2022/11/23 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にドラゴン・ジーンさんが現れました。
ドラゴン・ジーン > 水音が聞こえる。一つはこの老舗旅館が管理している湯浴み場に通る天然の湯泉の沸き立つ音だ。そしてもう一つは旅館の周囲を取り巻いている雨の降る音となる。土砂降りの雨天に空は灰色の雲海に陰り、雨冷えした大気に抱かれた人々は少なからずに、この場所に暖を求めに来ているようだ。人の混雑に賑わい、交わされるコミュニケーションの声。種族や性別を問わずに風呂という文化が浸透しているのだろう。
軒先には野生の小さな鳥獣たちも雨宿り、だが、賢い獣はより温かい場所にへと身を潜めている。

此処は先程も言ったように旅館だ。しかしその宿泊出来る部屋のグレードは実に玉石混合となる。王侯貴族の泊まるような大層立派な造りの部屋も在れば、掌に少しの小銭だけで身を休める事だけの一室まである。
だが此処で言う安さには、無論において理由が付随すべきだろう。畳張りに布団が敷かれた六畳半程度も狭い一室。だが此処に泊まる御仁もよもや思うまい、その天井裏において鼠ではなく、冒涜的な不定形の怪物が身を休めている、などとは。

即ち此処は怪物との相部屋のような状態なのだ。

ドラゴン・ジーン > …天井裏の薄暗い空間には梁が渡り、木造建築のこの旅館の一角において屋根を支えている。その屋根の一部が損傷しているのかぽたぽたと雨漏りに雫が断続的に零れ落ち、その御蔭で空間の湿度は頗るつきに高い、粘液質で出来ている存在としては乾燥よりも遥かに有難い環境と言えるだろう。
無論において安部屋の天井まで管理の手が広く及ぶ筈もなく、埃のうずだかく堆積したそこにはごろりと竜の体が三日月のような弧を描く形で横たわっている。

「………」

その晒した横腹には、産み落としたばかりの幼体達がすりついていた。皆触手のうねりたつような頭足類に似た怪物の容姿だ。ざらざらと丁寧に羊水を舌で舐めとり。長い竜の前肢が己とは似ても似つかぬ子供らを掻き寄せる。
薄っすらと風通しが良く若干寒いこの空間で温める意図だけではなく…哺乳類の遺伝子から採取した所為だろうか、肉を噛み潰した粥だけでは受け入れない性質の幼体が増えて来た。その為に体の一部を変質させている。群がる子供が夢中で吸っているのは、疑似的に横腹に作った浅い隆起と突起。いわば乳房と乳頭という奴になる。
蓄えた炭水化物を分解して乳糖化し、母乳のような液体栄養を産生して此処で授乳させていた。

ドラゴン・ジーン > 「…………」

産まれた者達はその遺伝子の声に従うのだろう、産まれながらの食性や性質なども千差万別だ。ゆらゆらと暗闇に揺らめく触角の薄明りが、いずれはきっと竜に辿り着く可能性の数々を見下ろしながら。
くあ、と、その蜥蜴のような形に編み上げられた頭部が欠伸のように口を拡げる。そして休憩中の慰みにこの空間の床面に空いた穴にへと一瞥を配る。
…最初から此処に空いていた硬貨一枚分程度の大きさの穴だ。多分に昔において従業員の一人か何かが此処に覗き穴として掘削したのだろう。此処からは丁度眼下にある本来の旅館の部屋を見下ろす事が出来るようになっていた。布団のある位置が主要な視野になるということは、やはりそういう用途だったのだろうということが想像出来る。
今現在においては誰も宿泊しに来てはいないようだ、がらんどうの空間は安全であるということを自分にへと物語る。危険な存在が立ち入るならば直ぐにでも逃げた方が良いが。
…しかしながら不幸にもその人物が扱うに易い相手ならばまた話は別になってくる。その審査眼は獲得した遺伝子に基づく『鑑定の魔眼』により培ってきたつもりだ。ぎょろりと触角の淡い輝きが束の間に緑色に瞬き、定期的に観察を繰り返すばかりとなっている。

ドラゴン・ジーン > 「…………」

そして時間が過ぎ去ったその後には、何時の間にか土砂降りであった雨は小雨程度に和らいでいた。此処に留まる必要性の欠いた束の間の居候は雨漏りをしていた屋根の破れ目を抜け出して、子供達と共に場を立ち去っている。一所に留まり過ぎずに移動をし続けることが生き残る上のある種のコツであるからだ。
ぱらぱらと降り舞う薄い雨の気配だけが、場に残り続けている。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からドラゴン・ジーンさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「~♪」

ピーヒョロロと下手っぴな口笛を吹きながら、館内の廊下を一人のんびりと歩く浴衣姿の金髪の男が一人。
着込んだ浴衣は客室に備え付けのものであるが、男の着こなしは何故か妙に様になっていた。

それはそれとして、男は現在旅籠内を探検という名の散歩中である。
この旅籠は知らないうちに道が変わっていたり施設や仕掛けが増えていたりするので
男にとっては適当に歩き回るだけでもなかなかいい暇潰しになるものだった。
知り合いの従業員に聞いたところによると、その妙な特性のおかげで主に女性が迷ってしまう確率が高いらしいが……。

それはさておき、やがてT字路に差し掛かると、男は一旦足を止めて。

「──さて……どっちに行くべきですかねぇ」

右か左か。
廊下の中央で仁王立ちしながら、男は顎に手を当てうぬぅ、と唸りながら思案し始め。

「んんーむ……よし右だな、右へ行くべきと俺の中の何かが囁いている──おおっと!」

軽く悩んだ後、男はおもむろに右側の通路へと踏み出し──その途端に、
ちょうど通りかかった誰かと出くわし、思わず足を止めて上肢をのけぞらせた。