2016/09/25 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にエリルさんが現れました。
エリル > 『Twinkle, Twinkle, Little Star……』

日が沈み、パン屋が閉じて夕食も終わり、寝静まるはずの夜。
自室でその言葉を唱えるとお気に入りの可愛らしい服装へと変わっていく。
姿見に映る格好に満足気に微笑むと窓から飛び出し、夜のパトロールへと繰り出した。
それほど運動神経はいい方ではないものの、屋根から屋根へ飛び移るたび、想像した真っ白な翼を魔法で形成して羽ばたかせながら移動する。
何もなければ一番いい、それならひっそりとした深夜のお散歩なのだから。
けれど、今日はそうも行かないらしい。
人気のない場所に感じた悲しい感情に、チリっと肌が痛みのようなものを感じ取る。
そこへと向かうと、肥えた貴族の男がどこかの料理店のウェイトレスらしい女性を引っ張り込んでいた。
金は店主に払った、お前に逆らう権利はない。
そんなことを宣う男と、泣き叫びながら抑え込まれる女性。
ムスッとした表情で見下ろすと、くるりとロッドを回した。

「トゥインクルフェザー!」

想像した事を魔法に変換し、ふわりと周囲に真っ白な羽根が舞い散る。
その声に空を見上げた貴族の男には月を背にしたエリルの顔が逆光で見えない。
誰だお前はと問いかけられても答えず、くるくるとロッドを回し続ける。
更に羽根が増えていき、自身の周りが真っ白になると、飾りの付いた先端を男に向けた。

「パーティタイム!」

羽根が一気に男へと飛翔する。
女性を避けて男へ羽根が直撃する度にポン!と気の抜けた音を立てて空気が爆ぜて、衝撃が彼を襲った。
四方八方からタコ殴りにされるような攻撃に、耳障りな悲鳴を上げて男が倒れると、はふぅと安堵の吐息を零して屋根から飛び降り、彼女の元へ降り立つ。

「お姉さん大丈夫? ほら、早く逃げちゃって!」

買った後のことだ、逃げられてもこの男の責任と言われるだろう。
女性は御礼の言葉とともに一目散に逃げ出し、その様子を満面の笑みで眺めながら、後ろ姿に小さく手を降っていた。

エリル > 自分と伸びている貴族の男だけが残った裏路地。
このまま男を放っておくのも締りが悪いと考えると、ぽんと手を打ってから杖を小さくしてポケットへとしまった。
ずりずりと重たい体を引きずり、側に生えていた観葉樹へと寄りかからせるとポンと手をたたく。
手品のように生まれたのは真っ白なロープ、それを使い、男と木をぐるぐる巻きにして縛り付けているのだ。
それが終わるとぺとりと額に張り紙をし、そこには悪い人とだけ書き記されている。

「これでよしっと」

今日もいいことをしたと思いつつ立ち上がると、暗がりの向こうから誰かが来るのに気づいた。
じっと様子を見ていると、どこから紛れ込んだのか、それともそういう性癖を持った貴族なのかは分からないが、今縛り上げた男と似た輩が姿を現す。
童顔があっという間に青ざめたのは、全裸に醜い肉の狂気を熱り立たせた状態だからである。
口をパクパクさせながら後ずさるも、男はニヤニヤしながら近づいてくる。

「こ、こないでっ! き、来たら…酷い目に合わせるんだからっ」

しかし男は近寄るのを止めない。
怯えた嫌悪の表情を浮かべつつ、震える手で杖を引っ張り出して元のサイズに戻すと再びじゅもんを唱え始める。

「シャイニースター! ……ぇ」

杖を横薙ぎに振るい、この呪文を唱えれば光の礫がホタルの群れの様に現れるはずだった。
しかし、生まれたのは3粒だけ。
自身が怯えたり、怖がると想像力が鈍って力が弱まるのを知らないがゆえに、困惑しながら呪文を繰り返すもそれ以上の礫は生まれない。

「ぇ、えっ…!? ど、どうして…!?」

初めての出来事にパニックに陥りながら振るっている合間、男はじりじりと距離を詰めている。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にレイカさんが現れました。
レイカ > ……出来れば来たくはなかった富裕地区。
貴族が犇き、あまりにも私には居心地が悪すぎる、そんな地区だった。

