2016/09/11 のログ
■リシェラ > 目的とは云っても此の王都内を覚える為の散策、邸宅の多い場所で在れば細かく覚える必要性はそう高くは無い。
流石に何処に誰が住んでいるか、何て事迄をも調べ始めたら限が無いからだ。
ふと散策の中、一人の男性が此方へと一礼する。
此処で如何に有名で在ろうとも、余所者である少女が其れを知る訳は無かった。
知らぬ相手では在っても礼儀を欠く訳には、そう思えば一礼に対して此方も小さく会釈をして返す。
其の後もやる事は変わらない、頭の中に浮かぶ地図を完成させる為に歩みを進める。
そうはいっても、僅かに日の輝く時間に動いたからか普段よりは少々疲れてしまう。
何処かに足を休める場所が在るか…其の視線は、偶然か彼の消えていったカフェへと向けられた。
(あの場所で少しばかり休み、今日は戻るとしようか…)
軽く思案をすれば、其の侭、同じくして店の中へと足を踏み入れた。
入れば店の様子を確かめる様に見渡し、目立たぬ端の席でも選んで向かうだろう。
向けられている男性の視線には気付いている様子は無かった。
■アダン > カフェの店内はさほど珍しいものではない。
豪奢な調度に、棚に置かれた綺羅びやかなグラスにボトル。
魔導機械によって、店内は明かりで煌々と照らされている。
店の奥にはステージのようなものも設けられており、何かしらの演奏などが行われるための場所だと想像できるだろう。
そんな店内のカウンター席にアダンは座っていた。今のところ、他に客はいない。
アダンと、たった今入ってきた少女だけだ。
ここはアダンの息がかかった店だ。何が起ころうと、外に漏れることはない。
やってきた女を辱めるための悪趣味な罠なども存在する。勿論、それが通用する相手に限るのだが。
店員が彼女を迎えて一礼する。彼女は端の方の席に向かうが、アダンはそれを見て一声かける。
「おや、先ほどのご令嬢ではありませんか。……如何です、これも何かの縁。
貴女に一つご馳走させてはいただけませんか。どうぞこちらに」
アダンは金髪の少女を見つつ、そう言った。アダンは人の良さそうな笑みを作り、自身の隣の席を手で指す。
いきなり他者にこのような事を呼びかけるのは礼を失することと言われるやもしれない。
だが、アダンは彼女のことが少し気にかかっていた。新たな陰謀の種にできるかもしれない、そんな想像もしていた。
■リシェラ > 流石は富裕地区だと思わせる店内の様子だが、フードの陰に隠れた少女の表情は変わらなかった。
古くとも新しくとも、貧しくとも豊かであろうとも、少女にとっては足を休ませる為の場所でしかないのだ。
其れ以外に何の目的も無い。
店員にも会釈を返せば目的の席へと向かおうとするのだが…横から掛かる声に、其方へと首を傾けた。
確かに言葉の通り先程見た男性だ、意識はそうしていなかったが今し方前の事を忘れる程でもなく覚えている。
「先程の…成る程、縁か…」
彼の言葉に再び僅かな時を思案に耽る。
出会ったばかりの相手に食事の誘いというのも考えものだが、確かに道で出会い此の場でも共となった縁。
無碍にするというのも悪いかもしれないと思えば、彼が指す隣の席へと向かう先を変えた。
「食事を摂る程でも無いのでな…軽く一杯頂ければ予は其れで良い。
其方の厚意、有り難く受けよう」
そう一言を彼へと掛け、ゆったりとした緩やかな動作で席に腰を掛けた。
■アダン > 相手の了承の言を聞くと、アダンは再び笑みを浮かべた。
店員はアダンのなすことには口を出さない。これから何が起ころうともだ。
隣に腰掛ける彼女に再び一礼する。
「不躾な真似をして申し訳ありません。私はアダン・フェリサという者です。街の警備隊の一つを率いるという命を承っております。
一応は貴族としてこの国を治める者の末席を汚す者ですが……お名前をお聞きしても? 高位のお方だとお見受けします。
社交界には通じているつもりなのですが、お名前を存じあげませんので。
それに、この時勢です。貴女のようなご令嬢が一人歩きというのは、少し気になりまして」
アダンはぺらぺらと言葉を述べる。ここまでは特に嘘を言っているわけではない。
「近頃は王城にさえ魔族が出現するのです。黄昏時、そして夜の一人歩きはよしたほうがよろしいかと。
いえ、失礼……街の治安を預かるものとして、どうしても気になってしまいましてな。
ふむ……紅茶でよろしいかな?」
