2018/10/30 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 服飾店」にレイン・レジネスさんが現れました。
■レイン・レジネス > 思うところがあって、洋服店を訪れた。
流石に貴族御用達の店、洒落た衣服が所狭しと並んでいる。
身なりに気を遣うことの無かった女はと言えば、そこにある商品の名前さえろくに知らない程。
自分の目で見極めて服を選ぶなど、到底できる筈も無い素人だ。
「お任せで、お願いしよう」
ざっくりとしたオーダーであった。
しかし命じられた店員もそこはプロ。客の女の背丈や体付き、顔立ちから、幾らかの候補を頭の中で描いたらしい。
しばらく待っていてくれと言い残して、店員は店の奥へ去って行く。
「………………」
すると女は、店の一角、商談スペースの椅子に座ったままで取り残される羽目になった。
一応は貴族の端くれではあるのだが、あまり馴染の無い空間に、腰の据わりも悪そうにそわそわしている。
■レイン・レジネス > 暫しの後、店員が幾つかの服を選んで持って来た。
成程店の格に相応しい。つまり、お値段も相応、材質も相応の品々だ。
デザイン性に関しては――それに言及できる知識を、この女は持っていない。
『こちらなどはいかがでしょう、試着なされては?』
「じゃあ、うん。はい……」
店員の意向に流されるまま、女は試着室へ向かった。
さて――それから数分後の事。
出てきた女の服装は、入店時とまるっきり別ものに変わっていた。
細くも女性的――或いは女性的ではあるが肉付きの薄い――腰の線をくっきりと浮かばせる細身のパンツと、
細身のウエストを更に強調するような、タイトな作りのブラウス。
ブラウスには幾分かのフリルも施されているが、それはどちらかと言えば些細な装飾にすぎず、
遠目に見れば少年とも紛うような身体を、ささやかに飾り立てている。
だが、細身の布地は身体の動きを阻害するものではなく、手脚のラインを明瞭にしながらも、その動作を妨げはしない。
「……ふーむ」
女は鏡の前まで歩いて、しばし自分の姿を眺めた。
それから、振り返って一言。
「これって、かわいいの?」
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 服飾店」にティリアさんが現れました。
■ティリア > ――――良い、ね。 ねぇ、彼方のお客と同じような品って――未だ、残ってるかい?
(そんな、先客たる彼女の試着した装いを。傍目で見遣る別の客。
微かに届く声音からすれば、どうやら彼女当人としては、決め倦ねている風にも聞こえたが。
第三者視点では、なかなか好ましく思えた。…それこそ。見習いたい、と思える程に。
…有る意味で、似たり寄ったり。
そんな躰付きだったから参考に成り得た…という可能性も有るのだが。
この点に関しては、言わぬが花とでもしておくか。
ともあれ。僅かに離れる、数多の衣服がラックに吊られた辺りから。
別の店員へと相談する娘の声も、亦。
彼女の方へと届くか否か。)
■レイン・レジネス > 『はぁい、それはもう。……そうだ、どうせでしたらこちらを合わせてみては』
「こちら? って、それ――」
『はい、ちょっと腰の所失礼しますね。ほうら、もっと素敵になりました』
「ねえ、かわいいの? これってかわいいの?」
店員はと言うと、それは自分が勧めたものであるのだから、当然のように肯定する。
が、肯定の言葉と同時に彼女が用意したのは、これもタイトなベルトが一本と――剣の鞘。
ズボンのベルトを入れ替えながら鞘を腰に固定し、レイピアを一本そこへ収めた。
そうしてできあがる姿は、さながら男装の剣士とでも言おうか。
体つきや端正な顔立ちに合わせた良い仕事ではあるのだが……店員の趣味が先行しているのは間違い無い。
……さて、店員に声を掛けた場合だが。
選ばれた品は既製品だ。赤の他人とのペアルックを望むなら、それは全く問題無く叶うだろう。