昔の記憶が蘇る…。
騎士だったころ、数多の人たちを見殺しにして私の保身を考えていた、そんな時期。
いや、保身を考えていたというのは少し違うか。
”そうするしかなかった”と、言うほうが正しかったのかもしれない。

しかし、今私は……再びここにいる。
どうしてもしなければならないことがあるからこそ、ここに来ざるをえなかったのだ。
そして――――トラブル気質な私は、どう頑張っても隠密行動、なんてそんなこと出来なかった。
隠密行動…それも違うか。

”見て見ぬフリなど、出来なかった”のだ。

「―――――ハイ・インパクト・シュート…。」

私は、この一瞬だけ風になる。
姿勢を低くして、一気に加速し―目標に”着弾”する。
真後ろ、全裸の男の背中から強襲をかけ、後頭部に強烈な弾丸キックをお見舞いする。
元々鍛えている蹴りだ、男一人を昏倒させるなど、訳はない。
前のめりに倒れていく男の首へと、私は軽やかに飛び乗り――そのまま仰向けに倒れるように、体を捻らせた。
大きな音を立てて、男が倒れる。

「……………。」

私は、体を起こして目の前の少女を――睨みつけた。

エリル > 「なんで…何で出ないの…っ!?」

魔法が上手く使えない、その焦りがいっそう想像する力を削いでしまう。
こうなったら、イチかバチかで杖で殴ってしまうしか…と思いかけたところで、誰かの声が聞こえる。
誰だろうと思った瞬間、全裸の男が勢い良く地面へと倒れていく。
鈍い音も、押しつぶすような音も、全て目の前に現れた彼女が行ったことなのだろうと理解するも、呆然とその様子を見ていることしか出来ない。

「――っ」

睨みつける視線、それにビクリと身体を震わせると勢い良く後ろへと飛び退いた。
助けてくれたのかなと思っていたものの、それならあんな怖い目を向けたりはしないからで。
もっと大変そうな人が来たと思いながらも、ぎゅっと杖を握りしめて、緊張した面立ちで様子を見ている。

レイカ > 私は眼深くフードを被りなおした。
いま、周りに誰もいないとは言っても誰に見られているのか分かったものじゃない。
出来れば…私の顔は誰にも見られてはならないのだ。

隠密行動するつもりだったけど、どうも私はこういうことに縁があるらしい。
場所は違えど、弟を助けたのも同じような路地だった。
自分自身の逸れに、ほとほと呆れてしまう様な…そんな気さえする。

目の前に杖を構えている少女に眼を向ける。
見た感じ、このあたりの子供ではない気がする――というか、こんな時間にこんな格好で何を。
先ほど、男を気に縛り付けてもいたし…どうにも、この子からは危険な香りがする。
”危険人物”と言う意味ではなく、”危険なことをする”と言う意味での香り。

「…………此方へ。」

私は、緊張しておる面持ちの子のこの手を掴もうと、手を伸ばした。
そのまま、強く掴むことが出来れば更に一目のつかない、路地裏の奥の奥まで、この子を引っ張っていく。

抵抗は簡単だ、先ほど男を蹴り斃したけれども、私の腕力は人並みにしかない。
振りほどこうとすれば、あっさりと振りほどける。
それが例え、子供の力であっても。

エリル > 噂に聞いたことがある話だと、王都には色んな貴族が雇った殺し屋がいるらしい。
夜闇に紛れて、自分達にとって不都合な存在を殺して消してしまう。
だから王都の富裕層地区を歩く時は気をつけたほうがいい、お客さんが冗談のようにいっていたけれど、冗談では無いのかもしれないと、彼女の動きはそれのように思えてしまう。

「ぁ…! ちょ、ちょっと…離してっ!」

手首を掴まれると、右に左に振ってその手を解いてしまう。
更に一歩後ろへと下がると、なんだかこの人は怖いと一層の警戒が浮かびながら、杖の先端を彼女に向ける。

「お姉さんは何者なのっ!? 殺し屋さん? そうじゃなかったら…えっと、そこの悪い人の仲間とか?」

先程縛り付けた男を片手で指差し、それから両手で杖を握る。
戦うモノとしては随分と可愛らしい装飾にあふれているが、一応先端の部分は叩きつけられたら痛そうな形状をしている。
握りしめる手の振動が伝わり、杖が小刻みに震え、涙目になって彼女を見つめる。

