2022/09/12 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場 遊技場」にトーベさんが現れました。
■トーベ > ここは『九頭龍の水浴び場』の遊戯室。
広い室内に、卓球台、ポーカーテーブル、魔導マッサージ椅子などが十分な間をあけて据え付けられている。
器具の貸与や魔導機の起動に多少の小銭が要るものの、利用客は自由にこれらを使うことができる。
腰を震わせたり肩を揉んだりする魔法の椅子に深々と腰掛けてリラックスするもよし。
友人や家族と卓を囲んで遊戯に興じるもよし。
また、筋トレ器具や魔導トレッドミルなど、小規模ながらジム設備も揃えてある。
汗を洗い流す場である公衆浴場。汗をかく施設が併設されるのも道理。温泉に浸かる前にたっぷり汗をかくこともできる。
……え、汗をかきたきゃサウナを使うって?
世間一般的にはそっちの方がマジョリティではあろう。だが彼女にとってそれは「なんか違うッス」とのこと。
「……ま、サウナも嫌いじゃないんスけどねー。走って汗をかくほうがやっぱ楽しいし!」
たっ、たっ、たっ、たっ。長身の少女が、魔導トレッドミルの上で軽快に跳ねている。
魔法の力で無限軌道の床を動かし、上に乗る者を一定の速度で走らせ続ける機械。
――しかし、その設定速度は現在、時速40km。平均的な人間の全力疾走は30km/h前後とされているが、それを余裕で超す設定。
だがトーベにとってはまだこれも全力には至らない速度、されど汗を流すには十分な速度。
トーベは運輸業の家に生まれた娘。すなわち飛脚。馬車などを持たず人力で荷物を運ぶ、この王都ではやや特殊な業態。
ゆえにいつでも仕事があるわけではない。なので仕事がない日はこうして、安全な場所で運動をする。
街中をこんな速度で全力疾走したら危ないしね。
■トーベ > 「ほっ……ほっ……ほっ……ほっ……」
軽快な呼吸をリズミカルに続け、動く床の上で脚を跳ねさせるトーベ。
これほどの速度で走っているにも関わらず、足音は軽い。
強く地面を踏みしめることは脚の負荷にもなるし、機械の上で走る際には機械の故障にも繋がる。
トーベには生まれつき、速く長く走り続ける『天恵の脚』が備わっていた。
その脚はサラブレッドめいて細く引き締まっており、走るために生まれたと思わせるに足る脚線美……と自負している。
美しいかどうかはともかく、走るために生まれたというのはまさしく事実。
魔や妖の血を混ぜず、純粋な人間の身でこれほど超人的な速度で走り続けるのは、天恵(ギフト)と呼ぶ他なかろう。
「ほっ……ほっ……ほっ……ほっ……」
そんな飛脚少女に繰り返し踏まれ続け、必死に無限軌道を回し続ける魔導トレッドミル。
当然これは常人向けに設計された機械のため、本来であれば40km/hなどという危険な速度を設定することはできない。
だがトーベは『とある筋』から裏技を教わっており、この機械のリミッターを一時的に解除する方法を用いていた。
やろうとすれば、手すりについたつまみをクルリと回すことで、いくらでも設定速度を上げられるだろう。
リミッターは皆様知ってのとおり、安全のための措置。利用者が怪我しないように、機械が壊れないように。
それを解除している今、魔導トレッドミルはギュリイィィィィ……と不安を喚起する激しい作動音で動いている。
その音は遊戯室の外にも届くかもしれない。
そして『事故』もいつどのようにして起こるかわからない。トーベは事故の可能性について微塵も考えていないようだけれど。
ご案内:「九頭龍の水浴び場 遊技場」にエルビーさんが現れました。
■エルビー > 余は九頭竜内でトレーニングルーム?なる施設があると聞き、学院の帰り道に寄ったのであった。
学院の中でもそういった部屋はあるのだが、大抵は騎士クラスだったりが集団で使っていることが多く。
余のような独り者には聊か入りづらい空気なのだ。
なので、興味本位で今日はこっちにやってきたのだが。
「…ああ、これはなかなかに大変だぞ。」
今は魔導トレッドミルなる無限に歩いたり走ったりできる装置の上で早歩き位のペースを保っている。
最初は小走りであったが、5分走った所で体力がばててきた。
余は魔力は凄いのだが、普段ではこの程度なのである。
しかし、隣は凄いペースで走り続けている。
凄いのは凄いのだが、次第に異音がしてくるではないか。
大丈夫なのだろうか?