そこから裾上げなり太さの調整なりは有るだろうが、同じような姿にはなれる。
そしてまた、声が届くか否かについては――静かな店だ。届いてはいるだろう。
■ティリア > (多分、既製品なのだから、未だ在庫は有る筈だと。
此方に応対してくれていた店員が、確認の為一旦奥へ引っ込んだ。
それが戻って来るのを待つ間。改めてとっくりと観察…は、些か失礼に当たるだろうから。
至極さり気ない脇目程度に、先客の様子を。
特に、僅かばかりの瀟洒さが演出されたブラウスと、その生地素材の光沢を。観察するに留めていたのだが。)
……うわ、ぁ。
(微かにだが、つい、声にしてしまった。
昨今の、火薬武器やら魔導機械やらが存分に広まりつつある、今現在の王国でも。
職業軍事ではない、騎士という職業へのロマンチシズムは、多くの人々の中に息づいている。
どうやら先客に応対する店員も。こういった王国民の普遍的無意識、その例に漏れないらしく。
長身且つ痩身の女性を、趣味と憧憬の赴く侭、存分に飾り立てつつあるらしい。
更にフェチズムの範囲迄突き進みつつあるのか、飾りめいた拍車に彩られた、乗馬ブーツを持ち出し始めた辺りで――つい。)
…そう、だね。失礼ながら、私見を述べさせて貰うと。
可愛いというより――格好良い、かも。
(ついつい。見かねて口を挟んでしまった。
かわいいか、否か。そんな彼女の問い掛けが、そろそろ二桁に及ぶ回数繰り返されつつあるというのに。
妄想炸裂中の店員には、まるで聞こえていないようだったから。)
■レイン・レジネス > 「格好良い――」
丁度その頃店員は、女の前に乗馬ブーツを突き出しながら、純白の手袋を用意していた頃だった。
こと此処に至れば衣服に疎い女の方も、何か違うような気が……と気付かぬでもない。
そこに持ち込まれた指摘を聞けば、女の首は鏡の方へ暫し向けられる。
「――格好良いならいいんだ、うん」
そして発した言葉がこれであった。かわいい、への執着はどこへ消えたというのか。
差し出されたブーツを受け取ると、女は適当な椅子に腰掛ける。背丈に見合う長い脚を掲げてブーツを足に通し、それを眺めて呟いた。
「乗馬ブーツとかレイピアとか、何年ぶりだろこれ……」
足のサイズは合っていた用で、踵の拍車を床でカチカチ鳴らしながら女は立ち上がり、
「で――そちらのレディは。この服が気になる? それとも私が気になる?
前者なら脱がしてくれても構わない。後者なら、私は嬉しいけどね」
同じく品物を選んでいる最中の彼女へと、ブラウスの裾を右手で軽く持ち上げながら問うた。
……尚。左手は店員によって、今正に手袋を装着されている最中である。
他人に衣服を着せられる事に、まるで抵抗のない女であった。
■ティリア > ―――― 良いんだ。
(これ亦思わず声に出た。世が世なら、もう少しテンション高く、良いのかよ!とでも。
正しくツッコミめいた声音になっていたかもしれないが。
残念ながら、それは己のキャラではない、という奴だ。
それはそれで、という形ではあれ、肯定されたと受け取ったのか。
店員嬢はますます以て大喜びで。ブーツに手袋を付け足せば。
後は首元を飾るタイを、如何なる種類の物にしようかと思案中。
些かなり、その暴走が台風の目を迎えたかと鑑みれば。
余計な刺激を恐れるかの様な、跫音を殺した密やかな足取りで。
粗方の格好が整えられたらしい彼女の傍らへ。)
…いやいや。お疲れ様…?
そうだね、凄く、似合っていると思うよ。
興味は尽きないけれど。同時に、脱がせるのを勿体なく感じる位にも、ね。
(吊された布地だけを眺めるよりは。モデルの存在する方が、何事も分かり易いというものだ。
実際、似合っている――適して、即していると思う。
オプション選択はさて置き、長身痩躯の彼女の肢体を、程良く包んで象徴する装束の見立ては。
流石プロの仕事、と言うべきだろう。
……得心気な頷きの後。ふと、首を傾げれば。)
…というか。え、あれ?