レイカ > 「…………。」

右に、左にと強く彼女が手を振れば、私はその手をあっさりと離してしまう。
警戒されるのは仕方がない、何しろ先ほど、男を伸してしまったのを目の当たりにしているから。

後頭部を蹴り上げ、脳震盪を起こさせて気絶させた男は、昼間に聞いた変質者だろう。
このあたりを根城にし、若い女をその異質な雰囲気で怯えさせ、力でねじ伏せて。
後はバフートに売りつけ、そしてそのまま金を手に入れるという、悪質極まりないものだ。
そのために、彼は筋肉強化の魔術をかけているのも、私の眼と感覚ならばわかる…。

発見しなければ放っておこう、私に襲い掛かるならば斃してしまおう。
そう、軽い気持ちで考えていただけなのに…。
やっぱり、私は偽善者なのだろう…、放っておけなかった。

「……違います、殺し屋でもなければあんな外道と組んだ覚えもありません。
たまたま通りかかったら、貴女が襲われていたのでついた透けてしまった、ただの偽善者です。
そんなことより、先ほどの音を聞いて誰かが来るかもしれませんし…、できれば場所を移したいのですが。」

目つきが鋭いままだけど、私は彼女の手を掴んだ理由を、場所を移したいからと説明した。
悪意はないと伝えたいけれども、難しいだろう…。
私は、彼女の行動に非常に強い危機感を覚えていたのだから。

エリル > 「違うの…? ぎぜんしゃ? ぁ、そっか…すごい音したよね」

蹴りの音、倒れ込む音。
離れていれば、大通りの喧騒にまぎれて聞こえないかもしれないが、近くに誰かいれば寄ってくる可能性があった。
なるほどと納得したようにすんなりと頷いてしまう。
けれど、鋭い目つきなのはやはり怖いらしく、視線を向けられればビクッとしてしまう。
しかし、彼女の言うことは尤もで、こちらから彼女の方へと歩み寄れば、すっと片手を差し出した。

「どっちにいけばいいの?」

何処へ連れ去るかは彼女に任せるというように、手を差し出して軽く首を傾ける。
鋭い視線が再び重なれば、ビクッとしながらも誤魔化すようにぎこちない微笑みを見せようとするだろう。

レイカ > 「…………本当は助けるつもりなんかなかったんですけどね。」

ぼそり、と私は呟いた。

片手を差し出してくる少女を見れば、私はその手をとりできる限りこの場所から離れる。
フードを目深く被っている黒い外套は、この時間のこの場所ならば十分私の姿を隠してくれる。
けれども…傍らにいる少女はどうだ。
どう考えても、この時間だと目立つような色の服を着ている。
ゆえに、出来る限り明かりもともらないような場所へ行き、そこでなにか明かりを確保するほうがいい。

私は周囲を警戒しながら、少女の手を引き路地裏の更に奥まった場所へと移動した。
このあたり、おそらく貴族のゴミ捨て場にでもなっているのだろう。
お世辞にも臭いはあまりいいとはいえなかった、けれども。
貧民地区のあの場所に比べたら、まだマシなほうだろう…。

「……ここなら近寄ってくる人はそうはいないでしょう…。」

私は少しだけ息をつくと、鋭い目つきのまま少女へと向き直った。
そして――――――。

「……何を考えているんですか、貴族に手を出すなんて…。」

開口一番、私が鋭い視線を彼女に送っていた理由を完結に説明した。

富裕地区にはいろうかどうか迷っている最中だった。
一人の少女がこのあたりから逃げ出しているのが見えた。
その先を見ると、貴族風の男を少女が昏倒させ、縛り上げているのが見えた。
そして、あの悪漢が少女へと近寄ってきた――――。
私が見たのは、そこまでだったが…少女が、貴族に何かしたのは明白だった。