余は少々恐ろしい物を感じ、歩きながら隣に気を付けるようにしていた。
■トーベ > 『天性の飛脚』は長く走るに足るスタミナも備えている。ランナーズハイも長く続く。
しかし、走れば酸素補充のために息は荒くなるし、体温は上がり、汗も相応に流れる。
こちらも走り始めて5分ほど経っているが、少女の着衣はじっとりと湿り、うっすら湯気すらも立ち上り始めている。
どのくらいで切り上げようか、と思案し始めているところ、隣の機械の上でゆっくり歩いている少年が目に入る。
今の今まで他に利用者がいることに気づかなかったくらい、走りに集中していたようだ。
「ほっ……ほっ………ふふ、こんちわッス!
お風呂の前に運動に来たッスか? ボクはそんな感じッスよ。
汗をかくのって楽しいッスよね!」
ペースを落とさず軽やかに脚を前後させながら、少女は横にいる制服姿の少年のほうを向き、笑顔でご挨拶。
金髪のポニテがぶんと跳ね、無数の汗の飛沫を高速稼働中のトレッドミルの上に散らす。
トーベは他の人間のほとんどが自分ほど高速に走れないことは承知している。だからこそ今の商売が成り立っているのだし。
隣の少年も運動が苦手なのだろうことはわかる。ゆっくり歩くのもトレッドミルの正規の使い方である。
早々にバテている彼を揶揄する口は持たないが、それでも、かける声はどうしてもスポ根気質を帯びてしまう。
■エルビー > 一応汗ばむことは想像できたので、運動でも使っている学院の制服で着たのだが。
隣の人は凄いな。
汗が湯気のように広がっている。
だけど日頃よく運動しているのか、汗はさらさらしているし、ほんのり漂う体臭も良い香りをしていた。
余は汗ばんだ状態の相手とどうこうと言うのはあまり経験がないが、なるほどと思ってしまう。
…いかんいかん、何を考えているんだ。
不意に湧いた邪な考えを振り払っていると声を掛けられる。
「こんにちは。
余は物珍しさで身に来ただけだがな。
え、あ、あ~~~~~……楽しいかもしれんな。」
余はこういう時、話を合わせるのが下手なのだ。
相手を楽しませてあげたいという気持ちはあるし、ましてや可愛い子が向こうから声を掛けてくれたのだ。
もっとこう気の利いた答えをしたかったのだが。
出来たのは微妙な笑みを返すくらい。
我ながら少し自己嫌悪を感じつつ、ポニーテールを揺らす女性に視線を向けた。
「いつもそのペースなのか?
むちゃくちゃ早いし、体力も凄いではないか。」
■トーベ > 「物珍しさかー、わかるッスよ! こんな運動用の魔導機械、ここくらいでしか見ないッスもんね。
……あれ、でもキミ学生さん? あの学園にもこのくらいの機械ありそーな気はするけど……どーだったかな?」
はふ、はふ。合間合間に深い呼吸を挟みつつも、トーベは運動中とは思えぬ饒舌さで受け答えする。
下手をすれば舌を噛みそうな雰囲気。きっといつか噛むだろう。
「ふふふ。まぁ運動の得意不得意は人それぞれッスからねー。自分のペースでやるのが一番ッス。
歩くだけでもれっきとした運動ッスからねー。
ボクも1日30分くらいは歩くかな? 寝る時と食事中とトイレとお風呂以外はずっと走ってるかも? あははー」
口下手な少年とは対照的に、トーベの口は減らない。ランナーズハイも若干影響している。
このような場で学生さんに出会うのも珍しいこと。
こちらもまた横の少年をまじまじと見つめ、笑顔で汗を散らしている。
「ボクは宅急便のお仕事をしてるッスよ。トーベ、『マレゾン・スウィフト・デリバリー』のトーベ。よろしくッス!
だから普段からこのペースで走ってるッス。もうちょっと速度出してもいけるッスよ?
よいしょっと……」
他人に運動能力を褒められれば、アホの子トーベ、容易に有頂天になる。
ニッ、と余裕ぶったようにひときわ明るい笑顔を作ってみせると、手すりにある操作つまみを少しひねる。
ギュウウウゥゥゥン…! とトレッドミルの駆動音がさらに甲高く、大きくなる。
速度が45km/hまで上がった。
しかしトーベはなおもその上で、長い脚を前後しつつ、位置をキープし続ける。
■エルビー > 「いかにも、余は学院の生徒であるぞ?
