2017/12/31 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 「……いや、賑わうねヲイ」

富裕地区の大通りを、一人の男が歩いていた。目の前には、人、人、人。人の群れ、人の波だ。
まぁ、今日という日では仕方ないかな、とも男も思う。

「……あぁ、色々あったなぁ」

星が十二巡り。一つの区切りを迎える日。男は一度立ち止まり、大通りの端の方で細巻を吸う。
生活に必要な買い物は終わった。仕事だって、しばらくは受けないつもりだ。
さぁ、これからどうしようか。そんなことを考えながら、楽しそうに大通りを行き交う人々を、どこか冷めた目で見てしまう。

「……幸せそうだねぇ」

親子連れ。恋人同士。そんな人間がいっぱいいる。
自分の過去の傷が痛むが。男は空を見ながら何もいわず細巻を味わう。
妻はいる。娘もいる。家族は自分にだっているのに。
愛無き幼少期を過ごしたトラウマは、いまだ払拭できていないのだろうか。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > この王都において、妖仙の活動範囲ではない場所は存在していない。
年末も年末。
今年の締め括りの土壇場となるこの一週間程は、それこそ残像でも生じているのではないかというぐらいにあちらこちらで見受けられたことだろう。
商家の常としての挨拶回りは欠かせぬものであったし、年越しの宴に要する彼是の注文が舞い込むものだから。
それも漸く、聊かの滑り込み感を伴いながらも一段落して、今年最後の納品先に品物を届け終わっての帰路。
平民地区にある自身の商館へ戻り、身支度をして王城の宴にでも顔を出そうかという心持で、然し確たる予定という程のものでもない。
故に、馬車ではなく徒歩にて、年越しの風情でも味わいながら帰ろうかと、なだらかな肩で夜風を切る。
不意に、ヒクリと鼻を蠢かせる。

「………何じゃ、シケた面を晒しおってからに。
 ようやく厄介な代物ともオサラバできたというのに、辛気臭くて黴の生えそうな顔とは。
 やはり、アレは趣味だったのではなかろうか。」

知覚は、まず嗅覚から。
厳密に言うなら、嗅覚に似通う気配の風情だが。
見知った因子を手繰って、見知らぬ男に行き当たる。
思考に数秒。
トテトテと小さな歩幅で、道の端に。

「少し見ぬ間に、野暮ったいツラになったものじゃな。」

平素袖を通している北方帝国辺境由来の民族衣装の上に、厚手の羽織と動物の毛皮と思しき襟巻きを重ねた防寒仕様。
縦に短い身体が着膨れしているものだから、全体のシルエットとしてはモコモコである。

セイン=ディバン > 別段。何かを求めているとかそういう訳でもない。
だが、今のこの場所は少し居心地が悪い気がする。
細巻をくゆらせつつ、街の風景を見ていても気分は晴れず。頭を掻く男。
そんな中、近寄る気配に気づけぬまま。さて、とりあえず家に帰るか、と動き出そうとすれば。

「……あ゛ん?」

その声が癇に障った。その姿が苛立ちを誘発する。
男は、その相手に向かい遥か上方から見下しの視線を向ける。

「よぉよぉホウセン様じゃねぇっすか。
 よくもまぁオレの前に姿を出せたな。
 この場でボコってやろうか?」

凄みを利かせた声でもって恫喝するが。相手には効き目などないだろう。
男はため息を吐くと、肩をすくめ。

「言っておくが、身体が戻った以上テメェに抱かれることはもうねぇぞ」

過去の記憶に苛立ちながらもそう言うが。相手はどう反応するだろうか。

ホウセン > 正直なところ、何かの算段があって声を掛けた訳ではない。
単に、身の内に鬱屈したものを抱えているらしい様相に、なれば突いてからかってやろうかという、誠に性質の悪い野次馬根性類似物のなせる業だ。
賑わいを見せているということは、翻って諍い事も間々生じるということの裏返し。
故に突如として上がった怒声未満の剣呑な声にも、通行人は一度は視線を向けるものの、彼らの表情は”またか”と雄弁に物語る。

「呵々!天下の往来ぞ。
 一々お主に断りを入れねばならぬ道理もあるまいて。
 それに、今の風体で媚を売られたところで、苦虫を一ダースほど纏めて噛み締めた様な面しかできそうにない故、其処は知った話ではないわ。」

