2018/10/31 のログ
ティリア > 押し切られるか。……怖い、ものね。
数で攻められるのも。自分達の方が正しいんだからと、押し付けられるのも。
隠すには、有る意味都合も良いのだけれど――

(彼女と真逆。此方は、故有って。半面のみだが、隠す為に伸ばした側だ。
だが、そんな仮初めの覆いを退けられて重なる瞳。
あの髪の下。こんな色を隠していたのかと。改めて驚かされ、そして脅かされる深い碧。

…穢し傷付ける事を懸念した店員達だが。
彼方にとっては、有る意味勝手が知れているのか。
二人囁き合い、連れ添い、店の奥へと引っ込んでしまった。
己が未だ試着すらしていない、彼女とお揃いの服も。ちゃっかりと奥に運ばれて…
詰まる所、それは。一度引っ込めてしまわねば、台無しに成り得るという事も。
店員達が理解しているという事実に他ならず。)

愛するとか、愛されるとか。
それが綺麗事では済まないって、身に滲みる程度には……僕は、お嬢様じゃぁないからね。
もう随分掛け離れてしまったと、自覚しているだけだよ。
人には、分相応という物が有るんだって―――― っっ。 く、 ――――?

(触れられた。否、囚われた。
締められる事、縛められる事への嫌悪に同意した…それ等の苦しさを知ると吐いた、己の喉を。
宿る鼓動が、正常である――筈がない。
踏み込まれる、踏み躙られる事を恐れて、今にも逃げ出したがって。
どうしようもなく揺れ跳ねているそれは。喉元からでも容易に悟られてしまう物。)

っ、ぃ …ゃだ 嫌だ、よ。
 ………ソレを望む者が。何処に、居るっていうの――さ。

(大袈裟と言って良い鞭音は。鞭打の破壊力よりも、恣意行為――実際に鞭打たれる事を想起させる為に、なのだろう。
喉だけではない。触れられていない、躰全体が戦きを見せる。
鞭音が、痛みの記憶に直結する故である事は明白に。
苦痛でしかない筈のそれが。望むべくもないと吐く痛みが。
真逆の喜悦に、被虐の悦楽に繋がるのか否かは――今、確実なのは。)

――私にとっては。その音は、痛みは ……
愛されるという事だとは、思えない――よ ……?

(跪く。それは、屈服に他ならない。
確定した圧倒的な上下関係に、情愛を見出せというのは。なかなかに難しいだろう。
力が抜けたかのように、床に、膝を落として仕舞いながら。
小さく小さく零す声音は。彼女を、恐れる物と化していた
…否、より正確に言えば。今の彼女のように、鞭を振るい力を見せ付ける、己に苦悦を刻み込もうとする者への、か。)

レイン・レジネス > 「……怖い? ああ、なるほど――なるほど。
 全く君は面白いように歪んでいるね、素敵だ。心底そう思うよ。
〝大勢に自分の意志を蹂躙される〟のは怖いから、自分の意志を通したい、か――」

意図的な曲解。相手が吐く言葉の意味を身勝手に定義し〝押しつけ〟る。
それは相手への理解を深める為ではなく、相手を自分の支配下へ貶める為。
自分が相手を理解していると錯覚させ、跪かせる為。
膝を落とした少女の前で、女は椅子に腰掛ける。
未だ履いたままの乗馬ブーツ。その足を持ち上げ、少女の肩へ下ろせば、拍車が肩へ軽く沈むだろう。
衣服の上からであれば、皮膚を裂くまでには至らないだろうが、多少の痛みは有る筈だ。
否、と言葉を吐きながら。
然し応と発するように声を潜めた少女の前で、女はみたび鞭をテーブルへ打ち付けた。
そして――

「愛の定義を、あまり小さく纏めるものじゃあないよ」

女はいやに艶やかに笑った。
怯え震える隻眼を、情欲に満ちた双眸が見下ろしている。
中性的な姿であろうと心掛ける少女の全身を、女の目が、舐めるように見回している。
望んでいるのかどうかは知らない。だが、望んでいないというのなら、なんと忌まわしい才能だろう。
過去の傷を隠し、強くあらんとするその様は全て、捕食者の牙を研ぎ澄ませる天性の媚態だ。
だから女は、楽しげに笑っている。

