
「噂など、いちいちまともに取り合っていては、王都でなど暮らして行けますまい。
貴殿にご助力願ったならば、次には貴殿と私との関係を、
面白可笑しく、下品な噂にされるだけのことでしょう。
ならば、私は王族と縁を繋ぐためだけに妻を娶り、
秘めた恋の邪魔になるので密かに殺した―――――、
そういう男だと、思われている儘で構いません。
きっと誰も、そんな恐ろしい男に表立って事を仕掛けよう、とは、
思わないでしょうからね」
そうではありませんか――――と、彼の眼を覗き込む時にだけ。
僅かばかりの鋭さが、ほんの一瞬だけ過ぎって、消えた。
■ヴィルア > 相手の事情を察し。
その愛情を伺わせる言葉にも、なるほど、と頷く。
貴族という地位ですら、面倒な責任が伴うのだ。
ましてや王族と連なりを持ったことのある貴族など、どのような縛りがあるやら。
想像はできるものの、実感はしたくないものだ、と思い。
「出過ぎたなどと。もし、ウォルストックの力を添えていただけるのであれば…
孤児院事業は成功したも同然。…宣伝でも、お名前を出してしていただけるのであれば、それ以上のことは望みません」
この国の貴族らしくなく、伯爵という地位を鼻にかけない、先ほどからの謙遜ぶり。
その名前には未だ利用価値がある。
表情を崩さないまま、ささやかな協力を申し出もするが。
駄目で元々。激昂されることはないだろうから、言ったもの勝ち、というやつだ。
ただ、こちらの揺さぶりにも動じずに言葉を紡ぐ相手には、内心で称賛を。
嘘だとしても真だとしても…愛していたであろう妻を自分が殺した、などという噂を面と向かって言われれば…
慣れていても少しくらいは動揺が見えるかと思っていたが。
その瞳の奥に一瞬煌めいた鋭さを感じ取り。
相手の評価を更に一段階上げ…もし敵となったなら、厄介な相手になる、と位置付ける。
もちろん、味方であれば頼もしい、ということでもある。
「確かに。これは失礼しました。私としては、噂が真実でないのなら…
周りのどうでもよい者ではなくウォルストックと懇意にしたいものですね。
せっかく2つの家の…長となった者と、いずれなる者が偶然出会ったのです。
無粋な夜会などではなく、じっくりと語り合いたいものですね。仕事の話だけではなく、奥様の話も」
背を曲げ、一礼をして非礼を詫びてから、顔を上げる。
お返しのように、開けた目に鋭さ…決して友情などではない輝きを乗せて
「…しかし、重ねて失礼を承知で言うならば。
…いつまでも喪に服していては、奥様も…それこそ、漂ったまま、安らげないのでは?」
夜会に出ずとも、少しくらいは明るくふるまってもいいのではないかと。
先ほどの戯れの言葉を拾い上げ…本心を混ぜた言葉を。
自分とて、血も涙も通わない悪逆非道というわけではない。
奴隷や、それに堕ちそうな隙を見せる相手でもなければ、親切心くらいは働く。
■バージル > ―――愛情は、確かに存在していた。
肉の交わりを絡めた男女の其れでは無いけれど、だからこそ、
共に過ごした月日が過去になろうと、揺るがぬ深い愛情が。
――――其れ、を態度に示しておくことで、得られるものも、失わずに済むものもある、
そんな計算が皆無とは言わないまでも。
「恐ろしい噂に塗れた家名が、宣伝になるかどうかは存じませんが、
……名前だけと言わず、是非、お力添えをさせて下さい。
ご存じかも知れませんが、此処のシスターには、妻の姉君も居られるのでね」
無責任に、名を貸すだけのことは出来ない、と、
―――此の教会の内部に、己の耳目たり得る人物も居るのだ、と、
飽くまでやんわりとではあるが、釘を刺すことも忘れない。
己のことを思えば、彼の噂もどの程度実態に添うているものか、
甚だ怪しいとは思えど、警戒は怠るまい。
―――――変わらぬ表情、震えぬ声音、そしてほんのひとしずく、匂わせる程度の毒。
其れらを駆使するに長けているのは、恐らく彼も同様か。
懇意に、との言葉へ、微笑む儘に頷きつつも、
「……私と妻が夫婦として暮らしたのは、ほんの数か月のこと。
然して愉快な話も御座いませんが、其れでも宜しければ是非に、
………お暇な時にでも、午後のお茶を我が屋敷で、ご一緒に如何ですか?」
相手の家へ招かれるより、己の屋敷へ招く方を選んだ。
こうした誘いは結局のところ、先手必勝であることは疑いが無い。
己の屋敷は当然、完全に己の側に有利な場所であるのだし―――、
「――――――は、」
本心からの気遣いか、其れとも別の意図が混じっているのか。
何れにせよ、先刻の戯れを絡め取り引き寄せるやに放たれた言葉に、
己がまず見せたのは、きょとりと目を見開いた顔。
相手の顔を凝視して、瞬きを三度ほどする間を空け。