ただ学院の部屋は騎士クラスなどが屯しておってな。
余のような者は入りにくいのだ。
教師に苦言を言って追い出してもらうのも悪いしな。」
詳しいなあこの人。
余はだらだらと歩きながら、感心させられていた。
「おぉぉ。 ずっと走り続けているのか。
よくそんなに足が持つな。
余だと翌日とんでもないことになりそうだ。」
元気な女性だが、口も舌も凄く滑らかだ。
どうやら学院の生徒が興味深いのか、視線を向けられている。
まあ、こういった所でできる出会いもあるのだろう。
「余はエルビー・カルネテルと言う。
…ううん、お主が速いのはよく分かったが。
その、ほどほどにした方がいいのではないか?
さっきから機械が妙な音を出してる気がするが。」
笑顔は爽やかで可愛らしいのだが、余はいよいよハラハラする。
機械の音は速度を上げたことで負担がかかり、発生している気がする。
トーベの本気に付き合わせるといよいよ負担が凄い事になりそうなのだが。
走る時のフォームは綺麗だし、足も引き締まっていていいなとは思うけど。
■トーベ > 「あー確かに! 最近学院の生徒さん増えたって聞いたッスからねー。設備が取り合いになるのも納得ッスよ。
キミはエルビー君ね、よろしく! ……ん? カルネテル? どっかで聞いた家名のようなー……んー……」
少年の名乗りを聞くと、姓の響きに何かひっかかりを感じる。リズミカルに身体を上下しながら首をかしげるトーベ。
現在王都で最も有力な王族はカルネテル家。
おそらく貴族やその関係者であれば周知だろうし、平民でも多くが知っているこの街の常識であろう。
だが、トーベはどちらかといえば浅学。名乗られた姓と王族の家名を、即座には結びつけられなかったようだ。
しばし思案する仕草をして(「しばし」ほんの1秒弱の間だったが)、また横を向き直り、無邪気な笑みをつくる。
「……ま、いいか! ともかくよろしくね! ……ん、機械の音、気になるッスか?
たしかにちょっと速度上げすぎたかもッスね。壊したら宿に弁償しなきゃだし、パパにも怒られるッス……。
汗も十分かいたし、そろそろ終わりにするッスよ。キミもこれからお風呂に……」
そう言いながらトーベは機械のつまみを逆方向に回し、稼働速度を徐々に下げようとする。
……が、たしかに止める方向に操作したのにも関わらず、稼働音は変わらない。速度も変わらない。
あれ? と呟きつつさらにつまみを回しても、魔導機械は無反応。
「……………あはは……は……止まらないッス。壊れちゃった、かも?」
無邪気な笑顔が、徐々に苦笑いに変わっていく。ほんのり眉間にシワを寄せて、口角を引き上げて。
速度自体はまだまだ何十分も走り続けられるレベルだが、機械を壊したことについてはさすがのトーベも焦りを隠せない。
「どーしよー…?」
■エルビー > 「カルネテルを知らんのか?
…まあ、そっちはいいか。
とにかく学院の設備は取り合い状態でな。
余のような普段使わない生徒が取るのは忍びない状態なのだ。」
言えば開けてくれるだろうが、そこまでして使いたいわけでもなく。
それよりも余が気になったのはカルネテルを知らない事だ。
別に知らないことを咎めるつもりはないが、この街で商売をしててそんなものなのか?
「うむ、よろしくな。
…そうだな、確かにこの手の道具は高いと聴く。
ふむむ、風呂か。良さそうだが…。」
嫌な予感は的中か。
どうやら速度を下げようとしても機械が反応しない模様。
余は自分の機械を止めてから、トーベの方へと近づく。
機械の様子見を見るに、一時的な事象の様だ。
恐らく放っておけば直る気がする。
と言っても、技師ではないので素人の見立てだが。
「トーベ、降りられるか?
