2016/11/04 のログ
ご案内:「魔法技術学院 薬草園」に《鋳薔薇卿》さんが現れました。
《鋳薔薇卿》 > ビィィン、と音を立て、石壁に勢いよく突き刺さった緑の蔓。
そのすぐ横で、頬にかすり傷を負い、顔面蒼白の男子生徒がいた。

「やっと目が覚めたか。
夢魔と遊びほうけた気分はどうだ、ええ?」

長く伸びた蔓がしゅるしゅると巻き戻り、花瓶の縁から中に消える。

「魔法の”マ”の字もわからんお前等屑どもに、この我が直々に教えてやろうというのだ。
頭が悪ければ悪いなりに、見てくれだけでも真面目にせんか。
まったく、不愉快だ」

静まり返った薬草園で唯一、男性のような低い声が響く。
どうやら、わずかに苛立ちを含んだそれは、生徒たちに囲まれた小さなテーブルの、花瓶の薔薇から聞こえてくるようだった。
黒く不気味に光る、一輪の薔薇。信じがたいことだがこれでも教員である。

「さて、では話をつづけるぞ。
”ゴブリンでもわかる!ファングプラントのそだてかた”──やれやれ、そう身構えるな。
うっかり頭からバリバリと喰われんよう、牙のない改良種を育てるつもりだ。
慣れれば獣害対策や盗人除けの罠として様々な使い道がある。が、お前等程度では1人での栽培は厳しかろう。
3人で班を組め。できたところから球根を配る」

《鋳薔薇卿》 > ひとつ咳払いが聞こえ、風もないのに茎が僅かに揺れた。

「《親愛なる深緑の兄弟よ、真摯な僕を我に授けよ》
サモン・グリーンマン!」

木の葉が擦れるような声で呪文を唱えると、テーブルの脇にグリーンマンが出現する。
背丈が150cm程度のそれは腕と思しき部分に草の籠をささげもち、中には緑のタマネギに似た球根が入っていた。

「……何をぐずぐずしている、3人組すら決まらんのか。
まったく世話が焼ける餓鬼どもめ、もういい!
学籍番号を適当に割り振る。好き嫌いあっても文句を言うんじゃないぞ」

なかなか組み分けを決められないでいる生徒たちにイライラし、ついに自分で分け始める。
そうしてできあがったグループに、1つずつ、グリーンマンが球根を配り始めた。

《鋳薔薇卿》 > すべてのグループに球根を配り終えたグリーンマンが、再びテーブル脇に戻ってくると、
黒薔薇の入った花瓶を大事そうに抱え上げた。

「皆に行き渡ったな?
それではこれから植え方を教える。ついてこい」

太い根を足のように動かし、グリーンマンが生徒たちを先導する。
少し離れたところで立ち止まると、そこにはすでに畝ってある地面が広がっていた。
周囲を囲み、境界を作っている柵をよく見ると、なんとミスリル製であった。

「さあ一度しかやらんぞ、よく見ておけ」

グリーンマンに花瓶を抱えられたまま、黒薔薇は縁から2本の蔓を伸ばす。
片方の先には球根が1つ巻き付かれており、もう片方の蔓で土を10cmほど掘り下げ、
その中に球根を静かに入れた。

「あとは周りの土をかけるだけだ。
間違っても踏み固めるなよ、芽すら出てこれなくなるからな」

《鋳薔薇卿》 > 生徒たちがたどたどしい手つきで球根を埋め始めると、グリーンマンが歩くのに任せ、花瓶の黒薔薇は周囲をぶらぶらとしている。
やがて埋め終え、生徒の一人がじょうろを手に取ると、そこで待ったがかかった。

「今は水をかけるな。ファングプラントは生命力の強い草だ、放っておいても勝手に伸びる。
自力で地面から出てこれるのが正常な成長の証だ、もし赤い芽が見えてきたら、はじめて水をやるがいい。
その後茎がだんだん伸びてくる。が、水をやるタイミングを間違えるなよ、日が昇る直前か沈んだ直後だ。それ以外の時間帯に近づくと噛みつかれる。
まあ、お前等の頭じゃ噛み跡だらけになってからでないと理解できんと思うがな」

ふん、と小ばかにしたように鼻を鳴らす音が聞こえ、つづいてちゅるちゅると液体を吸い上げる音がした。
花瓶の水はいくばくか減っているようだ……。

「さて、今日はこんなところか。
教室に戻るぞ、水分を補給しなければ」

そう言い終わると花瓶は沈黙する。
グリーンマンに連れられ、生徒たちは元来た道を戻っていった。

ご案内:「魔法技術学院 薬草園」から《鋳薔薇卿》さんが去りました。