2017/05/10 のログ
ヴェロニカ > 「あら…ちょっと失礼」

元より周辺の治安がいいため、誰が入ろうと構わないとするこの夜会では、ドレスを着ている者は特に何ら警戒もされずに入ることができるだろう。
曲が変わり、新たな踊りの相手に誘ってくる男を愛想笑いで応えながら口実を探すように、ホールの周りを深紅の瞳で見渡していくと、こちらを見ている者と目があった。
恰好はむしろ自身よりも貴族らしいものに見えたが、ふと気になってそちらへと歩いていく。

「ごきげんよう、来られたばかりなのかしら?直ぐに飲物を持ってこさせましょう」

そして、笑みを浮かべながら相手へと話しかけていき、相手にとっては同じ顔が二つ並ぶことになる。
傍を歩いているボーイを呼びつけて、果実酒を満たしたグラスを持ってこさせるように指示して、改めて相手と向かいあった。

リト > 「……うん?」

不躾に見つめていると、当の少女と目が合ってしまった。
逸らす暇もなく此方に歩いてくるのを見ると、自身も寄りかかっていた壁から背を離す。
あまり意識してはいないが、貴族っぽく見えたのなら幸いのドレス。

「あ、どうも……いや、そこまでお構いなくー…」

同じ顔が二つ。向かい合ったドレスの少女の方へ主に目を向けながら、一先ず果実酒がやってくるのを待つとしよう。
改めて顔立ちを眺めてみると、均整が取れた綺麗な顔立ちだ。やや幼さを残しているようにも見えるが、それはお互い様だろうか。

ヴェロニカ > 「いえ、いいんですわ、踊りの誘いを断りたかったんですもの」

壁から背を離した相手を見つつ、少し内緒話のように顔を寄せて笑う。
相手に見つめられれば同じく見つめ返し、すぐそばに瓜二つの顔があるため、歳相応というには幼い自身と見比べる羽目になる。
ボーイが果実酒を持って来れば、トレーを相手へと差し出していく。
そして相手がそれを受け取れば、軽く乾杯するようにグラスを突き出していき。

「初めまして、かしら?あたしはヴェロニカ、スターチス商会を取り纏めていますの」

そう自己紹介をしながらまたグラスに口をつけて、相手の反応を伺う。
多くの者が出入りしている中でも、貴族のつながりは商談に有利になるためであり、まだ相手の正体を探ることまでは考えていなかった。

リト > 「そう? なら、見つめてた甲斐があったって言えるかなぁ」

冗談めかし、内緒話のように声を潜めて微笑む。
暫し彼女と見つめ合っていれば、ボーイがトレイに乗せて持ってきた果実酒。
グラスを受け取り、軽く突き出して乾杯の所作。
一応、貴族の身ではあるから一通りの作法は身につけているつもりだ。

「初めまして、だね。私はリト。まぁ一応…歴史ある一族のうちのひとりなんだけどね」

彼女がまだ人間か、魔族かもわかっていない以上あっさり正体をバラすのはちょっと危うい。
気さくな言葉遣いで自己紹介を終えれば、グラスを口に運んだ。

「ってことは、さっきのあの人達もヴェロニカのお客さんかな?」

ちらりと覗き見るのは先程彼女と話していた、今はもう踊りの相手を見つけたらしき屈強な男。

ヴェロニカ > 「ええ、助かりましたわ」

乾杯をしながら、再びグラスに口をつければ、軽くウィンクをして。
そうやって愛想よくしている隣に、鉄面皮のような同じ顔のメイド微動だにせずに並んでいる異質さは、よく目立つものだろう。

「そうでしたの、それは浅学で申し訳ありませんでしたわ」

やや歯切れの悪い言葉には、笑顔で謝りながらもすうと深紅の瞳が細められる。
気兼ねなく名乗れない理由を探るように、グラスに口をつける所作を見つめていく。
その所作は貴族として疑うような点はなかったが、一体どこに同族がいるか分かったものではない。
それと協力できないかもしれない立場にあれば、なおさら慎重になっていて。

