2019/06/23 のログ
ホアジャオ > 「!ッ―…」

何かに反応したらしい、近付いた少女の顔が間近に迫って細い目が激しく瞬く。
からん、と杖が石畳に触れる音がする頃には、女の方が目元を真っ赤にしていた。
うろたえた唇が何か告ぐ前に離れた少女に、がっかりしたようなほっとしたような奇妙な感覚を覚えていると――聞こえてきた音。
手を取られて固まった格好のまま、きょとんとした細い目でとらえる、少女の誤魔化す仕草と、言葉。

――ぶは。

思わず吹き出すと、そのままけらけらと女は笑いだす。

「――はは。
ああ、ごめんごめん…アタシ、『ホアジャオ』ッてェの。
今は王城で用心棒やってる。
……ベルモット。カワイーね」

眼の端を指で拭いながらつるっとそんなことを言って、じゃあいこっか?と先ほど少女が示した広場の方へと足を踏み出す。

「薬ッてェなら…アタシの回りだとやたらと精力剤欲しがってるよ。
そンなンも作ってンの?」

果たして異性だったならば、完全にハラスメントな会話を投げかけながら、まだ笑みを浮かべたまま横目で少女を見やった。

ベルモット > 「あ、ちょっとそんなに笑わなくったっていいじゃない!生物は生きている限りお腹が減るんですぅ~
これは今日もあたしがきちんとあたしである証拠のようなもので……もう、聞いてる?」

煌びやかな明りも眩い道に快哉のような笑い声が響く。
往来を行く人達の幾人かが、何事かと目線だけをくれるのが判り、
笑われたあたしの弁明の言葉が、そういった人達にも言い聞かせるように跳ね上がっては消えて行く。

「乙女の腹の音で笑うだなんていい趣味だわ……と、ほあじゃお、ホアジャオ……ううん、独特の発音ね。
服装もそうだけれど、この国とは文化が違うし、さては今噂になっているシェンヤンの人?
お城で用心棒と言うのも貴人に請われてと予想──」

頬を風船のように膨らませながらも思考は回り、一つの予想を転がり出すのに出きる前に言葉が止まる。
代わりに目線が困ったように泳いでしまった。

「え"っ……おほ、おほほほ。そ、そりゃあまあ?天才ですし?可愛いって言われるくらいだし?
材料さえあればよゆーよ。よゆーよゆー」

可愛いと言われた事と精力剤が入用とのこと。
二つにあたしの顔が、携えた杖の先以上に熱を出す気がして己の頬を数度叩いて確かめた。
実際、材料さえあれば作れる。作れるだろうけれど、乙女にとってハードルの高い材料が幾つかある。
ホアジャオと並んで歩きながら高笑いをするあたしは、多分にきっと不審人物に違いなかった。

ホアジャオ > ううん
割と高飛車な態度の割に、礼儀正しいし慌てふためく様子が更にカワイー。
そんなことを考えながら、広場へと歩きつつ時折少女を横目で見やる。

「まあ、貴人ちゃぁ貴人なンだろケド…
アタシは、割と貧乏な公主たちの一団に、十把一絡げで雇われてるだけだから。
――れんきんじゅつし、ッてェのは聞いたことないンだケド…
魔法使いの一種かなンか?」

そう良いながら、好奇心の宿った目でベルモットの杖の先の炎へすいと手を伸ばす。
触れる、ぎりぎりまで近づけて、幻にしちゃあ良くできてるなァなんて…本当に触れそうになりながら。

「良い精力剤がつくれたら、今時分なら王城勤めのやつらに山ほど売れるよ。
あいつら、大体が公主のほうに吸い取られてひいひい言ってるみたいだから」

けらけらと笑いながら続ける。

「まァほンと…毎日そンなことばッかで、用心棒の出る幕なンて無いンだよねえ…」

ため息交じりに、参るよ、と言葉を継いだ。

ベルモット > 「そんなに卑下する事ないわ?王城に入れるなんて一種のステータスだもの。
あたしもいつか有名になって悠々と緋色のカーペットの中央を歩いて登場してみたいわ。
こう、衛兵さんがびしーっと敬礼とかしてくれる……と、ええと。錬金術師は簡単に言うと魔術師の一派ね。
どちらかと言うと神秘よりも技術的なアプローチに重きを置くというか──」

言葉を少し濁すホアジャオを励ますように声を上げ、序に自らの未来予想を語りかかって話が戻る。
簡単に錬金術師の在り方を説明しようとするのだけど、彼女の手がするりと杖先に伸びると言葉が途切れた。

