2023/01/28 のログ
ヴァン > 「……いかん」

酒を飲んでいても寒いものは寒い。飲む量が少なかったら猶更だ。
酒場から塒まで距離があったせいか、肌寒く感じた頃に見えたのがカフェにある薪ストーブの暖かい色。

酔い覚ましにノンアルコールを入れながら暖をとるのも悪くはない。
黒いロングコートに身を包んだ男は足早にカフェへと入り、コーヒーを頼む。カップを手にすると、先程のストーブの近くへと。
ストーブの席の近くに座ってから、ようやっと先客がいることに気付く。軽く頭を下げてから相手を眺めた。
服装から察するに、己の属する宗派かそうでないかはともかく、似たような立場だとわかった。

「こんばんは。こんな夜にテラス席にいるとは、若いのにずいぶん粋だね」

男の胸元には聖印が提げられている。見る者が見ればノーシス主教の人間であるとはわかるだろう。

シルキー > 特別何もすることが思いつかなくて、本当にただぼんやりと時間が流れるのを感じていた所。
通りゆく人の姿そのものが数少ない中で、ロングコート姿の誰かが同じカフェに入るのもなんとなく眺めていれば、中を通って出てきた先はすぐ側の席。

「はい、こんばんは。今日は……風が無かったものですから。このストーブがなんだか暖かそうに見えましたし。
 ……お勤めを終えられた所なのでしょうか?」

声をかけられればふんわり微笑んで、小さく祈るようにも見える仕草でそっと頭を下げて。
お勤め、と言葉を選んだのは胸元の聖印に気づいたからなのか、特別何かそこに他意を感じるようなものではなく。

ヴァン > 目を細めて、顔だちをまじまじと見る。少女は子供といってもいい顔立ちにも見える。
こんな時間にカフェにいることに少し疑問を覚えたが、そういうこともあるだろうと軽く流す。

「あぁ……確かに、ここ数日に比べると暖かいのは風がないからか。俺もこの光に寄ってきた。
いや。まっとうな司祭ならこんな時間まで仕事はしないさ。それに、酒の匂いはさせないだろう?」

男の口調から酔っていることは明らかだったが、酒場によくいる面倒ごとを起こすタイプとはまた違いそうだ。

「君こそ、仕事の帰りかい?こういった……洒落た場所には、シスターは帰宅してから着替えて、私服で来るものだと思っていたが」

そう言いつつも、そう知り合いが多い訳でもない。思いつくままに言葉を紡ぐ。

シルキー > なんだかじっと見られている気がして、飲んでいたミルクティーが少し口の周りにでも残っていたかしら、と指先でそっと口元を抑えるけれど、指先にそういう感触は特にない。
とすれば髪でも乱れているのかも、となんとなく恥ずかしそうに指先で首の横に垂れる髪をくるくると巻きながら。

「ふふ、そうですね……もう皆さんきっちりお眠りになっている頃ですものね。
 お酒は、実はこっそり飲んでいたりするかもしれませんよ?」

来訪者を招き入れている時間でなければ何をしているかなど解らないほど閉鎖空間であったりするものだから、閉めた途端に酒盛りが始まったりするのかも、なんて不謹慎な事を想像するのはこの少女が居る場所がちょっと緩い、と言うより普通の教会と違っているからかもしれず。

「学院の学び事の後に……夕食のお手伝いが終わるまでは教会でお勤めをしているのですけれど。その後は外へ出たりするのも許されているのです、むしろ、教会内に籠もっていては人助けの機会に恵まれないからと――
 あ、服は……着慣れないものはなんだか落ち着かなくて」

どうやら、日常で必要なお勤め時間が終わった後は、自由時間が保証されているような境遇らしいのだ。

ヴァン > 不躾な視線を向けていることを自覚したのか、軽く謝罪の言葉を述べると視線を外し、周囲を眺めた。
街は相変わらず静かだ。

「こっそり、な。他人にばれるように酒を飲むのは……まぁ、まっとうな宗教者ではないさ」

酒自体は害悪ではないが、酒を起因とする不都合は枚挙に暇がない。
健全な宗教者は身を慎むために酒を避けるし、そうでない者も他人に弱みを握られるのを避けるために公の場では嗜む程度だ。

