2023/02/05 のログ
■ロイス > 今日は、久しぶりに休日の日。
折角だからと、いつもの冒険者の宿ではなく普通の酒場に来て食事をしようと、仲間から勧められた酒場に来てみた。
中に入ると、店員から「お好きな席にどうぞ」と言われたので、取り合えず酒場を見渡してみたが、
「ん?」
すると、酒に酔った客と会話している少女を見つけた。
机にタロットを広げているのを見ると、どうやら占いをしていたらしい。
珍しいな、と思うが良く見たらその顔に見覚えがあった。
「(一応、声をかけてみようかな)」
そう思い、彼女のいるテーブルに近づく。
彼女と、彼女が話している客に「ちょっと失礼」と手を立てたお辞儀をして、話しかける。
何分、客との会話に割り込んだ上に直接話すのは初めてなので、多少緊張はあるが、
「ええと、少しいいかな?
君、コクマーの子……だよね?
用って程でもないんだけど、ちょっとお話させてもらっても、良いかな」
教師である事を言った方が相手から信用されるかもしれないが、とはいえ、いきなり教師という立場を出すと、相手に余計な緊張や警戒を与えてしまうかもしれない。
故に、敢えて話をしてくれるかどうかだけを聞く。
元より、学院に『酒場に行ってはいけない』という決まりがある訳でも無いのだ。
今忙しいから、と言われれば、そこで引き下がるつもりで聞いている。
■シルキー > そう言えば前回訪れた時に、自分の占いのせいで気になっている人に結婚を申し込みに行くんだと息巻いてしまった男の人がいたけれど。
どうやら上手く行ったらしい……と言うのを聞いて、まぁ、と明るい顔になり。そんなに大事にするつもりはなかったから、責任重大な気がしていて安心できて、胸をなでおろす。
丁度そんなやり取りが一段落ついたところで、対面に座っていた男に向けた占いも終わった所。
少女の周りに集まっていた単なる一般市民の酔いどれ達とは違った、剣を携えた冒険者風……に見える姿が現れて。
「……はい? ええ、昼間は学生として勉強していますが……何かありましたでしょうか」
声を掛けられれば顔をそちらへ上げて反応し。
既にいつものシスター服に着替えていた筈、と学生服でないのを確認するように、自分の服の袖の辺りに触れたりもしながら。
やはりちゃんと着替えていたから、学院にいる間に会った事があったのかしら、と考えて。
■ロイス > 「良かった。ありがとう」
安堵と共に言うと同時、彼女の前にいた客が、こちらに席を薦めてくれた。
重ねて礼を言って座ると、彼女の方は不思議そうに自分の袖に触れていた。
どうやら、かえって疑問を持たせてしまったか、と思い、「ああ、ごめん。自己紹介がまだだったね」と言って。
「俺は、ロイス。コクマー学院で、冒険者クラスの非常勤講師をやってる。
君に声をかけたのは、学内の見回りなんかで偶に見かけてたからで、特に他意はない。
まあ……。君ぐらいの子が、酒場で大人の人に囲まれて話をしていたのが珍しかったから、ってのもあるけど」
冒険者では年齢が大きく違う者が話すのも珍しくないが、そうでなければあまり見られる光景ではない。
周囲の人間にとっては失礼なので言葉を濁したが、犯罪の可能性も一応考慮に入れる必要があった。
その辺を突っ込まれるとちょっと気不味いので、早々に話題を切り替える事にした。
幸い、丁度彼女が触っている服装について、気になる事もあった。
「所で、ええと。その恰好……シスター系の神官服みたいだけど、もしかして本業はそっちなのかな?