エリル > 「ぇ、じゃあ何で……?」

そんなつもりもなく助けたという、意味深な言葉の理由を問いつつも、暗がりの中を抜けていく。
裏路地の更に奥、ゴミから発する嫌な匂いに少しだけ、うわっと顔を顰めたものの、素直についていき、向き直る彼女へと視線を重ねる。

「何って…悪い人は懲らしめなきゃだよ?」

貴族かどうか、そんなことはあまり関係がなかった。
問いかけた言葉の理由、それこそ意味がわからないと言いたげにキョトンとした様子で首を傾げる。
彼女だって自分を助けようとして悪い人を倒した、するつもりがなかったといっても、悪い人は倒された。
だからそれが正しいと思う故に、言葉の裏なんて読むことはない。

「だって、女の人が嫌だって言ってるのに変なことしようとしてたんだよ? 助けなきゃだよ」

レイカ > 「……自業自得だから、ですよ。」

貴族に手を出すという行為がどれだけ危険か、どうやらわかっていない様子だった。
無理もない、彼女のような子供に別れというほうが、私は難しいとは理解している。
しかし、理解しているからこそ――私は彼女を助けたのかもしれない。
また、あの人に無茶ばかりして…なんて、怒られそうだ。

「悪人だから懲らしめる、というのは悪い事ではないと私も思います。
しかし……だからといって全部懲らしめていいわけではありません。」

さっき逃げていった女性、あの人はもう、マグメールには住めないだろう。
貴族がお金を払い、彼女を買った。
その時点で既に、貴族の者なのは確定してしまっている。
泣き叫ぼうが何をしようが、今日一晩だけ耐えれば――明日からまた平穏な毎日がやってくる。
その、はずだった――――。

「…貴女は貴族の力を甘く見すぎています。
あの女の人……おそらく明日中には貴族に顔を知られ、そのまま憲兵に突き出されるでしょうね…。
ありもしない罪、おそらくここでは貴族侮辱罪が適応されるでしょうか…。」

そうなれば言われもない罪を着せられ、よくて処刑…最悪ならバフート送り。
嫌なことをされそうだった、だから助けた――ハイ、其れで終わり。
それでは、むしろ助けなかったほうが丸く収まった可能性すらあるのだ。

「…正義感を振りかざすのは構いません、ですがその先の責任というものを感じてください。
貴女はあの人を助け、自己満足を感じで満足でしょうが…明日からあの人は、貴族に怯えながらマグメールで暮らさなければならないんですよ?
そこまで考えての行動でしたか?」

エリル > 「…?」

小難しい言葉の意味はわからないものの、自分に何か理由があるといいたいのは分かった。
けれど、何が理由なのかなんて分からない。
そんな顔をして彼女を見ていた。
悪人は全て懲らしめる、それを否定されれば一層訝しげな表情が浮かぶ。
続く言葉に、今日だけでは終わらないのだと知れば……何故か嗚呼と納得したような表情になって薄っすらと笑ってしまう。
そっか、神様はもっともっと悪い人を全部倒せってこの力をくれたんだと思えてしまったからで。

「それなら、次にあの人に悪さをしようとする人を全部懲らしめちゃえばいいでしょ?」

単純に言えばそうだけれど、普通なら難しいと思えてしまうこと。
夢から力を引っ張り出すような少女からすれば、大きなこともただそれだけの事と思ってしまう。
けれど、ずっとあの人が追い掛け回されてしまうのは可哀想だと思うと、矛先を逸らさないとなんて思いながら、暫し思案顔になり…よしと一人納得した様子で頷いた。

「さっきの女の人に魔法掛けなきゃ、悪い人と戦うのは私だけでいいもん」

そういうと満面の笑みで両腕を左右に伸ばす。
それと連動するように真っ白な翼が魔力で作られ、周囲に淡い光を放つ羽根が舞い散った。
今からそれで飛んで行くと、言っているようなものに見えるはず。

レイカ > 少し言葉が難しいかもしれない、しかしそれが実はとても危ないことなんだ、とわかってくれればいい。
私は、そう思い彼女にそういう言葉を、少し厳しいかなと思うような言葉を投げかけた。

――以前の私も、彼女のような理想を掲げていた。
しかし、より大きな力の前に屈服し、そして心を折られて、廃人のようになった。
そんな悔しさを、私よりも若い彼女にさせるなn――――え?

