2021/05/03 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にリーアンさんが現れました。
リーアン > 受付カウンタの係員が、何か喚いているのを無視して飛び込んだ。
後ろ姿を見かけた、あれは確かに、己の知る顔であったと思う。
以前にも何度か、其の人物の消息を辿ろうと訪れたことがあるけれど、
此処に居る、という確証は無く、門前払いになっていたのだ。

けれど今日は、確かに顔を見たと思う。
奥に向かって歩いて行く、別人のように虚ろな表情も気になったが、
其れは追いついて、捕まえて、話を聞けば良いことだろう。

「待って、……お願い、待って!」

異国風だという建物の構造は、己にはまるで迷路のよう。
とある角を曲がってみたところで、完全に、後ろ姿を見失った。
ひとまずは歩調を緩め、慎重に、肩で息をしながら廊下を進む。

板張りの廊下を挟んで、左右に木製の、引き戸、と呼ばれる扉が並ぶ。
どうやら客室なのだろうとは思うが――――何故か不自然な程、静まり返っていた。
まるで誰かが、何かが、息をひそめて此方を窺っているような。
あるいは何者かが狙い澄まして、奇襲を仕掛けようとしているのでは。
―――――そんな馬鹿げた想像すら浮かんで、溜め息交じりに首を振り。

「駄目ね、……どんどん、疑心暗鬼になってる」

自嘲気味に呟きながらも、取り敢えずは此のフロア位、奥まで検分しようと。
今のところ、旅籠のスタッフが追ってくる気配も感じられない。

リーアン > 「―――――――う、あ!」

突然、背後から肩を掴まれた。
引き戻す力に負けて振り返れば、いつの間に追いついたのか、
先刻振り切ってきた係員が、とても良い笑顔で立っている。
笑顔ではあるけれども、蟀谷辺りが引き攣っていそうだった。

「……ああ、解った、済まなかった。
 今直ぐ出て行くから、……手を、離してくれないか」

不法侵入には違いないので、此方は分が悪い。
ぎこちなく微笑みながらそう応じ、大人しく踵を返す意思を示したが、
―――――――肩を掴んだ手が、離されることは無かった。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からリーアンさんが去りました。