口許へ再度拳の甲側を宛がい、自然な仕草で小さく吹き出してやった。
「……存外、はっきりと物を仰る方だ。
いや、失礼、……そうはっきりと仰られては、怒る気にもなれないな。
陰でヒソヒソやられるよりは、余程心地良い」
笑い交じりに、闊達な煌めきを双眸に滲ませて。
然し――――――
「漂っているのならば、連れ帰って閨に引き摺り込みたいものです。
貴殿にも、いつか、年貢を納めても良いと思う女性が現れれば、
……きっと此の気持ち、ご理解頂けると思いますよ」
口出し無用―――――と、声を荒げるのは容易いこと。
けれど敢えて、戯れごとの儘に留め置く言い回しを用いた。
――――そうして、頃合いとばかり表情を改め、
「さぁ、……私はそろそろ、屋敷へ戻らねばなりません。
明日にでも、其方のお屋敷へ使いを出しましょう。
……孤児院の件も、お茶を頂きながらゆっくりと」
手順を踏んで、きちんとした身形の使いを屋敷へ立てる故、と。
そんな台詞を潮に、目礼をひとつ添えて辞去の挨拶としよう。
■ヴィルア > 牽制と、言葉に出さない威圧。
それらを応酬するやり取りに、思わず笑みがこぼれそうになる。
有象無象の木っ端貴族がこの国という襤褸船に乗っているだけかと、貴族として生を受けてから、そう感じていたが。
このような…自分と同じモノもいると…つい、嬉しくなったが故に。
「力添えも、茶会の招きもありがたい。
是非、どちらもいただきたく。ええ…とても、期待しておきます」
尻尾を見せようものならそこから引きずり出され、自分はこの相手に食われるだろう。
しかし、反応を見れば…何かを隠している、とやはり取れなくもない。
…怒りや驚きの反応が、あまりに薄すぎるのもまた、疑いの種となる。
もしその存在するかもわからない尻尾を逆に捕まえられたのなら。そのままこの伯爵を足場にもできよう。
もちろん、竜の巣に入り込むからには…今日よりも更に、心を強く保たねばなるまい。
その覚悟はとうにできている。のし上がっていく野心を燃料に。
そんな打算を働かせながらも、口調は軽く、爽やかに。
「断った通り…失礼だとわかっていても、言わずには居られないのでね。
私の心は、悪戯好きの悪童のままですよ」
ごく自然な動作での…彼からしてみれば、わざとらしい吹き出し。
その目にまた…同族にしかわからない煌めきが宿るのは、もう相手も自覚しているだろう。
視線に乗せられた薄い怒りを受け止めつつも、敢えて気づいていない風に茶化し。
こちらも、そろそろ刻限だ。
流石に商売相手である神父をこれ以上待たせるのは心証も悪くするだろう。
「ええ。使いの方、お待ちしております。近い内にまた…あなたとお会いできるのを楽しみにしています」
相手の提案にも素直にうなずく。
今は相手のペースだが、それは仕方がない。
地位も下であるし、何も戦える武器をこちらは持ってはいない。
だからこそ、情報を集め…必ず、武器を揃えてやる、と決意して。
「それでは、私も『商談』がありますので、これで。…バージル様」
最後に、相手の家名ではなく個人名を呼び。
わかりやすい、宣戦布告としよう。
彼の姿が、教会の扉に消え…男装の麗人の視界から失せるまで、その顔には笑顔が浮かんでいた。
■バージル > 己が特段、貴族同士の腹の探り合いに長けていた訳では無い。
言うなれば、此れは場数―――経験の差、なのであろう。
己は幼い頃から、他人に悟られてはならない秘密を保持し続けている身。
そう容易く、尻尾を掴ませたりはしない、と――――――
そうは言っても、己とて結局は若輩である。
いつ、何処で失策をするか知れず、其れが彼の耳に届くか否かも賭けであり、
或いは此れから彼が向かう教会で、縁戚関係にあるシスターを篭絡し、
手駒に出来る可能性も、全くのゼロとは言えず。
ともあれ、今日のところは此れまで。
己は上品な青年貴族の顔を保つ儘、墓所を後にして行くことに。
彼が己を、家名では無く名で呼んだことに、ひとつ、警戒のランクを引き上げて。
近習の者に長く待たせたことを詫び、馬車に乗って屋敷を目指す。
後日、彼の屋敷に届けられる親書には、彼が読んだ其の名が記されているだろう。
そして、宛名として記したのは――――彼の名、である筈。
宣戦布告は受け取った、と、明言せずとも伝わるように――――――。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区【イベント開催中】」からヴィルアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区【イベント開催中】」からバージルさんが去りました。