男の洞察の通りというべきか、このお子様サイズの妖仙に恫喝の類はとんと効果がない。
寧ろ、体型的には徹底的に見下されている筈なのに、斜め下方から見上げる視線には、そこはかとない揶揄の色がチラついてさえいる。
つっけんどんに突き放されようが、立ち去ろうとしない辺り、厚顔どころか馬耳東風。
袂から煙管入れを取り出して、喫煙の準備まで始めるマイペース具合である。

「なぁに、難しい話ではあるまいよ。
 儂の性状はよぅ知っておるじゃろう?
 煙が燻っておるのを見れば、風と油を供給しとうなる…是もその一つじゃよ。
 宴だ何だとにぎやかな折、反比例した渋面を作っておれば、”此処に弱点があります”と大声で告げられておるが如しじゃ。」

黒漆と銀細工で装飾された煙管を咥えながら、唇の端から紫煙を吐き出す。
巷に出回るのとは、少しばかり風味の異なる異国の煙草。
好調であれば足元に落とし穴を掘って陥れるし、不調であれば頭上に重石を載せて更なる泥沼に突き落とす。
ロクデナシの総天然色見本のような代物。

セイン=ディバン > ある種すっかり忘れていた頭痛の種。その一つ。というか、とっておきの厄ネタ、というやつである。
目の前に現れた小さき小さき大妖怪に、男は明らかな不快感と嫌悪感を出すものの。
やはりというべきか。まったく気にも留められていないようであり。

「ハッ、そーかいそーかい。
 あれだけのことをしておきながら、よくもまぁそこまで自由に生きてられるわ。
 いずれ、キッチリカタぁつけてやっからな」

体格ならば男のほうが上手であろうが。はてさて実力は如何に。
男としても、無残な負けを喫するつもりもないが。さりとて勝てる算段は無し。
なので、凄んだまま、男自身相手から離れようとはしない。

「……チッ、いい趣味してるぜ、テメェ。
 あ~ぁ、迂闊にも声をかけて知り合いになんてなるんじゃなかったぜ……。
 っつーか、オレがどんな様子であろうとお前には関係ないだろうがよ」

そもそも、男の肉体の呪いは完全に解けているのである。
さしもの大妖も、男にまでは手を出すまい、と思っているので。
掌を振り、あっちへ行け、と仕草で伝えるが。
あるいは……何か儲け話でも持ってきたか? と。少しばかり期待してみたり。

ホウセン > 不快感と嫌悪感が滲めば滲むだけ、反比例してにこやかになるのがこの人外の仕様。
まるで、それらが自身の養分でもあるかのように、嬉々とした表情を浮かべるのだけれども、生存やら体力維持には一切関係がない。
言い換えれば、単なる趣味や嗜好の部類である。
妖仙が去らぬのなら自身が立ち去るという選択肢を選ばなかったのは、男に戻ったせいで、体面やら自尊心やらが強く表面に出ているらしいとの感想。
それもこれも丸々、只端整であれと造形された人形のような顔立ちに隠したままだったけれど、ある台詞が怪訝そうな瞬きを誘発させることには成功したらしい。

「これは異なことを言う。
 確かにお主が如何様な状況であろうとも、儂が態々心を砕いてやるような面倒極まりない性質は有しておらぬ。
 が、弱り目やら困り事に右往左往しておる者がおれば、引っ掻き回して愉しむのが儂の流儀じゃからのぅ。」

男が、ではなく、弱り目の者が目に留まったからだという、甚だ傍迷惑な行動原理をあっけらかんと。
一方で、この妖仙が口にすることの全てが真実とも限らない辺り、また面倒くさい厄介者である。
言うなれば、出会ってはいけない辻斬り属性な妖怪の類に近しい。

「ま、聊か訝しんでおったというのはあるがのぅ。
 ”印”の反応が無いくせに、気配だけは同一じゃったのだから。
 単純に”解けた”だけではないのじゃろうが。」

その辺りの理屈は、妖仙にとっても不思議ではあったらしい。
仕込んだモノが健在ならば、気配などというまどろっこしい知覚ではなく、”眼”によって遠方からでも察知できただろうにと。
追い払う仕草には、無礼者めと直球で咎めるでなく、唇を窄めて紫煙の塊を顔面目掛けて噴出してやる程度。
無礼には無礼をということらしい。

「…何じゃ、そのお零れを狙う駄犬の如き目は。
 確かに、儂の手元にはお主にとって魅力的であろう彼是があるのは間違いなかろうが…
 どれも是も、お主の実力が一角のものでなければ、斡旋してやれぬぞ。」

