2018/05/02 のログ
リーセロット > 彼は“仕事”をするのだろう。
そう思って目を閉じたのだけれど、返ってきたのはそこらを漁る音ではなく、意外な言葉。
再び目を開けた少女の顔は、歳相応と言うべきか、きょとんとしていた。
笑みさえ浮かべている男の目許が意外だったから。

一緒に微笑めたら楽なのだけれど、少女は正反対に緊張を取り戻したような表情になる。
母を思い出したから。母が望むものを手に入れる必要があることを思い出したから。

「………私は…、…私の欲しいものは、――――…
 『王国軍各師団、並びにタナール砦における防衛戦術の詳細』です」

借りてきたような台詞で。
一瞬硬くなった雰囲気は、言い切ってしまえばまた ふっとほどけるように柔らかくなり。

「その…物騒ですよね…。だから、私のことは気にしないでください。
 今日は失敗でした。体力も使い過ぎてしまいましたし…、……」

淫気を漂わせるのも過剰にしすぎた気がする。
現在も行われているであろう宴を思えば、隠密行動と言えるようなものではなく。
冷静になればなるほど引いていく汗が、熱をも奪っていく。

「もし…何かしていただけるのであれば…、このマント…このままお借りしても…?」

これが普通の出会いならば次に会った時に返します、などと言えるのだろうが。
お互いが名乗れず、永遠の秘密とすべき出会いならばそうもいくまい。
熱が引いて白さの目立つ貌でおずおずと、上目がちに、いわばお願い。

ルシアン > 「それ、は……」

少女の口から出てきた言葉は、その見た目や雰囲気とは似付かわしくないもので。
砦の防衛について、とは穏やかではない。個人的に知らない土地ではない分、なおさらだ。
口元に手を当て、少し考え込む仕草。

「……確かにね。あまり興味本位で首を突っ込んでいい話じゃなさそうだ」

恐らく何かしらの事情があるのだろう。その程度は少女の表情や仕草から察せられて。
一度頷くと、一度少女の元から離れる。そして暫し、また書き物机や書類棚をひっくり返して。

―――暫くの後。目当てのものが見つかったか、巻いた紙を一枚懐へと。
認められているのは案の定、孤児院の子供の売買の記録。
腸が煮えそうになるのを抑えつつも、その他の書類は元の通りに。
少女の元へと戻ってくる。

「ん…それは構わない。………もし縁があれば、その時に返してもらえればいいから。……っ」

お互いに、名乗るわけにはいかないだろう。どちらもやろうとしたことは犯罪なのだし。
だけど…青年には、この少女の事を忘れる事は難しいわけで。こんな場所でなければ、と思う事もあったり。
……じっと見つめてしまっているうちに、この魅力的な少女を押し倒してしまおうか、なんて邪な考えすら浮かんでくるのは、少女の漂わせた淫気の残り香にでも当てられたか。
慌ててふるふると首を振り。

「…こちらの目的は達成した。もう此処に用は無いから、これで失礼する。
 ……お、っと…あれ、何か落ちたけど…まあいい、か?」

音も無く立ち上がり、窓の方へと。ふらりと体がよろけたような仕草。
整理されていた書類のいくつかが、床へと落ちる…少女の前に落ちてきたそれは、恐らく少女の求めていた物。
先ほどまでの家探しで、先に見つけていたらしい。…ワザとらしい身のこなしだったりする。

「それじゃあ…君の目的が首尾よく行くことを。縁があれば、こんな形じゃなくて…どこかで会えれば嬉しいけど、ね」

窓へと寄れば、ひらり、と少女へと手を振って。

リーセロット > 彼の欲する物が何なのか、少女には分かりかねるけれど室内を探す様子を眺めていれば目的を達せたことは理解する。
―――良かった。ここの当主がろくでもない男なのは知っている。
相手のこともろくに知らないものの、十中八九あの男より善人であろうと思ったから。

「私、あなたの素顔もよく確認してないのに…ですか?」

それなのに後日返してほしいとは難しいお題だと、少女は場違いに笑う。
うっかり者の少女は宴の会場でドレスをなくしたままだから、本当に助かった。
口元にマントを近付けるとふんわりと、自分ではない香りがする。
きっとこれは相手の匂いなのだろう。

「あ…、お気を付けて…」

彼の匂いに包まれたまま見送る、その際に。
相手がふらついたため、単純な少女は騙されて僅かばかり肝を冷やした。
そんな時、ふと足下に触れる彼が落とした紙に気を取られ。

「………これ…は…。 あ……――――」

内容を理解するのにも時間がかかり、ありがとうとか、さようならとか、
言葉にしたいのにいちいち反応が遅いせいできちんと伝えられず。
去ろうとする彼に見せたのは驚きと、まばたきと。
最後、はにかむような微笑みも見せたのだけれど彼に見えたかどうか。

不思議で不穏な出会いはこうして、一旦の区切りとなり―――

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 貴族邸宅」からルシアンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 貴族邸宅」からリーセロットさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にシエルさんが現れました。
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