シスターさんって、酒場にいるイメージがあんまりないんだけど……」
年齢的には恐らく見習いであろう彼女に対し、本業、と言ったのは冒険者風の言い回しであるが。
さておき、気になるのは気になる。
普通に目立つ服というのもあるが、酒場にシスター、というのも彼の常識だとあまり見ない取り合わせだった。
■シルキー > 相手が名乗るのを聞き、事情を聞けば。
やはり学院内ですれ違う程度には、こちらを見たことがあったのだろうと納得して。
「講師をされてらしたのですね、それならわたしを見たことがあると言うのも分かりますわ。
……わたしはシルキーと申します。はい、学院に通っている間はいち学生ですけれど、普段は小さな教会で見習いシスターとしてお手伝いさせて頂いています」
ふわりと髪を揺らしながら、ゆったりとした一礼をしつつ。
夜遅い時間にこうして教会へでかけていたり、酒場にいたり、と言うシスターが珍しがられるのはいつもの事なのか。
やはりそういう疑問から声を掛けられることも多いようで、その事自体にはあれこれ警戒したりする様子はないようで。
柔らかく微笑んだまま、頷いてから話す。
「よく珍しがられます。皆さん、シスターと言うともっと敬虔で教会に籠もっていて……と思われますものね。
私のいる教会では、市井へ出ることも人助けに繋がるのだから積極的にそうしなさい、と言われていて。
酒場、と言うと意外かもしれませんが……ちゃんとしたお店、であれば外を無闇に歩き回るよりずっと安全なものでしょう?」
■ロイス > 「(礼儀作法がきちんとしている子だな……)」
品のいい子、と言うのがぴったりくる。
余程、奉公先の教会の教育が良いんだろうな、と思う。
……まさか、彼女の所属先が、性的行為を奨励しているとは考えもせずに。
「シルキーさんね。見習いシスターって事は、学院と教会両方の勉強をしてるのか。凄いな……」
無論、学習内容が重なる部分もあるのだろうが、二足の草鞋を履くにはかなり努力が必要なように思われた。
何だかんだ、勉強らしい勉強をあまり経てこなかった彼にとっては、少し眩しい。
「まあ、冒険者のシスターってのもいないではないけど、基本的には教会でお祈りとかしてるイメージだよね。
そういう意味じゃ、変わった教会だけど……でも、良い教えだね」
何であれ、外の世界を知る事は良い事だと。
そう思うのは冒険者という職業柄かもしれないが、彼はその教会に好感を持った。
そして、ちゃんとしたお店と言われると、少し周囲を見て、
「確かに。内装もだけど、お客さんのマナーも良い。
店員さんの態度も良いし……そういう意味では、下手に外を歩くよりかは、って感じか」
マナーが良い人間全員が善人では無いが。
しかし、少なくとも人目のある所で無体を働く可能性は大幅に減る。
礼儀作法だけではなく、頭も良いなと思いつつ、
「まあ、一応教師として、遅くならない内に帰りなさいとは言っておくけど……うん。安心したよ。
生徒がトラブルに遭うのは、できるなら避けたいからね」
これぐらい利発な生徒なら、おかしなことに巻き込まれる可能性は低いだろう。
そろそろ、お暇するかな……とも思うその目の端に、彼女が広げていたタロットが目に入った。
そういえば、自分が話しかける前、この席を譲ってくれた男が占ってもらっていたな、と。
「そういえば、俺が話しかける前にタロットをやってたけど、占いができるのかい?
冒険者にはそういうのが得意なのが少ないから、ちょっと興味があるんだけど……」
■シルキー > 「ロイスさん、も……非常勤講師とおっしゃいましたし、本職は冒険者さまなのですよね、きっと。
それなら、わたしなどよりずっと大変なお仕事だと思います。命の危険がありそうなこととは、わたしは無縁ですもの」
胸の前で両手を合わせて、自分のことは謙遜しつつ小さく首を振り。
冒険者クラスと名乗っていたし、剣を持ってもいるのだからきっと冒険者さんなのだろうと思った様子で。
幸いにも危険な目にはさほど合わずに済んでいる少女は、もちろん街中にいても危険が無いわけではないのだけれど、戦ったり遺跡を調査したりなどと言うお仕事に比べれば自分はずっと安全と思っている。
「治癒魔法のようなものが得意なシスターさまであれば、旅に随伴することもあるのでしょうけれど。
わたし含め、そういう方向には力のない教会ですから……細々と日々の奉仕活動などに務める程度なんです。
積極的にそれを勧めようとする姿勢は、わたしも良い教えと思って努めています」