「──っぶない!」

反射で杖を遠ざけ、入れ替わるように身体が彼女に凭れるようにぶつかった。恰も酔客が体勢を崩した。そんな風に。

「ち、ちょっと大丈夫?火傷とかしてない?これ、本物の炎だから触ったらダメよ!?。
ええと、話に戻る形にもなるけど、この杖が正に錬金術の賜物というか、うちに伝わる家宝なんだけどね、これ。
大昔の御先祖様が造り上げたもの。魔力に親和性のある者が持てば自在に炎が灯る煌めきの杖」

ぶつかったついでにホアジャオの手を取り、用心棒だと云う言葉に偽りの無い、頼もしそうな手の安否を確認する。
一先ず、何事も無い事が解れば安心したように息を吐いて離れましょう。

「原理さえ解れば量産して、売り出して、夜闇を払う者としてあたしの名も売れるんだろうけど……
……ところで、その。王城で精力剤がやたらめったらに入用ってお城はいったいどうなっているのかしら」

この国の治安は決して良くはない。良くも悪くも活気があるけれど、それは良くも悪くも活気を効率的に鎮められないという事でもある。
旅人たるあたしとしては、この国の上の方はそんなに乱痴気騒ぎが常態化しているのだろうか?と心裡で首を傾げざるを得ない。
そして、そうこうしている内に広間へと着いた。夜であるのに夜ではないかのように明りが灯され、食べ物関係のみならず、
雑貨を売る店があれば曲芸を披露する者もあり、それらに合わさる巧みな楽器の音が、それそのものは良くとも、
他の演者の音に混じり不可思議な不協和音となる。時間帯を考えたら衛兵に咎められそうな賑やかさなのに、
広間の入り口に立つ彼らが制止する様子は無い。というか仕事をする気が無さそうに見えた。

ホアジャオ > ぶつかって触れた少女からは独特の…いい香りが漂って、触れた感触とともに女の眼を細めさせる。
そうやって思わずぼおっとしてしまった瞳を、はたと瞬かせて。

「哦、ごめん……
ふゥん?じゃァあたしが持ってもウンともスンともだろね」

言いながら、手を取る少女にどぎまぎしてしまう。
取られていない方の手の指で、落ち着かなく頬をひっかいて、見つめてしまいそうになるのをあらぬ方に視線を彷徨わせて。
また、少女が離れれば少し、さみしく思う。

(嗯(うーん)……どうしたんだろ、アタシ)

頬を掻く手はそのまま、広場の様子を細い目が見渡す。
その鼻に、懐かしい香りが漂ってくる……。

「啊――…王城は今ンとこほぼ毎日、公主がめぼしい貴族をひッつかまえては、自分の夫にするかどうか『おためし』してるみたいだよ」

よくはアタシも知らないケド、などと言いながらくんくんと鼻を鳴らし――見つけた。
揚げ焼売だ!

「――ベルモット、熱いのは得意だよね?」

炎を操るくらいだし。
言うが早いか、少女の白い手を無造作に取り上げて、とある屋台へと近づいて行こうとぐんぐん歩き出す。

ベルモット > 「知り合ったばかりの人の手を家宝で焼いてしまいました。なんて洒落にならないもの。
ああ良かった。ホアジャオに怪我が無くってなにより……何だか何よりじゃない凄い言葉が聴こえた気がするけれど、
お試し……お試しかあ。凄いわね上流階級……」

下々側からすると天上人にも等しい王族の価値観が理解出来ないのも当然かもしれない。
やや遠い目になりかかるけれど、そういった需要があるというのは確り覚えて置くことにしよう。
そう心に決めた。

「ん?ええ、それなりに。炎の杖が家宝なのも、火は文明の先駆け、黎明の輝きなれば技術の徒が使うにふさわしい。という家訓に──」

決めたらホアジャオに手を引っ掴まれて、胸を張って答えるよりも身体が引かれて叶わず、
彼女の目当てと思しき屋台に引き摺られる旅人が一名。

「すっっごい力ね貴方……うーん頼もしい……と、此処は何のお店?揚げ物?」

屋台の前では大きな金属製の鍋に油が満ちていて白く煙を上げている。
傍らにある竹製の笊には、一口サイズの練り物に薄布のような衣を纏わせた……団子?のようなものがあった。
思わず首がかたりと傾いで、そのままくるりと傍らに向く。店主の男性は威勢の良い売り文句を叫んでいるらしいけれど、
ホアジャオ以上に発音が訛っているのか、あたしには良く聞き取れなかった。

