2021/02/19 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「~♪」

夜。
ピーヒョロロと下手っぴな口笛を吹きながら、館内の廊下を一人のんびりと歩く浴衣姿の金髪の男が一人。
着込んだ浴衣は客室に備え付けのものであるが、男の着こなしは何故か妙に様になっていた。

それはそれとして、男は現在旅籠内を探検という名の散歩中である。
この旅籠は知らないうちに道が変わっていたり施設や仕掛けが増えていたりするので
男にとっては適当に歩き回るだけでもなかなかいい暇潰しになるものだった。
知り合いの従業員に聞いたところによると、その妙な特性のおかげで主に女性が迷ってしまう確率が高いらしいが……。

それはさておき、やがてT字路に差し掛かると、男は一旦足を止めて。

「──さて……どっちに行くべきですかねぇ」

右か左か。
廊下の中央で仁王立ちしながら、男は顎に手を当てうぬぅ、と唸りながら思案し始め。

「んんーむ……よし左だな、左へ行くべきと俺の中の何かが囁いている──おおっと!」

しばらく悩んだ後、男はおもむろに左側の通路へと踏み出し──その途端に、
ちょうど通りかかった誰かと出くわし、思わず足を止めて上肢をのけぞらせた。

エレイ > 出くわしたのは一般の男性客。互いに軽く謝り合ってから、男はまた歩を進め──
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からエレイさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にシャルティアさんが現れました。
シャルティア > 湯けむり立ち上る露天温泉
夕方に差し掛かるには少し早い時間ゆえか、広い浴場は、小さな影が一つだけ
人懐っこそうな顔立ちの、まだ幼い子供である。少年というにもまだ少し幼い。にこにこと、楽しそうに、嬉しそうに、気持ちよさそうに、温泉に浸かる。
ぬるいお風呂は、ずっとはいってられて、気持ちよくて、大好き。鼻歌を唄いながら、首をゆらゆら揺らす。気持ちよくて眠くなりそうなほどの心地よさ

「えへへ~♪きもちい♪きもちい♪温泉だいすき♪」

のんびりと呟く声も、高いソプラノボイス

シャルティア > ぽかぽかに温まると、温泉から出て、一直線に脱衣場へと向かう
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からシャルティアさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にオウランさんが現れました。
オウラン > 「か~~~~~っ」

子供のような若々しい音で、老人じみた唸るような声が露天風呂に響いた。
雪の粒が時折、ちらほらと降りてきては湯気に混ざる、そういう夜だ。
湯船の中にいて、先の声を上げたのは、傍目にはほんの十歳ばかりに見えよう子供。
それが露天風呂の縁を飾る岩に頭を預け、手足をだらりと伸ばして湯に浮かばせていた。
小さな体が湯船に浮かび、水面より突き出た肌に淡雪。暖められた肌に溶けて消えていく。

「風流よのー……これで酌の者と酒でもあれば尚のこと、上等の夜とも言えようが……」

口を噤めば、しんと静まりかえる。……ほどなく、幾分か離れた宿の内より、艶めいた声が幾つか聞こえてくる。

「なんじゃい、なんじゃい、私が酔う前に盛り始めよって。面白くない」

ぷう、と頬を膨らませる仕草もまた、幼い子供のようではあった。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」にアルファさんが現れました。
アルファ > 盛る肩や胸板がちらほら降る雪が溶けることなく積もるように肌についていた。
寒さを感じぬように払うこと無く洗い場に腰を下ろして頭から湯を被る。
はっとつく息も白くはない。
湯を被って濡れた烏羽のように黒い髪を掻き上げた青年は素足で足音なく湯殿に近づいていく

「おや」

初めて先客に気づいてタオルを腰に結びつけた男は少し離れた場所に長い脚を浸からせてゆき。

「お邪魔させてもらうよ。なんだか今日はお盛んだねぇ。
 寒いからかな?」

白き髪のその小さな人に静かに語りかけた。

オウラン > 「ああん? なんじゃ、その〝お盛ん〟のあぶれ者か?
 寒さが故かどうかは何とも言えぬがな。年中、この国はこんなもんじゃろうて」

ふよふよと湯船に浮かべたままの手足はそのまま、首だけ軽く持ち上げた。
離れた位置に男が座ったのだけ見届けて、視線は空へと戻っていく。
既に十分に湯につかり、体温が上がっているのだろう。顔へ落ちた雪は積もることも無い。
ほのかに赤く色づいた頬で、笑みを浮かべて娘は言った。

