2016/04/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にユリゼンさんが現れました。
■ユリゼン > 王都の富裕地区といえば、人間たちの中でも力ある者たち住まう町だ。
選り抜きの貴顕には違いないが、かといって王城に暮らすほどでもない。
この街は、そういう人間たちの縄張りだ。
昼間でも人通りのまばらな、迷路のような街並み。
そうだ。ここは迷路だ。ゆえに迷うのも詮無きことと言わざるを得ない。
かといって、空からゆけば万事解決というわけでもないのが困ったところだ。
『―――ふんっ、どうだかな! 次は警告なしで撃つ』
『変な気を起こすなよ、化物め』
「ずいぶんな言い草じゃな。それよりおぬしらに問いたいのじゃが、この近くに―――」
「……む、行ってしまったのじゃ。さて、どうしたものかのう?」
誰何されたのはこれで何度目だったか。巡邏の兵たちから解放されて、ふたたび途方に暮れる。
現在位置さえわからないままで、目的地に近づけているかどうか確かめる術もない。
■ユリゼン > 《ゲオルギウス・クラブ》。
竜殺しの英雄の名を冠し、比類なき知識と最高級の装備で武装した魔物討伐の専門家たち。
秘密のベールに包まれた謎の戦闘集団から、つい先ごろ錬金術師協会に申し入れがあったのだ。
―――かの竜人ユリゼン・ウェントゥスをこちらに寄越せ、と。
それも何やらひどく窮屈なドレスコード付きで。
「ぬう。脚に絡まってっ…この、歩きづらいのじゃがーー!!」
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にリィンさんが現れました。
■リィン > 白い法衣に身をまとったリィンは、王都の富裕地区を歩いていた。
救世姫として困難な運命を歩むことになったとはいえ、邪神を滅ぼすなどという宿願に至るにはまだまだ先は長い。
今のところリィンは自らの力を高めて、世界を救うための道のりを探しているという状態だった。
富裕地区に来ていたのも、救世姫として世界の真実を説こうと説教を行おうとしていたためである。
だが、無論耳を貸すものなど居らず、狂人として衛兵まで呼ばれそうな雰囲気であったため、広場から逃げ帰ってきたのである。
彼の偉大なる王であるナルラート王を邪悪の権化とする言説は、それ自体が罪であるのだ。
「……やはり、今のままでは誰も」
とぼとぼと肩を落として歩いていると、何やら叫び声が聞こえ、びくっと驚きに身をすくませる。
声のしたほうを見ると、何やら女中の服を着た女が道に迷っているらしかった。
歩き方を見るに、どうにも慣れている感じでもない。
彼女には特徴的な翼や角のようなものがある。それを見ればリィンは思わず身構えるものの、
魔族的な気配は感じられなかった。
故に。
「……あの、どうかされましたか」
思わず彼女に近寄って声をかけていた。
明らかに困っている者をリィンは見過ごせない。
■ユリゼン > 道案内にと渡されたメモ紙も、現在位置がわからなければあまり役に立ってくれそうにない。
おまけに、この街の住人たちは誰も耳を貸してくれない。
声をかけてみたところで、頭から無視されるか眉を顰めて足早に去っていくのがせいぜいだ。
ひどい時には甲高い悲鳴を上げられ、巡邏の者が血相を変えてかけつけてきた。
ここは特にミレーに冷たい土地柄らしい。
自己解決は望めない。人間たちも当てにならない。詰みである。
「このありさまでは日が傾くまでにたどり着けぬかの…やれやれなのじゃ」
所在なくしっぽを揺らめかせてため息をつく。角と角の間に乗った白い飾りを風が撫ぜていった。
「おお、奇特な人間がおったのじゃ。娘よ、そなた当地の事情には通じておるかの?」
ぱぁ、と表情が輝く。ずいっと半歩の距離まで寄った。
「このあたりに《ゲオルギウス・クラブ》なる人間どもの巣があると聞く」
「招かれておっての。わしはそこへゆかねばならぬ」
「……おお、そうじゃ! そなたが案内せよ。刻限が迫っておるのじゃ。うむ、娘よ。疾く案内せよ」
■リィン > 「え、ええ、そんなに隅々まで知ってるわけじゃないですけど……王城とかはその、わからないですよ?」
声をかけると、待っていましたとばかりに有翼の少女は顔を輝かせてこちらへと近づく。
有翼の少女は目が髪で隠れているので実際には表情はよくわからないのだが、口元や声の様子からしてなんとなく想像はついた。
明らかに人間ではないような翼や角、尻尾であるものの、リィンはそこまで驚いた様子はない。
何せ、リィンはミレー族との混血である。救世派のミレー族の里で、このような特徴を持つ者たちを見たことはある。
それでも、いきなりずいと近寄られれば少し慌てて、そこまで期待しないでほしいというように苦笑いをする。
「《ゲオルギウス・クラブ》……? 確かになんだか話は聞いたことがあるような……。
なるほど、そこに行かないといけないので……え、ええっ!?
