2016/11/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にジアさんが現れました。
ジア > 「あーもうっ、親方のコート暑すぎっ!」

日もすっかり落ちた頃、騎士が修理を依頼した甲冑の籠手や脚甲の配達に使われた少年は、寒くなるからと押し付けられたコートを背負い袋に押し込んで歩いていた。
たまたま他に多く仕事が舞い込んで作業が長引き、工房を閉める間際になってそのまま帰っていいと言われて送り出されてしまったのだ。
配達が終わる頃には今から港でやっている仕事があるわけもなく、戻る宿もないため適当に周囲を歩き回って時間を潰しているわけだった。

「全くもう、こんなとこの宿は高くて泊まれたもんじゃないし…。
ハァ、こんな時ばっかりは指輪に閉じ込められてた方がいいかも」

首から下げた指輪を一瞥しながら、荷物にしかならないコートと背負い袋を背負ってぶらぶらとあてもなく歩く。
道々のカフェなどから漂ってくるかぐわしい紅茶や菓子の匂いを恨めし気に視線を送る。
北風が吹いて、周囲の人々がコートの襟を立てる中、とても寒空を歩く格好とは思えない薄着はある意味目立っていた。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にティアリシアさんが現れました。
ティアリシア > やはりこの辺りは良い物を売っている。
中途半端な品質のものを目の肥えた富裕層に売りつければどんな目に合うか商人達は理解しているのだろう。
おまけに余計な詮索をしないように訓練もされている。
腕を眺める視線は若干物珍しげだったが金さえ払えばちゃんとしたものを手に入れられるのはこの場所の貴重な特徴だ。

「いやぁ、良い買い物したなぁ」

ホクホク顔で長身の女剣士がゆっくりと道を歩く。
誰かに自慢したくてたまらないが、この辺りで知り合いに見つかるとまた何かうるさく言われるだろうか?
まぁ良い。今ならきれいに受け流せる。

そんなことを考えていた彼女の耳に苛立ちまぎれの幼い声が届く。
こんな寒空の中あんな格好で歩いているということは届け物の最中だろうか?
とはいえ特に目的地に向かって歩いているようには見えない。

「おぃ、どうした少年。届け先が分からなくなっって迷子か何かか?」

少し優しい気分になっていた彼女は足早に通り過ぎる住民をしり目にその少年へとのんびりと声をかけた。

ジア > 「え?あ、違う…違います!」

どこからでも香ってくるおいしそうな甘い匂いにくらくらとしていた時、不意に話しかけられて、後ろを振り返る少年。
ついうっかりと素の奔放なままに喋ろうとして、この辺りにいるのは貴族なのだと思い出して慌てて言葉を繕う。
親方から、貴族は機嫌を損ねたら大変なことになると教えられていて、ドレスのような意匠の鎧でこの辺りを歩き回る相手もきっと位の高い貴族だと思って、緊張した面持ちで見上げていた。

「ええっと、僕は武器の配達をしてたら、工房が閉まる時間になっちゃって、それで時間を潰してました」

そう困ったように笑いながら頭を掻く少年。
幸い相手は機嫌がよさそうに見えたので、改めて相手を観察する余裕ができる。
そうすると、否応なしに目立つ片腕へと視線が注がれていってしまう。
如何なるものかわからないにせよ、普通の出で立ちとは違うそれを、最初は隠れるように盗み見ていたが、だんだんと好奇心から隠すことなくじぃと視線を注いでしまう。

ティアリシア > 「そうか、家には帰らないのか。
最近物騒だ。こんな時間ではなにがあるかはわからないぞ?」

好奇心の強そうな大きな黒い瞳をのぞき込み、視線の高さを合わせ覗き込む。
この辺りは気難しい人物も多い。
素は気さくな明るい子なのだろう。とっさに取り繕う様子を少し可愛らしく思いながら安心させるように言葉を紡いだ。

それはやはり相手の視線を察することになってしまうが幸い今は機嫌が良い。
それにやはり物珍しく思うのは少年の性だろう。
貴族や傭兵から向けられる畏怖や嫌悪のまなざしと違い、純粋な好奇心から向けられる目はそう悪い気もしなかった。

「ああ、これか?昔魔物退治の際にすこし手こずってしまってね。
見た目は中々変わっているが意外と便利だよ」

言外に視線を向けたことを気にしないでいいと含ませ、少年との会話を楽しんでいる自分に気が付く。
そうか、彼は暇なのか。昼間であればお茶でも誘ってやろうかと考えるくらいだが…。
そう考えて彼くらいの年頃であれば自身はいつもおなかを空かせていたなと思い至る。
富裕層向けの町であれ、片手間につまめるものもある。
いくつか思い出しながら少年に柔らかく微笑み告げた。

「家まで送ろうか?時間が潰したいならこうして縁があったのだしティータイムというのも吝かではないが如何かな?少年」

と。

ジア > 「あ、家はなくて、この辺りは宿代も高くて…。
そ、それに!自分の身は自分で守れます!」

体格から見下ろされてる恰好になっていた相手が目線を合わせてくると、安心する反面ちいさな対抗心が少年に生まれる。
家に帰らない理由を付しながら、胸を張りながら腰を軽く捻って腰に差した剣を見せていく。
流石に相手のものほど立派ではなかったが、堅実かつ丁寧に作られているのが鞘に納められていても見えてくるかもしれない。

「もしかして、呪われちゃったんですか?…えっと、おっきいお姉さん?」

気が付けば視線を集中させ過ぎてしまっていたことに気が付いたが、相手が気にした風もないのには胸をなでおろした。
魔物に呪われたのかと思えば、少しシンパシーじみたものを少年は感じて、小首をかしげて質問を次いだ。
呼称は名前がわからず、思い切り外見からとったものが口について出る。何が、とまでは言わず。

「本当!…ですか?えと、宿はもっと安いところで探すので、お茶したいです」

優しく微笑む相手にすでに最初の不安感は拭い去られて、お誘いには目を輝かせて身を乗り出す。
それから思い出したように言葉を正しつつ、不意に訪れたチャンスにしっかり要求は口にしていた。