この様子だと暫く放っておけば元に戻るように見えるぞ。
ちょうど他に利用客もおらん。
…風呂にでも入って時間を潰せばいいのではないか?」
なんだか悪い事を提案してる気もするが、穏便にやり過ごすにはこれが一番だろう。
トーベも焦っているようだし、二人で風呂で頭を冷やした方がいいように思える。
■トーベ > 「ふッ………ふッ………はふっ…………そ、そうッス。ウチ、あまり裕福じゃないッスから。
こんな高価そうな機械、弁償は難しそうッス………あうう……」
後悔先に立たず。能天気なトーベも明らかな焦りの色を帯び始め、呼吸も上がり始める。
運動に伴う充実の汗を上書きするように、嫌な冷や汗がにじみ始める。
エルビーも相槌を打ったとおり、さっさと風呂に入って流したいところだが……まずはこの異常事態を収めねば。
「お、降りる……そうッスね。降りられはすると思うッス。
でもこの速度だから、ヘタに飛び降りようとするとどこに飛ぶかわからないのが怖いッスね……。
後ろに飛び降りるか、あるいはただ脚を止めるだけなら後ろに転げ落ちるのは確かッスけど……」
リミッターを切るために『裏ワザ』を使って動かしていたトーベ。一応はこの機械の構造も大まかに把握している。
たしか機械の前方に、魔力供給のための機械(バッテリー)が取り付けられていたハズ。
これを抜き取れば止まるだろう。しかし走りながらでは抜き取れないし、抜いた時に急停止しないとは限らない。
結局のところ、トーベがこの機械から降りるのが先決なのだが。
周囲を確認している余裕もない。機械の上で走り続けるかぎり故障の可能性はどんどん増していく。覚悟を決めなければ。
「……お、降りるッスよ? ボク、降りるッスよ? エルビー君、近くにいないほうがいいッスよ?
それとも、受け止めてくれるなら……ちょっとうれしいッスけどね?」
異常な音で稼働を続ける機械の上、せっせとハムスターめいて走り続けながら。
トーベははやる鼓動を抑えるように深呼吸を重ねつつ、意を決するようにごくりとつばを飲み込んだ。
そして……走る脚を止めた。がくん、と日に焼けた長身が後方にふっとばされる。
■エルビー > 「最悪うちの屋敷から技師を派遣して直してもらうとしよう。
魔導機械は大抵高いものな。
余でも弁償と言われたら頭を抱えると思う。」
さっきまでの自信満々な様子が打って変わって、すっかり焦っている。
今かいでいる汗はいわゆる冷や汗かな? それとも油汗?
何にせよ、相当なピンチのようだ。
「ううむ……なるほどなるほど。」
トーベはこの機会をよく使うだけあって構造を把握しているようで。
余はトーベの少し後ろの位置が両手を広げて構えて置いた。
体は余の方が小さいのだが、いざとなれば魔法で体の不足を補える。
「…おっと。」
余は両手を広げたまま、凄まじい勢いで吹き飛んでくるトーベを受け止めた。
普段は使用を控えている、本来の力を発揮し。
小さい体ながら、両腕と体で受け止め、抱きかかえる。
「大丈夫であったか?」
その後、ゆっくりと床に下ろしてやる。
それはいいのだが、失敗したらどうしようと考えていたので少々緊張して居た様だ。
成功して気が抜け、余はトーベの隣でへなへなと尻もちをついてしまう。
歩けない訳ではないので、肩を貸してくれれば風呂に向かうこともできるが。
■トーベ > 「ひゃわっ!」
遊技場の風景が後ろから前へと高速で流れる。走ることが趣味のトーベにとっては極めて珍しい、後ろにふっとばされる感覚。
時速45kmで動くトレッドミルの上で止まるのは、それに近い速度で弾き出されるということ。
エルビーの助けなくば、少女の172cmの長身は床を何度もきりもみしながら転げ回り、向こうの卓球台に突っ込んでいたところ。
そして同体格の者が受け止めたとて、ふっ飛ばされる距離が半減こそすれ、諸共に転んでめちゃくちゃになってしまうのがオチ。
……が。エルビーと名乗った少年は。
その小さな体で、トーベの持つ運動エネルギーのほとんどを吸収してしまった。
どちらの肉体も遊技場の床に倒れ伏すことなく、無傷で受け止めきったようだ。
「……………だ、大丈夫ッスか、エルビー君!?」
相手を気遣う言葉を、少年と少女はほぼ同時に発した。
ぶつかったのではなく、受け止められた。互いに無事であることは、相手の声に苦痛の色がないことからは確かであったが。
床に少女を降ろした後、がくりとくずおれる少年の様子にはちょっぴり不安にもなるものの、ざっと見てもやはり外傷はない。
ちなみに言うまでもないが、エルビーが魔族であることには露も気づいていない。今のところ。
「……エルビー君、力持ちッスね! ボクをあんなにがっちり受け止めて。転ばないなんて!