「な、何を言っているんですか、そんなこと無理に決まっているでしょう!?」

それは貴族全てを敵に回すといっているようなものだ。
ミレー族どころか、王族ですら近頃は奴隷化されて、バフートに商人で並ぶようなご時勢。
彼女のいっていることが、あまりにもとんでもないことだと現実を見てる私には思える。
だけど――どうも彼女のそれは本気でいっているようにしか見えなかった。

「魔法って……ちょ、ちょっと!?」

ただ、両手を広げただけに見えた。
しかし、その背中から感じる純白の力――魔力?
いや、どこか異質な魔力…不可解な力を、私は感じた。
精霊のものでも、魔族のものでも、人間のものでもない――なんだ、この力は?

「ま、待ってください! いけません、いってはダメです!
先ほど襲われた際に、何も出来なかったのを忘れたんですか!?」

先ほど、悪漢一人に怯えて何も抵抗できそうになかった。
だから、私は横から助け舟を出したというのに、そんな危険なことを自分からまたするというのか。
跳んでいきそうな彼女の方を抑え、私は必死に止めた。
フードが外れて、私の顔があらわになるのも気にすることも出来ず。

エリル > 無理と言われれば、なんで?と言うように理解できていないあどけない表情で首を傾ける。
悪い人を懲らしめるなら、悪い人全てを懲らしめなきゃいけないらしい。
それならそれをするしかない、単純明快な答えをすんなりと受け入れている事自体がおかしいとは思っていない。

「無理なことなんて何一つないよ? だって、私だって死んじゃうってとき、神様が助けてくれたんだもん」

神頼みとも聞こえる言葉だけれど、それを否定するように翼を広げた。
夢見たものを全て現実に引っ張り込む純真無垢な心を、そのまま形にしたような魔法。
他の何とも接点がない力こそが、神が助けてくれたと言わしめる足跡のように。

「……うーん、あれね…何で力が出なくなっちゃったか分からないの、まだ」

すんなりとまた同じ状態になれば、危険に陥ることを認めてしまう。
けれど、困ったように微笑みながら必死に止める彼女を見つめていた。

「でも、神様は私一人を助けてくれるために、こんなに凄い力をくれたんじゃないと思うの。悪い人を懲らしめる事ができるなら、ちゃんと懲らしめなきゃ。もし、逃げちゃったら…ずっと私だけズルいって苦しくなっちゃうの。だから逃げたくないの」

不安定な力でも、あるなら最後まで使い切ると幼いながらに力への責任を感じていたらしい。
暗に同じことが起きたなら、それでも抗うのだと玉砕覚悟の上といっているようなもの。
止めようとする彼女に改めて微笑むと、飛びやすいように杖を小さくしてしまってしまう。

「だから、お姉さん。行かせて?」

レイカ > 落ち着け、落ち着くんだ、私――――。
彼女の話をよくよく聴いて、どうすれば止められるのか考えるんだ。

極論ではあるが、彼女のいっていることはある意味正しくはある。
悪人を斃すという事は、悪すべてを相手にする正義のヒーローになるしかない。
しかし、其れで全ての人が幸せになるかと聴かれると、私はきっとそれは違うと思う。
理想を追いかけ、現実を見させられたそのことが――当時の私に非常に大きな重圧となった。
この少女に、純粋無垢だからこそ、いかせるわけにはいかないのだ。

「神様は2度も奇跡を起こしたりはしません!」

私は叫んでいた。
以前助けてくれた、だから次も助けてくれるなんて、そんなことは絶対にありえない。
何の接点もないからこそ、私は危険極まりないと思うのだ。
いかせるわけにはいかない、汚れてしまったら――彼女はきっと、この世界にいられなくなる。
そんな予感がひしひしと伝わるから。

「………ずるいとか、そういうことじゃないって何でわからないの!!
無理なんだよ!君の言う悪人っていうのがたとえそうであっても、出来ないことはいくらでもある!
次に助けてくれる人がいるかなんて分からない!助からなかったら、君がいなくなって泣く人がいるのに!
自己犠牲も大概にしろ、助かった命を無駄に扱うのは、私は許さない!」

