2023/06/25 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にエンさんが現れました。
エン >  
かこーん、とししおどしの軽やかな音が響く。そばには、石造りの灯籠、そばには、緑。
風流な音に風流な景色が並べられた中央には巨大な東屋といった屋根とその下に湧く温泉。
其処から続いている――
其処へと続いている漆塗りと紅屋根仕立ての脱衣所も檜の香りに包まれる外装内装木造り。
見る人が見れば見事と舌を巻くこともある異国の情緒溢れる設え。だけれど。
脱衣所で衣類を預けてから肩にタオルをかけ歩いてくる男の瞳はずうっと瞼に隠れていた。
只、目を使っていない割に足取りはしっかりしたもの、時折、耳を傾け鼻を鳴らしてはうんと一つ頷く。

「良いね」

備えてある風呂桶と風呂椅子に腰掛けてから身体を流してから湯船に浸かる、
一連の動きにも瞳は閉じたままに瞳を開けているような澱みのなさ。
とは、いえ、実は薄目を開けているとか実は恐ろしいほどの細目というわけではない。
乳白の湯に肩まで浸かれば、ふーーーーー……と、長い長い吐息を零す。

「朝ごはんは何食べようかな……」

焼き魚に汁物と米もいいが偶には分厚いパテを挟んだバーガーもいいかも。
ぽつり、独り言、ぽつぽつ、考え事しながら、
濡れた髪を掻き上げては縁に背を預け肘も預けて足を伸ばしリラックス。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」にミンティさんが現れました。
ミンティ > 異国の雰囲気で統一された施設の中、物珍しげにきょろきょろと細かいところまで見回しながら、身に着けているものを脱ぎ、かごに預けて。
職業柄か、灯篭一つをしきりに観察したりしつつ、湯舟の方へと歩いていく。
とたん、目の前がまっしろになった。
入浴の場においても、瞳に宿した力が強すぎるせいで眼鏡が欠かせない。けれど特製のレンズは当然、そこまで配慮されてもおらず。拭っても拭っても、白く霞むのを繰り返す。
そのせいで、裸眼ならすぐに気がつけただろう先客の存在にも気がつかない。そもそも、自分が借りたのは同じような施設ながら、一つ隣である事にも気がついていないまま。

「…ん…」

誰もいないだろうと思いこんでいるものの、なんとなくタオルで身体を隠しつつ、座れそうな場所を探した。
眼鏡が曇るせいで、歩き方は慎重に。爪先に風呂椅子が当たると、足を滑らせないように用心しながら腰を下ろして。

桶にすくった湯を身体に流し、はあっと一息。
朝から温泉なんていう贅沢さに表情を緩ませながら、しばし、空気が肌を撫でていく感覚に目を細くした。

エン >  
沸き立つ湯に、風に靡く緑に、ししおどし、隣の施設、
比較的静かな浴場とはいえど音には溢れている。
そこに紛れて掻き消えそうな小さな小さな足音に吐息に、然し耳を傾ける。
……女の子?

「……」

混浴、だっただろうか。露天風呂を所望したが思えばその辺り確認していなかった様な。
顎に手を添え、首も傾げて、一思案したものの……

「……ぁー。お嬢さん。その。お気づきになられてないと思うが。お湯頂いております」

どうにも気の抜けた吐息におそらく自分が居ること解っていない様子。
男遊びや混浴を気にしないたちならいいがそうでなければ気の毒だろう、
何て親切心で驚かせない程度に声を小さめにして言葉を投げかける。

ミンティ > 目を閉じていると、森の中にでも迷いこんだような気分。風を直接肌に浴びる開放感もあいまって、普段は陰気そうに硬い表情も緩くなっていく。
貸し切りだと思っているからこそ気分はおおらか。そもそも場所を間違えているなんて思いもしないから、普段は臆病なくせに、ささいな気配には無頓着になっていた。
そんなところに人の声がしたものだから、びくうっと跳ね上がり、ついでに風呂椅子から落ちて、尻餅をうつ。

「……っ、…ッ、……?!」

驚きのあまり声も出ず、きょろきょろとしきりに周囲を見回しては、人の声がした方向へ目を向けた。
あいかわらず白く曇ったレンズではなにも見えず、ぎゅっと目をつぶると、その間に外した眼鏡を、桶の中にお湯につけて濡らし。