ありがとうッス、エルビー君! キミのおかげで助かったッスよ!」
緊張がほぐれたのか、目尻に涙を浮かべつつも賢明に笑顔を作り、へたり込む少年の肩を揺すって礼を述べる少女。
やや顔同士の距離が近い。ランニングで上がりきった少女の息が惜しげもなく少年に拭きかかる。
脱力したエルビーと異なり、トーベはまだまだ動ける。むしろ動かないとランナーズハイが途切れ、疲れの波がどっと来る。
エルビーへの気遣いはそこそこに、少女は機械の前方に周り、バッテリーを抜く。機械の駆動音が急速に収まっていく。
これで止まるし、解除したリミッターについてもリセットされるだろう。まずは一件落着。
「これでよし、と。立てるッスか、エルビー君?
お互い嫌な汗かいちゃったし、お風呂に行くッスよ? ボクは行きたいッス!」
エルビーに手を差し伸べる。立てないようであれば惜しげもなく肩を貸して。
そうして、風呂場へと向かっていくであろう。今のお風呂は男女別だったか、それとも混浴だったか……。
■エルビー > 「余は大丈夫だぞ?
トーベも大丈夫で何よりだな。」
いくら身体能力を高めたと言っても、自分よりも大きい相手を受け止めるのはなかなか疲れる。
それと多少の緊張もあって余の身体は糸が切れたようにぺたんと尻もちをついてしまう。
上手く受け止めることができ、どちらも傷などできなかったことは上出来だろう。
「ふはははは…。
そうであろう、そうであろう。
余のすばらしさに恐れ入るがいい。」
本来ならもっともっとこう力強く笑い、胸を張る所だが。
今日は疲れているので頼りなく発生するだけで終わってしまった。
だがトーベに揺らされ、甘い吐息を浴びると少しその気になってしまう。
どうやら機械も無事に鎮静化したようだ。
我が家から人を呼ぶ必要もないだろう。
「ああ、余も入るとしよう。」
折角なので肩を借りて風呂場まで向かう。
この時はそこまで考え付かなかったかのだが。
ここの風呂はたまに混浴の時がある。
そして風呂の形式も日によって違ったり。
で、今はなんと混浴だけのようだ。
おまけに小さい貸し切り風呂を使う形式のようで。
既に複数の風呂が借りられていて、別々の風呂を借りられる状況でもない様だ。
「どうする? 余と一緒に入っても構わんか?」
余としてはむしろ一緒に入りたいところだ。
だが、トーベはどう思っているだろうか。
■トーベ > 「はー、まったく。ヒヤヒヤしたッスよ。
変なところ見せちゃって済まなかったッスね、エルビー君。キミがいてくれてほんと助かったッスよ」
猿のごとく敏捷なトーベ、床を転げ回って机にぶつかっても大怪我には至らなかったであろう。
しかし痛いよりは痛くないほうがいい。ましてや先程のエルビーの力強い受け止めっぷりには感心するほかない。
そのあとで腰を抜かすあたりには愛嬌も感じる。ともかく頼もしい少年だ。
婿に迎えるならこういう男の人が相応しいんだろうなー、などと廊下を歩きながらモヤモヤ妄想しつつ。
……もっともこの妄想はすぐに振り払わねばならぬことに自ら気付くのだが。
さて、やってきました浴場の前。混浴の貸し切り風呂しかないとは。
「――あー。うん。ボクは別に一緒に入っても構わないッスけど?
順番に入るよりは一緒のほうが、長く休めるし……でも」
更衣室(これも男女共通)にエルビーを導くと、とりあえず手近なスツールに腰を下ろさせて。
さすがにそろそろ自分で立てる頃だと思いたいが。
「……その。ボク、思い出したッス。カルネテル家ってこの国でかなーり偉い王族の家じゃなかったッスかね?