貴方って、もしかして。確かレジネ――――
(仮にも、同じ界隈と言うべきか…まがりなりにも貴族の出自、という共通点。
だから少しは見掛けるなり、聞き囓るなり。あわよくば多少すれ違う程度は有った、かもしれない。
それでも今の今迄思い出す事が出来無かったのは。
服と同じく、その髪が。相当変化していたからか。
未だ真偽半々という有様で、名を確認しようとした…其処に。
今度は己を見ていた店員が戻って来る。
同様のブラウスとパンツを、此方は常連故にきちんと寸法も合わせ済みで差し出され。
間の悪さと、参考にしていた事とをばらされた按配とに。
何とも、気まずいと言わんばかりの表情で頬を掻いた。)
■レイン・レジネス > 「お世辞が上手い――いや、違うか。躱すのが上手い。
そういう小技が使える子は強いんだよなぁ……どこかで講習会とかしてないかな」
軽く振った言葉に対し、鮮やかに返されるカウンター。
いつもならば更に口説くような言葉を畳みかけていたのだろうが、今日は些か赴きが異なる。
〝他人の手練手管を勉強しよう〟という珍しい気まぐれ心が故、学び舎の学生のような顔でその言葉を受け取った。
手袋の装着は完了。次は首の飾りだ。
が――首へ店員の手が伸びた時は、その手を軽く押さえて除ける。
「首を絞められるのは好きじゃない。絞める方は好きだけど――」
それから数度、踵の拍車を鳴らした――ところで、名を。否、家名を呼ばれた。
きぃきぃと回るギアに何かを思うところが合ったのか、押しのけた店員を今度は引き戻し、何事かを耳打ち。
店員は顔を晴れやかなものにして、小走りで店の奥へ向かって行った。
「……私を知っているんだね。ふぅん」
乗馬ブーツの歯車を、ことさらに規則的に、かち、かちと床へ打ち付ける。
そうして相手の近くへと足を勧めれば、なんともどこかで見たような――と言おうか、自分の着ているような一式。
くすくすと声を出して笑ったのは、或いは最初の内は、他者をマネキン扱いする合理性をおかしく感じたかと――
「その目――思い出した。数年前だ。アマレンシス伯のお嬢さん?」
思うかも知れない。だがそれは間違いだ。
レジネスの名を知っているのなら、それに伴う悪評とて、幾つかは聞いているだろう。
乱倫と退廃の日々を過ごす奇人。国政への野心こそ無いが、〝とある種類〟の話には早耳と。
その目。
女の言葉は、少女が垂らした前髪へ視線を向けたままで発せられた。
表情の薄い顔に、酷薄なる微笑が浮かんでいた。
■ティリア > …いやいや。本音で言っているつもりだよ。
素直なおしゃべりだったら、わざわざ自己啓発される必要なんて無い…んじゃ、ないかな。
(実際、半分は本音だったのだから。
もう半分については…まぁ、言う必要は無いと思う。
寧ろ、悪い意味でタイミングを見計らったかの如くに、丁度届けられた二着目の衣装が。
言う迄もなく主張していた、という方が。適切だったかもしれないが。
…首については。深くは、問うまい。
これも半分、解ると言えば解るのだ。息が詰まる、という事柄が。
現実非現実、物理的心理的、何れの意味に於いても。どれだけ辛い代物なのかは。
残念ながら、彼女を介した少女的浪漫主義の具象化を中断されてしまった店員嬢は、傍目に見ても落胆していたのだが。
囁き一つで、ぱっと表情を一転させた上。目の前に餌を吊されたかのような勢いでバックヤードへと。
己の担当店員が、離れていた分まるで話しについて行けないのか。