――――嗚呼、わかった…。
私に似てたんだ、理想を掲げて、自分なら何でもできると思いあがって…。
力の責任だとか、そんなものを理由にしている彼女が危なっかしいのは、昔の私に似ているからなんだ。
この子はきっと…自分を滅ぼす力を持っているからこそ、私はこんなにも止めたいんだ。

エリル > 「……!? お姉さん、大声出したら…見つかっちゃうよっ?」

ここに隠れるために来たのに、何故彼女が声を荒げるかが分からない。
少し目を見開いて驚きながらも、落ち着いてというように苦笑いで語りかける本人こそが、苛立ちの要因とは思っていないらしい。

「だって、神様が言ってたの。私ができるって思えば、なんだって出来るって。生きたいって思ったら生きられるし、助けたいと思えば……ぁ」

夢で聞いた神様の言葉を呟くうち、はっと理解した。
あの男の人を見た時に、怖いと思ってばかりで出来るとか、こうしたいとか、考えられなくなっていたことに。
何か一人で改めて納得して何度か頷くと、クスッとほほ笑みを浮かべる。

「怖いとか思ったから駄目だったのかな、今お姉さんに怒られても、びっくりしても怖いって思ってないのから…かな?翼が消えないの」

怖くなったりしなければ、夢を見失わない。
何故彼女がこんなにも怒っているのかが分からないけれど、逃げないなら帰ってこいということかなと理解してしまう。
なら、今帰ってこれることを見せてしまえばいい。
翼から溢れていた羽根が集まっていき、リング状にいくつも連なると、背後に道を作るように輪が並んでいく。

「Twinkle, Twinkle,Shooting Star……」

目を閉じ、流れ星を思い出す。
あんな感じにシュッといって、シュッと戻ってくる。
その瞬間、ポンと小さな音を立て、淡い白い光と共にその姿が消えてしまう。
そして30秒程すると、再び元に位置に光と音を連れて姿を表した。

「ただいま~…さっきのお姉さんに、悪い人からお姉さんをお姉さんと見えないようにする魔法をかけてきたの。これならもう大丈夫だよねっ? それと…嘘だーって言われちゃうのが嫌だから、はい、これ!」

満面の笑みで差し出したのは、逃げ出した女性が髪に飾っていたリボンだ。
お礼としてもらったわけではなく、目の前の彼女が信じるようにと譲り受けてきたのだ。
これでどうかな?と覗き込むようにじっと彼女を見つめる。

レイカ > 「はっ………!」

いけない、つい我を忘れて大声を出してしまっていた。
あまりに危険な少女の考えに、私はついつい我を忘れて叫んでしまっていた。
見つからないように、と思考していたというのに…やはりどうしても、焦ってしまうとちゃんと考えがまとまらないものだ。

「…し、失礼しました……。しかし、何でも出来るような力…ですか。」

一体どんな力なんだろうか…。
詳しい話を聴いてみたいけれども、あいにく私に魔法の心得はほとんどない。
きっと話を聴いたとしても、私はなんら理解出来ることはない…。
しかし、もしかしたら私の友人ならば――。今度話を聴いてみることにしよう。

そんな考えをめぐらせている間に、どうやら少女の中で一つ考えがまとまったようだ。
怖いからダメだった、とかそういう言葉が聞こえるけど…やっぱり私にはよくわからない。
思考がなかなか、定まってくれないのは――危険極まりない、無垢な少女のせいか。

「……恐怖心を感じると力が使えなくなる…?」

精神的な安定を持っていれば、力を失わないという事なのだろうか。
だとしたら、彼女の力は思考によって力を発動させる、人類ではとても到達できないような力ではないだろうか。
あながち、神様がくれたといっても嘘ではない、と思い始めたところで――彼女が何かを呟いた。

「――――――は?」

私は、一瞬まばゆい光を見た。
その一瞬の光が消えると――――少女の姿が、消えていた。
嘘、と言う暇も泣く、私はその場に固まり――そして、彼女はすぐに。
まるで手品のように、そこへと再び現れた。