「…………ぁ」

そこに男性の姿を、ようやく確認した。ぽかんと口を開けたまま呆然とし、数秒してから、じわじわと顔が赤くなる。
こんな時になにを言えばいいのかもわからず、いただいております、と言われたものだから、どういたしまして、と答えるみたいに、頭をぺこぺこと下げて。

エン > 「っく。いや、失敬」

もしかしたら、彼女も混浴だと思っていなかったか、あるいは、相当気が弱いか。
余程驚いたのだろう余り大きな声でもなかったのに盛大に椅子から転げ落ちる音に、
……正直笑っては悪いと思ったものの口元を手で抑えて尚笑気が溢れた。

「ああ。安心して、といっていいかどうかはわかんないけど。
 盲だ。男としては酷く残念な状況ながら何を隠さんでも見えやしないよ」

湯から手を上げ雫をぽたりぽたりと零す爪先から手首からを緩々と揺らして、挨拶と。濡れた髪が上下にぱたぱた動いている音がするので頭を下げているようだが、制するの。何方の意味合いも込めたあと、縁にかけた手と背を捻って振り返れば閉じた瞳を指差して見せる。

ミンティ > 本来なら脱衣所で服を脱いでいる間に気がつくべきだった。
もう一人分の服がある事くらい、観察していればすぐにわかっただろうに。もしかしたら、その時点でもうとっくに浮かれていたのかもしれない。
あたふたとしながら、とりあえずは勝手に入ってきてしまった事を詫びるため、ぺこぺこと頭を下げて。

「……へ?」

見えない、と言われてから、はっとなって、あわてて身体を隠した。
胸を股間を庇うように両腕を伸ばして、小首をかしげる。実際に閉ざされた瞼は、薄目を開けているようにも見えない。
それなら隠す必要もないのかと思うけれど、なんとなく自分が恥ずかしい気持ちになるから、姿勢はそのまま。

「あの、わたしが…もしかしたら、お風呂…間違えたのかも、しれません…すみません…」

わかっているなら、すぐに出ていくべきなのかもしれない。
けれど生まれついて見えすぎる目を持ってしまったせいか、つい、まじまじと相手の顔を見つめてしまっていて。

エン > 「っふふふふふふ。ぃ、いや、重ね重ね失敬。でも、ふふ、遅いよ隠すの。
 ああ。目は見えないが耳でまあ凡そは」

衣擦れならぬ肌擦れとでもいえばいいのか、
柔らかそうな体躯に細い腕が擦れる音さえ拾うものだから体躯を隠したのも解る。
が遅い、もし目が見えていたらば乳房や尻の肉付きから股間の合間迄見れたろう。
あわてんぼうというか。おっちょこちょいというか。
声を掛けてから逐一落ち着きがない様子に謝罪はしながらも喉も肩も揺らした。

「さて、どうだろう、俺もここ混浴なのかも確認していなかったし」

男遊びだの混浴だの云々の前に男にそも免疫がない子なのだろうか。
それとも、盲目の男がそんなに珍しいのか
まじまじと食い込んでくる視線を感じる。
兎角、大丈夫とでも言うように、手を口元から真上へ移動すれば瞼に親指押し当てて引っ張っても見せよう。引っ張っても開かない。
盲目を装っている、にしては、瞼に力を入れているようにも見えないだろう。

「よければ、いや。別に此処は俺のものでもないけれど……
 よければどうぞ? 暖かくなってきたとはいえ朝方に濡れたまんまじゃ冷えるだろう」

そのあとに、湯船を指した。

ミンティ > 先ほどまでとは言わないけれど、また、びくっと震えた。
自分が身体を庇う動きを笑われたから、やっぱり見えているのかと疑念の眼差し。
楽しそうに笑う声も、こちらをからかっているものだろうとばかり思った。
けれど。

「……ぁ」

指で動かそうとしても開かない瞼の様子に、ぱちくりと目を丸くする。
瞳に障害があったりして見えないという話なら知っているものの、瞼が開かないから見えないという事もあるのかと。

「…ん…と、…じゃあ、お邪魔…していい、ですか?」

口に出してこそいないものの、疑ってしまったばつの悪さもあってか、なんとなく断りづらい。
あいかわらず身体を庇う姿勢のまま、膝を擦るようにして、湯舟のそばまで移動する。
別に、見えないのならばいいんじゃないのかと、臆病なくせに変なところで警戒心が緩い。
小首をかしげながら、お邪魔でなければと、まずは足先から湯舟に浸かってみようかと。