ちょ、ちょっと待ってください、わ、私はまだ……!!」
《ゲオルギウス・クラブ》に行かなければならないと少女は言った。
何やら時間が迫っているらしく、急いでいるらしい。
トントン拍子に話が決まっていく。リィンが案内する事になったらしい――一方的に。
とはいえ、声を掛けたのは自分である。それに、身体的特徴からすればミレー族? のようにも思えた。
それを見捨てておけるはずもない。人間ども、という言い方にはやや違和感があったが。
その格好からすれば、女中としての応募でも受けたのだろうか。だが、それにしては口調が尊大であった。
「……名前は聞いたことがあります。でも、魔物退治の専門家、ということしか。
と、とりあえず、場所はわかると思いますから、そこまで案内します。何か案内のようなものってありますか?
それと……もしかすると、ミレー族の方、ですか。それなら、できるだけその尻尾とかは隠した方が……」
そんなことを彼女に言って、迷路のような町並みを歩き始める。といってもリィンもはっきりとした場所はよくわからない。
時折人に聞いてはその場所を探していくことになる。
■ユリゼン > 「詳しいことは知らぬ。きっと悪い様にはせぬ、と言われて送り出されたのじゃがな」
「当地はそなたの領分ではないのじゃな。ちと早合点したかのう?」
「いやなに、こちらの話なのじゃ。うむ、ならばこれが役に立つやもしれぬ」
学院からのルートと目印が書かれたメモ紙を渡す。
その中のどこかに心当たりがあれば正解のルートに導いてくれるかもしれない。
「異なことを申すのじゃな。それは腕を縛めよと言っておるのと同じなのじゃぞ」
「尾のない竜など足の折れた馬と同じよ。だいいち、尾を隠しておってどうやって飛べというのじゃ」
「いかにもこの身はミレー……ではなくも…ない? あやつら何と申しておったかの…」
口に手をあてて考え込む。「ドリー・カドモン」という言葉がついぞ出てこなかった。
これは、と純白のエプロンをつけた胸に手をあてて言葉を継ぐ。
「そなたらと同じ言葉を語る似姿。作り物よな。グリュネイのとっておきなのじゃ」
「我が名はユリゼン。ユリゼン・ウェントゥス。ひとたび死せる九頭竜よ」
「娘。人の子よ。そなた、名を何という?」
■リィン > 「昔は王都に住んでたんですけど、数年離れていましたから……えと、こっちかな……」
メモ紙を見て道を確認しつつ進む。
おおよその位置はわかりそうであった。
「……それは、そうだと思います。でも、その格好だとここだと怪しまれてしまいます。
竜……? 竜、なんですか、貴女は……」
彼女の言葉に静かに頷く。
ミレー族であることを隠す必要がない、そういう世界をリィンを目指しているのだから。
しかし、彼女の答えは更に予想の上を言ったものだった。
竜なのだという。確かにその翼や尻尾はそれにも見えなくはないが……。
「……? 似姿? 作り物?」
首をかしげる。正しく意味は理解できないものの、おそらく人の姿を取っている、ということなのだろう。
「……竜、九頭竜……!? し、しかも一度死んだって……竜なのに魔物退治の専門家のところに行くんですか……?」
竜という答えに狼狽する。竜といえば伝説にも登場するような強大な存在だ。
それがどうして人の姿をとって、そして女中の格好をしているのかわからない。
「……私はリィン。リィン・レイヴィアです。今は冒険者をしています」
名を問われてそう答える。本名を教えることはない。まだリィンは反逆者の娘として追われる存在であるのだ。
「色々良くわからないですけど……多分、そろそろだと思います。