相手の容姿からして、どう見ても成年に達しているとは思われない。ひとまず紅茶ということで店員にそれを頼む。
魔族のことを出したのは、相手のことに気づいたというわけではない。最近はだいたいいつもこの切り出しだ。
実際、魔族にはよく遭遇している。そのためのカマかけといったところだ。
大体は、相手が魔族であろうがそうでなかろうが、魔族とつながりがあるなどということにして陵辱を導いていた。
ただ、実際に相手が魔族である可能性もある。その場合、うまくやらねばアダンは死ぬだろう。
そこで、アダンは一つ策を弄した。店員のほうをちらとみて指先で合図をする。
彼女の前に紅茶が出される。至って普通のものだ。
しかし、その中には強力な媚薬が入っている。普通の人間ならばすぐに効果がでるほどのものだ。
だが、魔族などには恐らく効果の無いものだ。アダンは相手の魔力などを察することはできないため、こうして様子を見ることとした。
効果がないようであれば、もしくは何かに気づけば、この娘は魔族やそれに類するもの、或いはかなりの実力を秘めた存在ということになる。
「先日も、魔族とつながりを持っていた貴族の娘がおりましてな。やむなく尋問したのですが」
と、そんな言葉も少しかけていく。わざわざ人前でする話でもない。相手の警戒を誘うようなものだ。
実際、相手の口調はどうにも歳の割に古めかしいような、尊大なものを感じていた。
まるで王か何かと言わんばかりのものである。その時点で、普通の街人などではなさそうだという気配をアダンは感じ取っていた。
■リシェラ > 目の前で浮かべる彼の笑み、何処か、何か引っ掛かりを覚えるものが在る。
只、其れは漠然としたもの。其れだけに、違和感を口にする事は無かった。
「予の名はリシェラ…今は旅の者だ、其れ以外の何者でも無い」
多くを語る男性に対し、言葉少なく返す。
自分の立場は彼が思っている程に高位で無い事を伝え、無駄な不安を与えぬ事。
もう一つは…彼の立場だ。下手な事を伝えれば、いざこざの元になるかもしれない、そう思ったからだ。
「そうか…心配をさせてすまないな。次からは控えておく。
ああ、其れでお願いしよう」
目覚めてからの人間や魔族の関係を細かく聞いていた訳ではなかった。
眠りに就く前と比べ、其の関係が如何なっていたかは気になっていないと言えば嘘になる。
彼の話を聞いた限りでは大した変わりも無い、争いは絶えていない事は理解出来た。
無意識に浮かべる苦笑だが、紅茶を勧める言葉に頷いておく。
程無くして目の前に紅茶が出される。
「…」
魔族の事を自分に話して如何なるものか。紅茶を口に含み乍、そう言わんが如く無言で彼を見詰める。
当たり前の事だ、旅の者と名乗ったのに魔族に関わった貴族の話をされても返す言葉に困るだろう。
此の時点で気付けなかったのは痛手だったかもしれない。
混ぜられた媚薬への耐性は持つものの、其れを感知する能力は今は殆ど失われていた。
彼の前で、少女は何の変化も見せぬ侭に紅茶で喉を潤わせていく。
■アダン > 「これは失敬を。貴族か王族のご令嬢と思いましたので。
旅人とは知らず、少し反応に困らせてしまうお話をしてしまったようですな。
いえ、平民や貴族の間でさえ魔族が紛れ込んでいるのです。注意を促そうと思いまして」
意外そうな顔をアダンは作ってみせる。彼女は高貴の身分ではないと言うのだ。
だが、“予”などと自称してしまうような少女である。
それで平民であったというのならばお笑い種である。身分差の厳しいこの国ではどうなるかわからない。
だが、どうやらそれを理解していないらしい。この国の外から来たのか、もしくはかつて高貴の身分だったのか。
アダンはそのように想像した。
そして、吐く言葉には、言外に疑いを向けるような響きを紛らせておく。
得体の知れないそちらは、魔族ではないのかと。勿論根拠などはない。適当に言ってはいるだけだったのだが――
「では、リシェラ嬢。今後はどうかお控えください。
美しいご令嬢は、魔族に限らず特に狙われやすい……ほう」
普通に紅茶を飲んでいく様子を見て、アダンは口角を釣り上げた。
下卑た笑いである。アダンはこの時点で、目の前の少女が普通ではないと知った。
だが、どうにもそれには不似合いな笑みであった。
「なるほど、適当にしかけてみるものだ。よもや、本当にそうだったとはな。
リシェラ嬢……貴女は魔族か、もしくはそれに類する者だな?