衣装片手に、目を白黒させている…その姿が、何だか哀れを誘った為に。
手早く品物を受け取り、ツケ…というより、本宅への後日請求を告げ。
速やかに仕事へと戻って貰おうか。)
…こほん。そう、そうだね。レジネス嬢。
お目に掛かったのは…大分前になってしまうけれど。
此処暫くはお屋敷の方に、と聞いていたけれど………
(あらゆる意味で、噂と憶測の尽きない人物である、それは良く知っていた。
或る者は籠の鳥、深窓の令嬢と。亦有る物は人外化性、魔女めく何かと。
何れの噂が正しいのか。それとも、全てが一部なりの真実に連なるのか。
…今、こうして面と向き合っていれば。
多少恍けた様子こそ見せているものの、あくまで、普通の為人ではないのかと――)
っ。
其方にも、聞き覚えていただけていたのなら。
…光栄では、ある、けれど。
(否。ただの、ではなかったと再認識。
世間知らず、引き籠もり、などという噂も亦存在したものの。
きっと、知らないというのは間違いだ。
的確に世情を、情勢を、譲歩を取捨選択しても。知らないフリを決め込める…それも。
彼女の言葉を借りるなら、立派な小技ではないか。
…そして。彼女に関する直近の噂は。
きっと今の己にも関わってくる。互い貴族の出、だが、今携わろうとしているのは――
きゅ、と。眉に力が篭もった。指摘された瞳。否、義眼。それを包む睫を震わせて。
じりと。無意識に半歩、下がりそうになる。)
■レイン・レジネス > 「大分前――の、その大分って言うのが、どれだけになるかな。
王城に出向くなんて数ヶ月に一度だ。一回前だったか、二回前だったか……。
……ああいや、もっと前かも知れない。そうでなきゃ、会った時に直ぐに名前を思い出してるさ」
相手が踏み止まったのを良しとして、間を詰める。
近づける限りに近くまで。それこそ、妨げられないのであれば、互いのつま先が触れる距離まで。
以前は前髪の向こうに隠されていた碧眼は、今は覆おう何者も無いまま曝け出されている。
人の目でありながら、人の温度の無い目。腹の内に秘めるものを見透かそうとする目。
ある種それは、人の優しさを抱えたままでは成り立たない貴族として、模範的なものであった。
「覚えているさ。少しの間、行方が知れなくなっていたって話も」
手を伸ばす。その行き先は前髪――かつての自分のように、目を覆い隠す壁。
尤もこの少女の場合、覆うのは片方。そして、覆う理由は怠惰ではなく――
「婚約の話が急に立ち消えになった事も、しっかりと」
叶うならば、白手袋の指先は、少女の前髪を持ち上げることだろう。
その下に収まっている義眼をこそ愛でようという風に。
「お召し物の好みが変わったのは、それから? だとしたら残念だ。
君は私と違って、女性的な衣服でも愛らしく映えるだろうに――」
ぱた、ぱた――と足音が聞こえた。女は、レイン・レジネスは音の方へ振り向きもせず、ただそちらへ右手を伸ばした。
無邪気に瞳を輝かせた店員が、女の手へ渡したのは、乗馬鞭。
馬を叩き命令に従わせる為のそれは、真新しいもののようでしなりが固い。
右手がそれを、ひゅうっと振るった。
間近のテーブルに叩き付けられた鞭が、鋭い炸裂音を打ち鳴らす。
「教えてくれるかい?」
何を――とは言わない。また、言葉の形はあくまでも、質問という形式ではあるが。
■ティリア > その上、袖擦り合う程度の話じゃぁどうしても、ね。
…此方も、少し遅れた。
何より随分。以前とは違っていたから尚更に――――心境の変化でも、何か?