「私の愛は嗜虐的だ。愛すれば愛するほど、壊したくなる、狂わせたくなる、痛めつけたくなる。
 ねえ、君。君は自覚しているのかい? どうして君はそうも、人の心を煽ってくれるんだ。
 君が私の愛を理解できないなんて言わなければ――意地でも分からせようなんて、思わなかったのに
 ……脱ぎなさい。さもなければ、力任せに剥ぎ取る」

逆らえば次は、この鞭を君に振るう――と。そうまでは言葉にしなかったが、碧眼が雄弁に語る。
だがその一方で、女の言葉には妙な真剣さがあった。

「この場で、今、君を愛したいんだ」

その言葉は戦慄を呼ぶ程に、破滅的な予兆を感じても尚疑えぬ程に、嘘が無かった。

ティリア > あぁそうとも。…それを、望む者なんて。どれだけ居るんだろうね。
少なくとも、僕は。そうでは居たくないと――思 ぅ。

(虐げられて屈する事。逆らえず従う事。…恐れ戦き、狂う事。
それ等の恐ろしさに関しては。推論でも何でもない、事実として知っている…身に刻まれている。
だから彼女の曲解は、強ち誤りであるとは言えないだろう。
マイノリティを。否、きっとそうなのだと思いたい、服従や被虐に溺れる性持つ者達を。
丸きり否定する訳ではないが――同調はしたくない。そう思う。
だが、この状況は。正しくそれ等をこそ強いられる物だった。
躰の痛みと心の痛みの二者択一か。…それとも逃れ様の無い、心身共の苦悦となるか。
拍車の鋭利さは、飾りとしての物でしかないが。それでも本式の、膚を裂かれる痛みを思わすには充分で。
何より、更なる痛みを――急かして強いるその為に、鞭打たれる事を。嫌でも思わせ切迫させる。
跪き、踵の重みに背中を丸め。縋る先を求める如く、胸の前で両手を握り締める姿勢は。
さながら、最早居もしない神にか。それとも、目の前に在る絶対者へと。祈り希うかの如く。)

……愛されている、と。何を以てそう思えるかは。…人それぞれ、だよ。

(堪らず引き攣らせる唇が浮かべたのは、嘲笑か。自嘲か。彼女の言葉は…正しくて、間違っている。
結局、受け取り方も応え方も、押し付け方も。人それぞれで。
彼女にとっての正解は、己にとっても正しいとは限らず――そして逆も亦然り。
だから、肯定はしなかったが。同時に否定も出来なかった。
只、異なりと隔たりとの存在を。覆し様の無い事実を、淡々と吐き出すしかない、乾いた声音。
事実は事実と。さながら他人事めいて零す口調は。彼女のそれとは真逆に冷えて。

戦く瞼の下から。それこそ、嘗ての彼女の如くに、伏して垂れる髪の下から。
見上げて窺う彼女の仕草。鷹揚に座し、脚を掛け、鞭を振るい。貴族たる…と言えるやもしれず。
対して己はどうなのか。突き付けられた力を恐れ、畏れ。頷く事しか出来無かった。
命じられて、頷きこそしなかったものの。握り過ぎて白くなった指先が、震え乍らも肩に這い。
はらりと床に舞い拡げられたストールと。その上に落ちていく衣。)

――――ねぇ。君の愛は、どれだけ。…痛いのかな。苦しいのかな。
…それは、もう。……もう嫌だよ。…僕は、私は、……信じられない。信じたく、ない。

(ともすれば。慾と愛だって、別物だと。
愛など必要としない、肉だけの慾が、どれだけ蔓延しているかを。思い知らされているから。
支配欲。征服欲。それ等であるというのなら、受け容れる事は……怖い。
一度浮かせた脚からブーツも抜き取り、やがて、一糸纏わぬ全てをさらけ出しつつも。
見られる事でその肌身が熱を帯びるには…支配者の眼差しは、恐ろしかった。)

壊されて、狂わされて、痛め付けられて。
…犯されて、穢されて、何もかもを失って。
ねぇ。愛って、与える物、与え合う物じゃないのかい?
失わされて、奪われて、空っぽになってしまったら……貴方は、何を以て。それを埋めてくれるんだい……?

