2022/08/20 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にファビオさんが現れました。
ファビオ > 白い湯気に包まれた地下大浴場の片隅で、カラリと微かに入口の扉が開く音。
濡れた足が床を踏む足音も微かに、湯気に煙る中足を進めるのは灰髪の痩躯。
その腰元に大きめの布を巻き付けた程度の格好の侭、やがて湯船の近くまで辿り着くのだけれども。

「――おや……。」

思いがけずその先に認めた先客――それもこの国では見慣れぬ色彩に、ぽつりと零れ落ちた声は感嘆の色に近しく。
彼女が此方の存在に気を留めたのならば恭しく頭を下げて一礼を、
気に留めぬのならば人知れず、その視界の片隅で湯船につかろうとするであろうか。

シシィ > 「────」

水音にただ満たされているそこだからこそ、新たな音を耳は捉えていた。
大浴場を貸し切りにするほどの財力は持っていないし、そんな野暮なことをするつもりもない。

訪れた何某かが無体に及ぶような人物かどうかは、この足音が見せる動き次第だろう、と肩まで湯につかっている女はとくに慌てるそぶりもなく、己がもたれかかっている粗く削りだした石材にもたれかかっていた。

聞こえた小さな声音に改めて一瞥を向けるものの、湯にけぶる中であれば、お互いの視認性はそれほど良くはない。
ただ、向けられた礼に対してこちらも湯の中からできうる限り──首を傾ける程度の礼を返し。

互いに商人であればどこかの会合で見知っていることもあるだろうが───おそらくはその程度。

互いの寛ぐ時間の邪魔にはおそらくならないだろう。

ファビオ > 湯気の所為で互いの容貌の詳細までは見て取れぬものの、
視線の先の相手が小さく礼を返す様を認めたならば、男は人当たりの良さそうな笑みをその表情に貼り付ける。
そのまま、彼女からやや距離を置いた場所へと腰を降ろし、己もまた削り出しの石材へと背を預けながら湯船に半身を沈め、

「……失礼ですが、異国の出身の方で御座いますか?
 嗚呼、御気に障られたのなら申し訳ありません。
 この辺りでは少々珍しい、綺麗な肌の色をされていたもので、つい。」

少しばかりの沈黙を置いてから、何気ない体で口を開いてはそんな問い掛けを投げ掛ける。
もしかしたら、何処かの会合で顔を合わせた事のある相手であったやも知れないが、
少なくとも、此処で親しげに名前を呼び合って距離を詰めるまでの間柄では無い事だけは確かだろう。

シシィ > ばた、ばたばた、と零れ落ちる湯の音と、視界を暈す湯気のヴェール。
言葉の合間を埋めるそれらを愛でる様に、相手から───、声色や、輪郭としては男性なのだろうことは理解しつつ、視線をそちらから仄かに照らされた地下の浴場の景色へと向ける。
林立する柱を模した石柱が、自然の温泉めいたものを演出している。

少し間をおいてからの問いかけに、湯を軽く己の肩にかけて。

「───ええ。わかりやすいですし、気に障るほどのことではございませんわ?」

見たままの事実に、気分を害するほどのこともない。
称賛を含んでいるらしい声音に小さく口許を緩めて、悪戯っぽい笑みを浮かべ。

「お褒めに預かり光栄ですわ、とお答えしたほうがよかったでしょうか」

ファビオ > お互いが口を開く迄の間、耳元に届くのは零れ落ちる雫と、微かな身動ぎに合わせて揺れる水面の音。
不規則に立ち並ぶ石柱の林の中、湯の温かさも相俟ってその静けさに心地良さを感じ始めていたものの。

「――いえ、率直に浮かんだ感想が口をついて出た迄で御座います。
 何分、ご婦人に対して心に無いお世辞を言うというのはどうにも苦手なもので。」

地下の大浴場に反響して届いた相手の微笑混じりの声に、此方も微笑混じりに言葉を返し、
されどその腹の内では、ほぅ……と関心を示したような感嘆を人知れず零す。

彼女が浮かべたものとは少々質の異なった、悪戯めいた笑みを湯気の中で密かに浮かべ、
如何なる手段で持ち込み取り出したのか、その手に握られた小瓶の蓋を開け放ち、その中身を湯船へと混入させてゆく。
もしも相手が違和感を察知し、何かしら危機回避の為の行動を取ったのならばそれまで。

しかし其れが叶わぬのなら、湯船に混入された『其れ』は媚薬の効果を浸透させてゆくと同時、
ぬるり、と湯とは異なる粘り気を帯びた液体が彼女の肢体へと絡み付き捕らえてしまおうとするであろうか――

シシィ > ──────ふ、と笑みが陰る。
湯の質が変わったようにも感じられて、少し肌にまとわりつくようなそれに腕を上げた。

とろりと肌を這うそれに目を細め。かすかな嘆息を零した。
こうした悪戯や、戯れ自体は、嫌いではないけれども───。

こうして、捕らえ、彼自身は己をどうしたいのか、を明確にはしないのに落胆した模様を見せて。

「悪戯自体は───嫌いではないですけれど。お先に上がらせていただきますわね」

謝辞めいた声音を向けて、立ち上がる。
女性らしい曲線を描く体躯を惜しげもなく晒して、傍らにあった麻布をするりとまきつけると、首を垂れて。
湯気の向こうへとその身を隠すことになる───。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からシシィさんが去りました。
ファビオ > 「――嗚呼、それは残念。」

全てを見透かしたように、謝辞めいた言葉を残して去って行く女性。
女性的な曲線を描いたその体躯を、褐色の濡れた肌を、湯気の向こうに消えゆくまで名残惜しそうに見送った後で、
湯船に混入した『其れ』を回収し、少し間を置いてから男もまた湯船から上がり、湯気の向こうへとその姿を消していった――

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からファビオさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場/館内廊下」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「~♪」

ピーヒョロロと下手っぴな口笛を吹きながら、館内の廊下を一人のんびりと歩く浴衣姿の金髪の男が一人。
着込んだ浴衣は客室に備え付けのものであるが、男の着こなしは何故か妙に様になっていた。

それはそれとして、男は現在旅籠内を探検という名の散歩中である。
この旅籠は知らないうちに道が変わっていたり施設や仕掛けが増えていたりするので
男にとっては適当に歩き回るだけでもなかなかいい暇潰しになるものだった。
知り合いの従業員に聞いたところによると、その妙な特性のおかげで主に女性が迷ってしまう確率が高いらしいが……。

それはさておき、やがてT字路に差し掛かると、男は一旦足を止めて。

「──さて……どっちに行くべきですかねぇ」

右か左か。
廊下の中央で仁王立ちしながら、男は顎に手を当てうぬぅ、と唸りながら思案し始め。

「んんーむ……よし左だな、左へ行くべきと俺の中の何かが囁いている──おおっと!」

しばらく悩んだ後、男はおもむろに左側の通路へと踏み出し──その途端に、
ちょうど通りかかった誰かと出くわし、思わず足を止めて上肢をのけぞらせた。