2015/12/09 のログ
魔王サタン > 表通りから消えてゆく人の気配とは裏腹に
裏通りは闇が深くなってからが本番とでも言うように
次第に、怪しげな建物の数々に灯る明かりの数は増え、通りには豪奢な装いの貴族や資産家が、使用人や共を連れてその姿もちらほらと見せ始める。
だが決して表には彼らを誘う者の姿は無い。
『表向き』は治安の良い場所故の配慮なのかも知れないが、やっている事は平民や貧民地区と大差は無い。

燻らせた葉巻はゆっくりと、火の灯る先より灰へと還り
口腔の中広がる香りを堪能しながらもゆるり吐き出す紫煙は直に霧散してゆく。

自身が纏う波動は最小限にしてはいるが、人の世界に紛れ込んだ魔王を、特権階級の彼らは何かの本能か、或いはその装い故か避けるようにして男に道を譲り、男はさも当然のように、そんな妖しげな通りを興味も無さ気に堂々と道の真ん中を歩み行く。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 路地裏」にアンジュさんが現れました。
アンジュ > ―――女同士の話は尽きない。
偶然会った顔見知りと話し込んでいるうちに、とっぷりと日が暮れてしまった。
いつもは大通り沿いを選んで帰路とするのだが。
今日ばかりは早く帰りたいという気持ちが娘を急かし、路地裏へと足を踏み入れさせる。
方向は合っている。ゆえに、突き進めばきっと、知った景色に出られるはずだ。

「―――、おかしか、ねえ…」

―――はず、なのだが。
予想以上に、路地は幹より伸びる小枝のような複雑さ。
いつの間にか、自分がどの方向に進んでいるのかわからなくなっていた。
道の中央、首を傾げて佇んでいたが。
此方に歩んでくる大柄の人影に気付けば、邪魔にならぬようにと端に寄り、通り過ぎるのを待つだろうか。

魔王サタン > 自身の歩む道を阻む者は居ない。
自らもこの地区の一画に館を構える者ならば、この辺りの地理は無論把握している。
故にその歩みには迷いも無い様と見て取れよう。

幾分か治安が良い場所とは言え、やはり此処は裏の顔を持つ場所。
自身の存在を避けるように、道譲る貴族や資産家の人間達と同じく、此方の存在に気が付き道を譲る女の姿を紅瞳は捉えるが、聊かこの場所で働く女達の一人と見るには、難しいと感じる姿装いの印象。
迷い込んだか、はてさてこの場を生業とする身の女だろうか。
気には留めるが自らが話しかけることは無い。
ゆったりとした足取りの男に声掛けるなら呼び止める事は、容易いはずで。

アンジュ > 暗がりに漸く慣れてきた視界に映るのは、首を持ち上げねば目の届かぬような立派な体躯の男性。
その堂々とした足取りからは、この辺りの地理に精通していることが容易に見て取れた。
声を掛けて道を尋ねれば、相手の虫の居所が悪い等の事情がない限り、
恐らく娘はこの状況から逃れられるはず。

なのに。
男が通り過ぎるまで視線を外さぬだろう娘の、ぽかんと開いた口が漏らしたのは。

「―――おおきかヒト、」

そんな、素朴で素直な感嘆、だった。
相手の耳にも届く程度の声量、引き留めるようにも聞こえたやもしれぬ。

魔王サタン > 半分近くが灰へと還った葉巻は指で摘めば、人知れず自らの魔力が生み出した火で全てが灰へと還し。
辺りを行き交う人々と比べても確かにこの男は長身だった。
大概が見下ろす様となるのは最早普通だった故に。
自身の耳に届いた何処か訛りが混じった素朴な言葉に
歩みを進める脚は止まり僅かな間の後、自身が通り過ぎた道から聞えた声の方へとゆるり振り向けば、此方を見上げる女の姿を自身は見下ろす様にて双眸は捉え。

「――…面白い言葉を使うようだが……何か用か?」

自身の耳に聞えた言葉はあまりこの王都では聞かない響きがあったからか、引き留められた訳でも無いのだが、男は金色の瞳を持つ女へと言葉を向けた。

アンジュ > 身長だけに気を取られていたが、よくよく見れば、灯りに映える綺麗な髪をした人だ。
どうにも、娘の双眸を絡めて離さない。
そうして不躾に向ける視線や言葉は、周囲から指摘される娘の悪い癖。
今回も、零した自分の言葉が、意図せず男の足を止めてしまった。