ボクなんかと、こんなところで一緒にお風呂なんか入っていいのかなって……その……どーなんスかね?」
棚からバスタオルを取り出しつつ、やや伏し目がちな表情、遠慮がちな声で。
今更ながら思い出した相手の家名について言及し、謙遜する仕草をする。
「ま、まあ。エルビー君が良いっていうなら、さっき助けてもらった借りもあるし。
お返しに身体を流すくらいのことはするッスけどね! ボクなんかでよければ……ふふっ」
――言葉上は謙遜しつつも、トーベ自身はさっさと入浴準備を始めてしまっているが。
バスタオルを巻き、その下で衣服をスイスイと脱いでいって。汗をたっぷり含んだスパッツがべとりと落ちる。
ポニテも解いてウェービーなセミロングに髪型を変えると、自宅のバスルームのような気軽さで浴室へと向かっていく。
エルビーがやっぱりやめると言った場合、問答無用で先に風呂場を取らんばかりの行動の迅速さ。
■エルビー > 「いやあ。
そうであろう、そうであろう。
余でなければ勢いの付いたお主を受け止めることはできなかったであろう。」
トーべの身軽さをこの時はよくわかっておらず。
仮に知っていたとしても余は得意げになっていたと思う。
人から敬われたり、慕われるのが大好きな余。
こんな風に感謝されると当然有頂天だ。
「おお、ここまですまんな。
流石に自分で立てるぞ。」
腰を下ろす間もなく立ち上がり、腰を前後に捻ってみたり。
うん、すっかり元通りだ。
「その点は問題ないな。
カルネテル家も家が多くてな。
余はその中でも末の家のしかも養子だ。
トーベと風呂に入っても何ら問題ないぞ。」
今頃余の家の凄さを理解したかと、鼻を鳴らす。
「いいな、それは楽しそうだ。」
余は汗まみれの制服を脱ぐと、タオルを手に風呂へと向かう。
浴室は檜なる香りのする木材で作られており、温泉の香りと合わさって良い匂いだ。
だが、余は浴室に入ってからは素早く掛湯をし、さっと湯の中へと入った。
…既に余の一部がトーベの身体に反応しているからであるのだが。
肝心の湯そのものが透明なのだ。
はたして、トーベはどのような反応をしてくることか。
■トーベ > 「わぁー。小さめのお風呂とは聞いてたッスけど、これでもウチの風呂よりは何倍もでかいッスね!」
脱衣するエルビーを尻目に、先に風呂場へと歩み入るバスタオル姿のトーベ。
2人で入るには十分に広いといえる浴場だ。ヒノキの香りが、ここが由緒ある温泉宿であることを思い出させる。
タオルを裸体に纏ったまま、洗い場の前にかがみ、少年が来るのを待ち受けるトーベであったが。
「……ありゃ、エルビー君は先に湯船に入るタイプだったッスか?
ボクは汗っかきだし、先に洗わないとお湯に浸かりたくない方なんスよねー。ふふ、性格の差かな?
じゃあボクが先に身体洗うッスよ。だからその……あんまり見ないようにしてね?」
湯船へとまっすぐ向かってしまう少年を見て、ふんす、と鼻息を鳴らすトーベ。
なぜ彼がそうしたのか、真の理由についてはまだ気づかず。
さりとて、みだりに異性に裸を見せることの不埒さはいかにアホのトーベでも認識していて。
洗い場の椅子に座り、バスタオルの覆いを解く……その前に一応、少年に釘は差しておく。
もっとも、狭い浴場である。洗い場と湯船の距離はほとんどない。
よほど意識して目を背けないかぎり、身体を洗うトーベの裸体はいやでも目に入ってしまうだろうけれど。
「……んー。末の家とか養子とかだったりしても、カルネテル家はカルネテル家ッスよね? 地位っての、あるんスよね?
ボクなんかが気軽に『君』付けで呼んでよかったのかな? 『エルビー様』のほうがよかったりするッスか?」
減らない口を叩き続けながら、石鹸をたっぷり手にとって髪を洗い始める。わしゃわしゃ、雑な洗いっぷり。
よく日に焼けた肌だが、服に隠されていた臀部と胸周りは焼けておらず白い。そのコントラストは強め。
スレンダーなトルソのラインの中、慎ましやかに膨れた乳房はハリが強く、桜色の突端は上向き。
髪を洗う仕草にゆられて、ふよふよと揺れる。
とりあえずまだ、エルビーの勃起っぷりには気づいていない。
だがトーベが身体を洗うペースはかなり早い。頑張って落ち着けないと、すぐ湯船へとやってくるだろう。
そんな彼を挑発するように、トーベは無遠慮かつ無自覚にその健康的な裸体を見せつけているが…。
■エルビー > 「そうなのか。
広い風呂で良かったな。」
正直、我が家の風呂よりは狭いのだが。
それをここで言うのはあまり良くない気がした。
折角楽しんでいるトーベの気を悪くするのは止めておこう。