「まぁ、いささか日頃より喧しいというのは、頷かざるを得んな。
 冬は音がよう届くからのう。ほれ、耳を澄ませば睦言の中身まで聞き取れそうじゃわい。
 酒の肴にするには、甘ったるくて良いかもしれんがな。……酒はあるか?」

アルファ > 「ハズレ。俺はギルドでの依頼の帰りさ。
 お盛んなのはいつもだが。温泉にまで聞こえてくるとはね」

浮力に任せて浮かぶ先客が仰ぐ空に視線を持ち上げた
立つ湯気に混じりあって消えゆく雪をみてはっと息をついて。

「雪降る中で温かな温泉に浸かる贅沢を味わい
 情事に漏れる声に耳をすませて物想う。なんて思いついてしまったよ。
 酒?あるよ。熱い熱いニホンシュという東方の酒だが」

湯から持ち上げた長い腕が平らな岩の上に置いた徳利とお猪口を両手に持ち。

「温泉につかりながら飲むのがオツだと従業員から聞いた。
 飲む相手がいれば更にいいとね。
 付き合ってくれるかい?」

お猪口を手渡そうとする。その小さな手で受け取るならば小気味良い音を立てて澄んだ清酒をなみなみと注ぐ。

オウラン > 「カッ。それよそれ、先に出さんか!」

酒と聞くや、途端に体を起こす。湯船の底に足がついて、ざばりと立ち上がる。タオル等を巻き付けてはおらず、起伏もくびれもほぼ見当たらない、なだらかな体が露わになった。
ざばざばと湯を掻き分けるように近づいた。それで、手が届く距離に来れば、すとんと落下するように腰を下ろす。湯の中に座ってしまうと、水面には首から上だけがようやく出る程度の短躯だった。湯の中から手が伸びて猪口を掴んだ。
注がれた酒を口元へ運ぶ。息継ぎ一つ、くうっ……

「ん、ん、ん────ぷはあぁっ! うむうむ、やはり温泉には酒じゃのう! どれ、もう一杯寄越せ!」

一息に飲み干して、上機嫌な声を出す。猪口を持った手は男の方へぐうっと突き出して、また猪口を満たすようにせびった。

アルファ > 「おいおい色々と見えてるよ。
 多分子供じゃないんだろうけどさ。いいの?」

酒と聞けば一目散で人目も気にせず近寄る先客に苦笑を浮かべながら徳利に口をつける。
熱い日本酒は体の奥の骨まで沁みるように温もりを与えてくれるだろう。
はっと小さく息をついて微笑んだ青年は、お猪口一つ飲み干した相手に目を丸くして。

「強いね君。それに良い飲みっぷり。
 欲しい?俺と間接キスになるのに構わないなら」

寄せるおちょこにとくとく音を立てて注ぐ。
注ぎ終えてから唇を濡らす程度に徳利を傾け。

「お酒を飲みに九頭龍にきたの?」

空を仰いで薄紅の眸だけ相手に向けて問いかけた。

オウラン > 「なんじゃい、今さら。童でも無し、おなごの裸やら唇やらがそうも珍しいか?
 そんなつまらんことより、とっくりの中身を心配せい。
 この酒は中々に美味じゃ。このまま私一人で飲み干してしまっても構わんでのう」

裸体を見られることも、間接キスとやらも、〝つまらんこと〟と一蹴した。その程度には、目の前の酒の方に気を取られているのだろう。
もう一度満たされた猪口を口に運んで、二杯目は幾らか惜しむように口をつけて啜り、口をつけて傾け──
それでも結局、さほど時間は掛からずに飲み干してしまう。

「うーむ。酒というものはおしなべて、飲むと無くなるのが欠点じゃのう」

当然のように猪口をまた突き出して、三杯目をせびりつつ。

「なに、これと決めた用は無いわ。気まぐれに立ち寄ってな、湯があるじゃろう。ならば当然、入りたくもなるし酒も欲しくなる。
 美味も喰いたくなろうさ。上等な寝床も欲しいとも。そこに有るものは、片っ端から欲しくなる。
 ……さて、そういうそなたの方はどうなのやら。酒を飲むだけであれば、なにもこのような所まで歩いてくる必要もあるまいに。」

アルファ > 「いやいやいや。珍しいんじゃなくてこれでも君に気を遣ってるんだよ。
 はいはい。それじゃ間違ってもこのとっくりを零さないようにしよう。
 酒が惜しくて温を全部飲み干してしまいそうだ」

