2019/07/08 のログ
ご案内:「九頭龍の水浴び場」にアルブムさんが現れました。
アルブム > 修行の旅を終え、やや遅い時間になってしまったが王都へと帰ってきたアルブム。
旅の疲れを癒そうと、いつも通っている温泉宿へと足を運ぶ。
しかしあいにく、今日のお風呂は混浴しかないようで。
女性の裸に未だ免疫がついておらず、他人の前で素っ裸になるのも気後れするアルブムは、なかなか普通の湯船に入れず。

そんなわけで、普段から閑散としており、かつタオルをはだける必要もない足湯へとやってきてみたら。
そこにもうら若き女性の人影が。こっちにも先客かぁ……と内心舌打ちしてしまいそうになるが。
すぐに、その影に見覚えがあることに気づく。

「………こ、こんばんわ。シスターさん……ですか? この前街道で会った……」

露天の傍らに備わった浅い湯船とベンチ。そこにしずしずと歩み寄りながら、アルブムは先客に声をかける。
お風呂場なのでもちろんタイツは着ていない。髪も解き、長く垂れる金髪は女の子にも見えようか。
日焼けを感じさせない白い肌を晒し、恥ずかしい部分はしっかりとタオルで隠して。
少し自信なさげに、シスターを覗き込むように屈みぎみの姿勢で、そう問う。

シスター・マルレーン > いやー気楽ですねー。
のほほんと口笛でも吹きそうなくらいに普通の人を満喫する。
仕事の顔を一端脱いで、フリーな感じで足をゆらゆらと揺らめかせて。

だから、シスターなんて声をかけられれば、ひゃ、と声が出てしまう。

「……はいはい? ………あー、あの時の。
 この町には慣れましたか?」

一瞬驚いた顔をしつつも、なるほど、と合点がいけばもう大丈夫。
きっちりシスターらしい表情をして微笑みかける。
彼女は生まれてこの方生粋のシスターである、表情をきっちり整える速度だって年季が違う。

母性溢れる微笑みを浮かべましょう。
まあ今はタオル一枚で修道服も何もないですけど。

アルブム > 「はい、アルブムですっ。奇遇ですね、シスターさん。
 この前はお世話になりました、いろんなお話を聞かせてもらえて……ちょっと迷惑かけちゃったかもですが。
 でも、また会えて嬉しいです! ……あ、隣、失礼します」

笑顔を返されれば、アルブムもにっこりと無邪気な笑みを向け、背を正す。
修道服を着ていなくても、その物腰や笑顔の作り方から自然と神職らしさがにじみ出るよう。
その一挙手一投足を以ても、まだぼくには真似できないなぁ……と思ってしまう神職見習いアルブムであった。

隣失礼します、と言いつつも実際には1.5人分ほど間をあけて、足湯のベンチにそっと腰を下ろす。
一日中歩き通しだった足が暖かい湯に包まれ、疲れが一気に解きほぐされるのを感じる。

「………ぁぁああ……あー……気持ちいい……………です。
 ……ん、この町にですか? うーん、故郷を出て都に来てからもう半年以上経ちますけど。
 でも、ぼくの《かみさま》はいっつも『旅をしろ』って言うんです。だから王都に居るのは月に1週間くらいで。
 だから……うーん、故郷以外の場所にはもう慣れましたが、王都はまだまだわかんないことだらけです」

シスターの問いかけには、指を折って都に居る日数を数えつつ、生真面目に応える。
実際未だに自らの家を持たず、宿ぐらしなのだ。

「今回も、ちょうど旅から帰ってきたばかりなんです。5日間くらい……えと……さまよってました。えへ」

足をゆるやかにばたつかせ、湯を撹拌しながら、横の女性に苦笑いを向ける。

シスター・マルレーン > 「いーえ、大丈夫です。
 覚えていてもらえていますし、何にも気にすることはありませんよ。」

言いながら、こっちもふぃー、と声が漏れる。

「なるほど、旅をすることにきっと何か目的があるんでしょうね。
 まあ、王都に住めと言われない限りは、特には大丈夫でしょうかね。」

旅をしろ………その曖昧な問いには少しだけ首を傾げ。
彼女の旅には明確な目的があった。それが人間の欲に塗れたものであったとしても。
本当に何も目的を持たず旅をさせる、その真意がどこにあるのかは分からずに。