「分かっておるぞ。」
まあ、見るなと言われても視界の端には入ってしまうのだがな。
両目を閉じればいいのだが、わざわざ他所の風呂に入ってそれもな…。
体を洗う際もそうだが、何をしなくても綺麗な背中が目に付いてしまう。
隣で運動していた時から思っていたが、トーベは身体が非常に魅力的だ。
「一応貴族にはなるが、別にトーベは余に使えているわけでもないだろう。
だからエルビー君で構わないぞ。
トーベがどうしても様で呼びたくなった時が来れば、その時に呼べばいい。」
堅苦しく気を使われても困る。
それにしても…。
髪を洗う時になるとトーベの注意が緩むのか。
綺麗な素肌やハリのよい胸が割とはっきりと見えてしまう。
これでは落ち着かせるどころか、余のチンポは最早どうしようもない程に勃起していた。
既に直立状態であり、大きさも人並みを超えている。
この状態では隠しても限界があるので、余はもう諦めた。
一応腰にタオルを巻いていたが、それも外れて湯の上を浮いている。
おまけに取ろうと手を伸ばそうとしたタイミングでトーベが湯の中に。
流石にこの状態で体を洗いに行くのも難しい。
進退窮まった余は、湯の中で気まずい表情を浮かべている。
■トーベ > 「んー、そだねー。エルビー君がそれでいいなら、エルビー君で。
キミに仕える、かぁ。ボクには大事な家があるから、そんなことにはならないと思うッスけど。
……あ、でも万が一家の経営が傾いて、貴族や王族に買われるみたいなことになったら、そうなる可能性もあるんスかね?」
そういうことがないとは言えない封建社会。
トーベにとってはなるべく避けたい事態ではあるが、仮にエルビーの家に仕えるとしたら、とバカなりに考えを巡らせてみて。
「……ん、やっぱりないッス。もうしばらくエルビー君はエルビー君ッスね!」
それでもやっぱり、トーベにとって一番大事なのはマレゾンの家のことと、商売のこと。
結婚するとしても婿を取ることで家を継続するのを選ぶだろう。その考え方の範疇では、エルビーは高嶺の花。
友達の関係性にとどめておくのが良いのだろう、ということでひとつ考えを落ち着ける。
――そんな風に語らいつつ、早々に身体まで洗い終えてしまうトーベ。
一旦バスタオルを纏って立ち上がり、湯船にそっと座ってから身体を隠しつつタオルを取り払って。
洗っている間はエルビーは目を背けてくれていたと信じて、トーベは慎ましく裸を隠しながらも少年と同じ湯へと入った。
……とはいえ、やはり広いとは言えない浴室と湯船。そして透明な泉質。
意識して目を背けなければどうしても相手の裸体は目に入ってしまう。相手を見ずに会話するのは良くないと考える性格。
沈黙に耐えられず、声をかけようとしてエルビーの方を向けば、どうしても股間で主張するモノが目に入ってしまう。
「…………………っ……」
発しようとした言葉を詰まらせ、恥ずかしがるように目を伏せる……が、視界の端には少年の裸体を収め続けて。
そして相手の方を向いたことで、トーベの裸体もまた、ゆらめく水の中で相手の眼前にさらされることとなる。
日焼けのくっきりと刻まれた胸と臀部はもちろん、おへその下で揺らめくささやかな陰毛も顕となる。
脚は閉じているため、もっとも恥ずかしい部位は見せていないが。
「………エルビー君って、家来とか侍女とか……いるんスか?
…………キレイな女の人とか、家にいたりするんスか? ………平民とは違う、血筋のいい、いい子が……」
顔を伏せたまま、いよいよ沈黙が我慢できなくなって言葉を発する。
他愛無い質問を装いつつ、自分の身体を言外に卑下するような問いかけ。
■エルビー > 「その時は真っ先に余の所へ相談に来ると言い。
無論そんな時が来ないことが最良だが、何があるかわからんからな。
ちなみに余の元の従者達はのびのびしているぞ。
のびのびしすぎてたまに困ることもあるが。」
余が知る限りでもこの国では浮き沈みが見られる。
どこぞの平民が取りたてられて貴族の仲間入りをしたとか、
逆に落ちぶれたとか。
それら全てを余が救うのは無理だが、せめて知り合いだけは守ってやりたい。
エルビー君。
他の貴族がどう思うか分からんが、余はこの言い方も気に入っている。
こんな風に気軽に接してくる相手も嬉しい。
だが、今はそれほど広くない湯船に二人。
いつしかお互いの裸体を曝け出す格好になってしまい。
しかもお互いそれをはっきりと認識してしまった。
なんとも気まずい沈黙が暫く流れてしまう。
だが、その沈黙を切ったのはトーベの方から。
余は静かにトーベの言葉に耳を傾け。
「何を言っている?