からかうように語ってから3度目の酒。出る音も変わらず。
徳利を揺らす。酒の量だけ気にする相手に重たげに波打つ酒を教えた。

「そりゃ飲んだらなくなるさ。なくなるからこそ次が欲しくならないかな」

徳利を離して唇の端を手の甲で拭いながら返す。
血など通わぬ雪白の肌も、徐々に人肌のように熱を持ち始めた。

「自由気儘にここにきた。良いね。俺も似たようなもんだけれど。
 ん?」

一度顔を向けて気恥ずかしそうに頬を掻いた。

「ま、期待してたよ。ああいうことが出来ればいいなって」

親指で背後をさす。今も尚も女の嬌声が聞こえてくる旅館を指した。

オウラン > 「無くなるからこそ。短いからこそ。そういう理屈はよう聞くがのう。 それは、あれじゃろ。高い所にあるブドウは酸っぱいという奴じゃろ。
 もしかすれば世の中には、無限に酒の湧き出す徳利があるかも知れんじゃろ!」

酔っ払いの理屈である。……が、実際のところ、まだそこまで酔ったような様子も無い。
肌の赤らみは湯船の暖かさによるもので、饒舌は機嫌が良いから。時折ゆらゆらと体が揺れているのは、きっと夜風が水面を揺らすからだ。
そうして、自分がオウム返しにした問いの答えを聞けば、

「かっ、かっかっか! 相手を探してから来るんじゃったのう!
 旅先で自由に女を捕まえるのは、いっそ魔物を殺すより難しいわい!」

と、身を仰け反らせて大笑する。
三杯目の酒を飲み、空になった猪口を逆さにして、徳利に被せるように返した。

「正直であることは良いがの。酌を務めたことも良し。
 褒美に、私の身体を眺めた見物料は、その二つでチャラにしてやろうぞ」

ざばり。小さな身体が立ち上がる。
十分に湯に浸かって暖まったのか、肌から寒空へ湯気が立つ程。

アルファ > 「無限に酒が湧き出すとしたら飽きないか……いや」

肌が紅潮しゆく相手を見れば笑い声が吐息のように溢れた

「君は飽きそうにないな。それこそ殺してでも奪い取ってしまいそう
 あと笑いすぎだ」

小さな体を反らせて笑うは滑稽で。少し悔しい。その鼻先をきゅっと抓もうとする仕返しをしようとする。
会話と合わせれば酒を飲むペースも早い。口に寄せても一滴も出ない徳利に静かに目を伏せて。

「見たというより見せられた気がしないでもないけれど。
 チャラはありがたい。
 もう上がるのかい?」

立ち上がり湯気立てる体は子供。なれど湯気と雪の白めく靄の中で煌めく肌はなんだか妖艶で。

「俺はアルファっていうんだ。
 よかったらその『相手』になってくれないかい?」

薄く小首を傾げて訪ねた。
もし相手が去るならば引き止めることもせず自分も湯殿から去るだろう。

オウラン > 「いくら浴びても飽きが来ぬ。故に、楽しみとするのよ。
 酒と人、こればかりはやめられぬ。特に人の方は良いなぁ。
 幾ら見ても通り過ぎても、同じものの二つとて無し。まるで飽きる気がせぬよ。
 ま、そういう観点で言うならば──」

立ち上がり、歩き始めた身体が、くるりと立ち止まって振り返る。
長い髪を、結いもせずに湯船につけていた。今はそれが身体にぺたりと張り付いて、薄衣のようだった。
雪と髪と、異なる二つの白色に飾られた娘は、酒臭い息を吐き出して、またカカッと笑った。

「今は、そなたの封を開ける時ではあるまいよ。
 そうさなぁ。もう幾分か老けて、目の下に小皺の出来る頃合いになってからかのう?
 酒の尽きぬ徳利は無いが、口説き文句の尽きぬ男は居るでな。私はこう見えて、情熱的な口説き文句を聞くのが好きじゃ」

また今度な、と。ざばっ、湯を蹴立てて洗い場へ昇り。

「私の名はオウランと言う。
 もったいぶる程の名ではないが、つまらん男に聞かせる名でもない。美味い酒の礼じゃ」

子供のような、小刻みかつ軽やかな足取りで、その姿は遠ざかっていった。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からアルファさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からオウランさんが去りました。