「ふふ、そういうことはよくありますよね。
 ちょっといろいろあって私はここ数日は休憩中ですけれど。

 旅も、またしないといけませんね。
 一人旅は大変でしょう。」

んー、と、喜ぶとも悲しむともつかぬ微妙な笑顔で空を見上げる。

アルブム > 「はい。ぼくの旅には目的がある……はずです。《かみさま》が導くのですから」

きっと何か目的がある、そういうシスターの言葉に、アルブムは歯切れ悪く応える。
伏し目がちに視線を落とし、自らの膝小僧を見下ろしながら。まだまだ脚の芯に疲労が残っている。

「……旅の途中、何もないこともあります。ただ疲れて帰ってきただけの時も。
 でも大抵、なにかしら『事件』があります。困ってる人がいたり、悪い魔物と遭遇したり。
 先に悪い奴と遭遇して死んじゃったんであろう人の遺品を、街まで持ち帰ったこともあります。
 ぼくの《かみさま》は、そういう旅の途中で起こることにぼくがどう対処するか、見てるんだと思います」

ちゃぷり、脚を湯から引き上げる。爪の先をじっと見つめながら、やや自信なさげに言う。
実際のところ、そういう事件にうまく対処できた事は数える程度しかない。
たいていのケースではアルブムは慌てふためき、《かみさま》のアドバイスがあってようやく手を伸ばせた感じなのだ。
まぁそれももちろん修行の体をなしていると言えるだろうし、ただ歩くだけでも巡礼者としての鍛錬にはなるだろう。
ともかく、まったくの徒労に終わることはそれほどないのだ。それほどは。

「《かみさま》が言うには、最近のぼく、特に『たるんでる』らしくて。
 ……そ、そうだ。シスターさん、ひとつ……質問しても、いいですか?
 ちょっと……その、失礼にも聞こえちゃうかもしれない質問なのですけれど……」

再び視線を横のシスターに向け、おずおずと確認を取るアルブム。恐縮気味に、そして少しだけ頬を染めて。

シスター・マルレーン > 「そうですね、きっと。」

そこで相手を否定はしない。それがどんなものであるかは分からない以上、そしてそれを彼が信じ切っている以上、それ以上は口にしない。

彼女自身がシスターであることがよりどころのようなものだ。
そういった理解はむしろ、早すぎるほど。

「………うん。
 たくさん反省することがあり、たくさん悩むと思います。
 そこで起こることは、その神様が引き合わせた事件もあるでしょうし、そうではないものもあるでしょう。
 ……そういった物事に、自分から気が付いて、正しいことを為せるかどうかが大切なんでしょうね。」

うん、うん、と静かに頷きながら、ゆるやかな声が漏れる。
彼女がそうあろうと考えている、強い姿。

「……たるんでいる。 まあ、私にわかることならですけどね?」

首を傾げる。
昨日今日と休んでいる自分はたるんでいるのだろうか、少しだけ悩んで、すぐに考えることをやめた。
今は休んでいるのだ。ほんとに。

アルブム > 「はい。『正しいこと』を正しく、間違いなく行えるようになれれば、きっと良いことがあるのです。
 その場での対価だけでなく、もっとこう……地道に『善』を広げていくような。
 みんながみんなを助け合うようになれば、誰もが住みやすい世界になる……って《かみさま》が言ってました」