教会の、外へ出ての奉仕活動と言えば清掃やら炊き出しやらと、概ねそういう印象があるだろう。
それも勿論するのだが、内外含め傍目にはいかがわしい活動も行われている所である。
しかし本人がそれを真面目に人助けと思っているし、実際にそれで癒やされる人々も多くあったから、少女の語る口調からは純粋な意図しか感じられない筈で。
「はい、ご心配ありがとうございます。一応、こんな時間に外にいるのもきちんと認められた上でのことなので……そこはご安心くださいね。
――あ、これは……趣味程度のもので少し恥ずかしいのですけれど。
誰かの悩みを聞いたりすることと、占いをするのとが通ずるものがあると思っていて……もちろん、本物の占い師さまのようにはできませんが」
あまり深刻な話になると本物の占い師さんの所へ、と思うのだけれど。
本当に趣味程度のお悩み相談ぐらいであれば、どうぞ、と頷いて。
■ロイス > 謙遜する彼女を見て、良い子だなあと思う。
無論、教師である自分を立てる部分がないではないのだろうが、言葉自体に嘘はない。
冒険者など、その辺の酒場でたむろするゴロツキと変わらないと唾吐く者もいる事を考えれば、成程。
こうして、占いに来る者が多いのも頷けた。
「まあ、本来シスターの仕事って、奉仕活動や説法が主だろうしね。
冒険者の仕事……魔物と戦ったり、神官の地位を利用して依頼先の村長と交渉する、みたいなのが例外だろうし……」
というか、回復魔法の有無で神官の優劣を決める冒険者界隈は、割とその辺不躾な気がする。
仕事内容が仕事内容だけにやむを得ないが、ちょっと心が汚れている気がして複雑な表情になる。
とはいえ、子供を心配させる訳にも行かない。
冒険者と同様、外の世界で頑張る彼女に、
「うん。人と関わるのは、勿論傷つくこともあるだろうけど、それ以上の実りがきっとあるから。頑張って」
とエールを送る。
どうやら、保護者に当たる教会も許可を出してると安心し、占いの方に頭を切り替える。
あまり重い内容は引かせてしまうし、かといってあまりしょうもない内容でも困ってしまうだろう。
さて、何を相談するかと考えていると、「ああ、そうだ」と思いつき、
「明後日、最近発見された遺跡の探索に行くんだけど、そこの稼ぎがどうなるか、でどうかな。
まあ、遺跡って言っても、小規模なものだし、外観から少し大き目な住居施設か何かだと思うんだけど……」
遺跡の探索と言っても、ある程度の安全が確保されたものだ。
それに、内容が"探索の結果"ではなく"探索の稼ぎ"なら、悪い結果が出ても重い話にはなるまい。
こういう場には相応しいだろうと、そう思いつつ。
■シルキー > 「教会内でも、外にいても……わたしが主にできるのは、やはりお話を聞くこと、ですし。
それはずっと頑張って行きたいな、と。はい、ありがとうございます」
教会で話を聞くと言えば懺悔室が浮かぶところだが、見習いのこの少女であっても、求められればそこであれこれ相談に乗ることもあるようで。
そこもまた普通の教会と違う所ではあるのだが、話してみて気が落ち着く相手を所属するシスター達の中から選ぶ、と言うのもまた安心できるようにするための一つの手法であるらしい。
「……遺跡探索について、ですね――
あまり複雑な占い方をするよりは、場所も場所ですし、少しシンプルに……ううん」
酒場の片隅を借りている、と言う以上はあまり時間をかけて細かく、とは行かず。
であれば、その中で適していそうなのはどんな形だろう、と暫し考えて。
やがてタロットをそっと混ぜはじめると、一つに纏めたカードの中から、三角形に三枚並べて。
その横に、もう一枚だけ置いておく。
それを右下、左下、上……そして横の一枚、と開いていって。
「……あら、逆位置が妙に……この感じは、何か新しいきっかけが必要……なのかしら?ええっとですね――
節制の逆位置、が――今まで、鍛錬はきちんとしてきたのだと思いますが、それをどう活かすかで時折迷っているように見えますね。
現在の位置に法皇の逆位置があるので――自分独りでその迷いをなんとかしようとしていて、上手く答えが見つからないでいるのでは、と思うのです。
未来の位置、これを明後日の探索と読むのであれば……運命の輪の逆位置、ですから――そのまま迷いのあるままでは良い結果にならなそう、です。
解決策を示すカードが、死の正位置、なので――やはり方針を変えてみるのが良い、と思うのですね。
