2016/01/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/ファルケの屋敷」にファルケさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/ファルケの屋敷」にチェシャさんが現れました。
■ファルケ > 広々とした豪奢な居間。
暖炉にはあかあかと火が燃え立っているが、室内はそれ以上に快適な温度が保たれている。
ファルケは長いテーブルの上座に位置するアームチェアに腰掛けて、独り本を読んでいた。
それは古ぼけた、分厚い魔術書――ではなく、刊行されたばかりのペーパーバックの恋愛小説だ。
言うまでもなく、何一つ魔術師の糧になりはしない。
■チェシャ > こんこんと控えめなノック。それからドアを静かにあけて入ってくる少年が一人。
折り目正しいきっちりとした一礼をファルケにすると
「ただ今戻りました」と厳かに告げた。
先ほど学院へ行っていた時とは出で立ちが違う。制服は着替えてしまっており、
今は普段通りの従者然としたスタイルに戻っている。
ちらりと盗み見た端でペーパーバックに目を留める。
主人はどちらかというとこういった俗っぽいものを面白がって読むたちだったかと思ったがそれは口にも表情にも出すことはない。
■ファルケ > やってきたチェシャの姿に、本から目を離す。
表紙がぱたりと閉められると同時、本は暖炉でくべられたかのように燃え立ち、掻き消える。
そのあとには灰ひとつ残らず、元から本など読みもしていなかったかのようだ。
肘掛けに腕を置いた格好で、腹の前で指を組み合わせる。
「お帰り、チェシャ」
皺を浮かべて微笑む。
おいで、と言外に傍へと招く。
「どうだったね、今日の学校は」
■チェシャ > 折角読んでいた本を燃やしてしまうのを見て、少しだけもったいなさを感じはするものの
この主人のことだから再び灰の一掴みから本を取り戻すのも造作もないことだろうと思うと気にするのをやめた。
招かれればすぐにファルケの前に跪き、頭を垂れた。
「はい……興味深い講義があったので受けてまいりました。
大変勉強になりました、ですがやはり……旦那様の教えには届きません」
そう静かに伝えると、そっと顔を上げる。
学校であったいざこざやヴァイルのことは伝えることではないと判断して黙っておいた。
それにこの主人ならたぶんチェシャが言わなくともその行いの全てを知っている可能性もある。
全能に近いところに座す魔術師、それがチェシャの主人だ。
■ファルケ > 跪いたチェシャを見下ろして、穏やかに笑う声。
「それはよかった。
おまえの時間が無駄になることは、わたしにも忍びないからな」
跪き顔を上げたチェシャの、なめらかな頬に手のひらを添える。
その実在を確かめるように輪郭をなぞって、そっと手を離した。
「砂糖菓子の匂いがするな」
ぱちり。薪の爆ぜる音。
身の回りにひどく気を遣うチェシャのこと、纏う空気に人が嗅ぎ取れる甘みなどない。
「おまえが外で菓子を抓むとは珍しい。
友だちでも出来たかね?」
にこやかに目を細め、首を傾げる。
■チェシャ > ファルケの大きな手に頬を撫でれられればそっと目を細め
猫のようにうっとりと頬を押し付ける。
今にもごろごろと喉を鳴らしそうな表情だった。
だが問われた言葉に少しだけばつが悪そうな顔をする。
「……以前から付きまとってくる奴がいて、それと今日たまたま出くわしました。
砂糖菓子はその時に貰いました」
主人が知っていることだろうとは思うものの、正直に事の仔細を話す。
隠し事をすることは無駄だし、する必要もない。
口をゆすいで来ればよかったと手の先で口元を覆い隠した。
■ファルケ > 例えどれほど口中を漱いだところで、平然と指摘してみせる可能性さえあるのがこのファルケという魔法使いだ。
年相応の表情を見せるチェシャの姿に、満足げに言葉を続ける。
「付き纏ってくる奴、か。もてるな。
どんな奴だね?つれないおまえを好くとは、よほどいい趣味をしている」
知っていて伏せているのか、それとも本当に知らないのか。