パニクってしまうこともある。欲望に流されてしまうこともある。けれど、人は成長できる。
《かみさま》はアルブムを見捨てずに導いてくれるし、それゆえにアルブム自身もそう信じることができる。
ほんものの神職に励ましてもらえれば、より一層元気と希望が湧いてくるもの。
顔から苦々しさが消え、子供らしい明るい笑みでシスターを見上げる。が、すぐにまた真顔に戻り。

「それで、質問なんですけど……。
 その………シスターさんは、子供、作りたいですか…?」

子供を作る、その単語の連なりを発した途端、自分が真に何を問うたかを遅れ馳せに理解したように、顔を真赤に染める。
慌てた様子で手をアワアワと振りつつ。

「い、いえ! その、今すぐという話ではなく、いつかは、という話で……いやでも多分、10年20年後って話でもなくて、えと!
 ……ごめんなさい……すごく、悪趣味な質問でした。でも、どうしても気になっちゃって」

また俯いてしまう。

「……みんな、大人になったら家庭を持ち、子供を作るじゃないですか。
 でもぼくの《かみさま》は、『信徒として一人前になるまで子供は作っちゃいけない』ってぼくに言うんです。
 教えを後の世代に継げるほどに学べてない内は、まだ早いって。
 ぼくにとってそれは正しいと思うんですけど、他の神職の方はその辺、どう考えているのかな、って……。
 ……ご、ごめんなさい、レディに向けて、こんな破廉恥な質問……うう……」

シスター・マルレーン > 「………。」

口をつぐむ。今はそれでいいのだろう。
私は正しいことを正しく出来ていないのだから、この子の希望をひっくり返すようなことは言ってはいけないし、言う資格も無い。
微笑みながら、うん、と頷いてあげて。

幾度絶望しただろう。 もうその数は覚えてはいない。

「……ほ。」

子供ときたか、と、目を瞬かせて、うーん、と唸る。
腕を組んで、他に誰もいなくて良かった、なんて、まずはそっちに考えを及ばせる。
おそらく異なる神を信じる少年と、子を為す云々の話をしていたことがバレればえらい目に遭いそうだ。

「そうですね、今は特に考えていませんよ。
 何より、私は神に捧げた身ですからね。

 人それぞれでしょう。一生を神に捧げて過ごす方もいれば、家族を持って守るために生きる人もあります。
 そう考えていても、思い通りにならぬ人もいるでしょう。

 貴方の神の言う通り、人を導ける、人を守れる………。
 自信が無くても、この人を守りたいと思える。

 そんな相手が出来たら、ちゃんと考えればよいのではないかしら。」

シスターであることを思い出した彼女は、強い。
微笑みながら、穏やかに語り聞かせるように子を為す話をしてのける。

やっぱり、シスターとしての年季が違うのだ。
酔っ払いに何度懺悔室で、俺の子供を産んでくれよぉー、とわめかれたか。
遠い目。

アルブム > 「人それぞれ……うん、そうですよね……」

アルブムがしどろもどろに言葉を紡いでかけた問いに、シスターは答えてくれた。
その答えを要約するなら『今は特に考えていない』に集約されるのだけれど。

「……そうでした。子供を作るには、それより前に『けっこん』をする必要があるんですよね。
 家庭を持たないと、子供は育てられない。家庭を持つには、パートナーがいないといけない。
 守りたいと思える相手……。あはは、そんな人、ぼくにはまだいないや……。自分の身を守るので精一杯ですから」

ぎこちなく笑い、おろした髪を乱すように掻く。乾いた笑い声に、笑顔は伴っていない。

「…ただ、その。そういう『パートナーを作る』ってのがどういうものなのか、どういうコトなのかもよく分からなくて。
 ぼく、お父さんもお母さんもいなかったんです。だから『家庭』ってのがどういうモノなのかも知らないんです。
 そんなぼくが、いざ《かみさま》に結婚や子作りを許されたとして、『家庭』を作れるのかも不安になってきちゃって」