椅子に深く腰掛けると、両手でカップを持ちながら中身を啜る。長く、白い息が吐き出される。
ストーブの熱を感じてぶるっと震える。寒い中歩いた後に急に温かくなった反動か。
椅子に背を預けて、顔だけを少女の方へと向ける。

「学院……というと、コクマー・ラジエル?若いのに凄いな。
確かに、普段着のようなものか。人助けをするにしても、その服の方がやりやすそうだな。
そういえば、白がメインのシスター服というのも珍しいな。どこだい?」

制服の力、とでもいうべきか。どのような活動をするのかはわからないが、人から信用されやすいだろう。
なんとはなしに所属を問う。記憶の何かにひっかかるのか。

シルキー > 謝られてしまったから、いえ、気にしないでくださいねとまた微笑んで見せる。
指先にぐるぐる巻きになりつつあった、背中までの髪をさっと後ろへ流して。

「飲みすぎると人が変わったようになってしまう方もいますし……こんな季節には、冷え切ってしまわないように少し嗜む程度でしたら良いのでしょうけれど」

富裕地区にあるような教会などであれば、中は暖かいのだろうけれど。細々とした所ほど寒い季節は寒いまま、だから暖を取る手段のひとつとして考えれば仕方のないことなのかも。
自分ではお酒を飲んだりしないから、温かい飲み物や薪ストーブなどが素直に有り難い。吐く息はそうして熱を含んで、隣でそうなっているのと同じように白く流れていって。

「はい、神学を学びに行くことで他の教会の方々の考え方なども広く知るきっかけになりますし……あとは、個人的興味で占術や心理学とか――あっ、それは余談に過ぎますよね。
 この服、まだ見習い用なので白だけなのですが……正式なシスターの方たちは黒もあるんですよ。やはり着慣れた白のままでいることも多いですけど……

 申し遅れましたわ。わたし、見習いシスターのシルキーと言います。所属はプリムタイト小教会、なのですが――名の通りに小さい所ですから、ご存知ないかもしれませんね」

ヴァン > 「はは……そうだな。俺も饒舌になると言われる」

そう言いながらも言葉は少ない。おそらく、本音が出やすいという意味で言われているのだろう。
王都より北、雪がより近しい場所では、少女の言う通り酒が文字通り生命線となるとも聞く。

「神学か。――いや、興味がある学問を修めるのはいいことさ。役に立たない知識など存在しない。
見習いで、白……か。通常は見習いはウィンプルがないだけ、という印象があるが…。
プリムタイト?プリムタイト…………あぁ」

何か思い当たったのか、一人頷いた。
己の行動を説明するように、どう話をするべきか言葉を考えながらとつとつと話す。

「いや。昔、一度だけ知り合いに連れられて行ったことがあってね。
俺は会員、だったか?なる資格がないと言われたな。確か……強い人、違うな。迷わない人だ、と言われた。
あの時50ぐらいだったから……60歳近い、眼鏡をかけた女性、いないかい?」

コーヒーを呷りながら、ふっと笑う。昔のことを思い出したのだろう。
遥か昔のことだ。現在どころか、目の前の少女が物心つく頃に眼鏡の女性はいたかどうか。
名乗られたことでどう返すか、またコーヒーを一口飲んでは考える。

「ヴァン、という。ノーシス主教平民地区の神殿付属図書館で、司書をしている」

シルキー > 「あまり騒がしくても困りますけれど、あまりに何も話さないと、また何を考えていらっしゃるのか解らなくて困ってしまいますから。
 シスターの誰かが……お酒の力を借りないと言えない事もあるのよ、などと言っていたのを思い出しますわ」