トーベも綺麗な女の人に入るぞ。
それと余は相手を選ぶ際に身分などは関係ない。
当然、血筋もだ。」
これはいいのだろうと判断し、身体を近づけた。
互いの方が擦れ合う程に近づいてから、トーベの腰に手を回し、抱き寄せようと。
そのまま、トーベの唇を奪ってしまうだろう。
無論、途中で嫌がる様な素振りを見せない場合に置いて。
■トーベ > 異性の身体をみだりに見るのは紳士淑女のすることではない。育ちのよくないトーベでもそのくらいは心得ている。
他方で、性的には十分に成熟した乙女であるトーベ。同じ年頃の異性の肉体が気にならないわけがない。
――そんな排反の気持ちがせめぎ合って、完全に目を背けるには至らず。
目の端でチラチラとエルビーの下半身を捉えていたわけだが……その相手の身体が、ずいとこちらに迫ってくる。
驚きつつ伏せていた顔を上げ、相手が何をしようとしてるのか確かめようとする、が。
トーベがエルビーの行動を理解しようとするより先に、ぐいと抱き寄せられ、唇が奪われていた。
「……んむっ……!」
驚愕に目をまるく見開く。だが、すぐにうっとりと蕩けて、瞼が再び伏せられる。
眠たげに虚ろな眼となるが、両の瞳孔はまっすぐ、間近に迫った少年の目線を捉えていて。
唇を重ねたまま、1つ2つ、深い呼吸をする。少年の口から吐息を受け取り、熱く湿った乙女の吐息を返す。
さすがに初心なトーベ、それ以上のアプローチはできない。エルビーが舌を差し込んだりするなら、されるがまま。
だが、ひとしきり互いの口の味を確かめた後に唇が離れれば、少女から紡がれる最初の言葉は、否定。
「……だめッス……。
相手を選ぶのに身分を選ばないって言っても、あなたはエルビー・カルネテルで、ボクはトーベ・マレゾン。
ボクにも家があって……その……深い関係になる人は、ボクの家の人になってくれる相手じゃないと……。
……でないと、ボクの家が……」
恋愛の経験すらないトーベでも、エルビーが彼女に今からしようとしていることは薄々感づいている。
しかしこのまま深い関係になってしまうのは、家への裏切りになってしまうことも知っている。
しがない弱小商家マレゾンにとっても、国の一大巨頭であるカルネテルにとっても。
だがトーベはやはり恋愛弱者。
唇を重ね、身体を重ねるのは、互いに将来を誓い合った者同士でやることばかりではない、ということを知らない。
彼の積極的アプローチを重大なものと受け取り、必要以上にキョドっている、そのことを自覚できない。
他方で、身体は正直。
体を寄せてきた雄の気配に、存在感に、フェロモンに、否応なく雌の反応を示してしまう。
頑なに閉じていた脚から力が抜け、徐々に開いていく。秘すべき花弁が露わになっていく。
脚だけでなく全身からも緊張が抜け、抱きかかえなければそのまま湯船に沈んでしまいそう。
無理やりコトを進めてしまうなら、このスポーツ少女から処女を奪うことはあまりにも容易い。
「…………ど、どどど……どうしよう………。
だめッス、だめッス………こんなこと……エルビー君……」
建前と本能の食い違いに、混乱し始めるトーベ。
不安げに視線をキョロキョロさせつつも、自身をかき抱く少年の顔を視界から外せない。
ご案内:「九頭龍の水浴び場 遊技場」からエルビーさんが去りました。
■トーベ > 【つづく…】
ご案内:「九頭龍の水浴び場 遊技場」からトーベさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にリクさんが現れました。
■リク > 「…………」
(暑い、というより熱い。一度水風呂から戻ってきて、どかっと座り腕を組み目を閉じる。木の床と壁、段差、湿度。いわゆるサウナ、こっちに来てから覚えたのだがこれがなかなか良い。水風呂と交互に入ることで「トトノウ」というのがクセになるこの施設に1人。)
「とは言えな、贅沢しちまったし……そろそろ割のいい仕事でも見つけねぇと……」
(エンゲル係数が高い青年は、ため息一つ、それから背を伸ばしたり肩を回したり、年齢的にもいまだ筋骨隆々とまではいかないが、引き締まったしなやかそうな筋肉で覆われた細かいキズの目立つ身体のメンテナンスなどをして)