「ええ、なんでも魔族と戦うための装備を増やしたいんだそうですわ。遅れていた船団が間に合ってよかったですわ」

明らかにその場に溶け込めていない図体の男に視線を向ける相手に、武器を扱っていることを何のことでもないように告げる。

リト > 普段はあまりそういった、貴族らしい所作を出さないものなのだが、こういう畏まった場では流石に空気を読む。
愛想の良い笑いと、鉄面皮のような真顔。対照的ながら同じ顔が並ぶ異質さを間近で見れば、確かに人目をひくのも無理はないと思ってしまう。

「いや、気にしなくても大丈夫。ちょっと変わった一族だからね、しょうがないんだ」

お互いに探り合いのような様相。深紅の瞳と赤青の瞳が交差する。
天真爛漫な皮を被っていながら、実のところは慎重な吸血鬼の娘は微笑みを浮かべたまま言葉を交わし続ける。

「ふーん、魔族と戦う為……ねぇ。ご立派なことで…」

また砦を取ったり取り返されたりと、鼬ごっこのようなことを続けるのだろう。
興味もなさそうな口ぶりで呟けば、また壁に寄り掛かるように背を預けた。
「隣、どう?」と彼女に誘いかける。

ヴェロニカ > ただ紛れ込んだ客というわけでもなさそうであるが、ボロを出さない辺り、本当に貴族であるようにも見える。
だからこそ、言いよどんだ部分に一層興味が掻き立てられていく。

「あら……変わった一族だなんて、むしろ興味が沸いてもっとお聞きしたいくらいですわね?」

目を引く左右別の色を湛える瞳を見つめる視線は、微笑みで隠しながらも探る気配があって。
互いの正体を疑いながらも、それを確信できる材料もなく。

「あたしとしては、取引ができるなら魔族の方とでも構わないのですけれど…ええ、お邪魔しますわね。そういえば、貴方も踊りはなさらないのかしら?」

先日はそれで痛い目も見たが、その堂々巡りをするだけ武具商は儲かるのだ。
そして節操のない武器商じみた口ぶりで微笑みながら、壁に寄りかかる相手に誘われて壁へと背中を預ける。
メイドは相変わらず一定の距離を保つように動いたきり、また直立不動の姿勢になり、横に並びながら踊る男女を一瞥して問うた。

リト > その実、ただ紛れ込んでみただけの魔族なのだが、早々にボロを出すようなヘマもしない。
とはいえ質問は切り上げられる気配が無い。唇を緩く噛んだ後、ゆっくり開いた。

「うーん……まぁ、隠すようなことでも無いからねぇ。じゃあ言うよ」
「魔族なんだ。魔族の国の、少し遠いところに城を建てて住んでる一族。まぁ、吸血鬼なんだけど」

元来、隠し事は苦手なたちだ。壁に背を預け、程よく近い距離で横に並びながらも微笑みは絶やさず彼女を見つめる。
貴女は?と問うかの如く、深紅の眼差しにオッドアイの眼差しが絡む。

「特にこだわりとかはないんだね。……私? 私は、二人きりとかならともかくこういう場で踊るのは好きじゃないから、かな」

ヴェロニカ > 「…あらあら、素直な方もいたものね。あたしは、そうそう白状はしないけれど、答えないのも失礼かしら」

しつこく問い質される相手が何か心の準備をするように唇を噛むのを見れば、それを注視する。
そして明かされた答えと共に見つめるオッドアイの眼差しを見つめ返す瞳に、人の眼にはあり得ざる魔法陣が浮かんでいるのを見せて、それを答えとした。
最も、単に見てくれだけでまだその魔力は働いておらず、その光もすぐに消えていった。

「別にタダでくれてやったっていいのだけど…そうすると他が商売にならないってうるさいのよね、ワケがわからないわ。二人きりの踊り、ねえ?」

一度本性を見せると、虚飾に過ぎない口調も地に近いものになってぼやくような口調になる。
メイドはさりげなく人の流れを遮るような位置にいつの間にか動いていて、二人に近づく者がないようにしている。

リト > 「このまま誤魔化し合って話が堂々巡りするのも、それはそれで面倒くさいからねぇ」

やれやれ、と滑らかな髪を掻き上げる。
見つめていた瞳に浮かぶ魔法陣を確かに見て取れば、小さく肩を竦めて返した。
ならば、特段気を遣う必要など無い。先程よりもう少し砕けた口調になる。