話がそれで弾むのなら、そういうお酒もきっと意味はあるのでしょう、と微笑んで。お酒のせいと言うことにしておきたい事もまた人によって色々あるとも思うのだし。

小教会の話が語られ始めれば、まさに自分の居る所で間違いなさそうな内容なのを、まじまじと聞いている。
人物像の方には暫し顎の下に指先を当てて考えているけれど、どの人だろうかなかなか思い当たらない様子で、暫し考え込むようにしたままで。

「いらした事があったのですね。でも10年程昔……となるとまだ私は本当に小さくて、人前には出なかった頃ですからお会いしたことはきっとないのでしょうね……
 ううん、今教会にいらっしゃる方だと……ごめんなさい、思い当たらなくて。でも、迷わない人、と言われたのならそれはある意味良いことなのですよ?」

自分の教会で行われるお勤めのことを、疑ったりしている気持ちは全くなくて。ただ純粋に、迷わずに済むならその方が幸せだと思っている様子で。
神殿関係の司書様なのなら、いつか何かの調べ物などでお会いするかも、と考えながら、再び小さな会釈。

ヴァン > 「耳が痛い話だ。酒の力を借りて言った言葉は、時として信用されない。酒の力を借りねば言えぬ程度の言葉なのかと」

勇気なきゆえに酒の力を借りるのだ。その点を責められると、力を借りた側としては弱い。

「俺もあまり覚えていないが……カウンセリングのようなことをしたよ。当時は俺もだいぶヤキが回っててね。
そうか。あまり体調が優れない様子だったしな。引退されているのだろう。
迷わない、というのが今もってよくわからないが……多分、そうなんだろうな。
人間――ミレーなどの亜人も含めてだが、人間は迷う方がまっとうだと思う。
迷うからこそ悩み、考えるし、他人の考えを参考にする。そして、君達のように相談にのってくれる人達を大切にできる。
迷わない者は一見強く見えるかもしれないが――その実、反射で動く獣と変わらん」

小教会に対する一定の敬意を込めながら語る。その中には自嘲もみてとれた。
コーヒーを飲み干すと、一瞬だけ目を閉じた。ストーブの熱を堪能しているらしい。

「人を癒すという目的自体はとても素晴らしいと思う。シルキーさんも努めるとよい」

男としては、言外に手段について疑問を呈すニュアンスをこめたが、おそらく少女には伝わらなかっただろう。

シルキー > 「それは、きっとお互いの間柄にもよるのでしょうね。気持ちを伝えると言うのは悪いことも起こりますけど、伝えないと起こらない良いこともまたあるものです。言って喧嘩になった後にもっと仲が良くなる、なんて話もあるものでしょう?」

時にはそうして、普段なら隠してしまう本音のようなものをぶつけてみても、と。なんだかばつが悪そうにしている相手に、そういうのもきっと必要なのです、と微笑んで見せる。

「ええ、訪れた方のお話を聞くのがわたし達の本分ですもの。カウンセリング……そうですね、心理学の授業でそういう呼び方も教わりました。わたしも教会でのそういう相談ごととは別に、ささやかな占いをするのですが……それで道筋のひとつでもお手伝いになれば、やはり嬉しいですものね。

 ヴァン様は……きっとご自分の中で答えを探せる方なのでしょうね。それすら難しくなって、誰に頼ったら良いのかも解らなくなるようなことがあるのなら、それは迷いなのでしょうけれど。
 でも、少しの迷いもない方とはまた違って……おっしゃるように、迷い自体は悪いことではありませんから。
 わたしや他のシスター達のように、お手伝いできることもまたありますし――はい、日夜頑張っています」

迷うから優しくもなったりするもので。疑いや迷いを抱かない人と、抱くけれど自分でそれをなんとか出来る人、は同じではないのだと。
後に言われた言葉の方は、やはりそのまま素直に受け取っている様子で。