「……え、ええぇぇ!?」

まさか――ありえない。
彼女のオーラの色を見る限り白――つまり人間なのは間違いない。
けれども、その力、瞬間移動といえるほどの力をあっさりと使って見せた、その力。
もはや信じる、というよりも事実を見させられて…頭が混乱してきた。

エリル > 謝罪の言葉には、苦笑いを浮かべつつ緩やかに頭を振った。
確かめるような言葉に、どう説明したものかと考えるように空を仰ぐ。

「……えっとね、私が夢で見たことがあるようなこととか、こんなこと出来たらいいなぁって思ったことを、ちゃんと忘れないでいられれば、それがここに出できたり、起こせたりするの」

そもそも魔法という認識自体しているかもわからないようなもので、本人も神様がくれた力=魔法っぽい?ぐらいにしか思っていない。
なので、発生のプロセスの説明もあやふやなのは、あやふやなもので成り立った珍妙なものだからで。

「うん、怖いって思っちゃうと…ちゃんと思い出せなくなっちゃうの、こうしようとか、ああしようとか、できなくなって出なくなっちゃう」

この説明が指し示すのは、彼女の予測はあっているということ。
そして、人では出来ないであろう事を目の前で起こしてみせると、混乱する彼女へ満面の笑みを見せる。

「ちゃんとあのお姉さんは大丈夫ってしたし、私も無事に帰ってきたし、それに…どうしたら使えなくなっちゃうかも分かったし、これでもう大丈夫だねっ!」

後顧の憂いはない、これでもう好きにできると小さな胸を張る。
理解の追い付かない彼女とは裏腹に、夜中も深まり明け方になりそうな今、流石に魔法で抑えているとは言え、眠気が近づいてくる。
眠くなっても力が鈍るのは知っていたので、口元に手のひらを当ててアクビをすると、もう一度のあのフレーズを口ずさみ、羽根の輪を構成していく。

「はふぅ……んん、私、そろそろ眠くなっちゃったから帰るね? 眠いと力も弱くなっちゃうの…だから今日はおやすみなさいなの…」

少しトロンとした瞳で微笑みかけると、ばいばいと言うように掌を小さくふった。
そして、ポンと光と音を立ててその姿が消えてしまうと、残っていた羽根が淡い光と共に消えていく。
そこに何もなかったかのように、夢物語のように忽然と消えてしまう。

レイカ > ……彼女の言葉を聴いて、魔法に疎い私でも確信した。

彼女に宿っているのは、正しく”夢をかなえる魔法”と表現すべきものだろう。
ただ、彼女が思うだけでそれが出来る――理想をかなえることすらも。
ただ、人間が持つにはあまりに大きすぎる力のような気がする。
その力は、見せびらかすものではないとも、確信できた。

「……。えっと……そういえば名前を聞いていませんね。
私はカイレ……男っぽい名前かもしれませんけど、ちゃんと女です…から。」

胸も平坦、スレンダー。
言わなければ、多分男と間違えられても仕方がない。
しかし、さっきからお姉さんとよんでもらっているあたり、そこまで問題はないだろう。

「……はぁ…、でも出来るだけ無茶はしないでください。危ないと思ったら逃げること、いいですね?」

意志は少し固いし、なによりこんな力を見せられては、あまり大きなことを言えなくなってしまう。
仕方なく、しぶしぶ、私はそのことを了承した。
大丈夫、そんな不確定な言葉を聴かされて、私の不安が消えたわけじゃないけれども。

「あ……ええ、おやすみなさい…。」

そういえば、もう明け方近いのか…。
結局今日は調べ者もうまく行かなかったし、私もどこかで宿を採ることにしよう…。
明日の朝にはいかなければならない場所もあるし…。

忽然と、夢のように消えてしまった少女…。
神様の力なんて信じているわけではない、が…あの不可解な力は、正直恐怖スら覚える。
あの無垢な少女が、もしも悪に染まることなんてあったら…王都だけじゃすまないのでは。

その日一日、私は恐怖で…眠ることが出来なかった。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からエリルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からレイカさんが去りました。