2017/11/06 のログ
■クトゥワール > 「控え目に言って覗き見していた立場としては、そう言って頂けると有り難い。」
「私はクトゥワールという。どうかね、出会いの印に一杯――と言いたい所だが、このような場所では酒も進まぬな。」
娘の言葉は寛大だ。低い声で喉を揺らし、感謝を述べる。
その言葉からするに、彼女にとっても覚えのある事柄なのだろう。であれば無聊を慰めるには酒と行きたい所だが、いかんせん辺りは壁と家ばかりの路地裏だ。
このような場所で酒に縁のある者と言えば嘔吐寸前の酔っぱらいぐらいのものだろう。
「まだこの地に来て日が浅いゆえ。このように出歩くのも尚の事面白いのだが――何かと状況も複雑な国のようだ。あまり、どこまで出歩いて良いものかも判らぬ。」
「今の出来事も、よくある事なのかね。それとも個人的ないざこざかな?」
国を挙げての争いがあるらしい事は流石に聞きづてに理解しているが、どうもこの王都という場所も一筋縄ではいかないところのようだ。
己が新参者である事を明かし、娘の反応を伺う。
いつしか、男の手には酒が一瓶握られている。娘がその気ならいつでも封を空けることはできるだろうが。
■タマモ > 「ふむ…控え目でない言い方だと、どうなるのか聞いてみたいが…まぁ、良いじゃろう。
妾はタマモじゃ、えーっと…くと…くとわーる?………あー…くーちゃんで良いか?
む…それは良いが、確かにここではのぅ…仕方あるまいて」
返す言葉に、自分でうんうんと頷いて。
相手が名乗ってきたのだし、自分もと名乗り返すのだが…相手の名前を復唱しようとしたが、どうやら呼び難い名前の部類だったらしい。
首を傾けたまま、こう、問うてみる。
そして、続く言葉に、ぐるりと辺りを見渡す。
そうするまでもない、ここは路地裏、そんな都合の良いものはない。
「そうかそうか、まだよく知らぬ土地と言うものは、確かに面白いものじゃろう。
それに、行く先をどこまでとするか考える難しさもな?
………のーこめんとじゃ。ほれ、女子は秘密が多い方が良いものじゃろう?」
正直、己自身もまだまだ詳しくない場所は多い。
ただ、そういった場所がどんな場所か、危険はあるのか、それらも含めて歩き回るのは楽しい。
それを相手が理解するかは分からないが…そう伝えてみよう。
と、己が逃げ回っていた理由を問われれば、明らかに視線が泳いだ。
それに合わせ、複数ある尻尾がわさわさと不規則に蠢いて。
誰が見ても何か誤魔化そうとする素振り、それを指摘するかは相手次第だが。
ふと、視線が相手の持つ酒瓶へと向けられた。
少しの間そこで視線が止まっており…ちらりと、見上げる。
うん、どう見ても、飲むんだろう?と言っているような仕草だ。
■クトゥワール > 「ちゃんは必要かね?呼び難いならそのまま――……嗚呼、」
「いや、気にしないでくれたまえ。くーちゃんか、それで結構だ。」
呼び方に困ったのだろう娘が捻り出してきた愛称らしき呼び名に、穏やかな声でツッコミを一つ。
なにもちゃん付けでなくとも良いのではないか……言おうとして、先の結果が脳裏を過ぎる。
この名付け方からするに、ちゃん付けでないなら恐らく呼び名はくーとなるのだろう。 まるでペットの犬か何かのようだ。
穏やかなツッコミを穏やかに無かった事にし、娘の様子に揶揄めいた笑いを向けるのはこの流れを掘り下げられたくなかったが為。
「く、はは……一理あるが、そんな唆る反応をされるともう少しつついてみたくなってしまうな。」
言いざま、娘の横を通り抜けざまにその尻尾に手を伸ばし、不意をつければ一撫でしてみせようか。
「場所を探しがてら、飲み歩くとしよう。ワインとシードルならどちらがお好きかな。」
まずはこの路地裏から抜け出る事だ。そうすれば辺りは曲がりなりにも富裕地区。いくらかなり景観はマシになるだろう。
歩き出す。いつしか手中の酒瓶は左右に一本ずつ。どこか手品めいて、娘に問う度に酒瓶が増えていく。
■タマモ > 「うむ、非常に重要じゃぞ?何せ、ちゃん付け一つで名前は可愛らしくなるじゃろう?
分かれば良い、では、お主は今日からくーちゃんと呼ぶのじゃ」
勝手な持論を持ち出し、ふふんっ、と自慢気に胸を張る。
そして、相手がそれで納得したならば、びしっと指差し宣言した。
多分、ちゃん付けを拒んだならば、思っていた通りの結果となっただろう予想は付く。
「うぐっ…あれじゃ、よく言うじゃろう?
しつこい男子は嫌われる、とな?ここはこう…そっとしておくのが、最善策と思うぞ?
後、こうした相手の尻尾を無闇に触れると…その指、食い千切られるやもしれぬぞ?ん?」
ぴっ、と人差し指を立てながら、少女はそんな事をのたまった。
どう聞いても、追求逃れの言葉である。
揺れる尻尾に触れようのすれば、視線をそちらに向ける事なく、言葉が紡がれる。
まぁ、肝心の尻尾は無意識にそれを避ける、触れても問題はないのだが…さて、本当に触れてみせるか?
「ふむ、良かろう。そうじゃのぅ…どちらが強めじゃろうか?」
はっきり言えば、アルコールはよく飲むが、種類なんて細かく分かっていない。
ただ、今は少々夜風が冷えている感じを受けるからか、問い返す。
歩き出す横へと付くように歩み寄れば、するりと腕を絡め、横を歩くだろう。
■クトゥワール > 「これは失礼。だがこれも男子の性というものでね。」
「唆る物にはつい手が伸びてしまう。悪気はないのだが――しかし今更だが、立派な尻尾だな。」
ムキになって触ろうという物でもない。尻尾が逃れたならばそれ以上追うことはしないだろう。
とはいえ実際の所、ふさふさとしていそうな見事な尻尾ぶりは多少触れてみたさがあったのは語調に現れていたかもしれない。
度の強い方を求められればワインをと手渡し、腕を絡められるがままに歩き出す。
「それにしても一つ懸念があるのは――私が可愛いという柄かどうかという事だが。似合う似合わないも重要ではないかね。」
「――……うん?そうか。似合うようにすれば良いのだな。」
あまりそうした事を考えたことがなかったが――何しろちゃん付けで呼ばれた事など今まで無かった――己の性質に思い至る。
他人の認識で姿を変えるのが基本だが、自己変容とて出来ないわけではない――そう意識した瞬間には、男の姿形はそれまでと異なるものになっていた。
傍らの娘と同じぐらいの年頃に――性別もまた、同じように見えただろう。そしてそれは正しい。
「よろしい。これならくーちゃんと呼ばれても問題あるまい。」
「では、改めて行くとするか。」
背丈も傍らの娘に似る。それまでの男性的なシルエットから、女性的な柔らかな物へと変わり――口調だけはそのままだった。
やがて大通りへと抜け出ただろう。本人達は問題ないつもりかもしれないが、夜分遅くに年端もいかない少女二人が酒瓶片手に路地裏から出てくる様は、良識ある人間からすればかなり問題のある光景だったに違いない。
その問題さ加減を意識もせずに、二人の姿は大通りの彼方へと消えて行っただろう――
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からタマモさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からクトゥワールさんが去りました。