レイン・レジネス > 「そうだねぇ――不特定の大勢に屈する事を望む者、なら確かに滅多に見ない。
 一時的な恥辱、一時的な快楽の為にそうする事はあっても、恒久的に、って言うのはね――だけど」

言葉で戯れることも、直接に相手の身体に触れることも、この女に取っては同列だ。
大勢に意志を蹂躙されることを望む――そういう人間は見ないと、確かに言った。
だがそれは、君が正しいのだと肯定する為ではなく、

「ただ一人の絶対者に身を委ねたいと願う、そういう人なら幾らでもいるさ。
 ……何もかも曝け出し、自分がどういう生き物かを知られて、〝扱われる〟んだ。
 君の言葉を借りるなら、犯されて穢されて――奪われて? ……最後だけは適切でないかな」

何故なら、と女は言葉を継いだ。
その目の前で少女は、命じられるままに衣服を脱ぎ、その裸体を曝け出して行く。
煌びやかな洋装店の中、視線を遮るカーテンも無く、横たわる為の寝台も無い。
どこまでも日常の一端でしか無い場所でのこの行為は、酷く女の興を煽ったと見える。
椅子の上で少し身体を前へと傾け、戯れのように手を伸ばす。
かつて痛みを、穢れを刻まれたのだろう肌へ指が触れれば、その向かう先は下腹の、薄れかけた蛇の紋様――

「だって、君が失うものは何も無いんだから」

その紋様に指先が触れた時、女の掌は蠢き始める。
掌から、指先から、あたかも肉体の延長であるかのように這い出すのは、海洋生物を思わせる軟体――触手だ。
それは彼女の肌の上を這い回りながらも、〝まだ〟秘すべき部位へは向かわずに居る。

「私の愛はね、きっと痛みもあるし、苦しむよ。それこそ、君が知らないくらいには。
 君が今まで受けた屈辱がどんなものかは知らないけれど――そこにはきっと、愛なんて無かっただろうから。
 ……ああ、また君の言葉を借りよう。愛は与える物、与え合う物か。
 ならば君は確かに愛を知らない。今まで君を通り過ぎた誰かは、君から奪うばかりだったのだろうね。
 たぶん彼らは、君の絶対者になろうって気概が足りなかった。〝君でなくてはいけない〟理由が無かった」

そして――座したままに身を寄せ、跪く少女の顔を、再び間近に見る。
怯える吐息が自らの唇を擽る距離。こちらの吐気が、少女の唇を嬲る距離で。

「君に快楽を与えよう。苦痛を与えよう。恥辱を与えよう。歓喜を与えよう。ああ、〝与える〟とも。
 私はね、君の身体と心を使って自慰をしたい訳じゃない。言っただろう? 君を愛したいんだと。
 君が何かを失ったというなら、その空隙を埋められる程の愛を……ふふっ、私は割と重い女だよ?」

ティリア > 多数。数の、暴力。……それに対して、得てして人は。
不特定多数という名の、暴風の一部で居たがるから。
顔のない、大勢に。大衆に。人々に。…大勢であるが故に、正しいとされるモノで居たがるから。
…一時的な、ね。それを、一時で済ませずに。永劫、強いようとする側の者達なら。幾らでも居る。…居た。

(だから、あの数ヶ月が有った。
不確定の独善で。不特定という名の匿名性で。恥辱や快楽を刻み込もうと、堕とし壊そうとする者達。
決して同意を求めはしないが、同時に、反証は忘れない。
彼女が犯すなら。穢すなら。それは、彼等のような者達と。一体何が違うのかと。
不特定多数と言う名の絶対性と。単一の絶対者と。どちらにせよ、それによって。
己が己であるという、積み上げてきた事物が。欠損してしまうなら。己という枠内の中身が失せるなら。
現に今、こうして。身に着けた衣服という、外側から今の己を彩る物も。
女らしからぬ、令嬢らしからぬ、己の内側から吐き出される声色も。
彼女によって失せていくばかりなのに。)

壊されて、失って。それじゃぁ、 …私が、私である事を。
伝える術なんて。見せる事なんて。出来る筈、ないのに。
…恥辱を?被虐を?…狂気を?それは後付けだよ、私じゃない、私の……私は、そんなモノじゃ、ない……

(だが、女という生き物を支配したがる、それこそ多数の者達は。
こういった牝の性を後付けしたがる。元よりそうだったのだと、それが牝という生き物なのだと刷り込みたがる。
彼女が、欠けさせた物を後埋めするというのなら。付け加えて、置き換えるというのなら。
その結果出来上がった己は………何、だ。

びくんと露骨に震わせる肩。
再度跪いた裸身の上に這う指先は。やっと治癒に向かい始めた筈の紋様を。…それこそ、正しく。
何もかもを暴き立て、自分がどういう生き物なのかと押し付けて、「扱われた」痕を。
見出し、なぞり思い知らせ、そして――――)

っ、っひ ……!?