横に座るシスターをまっすぐ見つめながら、言葉を選ぶように時々口を噤みつつ、胸の内をあかす。

「……いえ、ぼく自身のことは別にいいんです。ただ、先輩神職者として、シスターの話を聞きたくて、聞いちゃいました。
 シスターは……神に捧げる、ってことは、布教に全力を注ぐってコトでしょうか。
 …やっぱり、布教できるほどになるには自分自身が信徒として成熟してないとダメですよね……がんばらなくちゃ」

シスターの答えを自分なりに噛み砕くように、言葉に紡いでいく。
笑みは消えているけれど、まんまるに目を見開きシスターを見つめるその表情は、まさしく憧憬。

シスター・マルレーン > 「………。」

それにも少し口を閉ざして答えない。
果たして、そうやって思いを遂げるシスターが何人いるのかわからない。
自嘲気味な自分の思考は口にせずに、そうですねー、と少しだけ言葉を漏らして。

「そういうのは、次第に分かってくるものですよ。
 パートナーを作ろうと思って旅をする人も、きっといないでしょう。
 それは内から出てくる感情です。
 その感情を抜きにして、家庭を言葉で学んでも、それで知っている、とは言えません。

 人を大切にして、そして同じように大切にされて。
 人を愛して同じように愛されて。

 そのうち、特別に思える人が現れます。
 そこから、ゆっくり不安と向き合えばいいのです。

 それだけの過程を経て相手を大切にできるのならば、もう家庭だと思いますよ。」

穏やかに、ゆっくりと言葉を選んで。
足湯の温度よりもほどよく緩い言葉をかけながら。

「……あー、私の場合はですね、もうちょっとこう、利権が関係しているというか。
 冒険者としてもうちょっと働くことが義務としてあるっていうか。
 ………やれって命令されてるところがあるっていうか。

 ごほん。 ええ、私も同じなんですよ、旅をしろと言われていて!!」

ぼやきかけて、咳払い。
ええ、言われているんです! 神ならぬ上司に!
口にはしないまま、同じ立場(じゃないけど)なんですよ! って強調しておこう。

アルブム > 「内から出てくる感情……」

シスターの言葉にじっと耳を傾けるアルブム。神職たる彼女の言う真理に、湯を掻く脚の動きも止めて集中する。

結局の所、パートナーという関係を結ぶのは人ふたり分の『感情』を混ぜ合わせることなのだろう。
きっと共感できる人と出会えるかもしれない。しかしそんな間柄でも衝突することだってあるかもしれない。
だけどそんな逆境を経ても続く『とくべつ』を見いだせたなら、それがその時なのだろう。
……まぁ、その前に、まずは出会える必要があるのだけれど。アルブムの場合は、さらに前段階がいくつも。

「……そういう、ものですか。ありがとうございます、シスターさん。ぼくの変な質問に答えてくれて。
 うん……結局、その時が来るまではぼくの頭で考えるだけ無駄ってことですね?
 今後、どんな人と巡り合って、そういう気持ちになれるかもわからないのですから……。
 であれば、ぼくも今しばらくは、《かみさま》を理解することに集中しようと思います! シスターみたいに!」

シスターの答えは、確かに『緩い』。
それは理想論であり、その理想のとおりにいかずに苦渋を舐めている人も王都には大勢いよう。とくにスラム街の方に。
だが、理想を掲げるのも神職のあり方である。ならば自分も杞憂にうじうじ悩むよりも理想を見据えよう。
せめて間違った理想を追い求めないよう、今は『教え』をたどるべき。
シスターの回答から、アルブムはそう溜飲を下げた。
そんなところに突然大声をあげるシスターには、一瞬びくりと肩をすくめてしまう。

「……ひぇ。り、利権、ですか? 上の聖職者さんに言われてお仕事してるってことでしょうか。
 ノーシス教は人口も多いですからね……大変そうです。
 でも、頑張ってるシスターさんはとってもかっこいいですっ! それに、き、キレイ、です……」

傍目にも愚痴とわかる言葉に、アルブムは少し苦笑いを浮かべながらおべっかを使う。
しかし再び相手を女性と認識してしまうと、またコロリと頬を赤らめ、照れに入ってしまう。

