2017/11/15 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリューテさんが現れました。
■リューテ > 夜も更けた富裕地区。遠い遠い歓楽街より聞こえて来るのは金はあれど品のない存在の笑い声ばかり。
忌々しく思うのは表情からも明らかだ。おっとりとしている温厚な表情は今や影を潜め、忌々しげに引締められた頬。
口元からは絶えず舌打ちの音ばかりが漏れ響いている。
ここは富裕地区でも数少ない裏路地。
少なくともこの時間、こんな少年が歩いていていい場所とはいえない。
手に触れる区画を仕切る石壁も、平民地区や貧民地区とは比べ物にならぬほど上質な石の手触り。
滑らかに磨かれ、ざらついた表面は全て画一的に磨きぬかれた――手触りだけならまるで鏡の様。
その手触りが表通りではなく裏路地に使われている時点で、3種の格差が余りに露骨なのは見て取れよう。
「―――フン。人とは愚かな者だ。このような壁一枚で自分達の富という力を過信し、本当の意味での壁の存在を見失っている。」
拳を握り締め――少年らしく白い肌ながら、肌の表面に羽ばたく胡蝶のような金粉が舞う。
天を見上げれば――雲ひとつなく。そして輝かしき月光は何ら妨げることもなく己を照らし出す。
少年の意識は眠りについている――そしてこの月光の力にて『己』が完全に人格を掌握できる数少ない時間だ。
握り締めた拳で――ドン。
と殴るわけにもいかない。壁を壊せば騒ぎになる。それ以前に――宿主の少年の身体が持たない。骨が折れるかもしれない。
明日筋肉痛になってしまうかもしれない。……そうなれば不思議に思い、自分の存在が世間に知れ渡ってしまうかも知れない。
折角の魔力が高まる夜だというのに、その魔力を自由には奮えない現状も合わさり――拳を握っては開き、握っては開き――手持ち無沙汰だといわんばかりに時は過ぎていく。
■リューテ > 自分の肩に巻いている黒いぼろ布は、其処いらで拾ったもの。
なるほど、富裕地区だけあり捨てられているものでさえも中々の質だ。
このぼろ布も――しっかりと繊維には防寒の魔術が編み込まれている。
身体に巻いておくだけで冒険者は夜の寒さを苦にせず、夜営も出来るだろう。
布の引き裂かれ方から見るに、獣とでもやりあったか。
血の臭いはしない。そして引き裂かれている繊維からは慣れ親しんだ、魔力のような異質な力は感じられない。
鉄の臭いもしない以上――まぁ、それなりの獣とやりあった結果なのだろう。
元の体躯は知らぬが、少年の肩から腰に至るまでは長さがまだ残されている。悪くないぼろ布だが――やはり、みすぼらしい。
魔王が着用するモノとしては見た目も、効能もしょぼくれた物とはいえる。
「……これで魔力発動体でもあれば良いが。この身体を傷つけずに魔法を、魔力を使う等……くっ、ええい。何故俺がこの様な不自由を満喫せねばならん。」
理不尽な怒りはあれど。それは人間に向けての怒りや憎悪ではない。
自分の魂を飛ばす先をもう少し選ぶだけの時間を稼げなかった己の力量の無さ然り。
たまたま目に入った、魂が定着――憑依――否、融合の手前までたどり着ける生命体がこの少年だった不運――まぁ言うなれば運命を司る神の様な物。
そういった存在には、今でも憎悪は抱く。
「しかし、こちら側に来れば勇者の話でも聞けるのかと思ったが――クソ、こんな事ならあいつらに名乗りを揚げさせるべきだったか?」
今宵此方に脚を踏み入れたのは、勇者達の情報を得る為でもある。
――もしかすれば、貴族等になっているのかもしれない。或いは、我が城より持ち帰ったであろう財宝……はそんなに無いが、それを元手に豪商になっているのかもしれない。
その情報を捜し求めに来た筈なのだが――誰も勇者達を知らないのだ。
どこに居るのか。何をしているのか。死んだならそれなりに噂や酒の席の話にもなるだろうに、そういった話さえ聞こえてこない。