ホアジャオ > 「ホント、親戚を作ンの好きだよねえ、あのヒトたち」

少女の返答にけらけらと笑う。
そうして引っ張ってきた屋台の前。
親父はどうやら本当にシェンヤン出身のようで、よくよく見回せば辺りの屋台も同郷のものが多い様子だった。
たまに思うが、商売人と言うのは本当に感心するほどたくましい。

「ウン?そうそ、揚げ物。
――叔叔(おじさん)、そこのおっきいの、2つ」

辺りがやかましいのもある。
解りやすく言葉と手振りで店主に籠の中を指差して、ふたつ、指を立ててみせる。
恰幅のいい、長いナマズ髭を蓄えた男は福々しく笑って、2つを取り上げると鍋の中へ。

ジュワァッ!という気味のいい音。

弾ける熱から、思わず少女を庇うように後ろに少し遠ざける。
ほどなく浮き上がってくる焼売を引き上げて、男が紙皿に取って寄越した。
謝謝(ありがとう)、と女が笑いかけると、また男も福々しく笑って返す。
屋台の端にあったフォークと箸をひとそろいずつ、取り上げて。
そうして女は、紅い唇でもって屈託なく笑いながら少女を振り返る。

「快点快点(はやくはやく)!
熱いうちが美味しいから!」

フォークで片方を刺して紙皿を少女に差し出す。
刺した端から肉汁が毀れ出してしてきて、辺りに食欲をそそる香りをまき散らした。

ベルモット > 「…………衣をつける意味、あるのかしら」

肉団子をそのまま揚げればいいのではなかろうか。
いや、しかし異国の料理、文化であるからして、この謎の衣にも魔道の深奥にも匹敵する理由があるのかもしれない。
そんな風に店主の男性と言葉を交わすホアジャオを一瞥に留め、あたしの眼差しは油の満ちた鍋へと向いた。

「ひゃっ……ああびっくりした!随分跳ねるのね。肉団子に水分が多いから?ああ、衣はそれを防ぐために……?」

途端に湧き上がる熱の音に驚くのと、咄嗟に身体を動かされて驚くのはきっと同時。
頓狂な声を上げても幸いに雑踏の最中な事に感謝をし、あたしはホアジャオの後ろから鍋を見て感心したように独りごちる。
そうこうしている内に料理は完成し、紙皿に盛られ、そしてあたしに差し出された。

「熱いうちね。よーしそれなら……………………………」

フォークを手に取り意気軒昂に一口齧り──途中でお皿に舞い戻る揚げ物。

「……あひゅい」

口元を抑え、ちょっと待ってとホアジャオに掌を見せて制止する。
危うく火傷をする所で、けれども見栄を張って本当に火傷をする前に立ち止まれる勇気を自分で褒めたい。
再度フォークを手に取るも、今度は直ぐに齧らずに、ふいごのように息を吹きかけ冷ましてしまおうと目論んだ。
はたしてホアジャオはこの難物を易々と食べてしまえるのだろうか?そういった好機の眼差しも忘れない。

ホアジャオ > 目を白黒させ、一度紙皿み戻す少女の様子にけらっと笑って。
ごめんごめん、なんてまた言いつつ、これまた屋台の端に置いてあった冷水にコップを差し出した。
少女がそれを受け取れば、自分も箸でもってつまみ上げて、がふ、と半分近くを齧る。

「――……」

無言で涙目になりつつ、この時期でもそれとわかるような湯気を口から吐きつつ。
こちらも頑固に頬張ったままはふはふもぐもぐ。
やがてごっくんと飲み込んで、はあと付いた溜息にまだ湯気が混じる。

「はァ―…コレ、ひさしぶり。
火傷しそうになるケド、美味しいンだよねえ」

またけらけらと笑ってもう半分を口に運びながら、ベルモットは?と首を傾げる。

「こういうの、初めてだったみたいだね。気に入った?」

ベルモット > 「まったくもう、人が悪いわ?危うく火傷する所……火傷してないよね?」

あたしより背が高くて、多分年上のように見えるのに、年下のような稚気を感じさせて笑うホアジャオを見て、
あたしはあっかんべえとするように舌を出して、ついでに火傷の有無を訊ねてみようと思ったの。思ったからそうする、べー。

「うわあ食べちゃった。口の中まで強いのね、貴方。でも無理をしたら駄目よ?
火傷に効く薬なんて、勿論錬金術師なら作れるけれど、口の中までは……あ、もしかして需要がある……?」