明らかにされることなく、くっと低く笑う。
■チェシャ > 「ご冗談を。あれとはそういう関係ではありません……。
ヴァイル・グロットという名の『夜歩く者』、魔族の一人です。
歳は僕と同じくらいの見た目で茶髪の髪を三つ編みにして、赤い瞳に青白い肌をしております。
以前からかった際にむきになったのでのしておきましたが」
最後に付け加えた言葉には決して自分が相手に劣って負けたのではないと強調するような含みと、真実を隠したいような濁し方があった。
ただその時だけはチェシャの顔も少年らしい負けん気があらわれ
すこしだけつんとした態度をのぞかせた。
それに、と言いながらファルケの膝の上に頬を摺り寄せ額を膝頭にくっつける。
「僕の心は旦那様のものですから」
そういうとファルケの顔を下から覗き込むようにして見つめる。
■ファルケ > 「ふむ」
ヴァイル・グロットという名に、短く応える。
膝に寄せられたチェシャの頭を撫ぜ、子どもを宥めるような眼差しを向けた。
「グロットか。
いくらおまえが有能でも、むやみに揶揄うことは勧めないな。
おまえを危険に晒すことは出来んよ」
頭を撫でた手が、背中まで下りる。
「わたしも先日、彼に遭ったよ。
『誰も手に入れることのかなわない至宝』を――
共に探すつもりはないかと、誘われた。
無論のこと、断ったがね」
然して重大でもなさそうな口調で、のんびりと言葉を続ける。
■チェシャ > ファルケの窘める声にしゅんとした様子でうなだれた。
「申し訳ありません……その、あの時は少し迂闊でした。
二度と奴をからかうことはいたしません……」
背に伸びた主人の手を受け入れ、より一層主人の体に己を摺り寄せる。
「旦那様が、奴と……。そうでしたか」
主人がヴァイルの申し出を断ったのならチェシャとしても安心できる。
なにより主人の考えで出した答えならチェシャは無条件に信じるのだ。
「それで、奴の言う『至宝』とやらを……先に探して旦那様に献上すればよいのでしょうか?
それとも奴が探しているものを、その動向を調べ上げましょうか?」
金緑の瞳が怪しく光り、じっとファルケの言葉を待つ。
■ファルケ > 「魔族というものは、どんな刃を隠し持っているとも知れんからな。
おまえが心を揺さぶられるのは、わたしの前だけでよい」
身を寄せたチェシャの体温に浸るように、和らいだ目を伏せる。
ヴァイルへの出方については、迷わず応える。
獣のように怜悧に光る瞳を、瞼を開いたブルーグレイが真っ直ぐに見返す。
「グロットの動きを探れ、チェシャ。
はぐれ者風情に、過分の豊かを与える訳にはゆくまい。
何よりあれは……『ツァラトゥストラ・カルネテル=ルヴァン』と知らぬ仲ではない。
ルヴァンの血の価値を知る者が敵でないなら十分だが、あれ一人に奪われるのは気に入らん」
ツァラトゥストラ・カルネテル=ルヴァン。
王家に連なる、喪われた血族の遺児だ。
椅子から身を引き起こす。
チェシャへ顔を寄せ、その唇を重ねる。
間近の顔へ、低く囁く。
「あれがわたしの邪魔と化したときには、容赦なく消せ。
くれぐれも油断はするな」
■チェシャ > 主人が自分を独占するような言葉を口にすればそのもったいなさにどこか恍惚とした表情で灰色の瞳を見つめ返す。
寄せられた顔へ自らも唇を差し出すように重ねる。
主人にヴァイルから貰った砂糖菓子の甘みをほのかに伝える様に接吻した。
「畏まりました、我が主エフライム様。貴方様の望むままに」
唇を話した後そう告げた声も表情も硬く冷たく冴え冴えとしたものであった。
肉食の獣のように油断も隙も生じさせぬ心構えを伝える。
もしたとえヴァイルと再び事を構えることになろうともその時はその時、
何度か会話を交わした仲とはいえ、ただそれだけの赤の他人。
主人の命よりほか、重い他人などチェシャの中には存在しないのだ。
暖炉の火がまたぱちりとはぜる。二人の重なった影が壁にゆらゆらと映って揺れていた。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/ファルケの屋敷」からチェシャさんが去りました。