2017/11/16 のログ
リューテ > 指先から、瞳から。零れ落ちる金粉には自分の魔力が僅かなりとも含まれる。
自分の種を女性の胎内に植え付けることで、この金粉のように――生み出されては自然消滅していく魔力や生命力。そういった力を種を通じて吸い上げるのが自らの――以前、魔王として君臨していた力の大元。

もっとも、自らがのほぼすべてが消滅させられる一撃を受けた際にかつて蒔いていた種も同様に消滅している。
今、己の身体に微弱ながら流れ込む魔力は――
自らの、この少年の周囲にいる女性等にひっそりと植えた種。
そして、辛うじて消失を免れた一握りよりもおぼつかない数の種から供給されている魔力だけなのだ。

「発火――衝撃。」

指先に、一瞬だけゆらりとゆれる小口の蝋燭のような揺らめきの炎。
風も吹かぬこの裏路地で生み出された火は――瞬時に消える。
維持できるだけの魔力が残されていないのだ。
衝撃――火の消えた指先に魔力を集める。それを打ち出すものだが――
指先から生み出された魔力弾自体が実に頼りない。射出された魔力弾は、ほんの数センチ進むだけで弾ける。金色の燐粉が周囲に振りまかれ、そして魔力弾がはじけただけの、衝撃というには程遠いそよ風だけが生み出される――。

今のこれがかつては魔王と恐れられた己の無理のない範囲の全力なのだから笑いしか浮かんでこない。

リューテ > かつての配下は既におらず。本当の意味で1からの出直し。
力さえあれば賞賛される世界に居て久しい、己の無力感。
やるべき事は多いのだ。種を蒔き、根から魔力を吸い上げ、吸い上げた魔力を新たな魔王の身体を作成する為に魔法石に貯蔵させていく。

だが、復活を成し遂げた後何をするのか。
そして復活を遂げた際に。今自らが探し回る勇者達はまだ生存しているのか。
――その事を考えれば、果たして自らは何をするべきなのだろう。
月を見上げる金色の瞳からは困惑を示すように――幾分か多くの粒子が夜空へと流れ消えていく。

種を仕込む機会も多くはない。力ある存在に種を植えようとて、かつてのような力任せで向えば容易くねじ伏せられる―――どころか首がねじ切られてしまいかねない。
今の己はあくまで少年の身体を使いこなすので精一杯でしかないのだから。

……人に声をかけ。寝床へ連れ込み――或いは薬を盛るか。それとも、僅かな魔力でも辛うじて発動している魅了の魔法で騙すのか。

力があれば何でも出来るというのは、裏返すまでも鳴く今の己に取れる手段は少なすぎるという事。
不便だが――少しばかりの愉悦もまた、感じられる。
精神が不安定なのか、ありようが不安定なのか。兎も角、夜は更けていく――帰り道。うっかり野良犬の尻尾を踏んでしまい、犬に追い回されたというのは――誰も知らない話である。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からリューテさんが去りました。