2023/06/16 のログ
ダアト > 『俺だってなぁ!頑張ってんだよ!』
「そう、じゃな」
『それなのによぉ!どいつもこいつも好き勝手言いやがって』

今にも掴みかからんばかりの剣幕でくだをまく男とその対面で困ったように微笑む女。
どうやら彼は都会と冒険者に夢を見て、立身出世してみせると勢い込んできたはいいものの思っていたより命がけで苦しい活動とそれに見合わない少ない賃金……そんな現状で将来に鬼胎を抱いていたようだ。何故知っているか?さっきご本人がそんな愚痴を吐いていたのを聞いたから。

『俺が何しようが俺のかってだろうが!!』
「うむ」

日々募る不安を吐き出すために酒に溺れ、娼館、果ては組んでいた他冒険者に手を出し更なるトラブルに発展し……そうしてまたそのストレスで酒に溺れ、体を壊し、一人で死んでいく。世間が抱いている冒険者や騎士の華々しい印象とはかけ離れた顛末だが、夢心地で語られる輝かしい存在はお伽噺か極限られた才能の持ち主だけ。それ以外の大半が鳴かず飛ばずで

『俺だってなぁ!
 違うんですよ衛兵さん、俺頑張ってるんだ……』

盛り上がっている所にかけられた声と近づいてくる美丈夫に気圧されたのか、しどろもどろになる男とは対照に、聞き覚えのある声に女は僅かに目を細める。

『違うんだぁ……』

ふらふらと千鳥足で後ずさりながら椅子にガタンと腰掛け、譫言の様に呟く男。
どうやら完全に酔いが回ったようでそのままむにゃむにゃとはき出しながら眠りだしてしまった男と駆け付けた二人を交互に見やり、そっとこちらを伺っていた店主に問題ないと軽く手を振る。
衛兵と思しき雰囲気を纏った男の存在に僅かに静かになっていた他の客もまたそれぞれの話題に戻り、店に先程までの喧騒が戻った。
その中に紛れるように内心ほっと一息ついたところで

「……助か、った。
 客、が少し……興奮、して、しもうた……ようで、な。
 済まぬ、が、少し……寝かせ、て、やって、くれん……か」

僅かに目を伏せながら騒がせて申し訳ないと僅かに会釈。
留置所行は流石に可愛そう。この客も明日の朝にはここであったことを綺麗に忘れているだろう。
自分はそういう存在だからそれは別に構わないが、理解できない罪で懲罰は流石に可愛そうだ。
お代は先に貰っているし。

「……はて」

すん、と小さく鼻を鳴らす。
偶然にも助っ人には心当たりがあった。確かゾス村辺りで出会った騎士だったはずだ。
……けれど、なんだか気になる香りがする。漂う魔性の香りに僅かに考えこむそぶりを見せて

「……お礼と、いう訳、では、ないが
 一杯、ついで、に、少し、占って、いく、かね?
 お代、は、いらぬ、よ。……若い、衛兵、さん」

サウロ > (彼は随分と酔っぱらっているようだ。こういう手合いの相手に慣れているのか、
 ミレー族の青年の方が「まあまあまあ、そうだな、アンタ頑張ってんなあ」と気さくな声で男をなだめていく。
 正直真面目に正論で殴ることしか出来ないサウロよりは、口も回るし共感性も高い彼のほうが適任だろう。
 聞こえてきた会話から、彼は随分と日常的に追い込まれていたことが伺えた程だ。
 相棒が宥めて、そしてふらつきながら椅子に座り直した男が、そのまま眠ってしまえば、
 寝かせてやってくれという彼女の要望に、サウロと黒髪の青年、ジャミルは頷いただろう。
 「こんな硬いとこよりベッドのがマシだろ」と言って、ミレー族の青年は酔いつぶれた男をひょいと背中に担ぎ、
 そのまま店主に伝えて二階の部屋へと運んでいくことになった。
 男の事は彼に任せるとして、改めて彼女の方へと向き直る。)

「お久しぶりです、ご無事で何よりでした。……衛兵ではなく自由騎士のサウロですよ」

(今は私服なので、ゾス村で会った時とは違った印象もあるのかもしれないなと思いつつ。
 改めて自己紹介を兼ねながら、落ちた杯を拾ってテーブルの端に置きつつ、
 男がいなくなって空いた席へと、お邪魔します、と一礼してから椅子に腰を掛けよう。
 ミレー族の青年もそのうち戻っては来るだろうが、今は二人。
 向かい合うようにテーブルについて、彼女の仕事道具、なのであろうカードを見る。)

「占いをされるんですね。あまり経験がないので、新鮮です」

ダアト > 「……覚え、て、おる……のか。」

僅かに目が見開かれる。
程度の差こそあれ、大抵の人間は彼女の事を覚えていない。
一睡すれば顔も思い出せない者も多い中で彼等が自分の事を覚えているというのは存外に驚きだった。

「うむ、……久しい、な。
 普段、は、こんな……夜に、は、出歩か、ぬ、の……じゃが
 ……出歩い、た、甲斐も、ある……という、もの」

けれどそんな驚きも直ぐに飲み込んで浮かべるのは薄い月のような笑み。
喉の奥で笑いながら椅子に座りなおす。一瞬じっと瞳を覗き込めば臆する様子もなくこちらを見返す対の水宝玉。