「人間達のそういう取り決め?みたいなの、一々守るのも疲れるからね。ま、見てるだけなら面白いんだけど」
「うん。人の目が届かないところでなら、かな」

片手に持ったグラスを揺らしながら、メイドの働きにほぅ、と思わず感心する。
横並び、肩が触れ合う程にお互いの距離は近いが、別に気にした様子もなく話を続けて。

ヴェロニカ > 「バレたら面倒で済まないことよ、この眼でなんとでもするつもりだし、アンタもどうにかできるみたいだけど」

髪を掻き上げる相手へ、魔法陣が浮かぶ瞳を指して不敵に笑う。
互いに正体がわかって、気にしなくなったことで最初の上品ぶった口調は完全になりを潜めた。
元々貴族たちの流儀に合わせての演技であり、同族にわざわざ続ける理由も薄いためで。

「まったくね…けど、それさえ守れば後は好きにできるから気に入ってるわ。
けどアンタには、武器よりも部屋が必要かしら…館の上の階に、個室ならあるわよ」

メイドは無表情のまま、淡々と近づきそうになるものを止めていき、それを眺めながら悪戯っぽく笑んで視線を送る。
互いに触れ合いそうな近さで、口をつけたグラスはもう空になっていた。

リト > 「……ふふ、どうかな? 私をどうにか出来るって本気で思ってる?」

此方は此方で自信があるらしい。不敵に笑い返し、その瞳を見つめ返す。
最初の上品ぶった口調を続けられなくて良かった。この吸血鬼、堅苦しいのは好みではない。

「律儀に守るだけ偉いんじゃないかな。……うん?」

上の階に個室。その言葉を聞きながら果実酒のグラスを空にする。
悪戯っぽく浮かぶ彼女の微笑みに瞳を細め、触れ合いそうな程に近かった互いの肩をこつ、と合わせた。

「まぁ、武器は確かにいらないかなぁ。……個室で一緒に踊ってみる?」

戯れめくような口調で問う。ふふ、と口元の笑みが微かに深まった。

ヴェロニカ > 「もし貴方があたしだけバラそうとでもすれば、すぐにでもどうにかしてあげるつもりだったけれど?」

見つめ返す相手には、この場では動かないものの、自信ありげに挑発するように笑んで。
余裕そうな相手を見れば、それに対して自身もまた余裕を見せていくことになる。

「守りたいわけではなけれど、どうせならたくさん武器を配ったほうが観てて面白いもの」

同じく果実酒を飲み干すと、ボーイが気づいてそれをトレーに乗せて運んでいく。
くっついて肌同士を触れ合わせる相手に悪戯っぽく見られれば、唇の口角を持ち上げる。

「必要そうには見えないわね。フフ、それもいいわね…」

相手と笑い合いながら、するりと触れ合う相手の肩へ手指を滑らせて、そのまま掌同士を握っていこうとする。
そして、いつの間にかメイドは部屋の鍵を手に二人の前に立っていた。

リト > 「そっか。そうしとけば、面白いものが見られたかもしれないねぇ」

お互いに余裕を見せ合うようにして、挑発するような笑みを向けていく。
流石にこの場では動きを見せることはしないが…

「それは私もそう思うかなー。どうせなら徹底的にやってもらった方が、見てる側としては面白いよ」

するり、と肩から下に滑り落ちてくる彼女の手指。
抵抗の一つもすることなく互いに指を絡め、掌同士を合わせるようにして握った。
ふふ、と触れ合う肌同士を擦り合わせ、メイドが持つ部屋の鍵に視線を落とす。

「なら、お近づきの印ってことで? ……行こっか、ヴェロニカ」

ヴェロニカ > 「ええ。どちらが面白いことになったかは、もう明白でしょうけれど」

挑発し合うのも、じゃれあうような口だけのもので、実行に移すことはしない。
そもそもこの場で二人で争ったとて、それは互いに損な目に遭うだけだろう。

「だからルールを守ってやっているのよ。その結果、砦の一つや二つどうなろうが構わないわ」

相手が抵抗せずに指を絡めてくれば、ニコリと笑みを深める。
メイドは部屋の鍵を持ったまま、すり寄る二人の前を歩くようにして先導していく。

「ええ、よろしくね?リト」

そうして、メイドを連れ立って、館の二階に相手と共に上がっていき、その姿はダンスホールから見えなくなることだろう。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からリトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からヴェロニカさんが去りました。