即物的で現金な性格という根底は変わらぬだろうと踏み、餌をチラつかせながらのちょっとしたカマかけ。

セイン=ディバン > 男の周りに精製される、ギスギスとした空気。といっても、気にするのは男のみで。
相手は精々そんな苛立っている男の様子を見て楽しんでいるのだろうが。
仮にも、出会った当初は体を蝕む発情の呪いを抑えるのに一役買ってくれた相手な訳で。
天敵だとは思っているが、かといって邪険の邪険には扱えない非常になんとも困った相手である。

「お前マジで死ねやチキショウがっ!
 あんだけのことしでかして、その飄々としてんのが問題だっつー!
 普通、あんなレベルの調教陵辱したら申し訳なく思うもんだろうがっ!」

どこまでもマイペースな相手に、男が声を荒げる。
だが残念。それはあくまで人間の理論、人間の理屈。
そもそも人間ではない相手にはそんなことは理解できぬか、あるいは理解した上で踏み倒して進むのであろう。

「あん!? ……あ~、あぁそういうことか……。
 ま、俺自身どういう仕組みだか判ってねぇってのが本音だからな。
 せっかくの調教もムダだったわけだ。ご愁傷さん」

鋭い指摘に、男は舌打ちする。そう。男の呪いは、解けた、というよりは。
もっと別の表現……消えた、あるいは無くなった、という表現が正しいのである。
似ているようで、しかして明確に違う単語二つ。
解けたというなら、呪いに付随していたものは残るが道理。
しかして、男の体からはそういったものすら消滅している。

「うるっせー。お前から貰う仕事なんざ、相場の数倍でもお断りだ。
 だいたい、俺の実力を過小評価しすぎだっつー。
 ……そうじゃなくて。何で男相手の俺にここまで粘着してんだ、ってことだ。
 苦虫噛んだ俺の顔を満喫するならもう十分だろうが」

相手のカマかけには、そう簡単には乗らねぇぞ、と逆牽制。
しかして相手と会話を成立させてしまっている程度には、情、ではないが。
複雑な感情は保有している模様。

ホウセン > 荒れる声にまた、通行人が何事かと足を止めるが、吠え掛かられている子供の側に緊張感が見られなかったことと、男の側がそれ以上の直接的な行動に出る気配が見えなかったことによって、再び歩み始める。
暖簾に腕押し、糠に釘。
誠に嚇怒のぶつけ甲斐のない、然し仕事は律儀にキッチリこなす厄病神っぷりである。
こうした方が取り繕わない感情を鑑賞できるからと、情動の機微を把握しながら行っている辺り、性悪。
腹芸で余人を欺くには、技巧か性質かのどちらかが適正を欠いているという評価が正鵠を射ているかは分からぬけれど、”分からぬ”という感想に韜晦の色は感じられない。
故に、少しばかり得心がいったと、自己を納得させる為の頷きを一度。

「ならば、暇が出来た折に、気が向いたら広域で探査をかければ分かることじゃろうよ。
 お主に似た波長が複数あれば、それが紐解く取っ掛かりぐらいにはなろう。」

男の身体に纏わる問答は、これ以上この場では進展しないだろうと踏み、思考の焦点から外す。
その間に、投げ返された反駁やら問いやらに耳を向け、カクンと首を右に傾げた。
サラリと黒い直毛が流れる。

「いやいやいや。過小評価も何も、股座を開いてアンアンアンアン啼いておる所しか見ておらぬ故、評価のしようが無かろう?
 それと、儂の名誉の為に訂正するとじゃな、別に常に女子の尻を追い掛けておる訳ではないのじゃ。
 有象無象が艱難辛苦に挑み、七転び八起きなり七転八倒する様も、等しく愛でておる。」

回りくどい言い方ではあるが、”面白ければ何でもOK”ということらしい。
とはいえ、このままでは平行線となってしまうであろうことは、さして思考を巡らせずとも分かる事柄。
特段この男に限って持ち込むべき話ではないけれども、折角なら機会の一つや二つは年末の挨拶の手土産代わりにくれてやっても良かろうと。

「ま、斡旋というよりは、情報提供に近しい性質のものが一つと、賭け事に近しいものが一つ。
 前者は、お主が上手く立ち回れれば…地母神に連なる宝物が手に入るやも知れぬ。
 後者は…少しばかり、往来で口にするのは憚られそうじゃな。」

その気になれば、陰行の術でも何でも使って外部を遮断できるのに、勿体ぶって口を閉ざすのだ。
さて、どうするとばかりに黒い眼を細める。