それには強力な媚薬が仕込んであったのだが、どうにも平然としておられる」
それだけで魔族とは言い切れることではないし、あっさり認めるとも思えないが、アダンは椅子から立ち上がり、彼女を見下ろしながら言った。
口調も尊大なものに変化していた。アダンが懐から何かしらの操作機器と思しき懐中時計を取り出すと、その蓋をあけて操作をする。
そうすれば、この店内に仕掛けられた古代のアーティファクトが駆動を始める。
魔族などを捉えるための仕掛けだ。勿論相手に防ぐ力があれば意味は無い。
部屋の何処から不可視の縄が飛び出し、彼女の脚を掴もうとしていく。
■リシェラ > 「例えどの様な身分で在ろうとも、旅の者と成れば其れは過去の話だ…そうだろう?
注意を促した事に関しては理解はしよう」
返す言葉は肯定でも否定でも無い、今が如何在るかであった。
拘る為らば、後はあくまでも彼の想像次第であるだろう。
掛けられる言葉に僅かな疑念が含まれるも、確信となる要素は無いのだと無視を決め込んだ。
「…?」
分かった。と了解する様に、手にするカップを小さく揺らす。
が、次に浮かぶ彼の表情を見れば眉を顰めた。
其の違和感は、更に掛けられる言葉に依って知らされる。
「計られたか…そうで在れば何とする?
例えそうで在ろうとも、予は人間と事を構えるつもりは無い。
其れよりも…予が人間で在った為らばとは考えておらんのか?
媚薬を使う等と、何を考えて…?」
仕込まれた媚薬、其れが効かないのは当然だ。自分は吸血鬼なのだから。
だが、其の彼の手法が気に入らなかったからか、カップをテーブルに置けば焦りも見せずに言葉を掛ける。
まさか、此の店自体が彼の所有物で、手の加えられた物だとは思ってもいなかったのもあった。
見えぬ縄に脚が捕らえられ、向ける視線がスッと細められる。
「アダン、これは何のつもりだ?
事は構えぬと伝えたばかりだ…下手な行為は敵を作るだけだぞ?」
其れ以上の動きは無いが、言葉と視線がこれを直ぐに解けと伝えている。
彼から見れば、こんな状況にも関わらず慌てふためく様子も無い少女は如何見えるだろうか?
実際の処は、まだ今は抜け出そうと思えば出来る状態だからでは在るのだが。
■アダン > 「まあ、趣味のようなものでな。人であったのならそれでも良し。元々そういうことのための店でね」
もし自身が人であったら、という言葉に対してはさも当然のように、それならそれでよいと答えた。
流石にここまでくれば、自ら腐敗した貴族であると自白しているようなものだった。
はじめて会った女性に平然と媚薬などを飲ませ、“そういうこと”を目的としていたなどと平然と述べる。
明らかな、悪の性質を持った男であった。
相手の脚はアダンの仕掛けに取られたらしい。それでも特に焦る様子はないのは、この程度ならばすぐに抜けられるからなのか。
それとも、アダンなどは取るに足らない存在だと思っているのか。
どちらにせよ、アダンに取ってはどうでもよかった。
もしもの時に脱出する術はある。ならば、行けるところまで試して見ても良い。
なにせ、魔王を自称する存在を陵辱したことさえある。それも、相手が油断していたからだと言えるのだが。
魔族、人ではない存在を人間が犯すという危険性と、成し遂げたときの快楽をアダンは好み始めていた。
本来ならば相手の正体がしれたならば恐怖するはずである。だが、アダンはただ下卑た笑いを浮かべるだけで。
「貴様は随分と物分りが悪いらしい。それとも、今のこの国の状態を知らないのか。
事は構えぬ? 笑わせてくれるな。魔族の言など、誰が信用しよう。
私は先ほど言ったとおり街の治安を預かるものでな……魔族というだけで、理由は十分だ。元より我らは敵対する者だろう。
この王都に踏み込んだ魔族には、それなりの仕打ちをしてやらんとな――」
嘲るように言いながら、時計を操作しつつ彼女に近づく――
ご案内:「富裕地区 邸宅街」からアダンさんが去りました。
ご案内:「富裕地区 邸宅街」からリシェラさんが去りました。