シスター・マルレーン > 「考えてもいいですけど、悩んでも仕方ないってことですよ。
 足を止めずに考える。 後ろ向きにならずに考える。
 不安になって相談をしても、きっと同じような答えばかりで、それもまた不安だったのでしょう?」

 言い当てるように、少しだけ首を傾げ。

「ではなかったとしても、きっとそう。
 きっと、考えながら動いて動いて、悩んで立ち止まらないように動いて。

 それができるかできないかで、貴方のこの後の結果が変わってきますから。
 今、こうですよ、なんて言える人なんていないんです。」

ころころと笑って、目を伏せる。
正しい真実を語ることが正しくないことだってある。
それを幾度となく、何度も見てきた。

「ふっふー、そうでしょうそうでしょう。
 恰好よくて綺麗なんですよ?

 ……まー、そうやって褒められることあんまりないですけど。
 どっちかというと力が強かったり、何やっても健康体だったりとかそういうこと褒められるんですよねー」

あははは、っと明るく笑って。
女性であると見られていても、こっちはまるで近所の子供のような扱い。
まあ、相手の見た目が見た目であるが故の、きっちり子ども扱いであった。
タオルで包んでいる身体を改めて隠すこともなく、お湯の中で足を泳がせる。

アルブム > 「不安……はい、不安でした。
 ぼくの《かみさま》は、ぼくが信徒として大成した後、みたいな仮定の話には取り合ってくれませんでしたし。
 相談したのはシスターさんがはじめてです。正直、答えてもらったあとでもまだ不安はありますけど……。
 ……でも、同じように神様に向き合ってるシスターさんの言葉を聞けたのは嬉しかったです」

シスターが実際に向き合ってるのが、神様だったとしても、上司だったとしても。
こうして相談に乗ってくれているシスターは確実に大人で、先輩で。
言葉の曖昧さから不安を拭うことは叶わなかったが、その不安と向き合う自信がついたのは確かだった。

「シスターさんは強くもあるんですね。健康なのは……ふふ、ぼくも同じですけど。
 でもぼくは力はあんまり……いや、多分同年代の子よりは体力あるかな? 旅してますからね。
 それでもシスターさんにはきっと勝てないです。それも神様の加護だったりするんですか?」

この前会った時に見た土木作業の様子を思い出し、今度は彼女の二の腕や腹回りに視線を向けてしまう。
混浴とはいえ、異性のほうに視線をまじまじと向けてしまうのは若干失礼かもしれない。
普段のアルブムならそんなことはできないものだが、シスターに対して向ける目はかなり憧憬の色が濃く。
……ありていに言ってしまえば、アルブムの中でシスターの存在は若干『神格化』されつつある。

シスター・マルレーン > 「……それでいいんですよ。」

不安がもしも消えてなくなるなら、それはきっと……。
彼女は、そんな言葉は口にできない。微笑みながら、相手の言葉にうなずいて、頷いて。

「………それがよく分からないんですよね。
 加護だとは思うんですが…………。
 昔から、ちょっと力は強くて、ちょっと神様の力を貸してもらえたんですよ。

 ………だから、その、………すごい筋肉があるとかじゃないんですよー。
 そこそこはありますけど。」

ほら、と二の腕を自分でつまんで、ころころと笑い。
相手の視線の色が真っ直ぐな物なのは、よく分かる。
不安定な自分に対して、少し眩しすぎる目線ではあるが…………。
でも、その目線を受け止めることに迷いはない。

「………。ま、でも、………きっとそれも私にとっての神様の意志なのでしょう。
 この力で誰かを救えるなら、私もまだまだ頑張りますよ。」

よいしょ、と拳を作ってウィンクをぱちり。
いいお姉さんであろうと、努力をする。

アルブム > 二の腕をつまんで見せたり拳を作るシスターの様子に、アルブムはなおもキラキラとした視線を向ける。
それは憧れの視線であるが、同時に『親近感』も湧きつつあったり。