「……まぁ、仕事柄、かの。
 何、そう……身構え、ず、とも、げん担ぎ、の……ような、もの、じゃ。
 迷った、時、に、騙され、て、みるか……といった、程度、のな。」

その奥を伺うように見つめたあとついと机の上にカードの束を載せて。
あとでジャミルも占っておくかの。と呟き店主に指で数を伝えながら幾つかに分けたカードの上に色のついた透明な石を置いていく。酒場の揺らぐ明かりを反射してキラキラと僅かに輝くそれを指先で転がし、しばらくじっと黙り込んだ後

「して……何、か、聞きた、い、事は……ある、か。
 明日、の、天気、意中の、女子、との、相性や……
 今夜、選ぶ、べき……娼館の、方向、程度、なら……占って、やれ、る、が?」

そんな冗談交じりの言葉と共に僅かに首を傾げ、笑みを浮かべる。
 

サウロ > 「……? はい、勿論」

(確かに覚えている。そう記憶力は悪いほうではないつもりだ。
 が、彼女の驚きは別の意味があるのだろう。
 サウロ自身にも、彼女のことを覚えている理由はわからないが、
 恐らくは覚えている理由、その原因はサウロではなく、ミレー族であるジャミルの方にあるかもしれない。
 ミレーという特殊な血と能力が関わっているのだろう。それにサウロも影響を受けていると言った方が正しい。
 見つめてくる濃い紫紺の瞳、少女のような顔立ち、彼女のことは覚えてはいたけれど、
 改めて見ればこのような可愛らしい顔立ちだっただろうかと、じっと見つめ返すことになる。)

「なるほど……、それじゃあ、お願いします」

(カードと、その上に置かれた透き通って色付く石。
 彼女の細い指先がそれを転がすのを見ながら、告げられた冗談めかす内容には、
 男としては気恥ずかしいものがあり、笑みを浮かべる彼女に困ったように眉尻を下げる。)

「いえ、そういうのは、あまり……ジャミルにはそっちの方がいいかもしれませんが。
 ええと、そうですね……改めて聞かれると難しいな。……運勢、とか」

(何を占ってもらうかを考えていなかった。
 意中の相手がいるわけでもないし、娼館について女性に占ってもらうのは恥ずかしい。
 金運、あるいは恋愛……どれもしっくりこなくて、結局無難なところに落ち着き──。
 ふと、聞きたい事が浮かんでくる。
 しかしどのように告げればいいのか一瞬迷って、額に軽く手を当てて。)

「……その、……少し体調面というか、身体のことで困ってることがあるんですが、
 それは将来的に解決するかどうか……とかは?」

(病気、と捉えられてもおかしくはないざっくりとした聞き方。
 肉体の変調について、明るい方へ進む展望はあるのだろうか。自然と声を潜めていて。)

ダアト > <後日継続予定……>
サウロ > 【中断、次回継続】
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/歓楽街」からサウロさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/歓楽街」からダアトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にヴァンさんが現れました。
ヴァン > 銀髪の男は酒場の奥のテーブルを占拠していた。
目を細めてテーブルの上に広げられた髪を眺める。右手には思いついたものを記すためのペン。
スタウトやソーセージといった食事の類は男が座る隣の椅子の上だ。
周囲の客は男を特に気にした様子もない。図書館での仕事が終わらずに持ち帰ってきたのだろうぐらいの視線が投げかけられている。

「ここの借款は無事完了、この商会への融資は引き上げを検討か?
この家は金が必要らしいが、開発事業が適正か調査が必要だな。誰に頼むか……」

周囲の思惑に反し、男は実家の仕事と男個人の投資を並行して行っていた。
シルバーブレイド家は名前に反し武門の出ではない。交通の要衝を支配するこの家は東方・南方との交易で財を成している。
金が金を産み出すシステムを王都で構築することが男の使命だが、それを理解する者はこの酒場には少ない。
一部の従業員を除けば、男は「宿の一室を借りきってる女好きの図書館司書」に過ぎないのだ。

満席の酒場、唯一空いている男の正面にある椅子に座るのは、どんな者だろう。
男の知己か、まとまった金が必要な者だろうか。あるいは一晩をチップに賭けにきた者かもしれない。

ヴァン > 書類に二重線を引き、何事か書き入れ、纏める。
そんな作業を繰り返すことでテーブルいっぱいに広がっていた紙は4分の1ほどを占拠する程度には片づけられた。
大きく息をつくと、椅子の上に退避させていたスタウトとつまみをテーブルの上に載せる。
ぐび、と喉を鳴らして飲んだ後にまた大きく息をついた。

「一仕事終えた後の酒はまた格別だな……」

椅子に背を預け、天井を仰ぐ。
周囲に視線をやると作業開始時には満席だった店内が、ちらほらと空きテーブルが目立つような時間になっていた。
この時間から入ってくる客は少なかろうな、と思いながら視線を紙束に戻す。