それらを繋げてみると……ロイスさんの場合は、地力はあるのですけれど活かし方が解らず……良い指導者を探してみたり、探索も独りでやらずに複数人で出向いてみて、他の人たちの考え方などを観察して……今の自分に無い方法を取り入れてみたら、3つの逆位置のカードが死のカード……つまり再生の力で反転して、どんどん上手く行くように変わっていく。
――の、ように……わたしは、感じました。……シンプルに、と言って細かくなってしまいましたけれど。
やはり全体的に独りで決めるのがだめ、と出ていますから……明日は、探索の同行者をお探しになってみては?」
■ロイス > 彼女が混ぜ始めたカードを、男は真剣な面持ちで見ていた。
何だかんだ、縁起は担ぐ方だ。勿論、それに引っ張られて命を落とす様ではは本末転倒だが、運というのは侮れない。
ロイス自身、幾度となく『運がなければどうしようもなかった』事態を経験しているのだから。
そして、三角形に並べられたカードは、三枚。
一枚、また一枚と開かれていく。タロットに詳しくないロイスは、それらの意味までは理解できなかったが。
しかし、最後の一枚、死神のカードだけは、その不吉さを絵柄から感じ取ることが出来た。
「(だ、大丈夫かなこれ!?)」
結果が悪くても、悪いのはあくまで運なので彼女のせいではないが。
しかし、流石に不安ではあった。
が、ともかくも話を聞いてみると、まずは自分は自分の力の活かし方を迷っているらしい。
自分ではそんなつもりはなかったが……しかし、考えてみれば
「確かに、遺跡探索からは少し離れるけど、オールマイティに色々出来る様に訓練した分、『これ』という強みはなくなってるな……。
かといって、必要な技能全部を一人で充足できる訳では無い訳で、それは『迷い』なのかもしれない、か」
迷いと言うか、迷走と言うか。
大事なものを判別できていないという意味では、確かに『迷い』と言って良いだろう。
意外と当たってるんじゃないかこの占いと思いつつ、続きを聞く。
今の自分は、一人で何とかしているが、それでは駄目らしい。
これも、続けて言われれば非常に納得のいく話だった。
「そもそも、俺はソロプレイヤーだから、他人の意見を聞く機会ってあんまりないんだよな……。
知り合いの先輩冒険者もそろそろ大分引退してしまったし……」
四十歳となれば、もう引退を考え始める業界である。
相談できる上が居ないし、かといって横のつながりを頼るには、パーティを組んでいないと言うのが響く。
客観的に見ると、実は相当寂しい奴なのかもしれないな……と遠い目になるが、結論としては、
「同行者かあ」
結論としてはシンプルだ。一人では駄目だから、仲間と一緒に行きなさい。
正直、ソロの方が気楽という気持ちもあるが、
「シルキーさんに『人と関わりなさい』って言っちゃったからなあ。
うん、ちょっと頑張ってみるよ」
そう言って、男は窓の外を見た。
もう、すっかり西日も落ちて、そろそろ本格的に客の来る時間に差し掛かっていた。
「あ、そろそろ教師寮に帰って、明日のレジュメ作らないと……。
今日は、お邪魔したね。長話の上、占いまでしてもらっちゃって。
もし、機会があったらその分の埋め合わせをするよ」
そう言うと、席を立ち、そのまま背を向けて店の扉に向かう。
……途中、席を長時間占領した挙句何も注文しなかったのに気付いて店員に平謝りしていたが、最終的には店を出て行った。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からロイスさんが去りました。
■シルキー > 「逆位置が出たり、死のカードみたいに見かけ上は悪いカードのように見えるものでも……全て繋げて見ることで、それぞれをどう良い方向にしていくかと言う指標のようになるんですよ。
ですから――よく、これが出ると悪い意味、のように言われるものでも実はそんなことはないんです」
何がどんな形で出たとしても、そこから状況を好転させるための方針を読み取る。
そういう考え方で占うのがこの少女のやり方であり、ポリシーでもあるようで。
悪いと言われるようなものが出ても、それを脅すように使ったりは決してしないのである。
少しでも助けになればいいな、と思いながら。
帰る様子の相手を見送って、自分もまたそろそろ戻ろうと席を立って。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からシルキーさんが去りました。