(人目を忍んでいた、という訳ではないが。
寧ろ人目に頓着していなかった印象が有る。
それこそ、こうしてこのような場で。改めて外見的なイメチェンを図ろうとするタイプには見えなかった。
あらゆる意味で我が道を言っていたのだろう彼女の変化は、気になると言えば気になるが…
今は。興味よりも危惧を。あわよくば軍務に関わってくれるかもしれない話題よりも、現状への対処を。
考えなくてはならないのかもしれない。
更に、距離は詰まった。手を伸ばせば届くよりも、更に半分程度迄。
それこそ一回前、二回前、辺り迄なら。決して重なる事の無かった視線が交わり合い。)
…あぁ。嗚呼。僕の方も、お噂はかねがね――だけれど。
貴方に知られているというのは、光栄ではあるのだけれど。
正直、その辺りに関しては。……噂以上の事など無いし、それに…
(今でも。貴族家同士の縁戚が結ばれなかった事を。
その結果、誰が損を、誰が得をしたのかを。
彼女が言うように――伯爵家の娘が、半ば出奔じみて、貴族達と対立しがちな軍派に与した経緯も。
まことしやかに囁き合う者達は多い。
だが、彼女のこの問い掛けは。興味本位の井戸端会議や、慾に塗れた勘ぐり等ではなさそうだ。
何せ手渡された…振り下ろされ、机を打ち据えた鞭音が。剰りにも似合いすぎている。)
…けど。だけど。
面白味のある話には、ならないよ。
それこそ、こんな華の有る場所で。可愛らしいお嬢様方を前に。
とてもじゃないけど、言葉に出来る物なんかじゃぁ、ない。
(髪を梳き上げる指先から。失せた片目を覗き込む視線から。
逃れるように首を振っての…弱い、細い声。
言葉の裏を返してしまえば、それは…彼女の情報と推測を、肯定しているようなものだ。
当時何が有ったかを語れというのなら。
それこそ貴族に憧れる店員嬢が卒倒するような。華やかな服飾店を穢すような。
権力を有する人間達のどす黒さに塗れた事柄でしか在り得ない、と。)
…それとも。過程よりも、結果の話?それこそ貴方が、さっき言ったように。
……脱がせても、面白味は保証出来ないけどね。
■レイン・レジネス > 「心境の変化と言えば――まぁ、そうか。流石にね、うん、流石に。
いろんな方向から何度も言われたら、流石にね。切るくらいはね。
……それに気付いたけど。前髪が無いと、こういう時にはとても良い――」
店員達の足音が――遠ざかる。富裕地区とは言え、この退廃の王都に生きる者達だ。
貴族達が繰り広げる情痴沙汰の気配を察すれば、巻き込まれぬように逃げる知恵を備えている。
己に害が無ければ、そして店に害が無ければ良い。その諦観はそのまま、暗黙の許可とも取り得る。
「――君みたいな子を、間近で眺めようという時には。
ねえ。君はきっと、愛される側の人間だ。
そんな風に、お嬢様方がどうのと、気障に紳士の真似事をするより――似合う姿があるだろう?」
首を振って逃れて行く獲物。ならばと、その次に伸びる手は――少女の喉元へ。
短く、尖らせぬようにと、此処だけは怠惰の性に似合わず手入れされた丸い爪が、肌に薄く突き立てられる。
血も滲まぬ程。だが皮膚の下の脈拍は読み取れる程。人の身体を熟知した女は、言葉ばかりか鼓動までを読もうとしているのだ。
「面白いかどうかは、私が判断する。君はただ曝け出し、委ねればそれでいい。
気になる話じゃないか。アマレンシス伯のご息女の身に何が起こり、今に至るのか。
言葉にできないと言うなら、その身で示してくれてもいい。或いは――」
鞭をもう一度、テーブルへ。馬を打つより、人を打つに慣れた手だ。その音の大なるは、打擲が呼ぶ痛みを想起させる。
女はこの音で問うている。その身体を鞭打たれたことはあるのか。この痛みを快楽と覚えたことはあるのか。
そして――
「――私の手で再現しても良い。君が語る通りに、語る以上に」
喉元へ触れた指先が、少女の身体から離れて。
跪けと命ずるかのように、床を、指さした。