(怖けた。たちまち膚の上に絡み、全身を縛めていくかのような、異形。
人という生き物には到底存在する筈の無い、正しく噂通りの人外をしか思わせない異物。
蠢く肉蔦じみたそれ等が、何をするのかは見当もつかないが…何をしたがっているのかは、容易に知れる。
大勢の手指に掴まれ、押さえ込まれ、暴き立てられる事を思い浮かべ。
堪らず身藻掻こうとするものの。それすら、叶うか否か。

…逃げたい。逃げてしまいたい。
だが、それを赦されない侭に。絶対者の存在を語った彼女の貌が近付いた。
剰りに近く、触れ得る程に、噛み付かれそうな程に、…瞳の暗さを曝かれる程に。)

…貴方なら、彼等と何が違うって…?
――知らないとは、言わないよ。いや、知らない物についてなんて、言える物か。
知っていたのに、失われたから。奪われて、無くなってしまったから謳うんだ。
嫌だって。怖いって。言ってるのに。

………快楽で。苦痛で。…貴方によって与えられる物で、埋め直された私は……
置き換えられてしまった、変わってしまった、私は。
…それは、私だったと言える……のかな。新しい、まるで別の、モノでしかないんじゃ、ないかって…

(それは。とてつもなく恐ろしい想像だ。
だが、実際。何も知らない、慾の穢れも、人の醜さも無縁だった貴族家の娘だった己は。
娘らしさを隠したがる、怯えや恐れを忘れたがる、今の己に変えられてしまった。
…人は、変わる。彼女に因って亦、変えられてしまうのかと。
今にも触れ合おうとする至近で、青ざめてしまう口唇が、歯の根が。震えるしか出来ずに。)

レイン・レジネス > 「――成程、成程、成程。見えてきたような気がする。
 穢された、狂わされた、自分は過去と違うものだ。だから――自分は良いものではない。
 過去の自分から置き換えられてしまったなら、自分はもう、自分ではない。
 ……そういう認識でことさらに自分を痛めつける。それが君か、ティリア」

腹に、脇腹に、腰に、肋に。或いは背を這い肩へ。脚を這い、膝へ。
触手は這い伸び、這い回り、少女の身体を悍ましくも飾り立てていく。
だが、〝まだ〟だ。まだ、交わりの為の場所へ触れはしない。
そうしようと思えば少女の身体を組み伏せ、脚を割り開き得る触手は、あたかも貌の無い無数の手のよう。
唇と唇は、今にも重ねられそうな距離に置かれながら、〝まだ〟触れ合うことは無い。

「そういう方向の嗜虐は――まぁ嫌いじゃないんだけど、そこまで好きでもないんだなぁ。
 ねえ、ティリア。その生き方は自分の顔を、延々とナイフで切り続けるようなものだよ」

そして――少しだけ身体が遠ざかる。
怯え竦む少女の目に、女の顔が映るだろう。
かつては前髪のヴェールに双眸を隠し、館の奥に潜み息を殺して居た魔物のような女だ。
それが自分の顔を指さして、こう言った。

「変わるのはそう難しいことじゃないし、珍しいことじゃあない。
 前髪を落として、人並みの服を着て、二本の脚で立って歩く。
 自分でそうしたかった訳じゃない――けれど、これも私だ。これが新しい私さ。
 まさか今から、こんな自分は嫌いだと鬱々として生きていく訳にもいかない。だろう?」

言葉の合間の息継ぎに、女の唇が向かう先は――少女の肩。
肩から鎖骨を通り、喉へ。瑞々しい唇と、固い歯の異なる感触が、柔肌を擽るように過ぎて行く。
唇の合間から這い出す舌は、熱い。言葉の熱、胸の奥の熱がそのまま、体温と化しているようだった。

「自分は昔の自分じゃない。ならば今の君がティリア=フィル=アマレンシスだ。
 変えられてしまうかも知れない。ならば変わった後の君がティリアだ。
 まずはそう、君という存在を定義する――これは私がだ」

肌を絡め取る触手は、〝まだ〟痛みも快楽も与えようとしない。
犯すならば、奪い取ろうとするならば、直ぐにでもそう出来るのだろうに。
いや――そうしたいのだろう。冷静な風に言葉を吐いてはいるが、触れ合った身体の持つ熱が雄弁に語る。

「……あまり焦らしてくれると、拗ねるよ私は」

言葉の最後に女は、頬を少し膨らませてそう言った。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 服飾店」からティリアさんが去りました。
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