……たいていの女性は、力自慢であることを恥じるもの。
街なかで見てきた多くの女性がそうだった。非力さを装うことで、男性の顔を立てつつ擦り寄る者が多い。
そういう都会のステレオタイプに感化されつつある中で、シスターの振る舞いは、とても物珍しく、それでいて頼もしく。
自身の性役割よりも『神の徒』としての己に価値を見出しているその姿は、とても尊く見える。
……いいお姉さんではなく、いい人、と見えてしまったのは若干のすれ違いかもしれないけれど。

「……やっぱりシスターさんはすごいです。
 ぼくも、《かみさま》の意志に従って、もっといっぱい人の役に立ちたいです!」

いままでもそうしてきたつもりだったけど、こうして『先輩』の姿を見れば、改めて発奮する。
少なくとも、家庭だの子供だのと言った杞憂にすぎる物事に悩んでる暇はない。
アルブムの問いにハキハキと答えたシスターはきっと、そういう悩みからも解脱してしまってるのだろう。
憧れる。彼女のようになりたい。そう思うごとに、身体の芯に新たな情熱が湧いてくる。

「……ありがとうございました、シスターさん! ぼく、もう変なことで悩むのやめます!
 ぼくもシスターさんみたいに力を奮って、どんどんみんなの役に立ちます! 明日からも……」

ざばぁ、と足湯の湯面を蹴りながら立ち上がる。そして、シスターをマネて拳を握り、細い腕に力を込めてみせる。
すべてを悟りきったかのようなドヤ顔を向け、宣言するようにシスターに言葉を放つが。

「……あっ」

立ち上がった勢いで、タオルが解ける。はらりとベンチの上に落ちる。
一糸まとわぬ姿になったアルブムは、年相応の男の子の証をシスターの眼前にぶらりと見せつけ……。

「…………あ、あああああ…………ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!!」

しばし固まった後、ぎゅっと背を縮こまらせて股間を隠し、転びそうになりながらタオルを拾い。
そのまま逃げるように、室内浴場の方へと小走りで去っていこうとする。

シスター・マルレーン > 「そうですねー、身体は壊さない程度にした方がいいですけどね。
 身体が苦しい時はしっかり休む。
 それで、自分が頑張れる範囲で人の役に立てるようにがんばる、ですよ。」

無理をして身体が壊れて、心も壊れかけた自分が言うのもよろしくないが。
それでも、口にせざるを得ない。

彼女もまた、天涯孤独の身。家族については語れる女ではないのだ。
憧れで見つめられるのは、それはそれで、眩しすぎて辛いところもあり。

「そうそう、しっかり力を蓄えて、そして成長を考えて………
 私はシスター。……シスター・マルレーン。 マリーと呼んでくださいね。」

名前を囁きながら、相手が立ち上がればはらりとタオルが落ちる。
あら、なんて、小さく呟いて頬を押さえ。

「………ふふふ、別に大丈夫なのに。
 でも、私も足湯はそろそろ出ましょうか。」

恥ずかしがっている少年を追いかけて、はしないまま、よっこいしょ、と立ち上がり。
無理に追いかけて、更に恥ずかしがらせても仕方あるまい。
穏やかに微笑んで、その後ろ姿を見送って。

アルブム > (シスター・マルレーン。マリー……キレイな名前……)

2回目の邂逅にして、ようやく名前を聞けた。
しかしこうも恥ずかしい様を見せてしまったあと、戻って名前を呼ぶわけにもいくまい。
その名前を呼ぶとしたら、次に会ったときだ。
そして、次に会うときは、もう少し立派な神の徒になっていたいものである。

さて、少年のその願いは叶うや否や…。

ご案内:「九頭龍の水浴び場」からアルブムさんが去りました。
ご案内:「九頭龍の水浴び場」からシスター・マルレーンさんが去りました。