2023/02/01 のログ
ヴァン > 外からの音で、風が強くなってきたとわかる。雨は……まだ、止みそうにない。

ぼんやりとした目つきで祭壇の先にある神像を眺める。
その視線には畏敬や崇拝といった感情はない。ただ、モノを見る目つき。
神の不在を証明しようとでもいうのか、祈りの姿勢をとって呟いた。

「願わくば可愛い美少女がこの教会に飛び込んできますように」

言葉にした後で鼻を鳴らした。実際に来たらどうするかなど、考えつく筈もなかった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/教会」にミュゼットさんが現れました。
ミュゼット > 古びた扉が、軋んだ音を立てて開いた。
小さな教会とはいえ、礼拝堂の奥には他にも部屋があったらしく。
夕闇に沈んだ礼拝堂に朧に白く浮かぶ小さな人影が姿を現した。

「あれ……? もしかして、誰かいらっしゃいますか?」

昼間は晴れていたのに、ほんの少し油断しただけで、空は荒れ模様で。
いつもよりも一足早い夜のベールに包まれた礼拝堂の中には、明かりらしいものもない。
誰もいないと思っていたそこに人影が見えると、恐る恐るといった声音で問いかける。
その声は、澄んだソプラノだった。

ヴァン > 建物内の扉が開く前に、人の気配を感じ取った。
広い建物ではない。他の扉から入ってきたか、眠るなど生活音を立てなかったか。

目を細める。少女――美少女だ。どうせならいくつか都合の良い注文でも追加しておけばよかったか。
シスター服を着ているが、この教会の所属ではなかろう。服の造りからしても特殊なシスターだと想像がついた。
ゆっくりと長椅子から立ち上がると、近づいていく。

「急な雨に降られてね。雨が止むまでここで休ませてほしい。
……君は?ここは廃教会だと、そこの張り紙で読んだが。紙の古さから、しばらく前から使われてなさそうだ」

低い、ゆっくりとした声だが、訝し気な感情を混ぜて問いかける。、
男の首から提げられた聖印は神殿騎士団のもの。悪名高いそれにどう反応するかも気になる。

ミュゼット > 「あぁ……急に降ってきましたから。
 この分だと、雪になってもおかしくありませんね。
 私はここの責任者というわけじゃないので、どうぞと言うのもおかしいんですけれど………」

やや怯えを滲ませていた声に、どこか納得したような、ほっとした吐息が混じる。
窓の外を見れば、降りしきる雨はみぞれに変わっている。
雨具もないままに外へと出れば、濡れて風邪を引いてしまうだろう。
雨に降られたという相手に、「大丈夫でしたか」と問いかけて。
ただ許可を求めれると、少し困ったような笑みを浮かべる。

「はい。もう久しく使われていない様子で―――
 それも少し寂しいので、少しお掃除していました。」

使われていないだけで、建物はまだそれほど傷んではいない。
きちんと手入れをすればまだまだ使える。
そうすれば、人々が集う場所にもなるだろう。
そんな考えで、空いた時間に掃除をしていたのだと告げ。

近づいてきた相手の胸元に提げられた聖印は、少女とて見覚えのあるもので。
だからというわけではないけれど、じっと相手の顔を見つめ。

ヴァン > 窓の外を一瞥する。雪にまでなってしまったら、もう諦めて帰った方がいいだろう。
いっそ結晶となってくれた方が身体に付着せず、寒さを凌げる。

「雪か……そう長い距離ではないから、走って帰ることもできるがね。止めばいい、程度さ」

掃除、という言葉には不思議そうな顔をする。もとより、教区の合併が原因の閉鎖だ。
教会以外の用途として使おうとでも言うのだろうか。

「鍵が開いていたが、それも君が?」

広くないとはいえ、一軒家程度の広さはある。一人で掃除するのは大変に思えた。
あわせて、予想していた少女の所属を滲ませる質問をする。

「この聖印が珍しいかい?
ところで、“騎士”は一緒じゃないのか?」

ミュゼット > 「……悩ましいですね。
 本格的に雪になったら、ちょっと雨宿りどころか、一晩明かさないといけなくなるでしょうし……」

天気ばかりは、神の御心と同じく読めないもの。
帰るなら早いほうが良いかもしれない。それでも濡れてしまうのは避けられない。
どちらを選ぶかは優柔不断な少女には難しい。
相手はどうするのだろう、と様子を窺い。

「はい。教会の方にお願いして、貸していただきました。
 掃除するくらいは構わない、と許可もいただいています。
 教会としては使われなくても、行き場のない人が身を寄せられる場所に出来ればいいなと思いまして。」

実現などするはずがない子どもの戯れだと笑われるかもしれない。
現にこうして、鍵を開けていたおかげで、ひとりの騎士が雨宿りができたわけで。
まぁ、事実、賛同者がいるわけではないから、ひとりで地道に掃除しているのだけれど。

「――故郷ではあまりお見かけしませんでした。
 こちらだと色々お噂は耳にしますけれど……
 今はちょっと別行動中…です。」

不躾な聖印への視線に気づいたのか、逆に問われてしまうと少し濁した返事を口にする。
目の前の相手はそうした噂には、当て嵌まらなそうな雰囲気で。
ただ護衛となる騎士は今は不在―――となると、何をされても抗えないわけで。
きゅっと首から下げたロザリオを握りしめ。