それが済んだら水を受け取り、涙目になる程の熱に耐え、けれども満足そうに溜めた息を吐くホアジャオに目を瞠る。
同時に商機が脳裏を走り抜けようとしたので、その足を引っ掴んで引き摺り落して心裡で笑った。

「味は素敵だけれど、もうちょっとこう安全な方がいいような……でも、この熱があってこその味でしょうし。
火傷をしても安心な、口内用の火傷薬を作る。なんてのもアリかな?」

口の中を冷やし、程よく冷めた揚げ物を口にして、今度は心裡ではなく実際に笑った。

「試作品が出来たら暫くは熱との闘いになるけど……あら、口元」

さて材料は何が良いか。そう考えようとした矢先に、ホアジャオの赤く綺麗に彩られた口元に肉汁が着いているのが見えて、
あたしはポケットからハンカチを取り出して拭って差し上げるの。

「貴方って不思議ね。年上のようで年下のような……あたしは今年で16だけど、貴方がどちらか全然判らないわ」

稚気を隠さずに笑うホアジャオの様子についつい気になった事が口から出た。
様相が違う所為か、人種が違う所為か、こうして直ぐ傍で会話をしていても今一つ年齢が解らない。
彼女はあたしよりも背が高く、年上のような気がするけれど、稚気を感じさせる振舞いがそれらを惑わせる。
物事がはっきりしないのが気になるのは、きっと魔術師の悪癖のようなものかもしれない。

ホアジャオ > 口元を拭われる。
頬が赤くなるのは、飲み込んだもののせいか、果たして。

「ありがと…
アタシ?はもう、21になッたンだケド」

『こどもっぽい』、よく言われる言葉。
そンな子供っぽいかなァ……と一人顧みながら、また後頭部を掻いて、もう半分をもぐもぐごくん。
そうして、細い目は次の屋台へと視線を走らせる。
目ぼしいものを見つければ、また少女の手を引いていくのだろう

ベルモット > 「折角口元を彩っているのに、油断をしたら勿体ないわ?それにしても綺麗な赤色。一体何処で手に入れたのかしら。
今まで見かけた赤色系はもうちょっとくすんでいて、鮮やかさに劣るというかー……あら」

少し困ったように年齢を詳らかにするホアジャオに対する言葉もまた迷った。
年上だとは判ったのだから魔術師の好奇心は満たせたけれど、どうにも聞くには踏み込み過ぎたかと人の心が戸惑い迷う。

「だ、大丈夫よ大丈夫。若々しいってことだもの。誉め言葉誉め言葉!」

年下が言う言葉なんだろうか、これ。そう思ったけれど、そういった思考は棚上げしてあたしの手がホアジャオの背を叩く。

「ほら、次はあたしが奢ってあげるから元気を出して──」

叩いた手が風のように引っ手繰られて、別の屋台に引かれて行くのはまた別の話。
ああ、なんだか微笑ましそうに声をかけてくれるナマズ髭のおじさんの言葉、やっぱり全然判らない。

ご案内:「王都マグメ.ール 富裕地区【イベント開催中】 街中」からホアジャオさんが去りました。
ご案内:「王都マグメ.ール 富裕地区【イベント開催中】 街中」からベルモットさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区【イベント開催中】」にナインさんが現れました。
ナイン >  ――やれ、やれ…だ。

(時間が出来たからと、この近辺を歩き回って。かなり疲れた。
街路が交わり合う、ちょっとした石畳の広場にて。ベンチに腰を下ろし息を吐く。

…欲しい物、というか。こんな物は無いだろうかと、探したい品物が有る。
才能薄く経験も浅い人間が、魔術を行使するに当たって。
それを補助してくれるような、祭具的な一品だ。

しっかりとした、魔法具の専門店…という物を探してみるのだが、なかなかどうして、見当たらない。
偶に見掛けようとも、大概は実用的な物ではなく…あくまでも。効果よりも高価さを価値とするような物ばかり。
考えてみれば当然だ。富裕地区と呼ばれる、この界隈で。
アクセサリー的な物を求めるとすれば、己の様な。或いはそれ以上の貴人達。
自身で力を振るわねばならない者など、多い筈もない。)

 そうすると。…地区を変えた方が良いのかも…なぁ。

(折角。寸暇を惜しんで。それっぽい、町娘のような変装までして。街に出てきたのだが残念だ。
ともあれ今日は外れかと。首を回して一息入れる。)