「ごめんなさい、引き留めてしまったみたいで。
貴方みたいにおおきかひと、珍しかけん、つい。」

口をついてしまった、と。
面白い、と称された言葉で、尚も紡ぎながら、
無意識に背を伸ばして佇まいを整え、小さく頭を下げ。

「―――…そ、の。
ごめんなさいついでに、こげなこと尋ねるの、気が引けるっちゃけど。
この路地をどげんして行けば、向こう側に出られると?」

眉尻を下げながら、娘は男の進む方向とは反対側を指さした。

魔王サタン > 自身の用事は既に先ほど済んでいる
そしてこんな裏路地を行くのは唯の気紛れ程度のもの。
引き留められたとしても別に気を悪くする事ではない。
故に、謝罪の言葉には「気にしていない。」とだけ一言応え。

『面白い』と評した言葉が再び口許より紡がれる内容を聞き取りながらも、娘の姿や雰囲気、気配を、赤い瞳は捉えて僅かな思案と共に、聊か何かを感じ取る。
極々僅かにだけ感じる、自身と同じような気配のようなものを。
そこには無論、悪意や敵意といったものは無いと感じるのは容易かったのだが。

「――向こう側…?あぁ…それならば教えてやれるが、口答で説明して分かるかどうか…。」

眉尻下げながら指差す先は先ほど自身が意識せずとも進んできた道。
裏路地のしかもこんな妖しげな建物が並ぶ場所故か、複雑に入り組んだ道を口答で説明する事は出来るだろうが、理解できるかどうかとの疑問を男は抱き。

「――…目的の場所があるのなら教えるなり、連れて行ってやることは出来るが、何処かそんな場所でもあるのか?」

関ってしまった上に自らが教えたにも関らず、路頭に迷われるというのも聊か癪な話。
もとより気紛れな時間を過ごしていた男は、何を思ったか道案内でもと言葉を紡いだ。

アンジュ > 自分の行為が相手の気分を害することはなかったようだ。
「良かった、」と、わかりやすく安堵の滲む声色で、整った顔立ちを笑みにて容易く崩しながら呟く。

娘は生まれながらの魔ではない。
ゆえに、同族同士にのみ感じ取れる何かがあるのだとしても。
それをコントロールすることも、まして娘が感じ取ることも出来ない。
娘から漏れる気は微量のものであり、大した力を持っていないことは、男ほどの者ならば容易くわかるだろう。

「―――あ。そう、やんね。
 口で説明してわかる程度の道なら、こげなふうに迷子になんかなっとらんか。」

はっとしたような表情は、すぐに困ったような笑顔になる。
初対面の相手にこれ以上迷惑は掛けられないか、と。
立ち去ろうと、また頭を下げようとしたのを、予想外の言葉が遮った。

「……え。よ、良かと?」

良いのに、と遠慮しないところが、娘の不躾なところ。
しかし、渡りに舟とはまさにこのこと。
この申し出を逃せば、娘はあとどれだけ、この路地を彷徨うことになるだろうか。
―――考えたくもない。

「その。平民地区のほうに出られれば、あとはわかると思うんよ。」

あっちで合っとる?と。再度、先程指した方を示しては。
答えを聞く前に、早く早く、とばかりに足を踏み出す。

もし自分の望む景色が広がったならば、助かったとばかりに目を輝かせ、握手でも求めた後に。
「お茶でも飲んでいかん?」と、些か強引な誘いの言葉を掛けただろう。

魔王サタン > 何を思ったか珍しく気紛れな魔王の気紛れな提案だったのだが
場所が場所だ。
時間と共にこの場所も次第に治安と言う言葉が薄れた場所となる事を男は知っている。

自身の言葉にころころと表情を変える娘の様を眺めるのは多少の面白さを感じ。
娘の目指す場所が平民地区であると分かれば、指差す先は確かに平民地区の辺りを指してはいた。

「平民地区ならばまぁ、方向はあっているな。
あとは入り組んだ道さえ正しく進めばすぐ、か。」

頭の中で周囲の地理を思い返し、目的地までのルートを導き出して呟く。

既に足を踏み出して進もうとする娘とは対照的に、男は急ぐような気配は見せずも、その広めの歩幅で先走る娘に追いついてゆくのだろう。

複雑な路地裏を抜け、既に人気も少なくなった富裕地区の大通りを経由して目的の平民地区へとたどり着くまでに、何があったかは知る人は少なく。
娘の強引な誘いも、もしかしたら気紛れな今宵は受けたかも知れず――。

ご案内:「王都マグメール 富裕地区 路地裏」からアンジュさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 路地裏」から魔王サタンさんが去りました。