ヴァン > 「……なんだ、そんなに遠いのか?俺はここから10分も歩けば帰れるが……」

建物の中は風がないだけ暖かいが、それでも夜は冷え込むだろう。
暖炉はあっても、肝心の薪があるとは思えない。それに十分な寝具も。

「それなら、鍵を戻しにこないからここに見回りに来てくれたりするんじゃないか?」

合併先の教会もそこまで遠くない筈だ。少女のため、というよりは鍵のために人が来る可能性はある。
聖印についての感想を聞けば、自嘲気味に笑う。

「……ま、お察しの通り神殿騎士団だ。今は左遷されて神殿図書館の司書をやっているが。
奉仕隊か。久しぶりに見るな……」

子供というにはもう色づき始めた歳か。さりとて身体が成熟しているとは言い難い。
格好から察するに、もう見習いではないのだろう。とはいえ、護衛役がいないのも妙な話だ。
顔や体つきに視線を向けると、ふむ、と呟いた。
ロザリオを握りしめる手から緊張が伝わってくるが、逃走を試みるまでには至らないようだ。

「ノルマ……があるのは騎士の方だったか。
困っているなら手伝うぜ?もちろん、奉仕は受けるが」

年齢から、まだ慣れていないと踏んだのだろう。からかうような言葉。距離は2mほど。
その後数歩距離を離し、最前列の長椅子に座る。力づくでそういったことはしない、という意思表示。

ミュゼット > 「それは……どうなんでしょうか。」

教会からすれば、既に閉鎖した施設など捨てたも同然。
だから自分のような子ども――多少は特殊な位置づけとはいえ――に簡単に鍵を預けたりしたのだろう。
鍵のためにわざわざ見回りに来るかと言えば、首を傾げるしかできず。

「神殿の、図書館ですか? まだ行ったことないです。」

左遷という単語にやや怪訝そうな表情を見せるけれど、あとに続いた図書館の方に惹かれたらしく。
同じ宗教組織に属してはいても、なかなか足を踏み入れる機会がない。
一度くらいは行ってみたいと目を輝かせ。

「えっと……私の方は困ってはいない、ですよ?
 むしろ、そちらが何かお困りでしたら、お手伝いします。
 といっても、雪を止ませたりはできないんですけど……」

ノルマに関しては頷きを返すものの、それは騎士様のお仕事。
少女からすれば、困っている人を助けられるのであればそれだけで十分で。
とはいえ、ノルマに追われる騎士は今もまさに困っているのかもしれないけれど、それはそれ。

ヴァン > 「平民地区の大神殿に併設されているから、機会があったら来るといい。
君は普段、どこで生活をしているんだ?」

平民地区の大神殿ではないのだろう。奉仕隊の現状を考えると、王城か、あるいは富裕地区か。
少女の反応からすると、自由な時間というのも少なさそうだ。
あまり平民地区に馴染がない印象も受ける。
売春を仄めかす言葉をうまく交わした様子に、驚いたように目を開く。

「困りごと……そうだな。色々溜まっているとか、かな?
冗談はさておき、建物を出ていくなら雪に変わり始めた今がチャンスだと思う。長居すると君の言う通り、帰路につけなくなりそうだ。
最寄りの教会まで送っていこうか?あるいは、俺が住んでいる所は宿屋だから、金さえあれば徒歩10分で暖かい場所で眠れる。
――それとも、この廃教会で俺みたいなオッサンと毛布にくるまって朝まで過ごすかい?」

最初の言葉と、選択肢のうち最後のものは明らかに冗談めかして言っている。男は立ち上がり、教会の入口へと歩き出した。

ミュゼット > 「大神殿――分かりました。機会があったら行かせてもらいます。
 普段は、富裕地区にある教会にお世話になっているんですが、なんだか落ち着かなくて。」

社交辞令かもしれないけれど、誘われたということは立入りを禁止されているわけではなさそう。
そうであれば機会があれば、是非とも行ってみたい。
やや前のめりに、こくこくと頷いて見せ。
一方で、住んでいる場所を問われると、王都でも立派な教会の名を告げる。
ただどうやら立派過ぎて、落ち着かないらしく。

「えと、その……紛らわしい冗談はやめてください。」

本当に困っているならば、恥ずかしいとか言ってはいられない。
耳を赤くしながら、「お手伝いしたほうが良いですか」と尋ねかけ。
冗談と知れば、余計に恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。

「最寄りの教会までお願いしても構いませんか?
 ……最後の選択肢も悪くはないんですけれど、ちょっと寒そうです。」

先程の失敗から、今度はこちらも冗談に乗せて返す。
シスター服の裾を翻しながら、入り口の方へと歩き出した男の後を追いかけていき。

ヴァン > 「あぁ、あの教会か。確かに、少し距離があるな」

富裕地区の教会の名を聞けばすぐ頷くあたり、主教について詳しいことが見て取れる。
冗談については軽く肩を竦めてみせる。

「可愛い子をからかうのは挨拶のようなものさ。――よし、じゃあ鍵を返しにいこうか。頼めば馬車も手配してくれるだろう。
そうだな……今度、時間がある時に暖かい場所でならどうだい?」

最後の言葉は本当に紛らわしい。もしかしたら、冗談ではないのかも。
扉を開けるとするりと動き、少女が教会から出るのを待つように開けたままの姿勢で。
やがて教会はまた、静寂が支配するだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/教会」からミュゼットさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/教会」からヴァンさんが去りました。