ヴァン > 「違いない。大事なのは、変えようとする意志だ」

目の前の少女は見かけより成熟しているようだ。感心したように頷く。
顎に手をあてながら、少女の言葉を聞く。

「探せるのだと思う。あるいは、これが答えだと思ったら他の答えの可能性に目を閉ざしているだけかもしれん。
何にせよ、十年近く変わっていないことだけは確かだ。
今は迷うほどの出来事がない、穏やかな生活を送っているよ。
ま……昔一緒に行った奴とは疎遠になったし、プリムタイト教会に行く機会はないかもしれないな」

迷うことがない、というくだりで、男は一瞬言い澱んだ。迷いと表現していいか、自身にすら判別がつかなかった事。
いつか男も迷う日が来るかもしれない。それでも、男が教会に赴くことはおそらくないだろう。
空のコーヒーカップを両手で覆うようにしながら、ふと思い出したかのように言う。

「そういえば君の所は完全に人間相手なんだったか?ミレーやハーフエルフには門戸を開いていないんだったか」

うろ覚えなのか、やや首を傾げながら。主教は信者は多ければ多いほどいいといった様子なので、その対比が気になったようだ。

シルキー > 話の合間に、中身が無くなってしまった様子の相手のコーヒーカップに気づいたからか、自分のぶんをまた頼むのと一緒にと言う形にして、窓越しに中の店員さんを呼んで。
わたしは同じミルクティーをとお願いしながら、どうされますか、と気にしつつ。

「信念のようなものが一つ心に決まったのなら、それは答えとして進む糧にして良いのだと思います。あらゆる可能性に目を向けるのも大切ですけれど……それをしすぎると進めなくなってしまいますもの。
 ふふ、穏やかで居られるのが一番ですわ。それでももし何かであまりに疲弊していたら、教会でなくともお話などお聞かせくださいね」

ただ誰かに話すだけでも考えがまとまったり、それで落ち着けたりと。それも時には必要なのです、と。

「はい、教会の中はそのように……。外でならお話を聞いたりはやはりするのですけれど。
 ミレーの方などはお招きしてもいいようにわたし個人は思わなくもないのですが……何か理由があるのでしょうね、もしかすると身体的には人間の皆さんより強いから、とかでしょうか……?」

まだ見習いだから複雑な事情までは知らないでいるのか、或いはそうなっているからと言うのをそのまま素直に受け止めていただけなのか。
小教会の創始者でもなければ真の事情は解らないのかもしれず、少女自身もなんだか首をかしげて考えていて。

ヴァン > 心遣いに感謝の意を述べながらも、おかわりについては首を横に振る。
もう大分身体が温まってきた。

「信念というと聞こえは良いが、時折それを疑うというか、見つめ直す時期も必要だと思う。
あまり可能性を広く見過ぎてもよくないが、己で閉じてしまうのも勿体ないことだ」

確かにこうやって話しているだけでも、己にとって良いことだと思う。アルコールがなければ、もっとよかっただろう。
カップをテーブルに置くとゆっくりと立ち上がった。

「ま、宗教の戒律ってのは何かしら理由があるものさ。理由がわかると、より理解が深まるかもしれない。
今日はありがとう。久々に昔のことを思い出したよ。また……学院の図書館あたりで、会うことがあるかもしれないな」

懐から硬貨を出し、カップの隣に代金として置くと自宅への方向を向く。
空気は冷たいが、温かい飲み物と暖かいストーブで、歩き出す気力が戻ったようだ。
軽く会釈をすると、カフェから立ち去っていく。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からヴァンさんが去りました。
シルキー > 「お話をしたり相談をしたり……或いは占いだったり、は頭の中で考えるだけではまとまりにくい事を整理する機会でもありますから」

何気ないこういった会話の中でも何か気づいたり、話してみて良かったと思ってもらえるのなら、少女にとってまたそれは嬉しいことでもあるのだろう。

「はい、こちらこそ良い時間を過ごせましたわ。また会えると良いですね――」

席を立つのを、ふわり会釈してから見送って。
もう一杯だけお願いしていた自分の分のミルクティーを、また静かな夜の中で暫し楽しんでから、教会の方へと戻ることにして。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からシルキーさんが去りました。