2016/08/10 のログ
ご案内:「王都マグメール富裕地区 小さな教会」にアナスタシアさんが現れました。
アナスタシア > 其の教会はかつて、とある有力な貴族の屋敷が在った敷地の片隅に、ひっそりと佇んでいる。
裏手には住宅と呼ぶのも烏滸がましいような、質素な小屋が建っており、
教会を守り、維持する「聖女」が一人、使用人の類もつけずに住まっている。

―――彼女がかつて公爵令嬢と呼ばれる身分であった事も、一族郎党が劫火の如き火災に遭い、
広大な屋敷ごと、全てが灰燼に帰したのだという事も、
此の娘が焼け跡の瓦礫の下から、奇跡の生還を遂げた顛末についても、
―――賢く、命の惜しい者は、詮索を避ける、のだが。

「―――、……」

溜め息。
もう幾度目かも知れない、招かれざる客の来訪を何とか捌き切り、
普段は鍵など掛けない聖堂の扉へ内側から施錠して、白い聖女は疲れ切った顔色で項垂れる。
遠い親戚だか何だか知らないが、―――栄華を極めた貴族の末裔、唯一人残された娘に、
ちょっかいを掛けたがる輩は何度追い払っても、懲りる、という事が無い。
其の度、慇懃な言葉と微笑みで追い返すのも、慣れている、とは云え、―――決して、愉快な作業では無かった。

アナスタシア > 両親を、兄弟を、奪ったあの炎が不運な事故によるものだったのか、
其れとも誰ぞの陰謀の産物だったのか。
或いはヒトならざるモノの干渉が働いたのか―――

「……今更、如何なる、と云うのかしら」

詳らかにした処で、得られるものなど在りそうも無い。
知れば思考は自然、為らば何故に此の身は生かされているのか、という処へ行き着く。

如何転んでも、愉快な想像には為りそうも無かった。

―――故に、今宵も聖女は静かに祈りを捧げる。
祈る先は勿論、―――。

ご案内:「王都マグメール富裕地区 小さな教会」からアナスタシアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にタウさんが現れました。
タウ >  ―――しまったと思った。
 富裕地区。雲の上の地区などと揶揄されるそこに、場違いな道服姿が彷徨っていた。
 訳あって目元を布で隠した長身の女が杖を付いてうろついていた。

 「………」

 困ったようにあたりを見回す。目元を隠しているのに、まるで見えているかのような歩調であった。
 だが、迷っていた。この国にやってきて日が浅いのだ。自分がどこにいるのかがわからないのだ。誰かに聞こうにも着飾った人たちは足を止めるどころか無視してくる。
 それだけならばいいものの、下品な言葉を投げかけてくるものもいて。
 疲れきった女は富裕地区の公園で一人ベンチに腰掛けていた。

 「……」

 宿はいい。野宿でもすればいいのだから。
 とはいえ衛兵に捕縛でもされたら面倒なことになる。どこか静かな場所に抜け出したかった。

タウ >  ベンチに座ったまま胡坐をかく。
 精神を研ぎ澄ませていく。心は無に。そして空へ。音という音を消し去って、集中していく。
 自分の体が拡散していくような予兆。はっと気が付くと求めるべき方角を記す赤い道標を暗い視界の中に見つけた。
 身に宿した霊が教えてくれたのだろうが、例の如く霊の欲望に思考が飲まれ始める。

 「……っ はぁー……」

 胡坐のまま、ベンチの上で倒れ掛かった。
 熱い吐息を吐くと集中を更に集約していく。思念に飲まれないように安全策をとるならばお香を焚くなり音で空間を満たすなりしなければならない。それを取らず薬さえ使わないで霊を降ろそうとすれば、当然意思がこちら側に素通りしてくるのだ。
 胸元を押さえると、よろめきつつ立ち上がった。

 「……」

 求める方角は公園の外へ続いていた。

タウ >  ―――しゃりん。 しゃりん。 しゃりん。
 鈴の音が遠ざかっていく。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」からタウさんが去りました。