このお店は知っていますから、ここを曲がれば……」
そんな会話を続けつつ、メモ紙のルートに思い当たるところがあったのか、そちらへと向かい、ユリゼンの言うクラブの間近まで到達する。
「……多分、ここだと思うんですけど」
■ユリゼン > 「まじない師の格好をしておるのじゃな。学院にもそなたのような尼がおるのじゃ」
「博士や錬金術師どもを見かけるたびに喰ってかかっての。悪魔の手先め、と血相を変えてわめきおるのじゃ」
「竜の手先には相違ないゆえ、あながち間違いとも言いきれぬがの。くくく」
偉大なる者の教えとやらに触れたのも、つい最近のことだ。
ノーシス主教が説く理と、それに従う人間たちの心情。
いくら世慣れてきてといっても、それらを理解するほどの境地には、まだ至ってはいない。
「とこしえに横たわれるもの。そは死者にあらず」
「そして、数奇なる永劫のうちには死すらも死なん」
博士が時々口にしていた言葉を抑揚をつけて諳んじる。
幾千億の星霜を永劫と呼ぶならば、謎めいたその章句は自分自身を差す言葉のようにも思える。
「死んでおるといろいろあるのじゃよ」
「さて、竜に挑むものは勇者である。勇者とは、強く気高き人のことじゃ」
「ならば佳き敵と認め、相応に遇せねばなるまい。これぞ竜の竜たる我らの務め」
「……というのが当世の竜の習いなのじゃな。近頃の若者はしっかりしておるのじゃ」
着いた。そのままリィンの背中を押してクラブハウスの中へ。
一歩足を踏み入れた途端、どこからともなく細身の老僕が進み出てきた。
『おや、お連れ様がおられましたか。定刻通りのご到着ですな、ミス・ウェントゥス』
『旦那様がたがお待ちかねですぞ。お召し替えは要りますまい。お連れ様もご一緒に、どうぞこちらへ』
壁に掛けられた古めかしくも無骨な斧鉞。王権の象徴たる竜をあしらった北方帝国のタペストリー。
いわく有りげな武具や古文書がガラスケースの中に並ぶ。極めつけは、訪問者を見下ろす巨竜の頭骨。
そこかしこで談笑している男たちがさりげなく視線を向けてくる。あれがそうか、と囁きあって。
■リィン > 「……が、学院に通って?」
彼女の話は理解できないものが多かった。
博士や錬金術士など、耳慣れない言葉も耳にしていく。
単にリィンが想像している以上に彼女は複雑な経緯を持っているらしい。
「……なんだか難しい詩ですね。
かなり昔の二連詩みたい。
永遠に横たわるものは死者ではなくて……?
よくわからない、ですけど……貴女は本当に竜なんですね。まるで挑まれるのを望んでるみたいですけど……」
彼女の言葉を理解できるほどリィンは竜というものを理解できていない。
だがその話もここまでだ。クラブハウスの前にまでたどり着き、リィンの案内は終わった――
「えっ!? ちょ、ちょっとまってください!!
私も行くんですか!? なんで!?」
案内を終えて去ろうとしたが、ユリゼンによって背中を押されてそのままクラブハウスの中へと向かうこととなる。
「……いえ、私は」
中でこちらを迎えた老人に違う、というものの最早どうしようもないようだ。彼らについていくほかがない。
ユリゼンを信じるのみである。
「ひ、いっ!? ここは、一体……あの、ユリゼンさん、ほんとに大丈夫なんですか?」
あるきながら壁に掛けられた様々な品々を眺めていく。こちらを迎えた巨大な竜の頭蓋に思わず悲鳴を上げる。
どれもこれも何か曰くありと言ったものだ。どうやら竜に関係があるクラブらしい。
話に聞いていたような魔物退治の組織とは異なるようだ。
中にいる男たちの視線はこちらに、ユリゼンに向けられている。