エン >  
眼球が潰れてしまっているから瞼が開こうにも開けない――
何がどうしてそうなったのかを説明するのも面倒で、
何がどうしてこうなった事で同情や気遣いされても鬱陶しい。
朝風呂なんて折角の贅沢な時間に生々しい話をする事もないだろう。
一先ず、目が見えない事に納得して貰えた様子に一つ頷くに留めた。

「どーぞ」

相変わらず体躯を隠した侭なのにまた笑いかけたがぐっと飲み込んで。
彼女が入ってくるのを確認すると腰や尻を浮かせて横ばいに少々移動、
距離を開けておいた。
乳白色の湯は僅かなとろみがあり湯の温度は高めなため入るときに多少辛いかもしれないがそこを我慢して肩まで浸かればじわじわと芯から温まる心地のいいものが身体を包むだろう。

「しかし、若、ん、若いよな? 若いのに朝風呂とは良い趣味してる。おじさん感心。
 きもちいいよねぇー。空気感がいいっていうか。余り見掛けない同好の士だから後で何か飲み物奢ったげる」

おそらく声の張りからして彼女、相当若い。
十以上は離れているだろうから、正直おじさんという歳ではないと思いたいが彼女からすれば『おじさん』だ。
……若干悲しくなったが軽く頭を振り、黙っているのも何だし、軽い世間話。

ミンティ > なにかと人の視線を気にしてばかりいるから、他人がすぐそばにいるのに、見られる事をあまり意識しなくていいのは新鮮だった。
元々自分一人だと思っていたところでの遭遇だったから、落ち着きをなくし、緊張ばかりしていたけれど。
とりあえず膝から下だけでも湯につかると、ほーっと心地よさそうな吐息が漏れて。徐々に硬さもとけていく。

「……あの、耳…で、って…そんなに…わかるもの…なんですか?
 ……あ、いえ、すみません。こんな事…聞いて、失礼でないか、どうか…」

よく見えるという立場からの好奇心なのか、つい問いかけていた。
つい先ほど、自分が身体を庇う姿勢になったのを看破されたから。そんなに物音を立てたつもりもなかったのに、と思うほど不思議に感じて。
とはいえ、初対面の相手に聞いていい話なのかもわからない。気を悪くさせていないだろうかと伺う様子は、いかにも臆病そうなもの。

「……わかい。多分、…わかいとは思います。…あなたも、おじさんと…言うほどには。
 それと…趣味が、あまりないだけ…なんですけど。気持ちがいいのは…はい。わかります…」

幼児ほど幼くはないけれど、まあ、若者と呼べるのだろうと思う。小首をかしげながら、ふわふわした答え方。
自分の目には、精々おにいさんかな、という雰囲気の相手。だけれど、小さい子どもでも相手にするみたいな話し方には、つい、小さく笑ってしまった。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からミンティさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からエンさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「──ぶえぇ~い……」

日の高い時間帯。
太陽の下、変な声を漏らしながら露天風呂で湯に身を浸して寛いでいる金髪の男が一人。

湯船の縁の岩に背を預け、濡れて張り付いた前髪をかき揚げざま、頭に載せたタオルを手に取り
軽く顔を拭っては、ぷぅ、と息を吐き出し。

「……うむ、今日もいい湯だなと関心顔になる。ここの風呂のクオリティの安定感は圧倒的にさすがって感じですなあ……」

ハッハッハ、と何が楽しいのか笑い声を上げながら、タオルを頭に載せ直し。
そのまま湯を堪能しながら、やがて音程の外れた鼻歌なんかも響かせ始める。

そんな男の近くでは、なにやら小さな物体がプカプカと浮かび、湯面が波打つのに合わせて揺れている。
それは銀色のボディに赤いつぶらな瞳の、アヒルのおもちゃだった。目的は不明だが、男が持ち込んだものようで。
陽光を照り返すそのアヒルに時々ちらりと視線をやりつつ、男はのんびりと湯を楽しみ続けていて。

エレイ > 存分に湯を堪能した後は、アヒルを回収しふらりと場を後にして──
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からエレイさんが去りました。