2015/11/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にイアさんが現れました。
イア > (そろそろ夕刻も過ぎようかという斜陽の中。
売り込みに送り込まれた貴族の館から出てしばし歩いたところ。
少年は尻を摩りながら、俯きがちにため息を吐いた。
奴隷の身だが、今日は帰り際に湯も使わされた為にこざっぱりとしている。
そして、購入こそされないものの常よりは多い稼ぎを手に入れていた。
それでもため息が、またひとつ零れる。)

……痛ぇ。やっぱ俺にM気はねーわ。

(そう言って尻を再び摩る。
そこには鞭で打たれた跡がある。
今日の相手は女性だったが、少年とは趣味が合わなかったのだ。)

イア > (鞭で打たれたのみならず、張り型で責められた尻が少し痛む。
財布は膨らんでも気が重くてつい、ため息ばかりがこぼれ出る。
まっすぐ塒へ戻る気にも到底ならなくて、薄暗くなっていく通りをただ歩く。
行くアテは特にない。)

……屋台のひとつでもありゃ、気晴らしついでに食ってくとこだけど……。

(お上品な富裕地区では、気楽な屋台などそうそう見かけない。
どうしたものかと考えながら、くしゃりと髪をかき乱した。
手首には緊縛の跡が残っていた。)

イア > (腕を下ろす時に手首の跡に気が付いて、げんなりとした顔をする。
こういった扱いも珍しくはないのだから、いい加減慣れればいいものをと自分でも思う。
しかし、慣れない。
広場に出て、石造りのベンチに腰掛ける。
あてどなく歩くのにも飽きて、ぼんやりと行き交う人や馬車を見るともなし眺める。
この時間だ、家路につく者やこれから出掛けていく者がいるのだろう。
少し、懐かしくなる。)

………………。

(母を呼びそうになって、止めた。
乳恋しい幼子ではないのだからと強がって。
そうしてまた、通りを眺める。)

ご案内:「王都マグメール 富裕地区」にヴァイルさんが現れました。
ヴァイル > 通りを行き交うものどものうちの一人が、
ベンチに腰掛ける少年に気づいて歩を向ける。
石畳に高いヒールをこつこつと鳴らし、焦げ茶髪の少年が、彼のそばに立った。

「どうした。
 家族とはぐれたか?」

秀麗だが、じっと眺めていると寒気の走る相貌。
何が愉快なのか、薄い笑みをたたえていた。

イア > 通りを眺めていた中、妙に耳に響く高いヒールが石畳を打つ音。
まさか自身に向かっているとは思わずにいたから、掛けられた声にはっと顔を上げた。
整った、しかし恐ろしさを感じる己とさして変わらなそうな年頃の少年。
一瞬、呆けたがすぐに眉根を寄せて不機嫌な表情を作って顔を背けた。

「ちげーよ。
 ……いや、そうかも知れねーけど、こんなとこで捜してねーよ」

なぜか、言い直した。
しかし少年が浮かべる薄い笑みが不気味で、直視はしないまま。

ヴァイル > 「素直だな。
 ……油を売るには向いていない、寒々しい場所だよ、ここは」

傷つき、褪せた、イアのみすぼらしい全身を一瞥する。
近くに佇んだまま、隣に座ったりはせず、ベンチに座る少年を見下ろし続ける。
その笑みから感じ取れるのは、隠さない尊大さ。

「お前の身体が壊れる前に見つかるといいな。
 実はおれも、連れ合いとはぐれてね。
 探している最中なんだよ。見つかりやしないが」

案ずるような言葉だが、どこか空々しい。

イア > 「うっせ……この街で暖かい場所なんて、一時しかありゃしねーよ」

傷だらけで、こざっぱりしたところで、所詮くたびれた自身と真逆のように。
目の前の少年は、どこまでも整って小奇麗で、それでいて怖しい。
ちらりと上目遣いに窺えば、尊大さを感じ取れる笑みが変わらず浮かんでいて。

「大きなお世話だ。それならあんたこそ、見つかるといいな。
 でなきゃ、諦めたほうが楽かも知れないぜ」

空々しい言葉には、つっけんどんに返す。
言い捨てるような返答は、まるで心にも思っていない内容。
諦めなんて、自身に帰ってくる言葉を受け入れるつもりもなく。

ヴァイル > 「は、は、は、それが利口だろうな。
 どうせきっと見つからないだろう、とは、薄々わかっている」

ぞんざいな返事に気を害した風もなく、小刻みに笑い声を漏らす。
イアの前に屈み、手を取って立たせようとする。

「ならその一時の暖かさを、おれが提供してやってもいいぜ」

滑らかな手指は、言葉に反して枯れ木のように温度がない。
ゆらゆらと鬼火のように揺らめく紅い瞳が、黒い目を捉える。

イア > どこか老成したように、気にした様子もなく笑う少年を、睨めつけるように見上げていると。
自身よりは長身の少年が、屈み、手を取ってきた。
予想したぬくもりの欠片もない、そして綺麗な手に触れられてぞくりと肌を粟立たせ。

「……そう、だな。今日は寒ぃよ」

揺らめく紅に魅入られたように呟いた。
瞳を捉えられたのか、一時、心を囚われたのか。
その手に促されるまま、ふらりと立ち上がり、よろめく。