2022/11/08 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 秋の終わりが近付く、となれば自動的に冬が訪れる。
少し前までは涼味を売りにしていた酒場のメニューも、温かさを売りにしたものへ。
確かに胃の中から温まるというのは、寒空の下で労働に明け暮れていた者達には、覿面に沁みるというのは分かる。
自身の酒場での浮きっぷりを理解している妖仙は、あまり他人と相席ということはしないのだが。
この時分ばかりは別らしい。
眼前では、ぐつぐつ…と鍋が煮えている。
魔導具を用いて熱を起こすプレートの上に、大ぶりな金属鍋がどんっと乗っかっており、濛々と湯気をあげているのだ。

「えぇい、急いては仕損じると言おう。
生煮えで喰ろうて、腹を壊しても知らぬのじゃっ…!」

正方形のテーブル席に居並んでいるのは、初対面か、初対面に近い程度の関係性しか有していない面々。
立ち昇る旨味たっぷりな滋味を連想させる匂いに釣られ、木匙を突っ込もうとした誰彼かを制止する。
特に肉に飢えているとか、懐が寂しいという事情とかは無いから、一人で存分に堪能すればいいのに…だ。

「えぇい、腹っぺらしどもめっ。
そろそろ肉も煮えた頃じゃろうっ、”よし”っ!」

黒い瞳で慎重に鍋の中身を注視し、生煮えを忌避したせいで煮え過ぎて素材の触感もくたくたのぼそぼそにならぬタイミングを見計らってGOサイン。
一斉に伸びる木匙が、大ぶりに切られた鶏肉の上で交錯し、弾き合い、我先にと汁の中に沈む。
まことに、食料を確保するのは戦争である。

ホウセン > 遥か遠方に、”鍋奉行”なる役職がある…とは、王国図書館にも配架されたある冒険家の紀行文に記されている。
何でも、食料の備蓄が乏しくなっていく冬、持ち寄った食材を吟味し、食味を落とさぬよう調理の差配をする、公に任じられる指示役だそうだ。
彼の者の指示に従わない場合、激しい叱責を受けた上で村八分になり、食物にありつけなくなる等の厳しい罰則が科されるという。
座に一人いれば良いものであるが、複数の鍋奉行が同席するとなると、奉行同士の流派の違いによって、血で血を洗う戦となり、鍋の具は真っ赤に染まるという。
――といった記述とは一切合切関係ないのだが。
どうせなら、喧しい食事というのもたまにはよかろうと首を突っ込んでいる妖仙はといえば。
リーチの短さも何のその、妖の眼が持つ動体視力と、敏捷性と、三次元の空間把握能力と、観察による他者の行動予測とをフル活用している。
能力の無駄使いである。
採算性度外視なリソースの大盤振る舞いである。
衝突し合う競争者たちの木匙の間隙を潜り抜け、熟練者の金魚すくいでもこうはなるまいという程、液面を波立たせず。
最短距離の軌道と、最小の時間とでメインの食材である鶏肉を拾い上げて、自身の取り皿に。

「呵々!脇が甘いと見ゆる。
醜く争うて、喰い頃を逃しては元も子もなかろうてっ。」

混戦の只中にある鶏肉戦線を回避し、野菜類を幾つか。
葉物はそろそろ流通が怪しい頃合いであるから、正確には根菜が主体ではあろうか。
馬鈴薯に人参に玉葱に、茸の類も。
汁が赤いのは、赤かぶではなくトマトが土台になっている証左。
そこに塩と出汁と、香草をそこそこ。
ぷん…と食欲に突き刺さるのは、大蒜を磨り潰してペースト状にしたものを溶かし込んでいるからだろう。
総じて南国風のような、でも食材は寒い地方にありそうな。
方々からの流通が確保されているが故の、王都らしい出自のよく分からぬ料理。
さて、味は…といえば。

「はふっ…ほふっ…んむんむ、更に上を目指すなら、改善の余地は堆くなろうが…」

逆接の接続詞で途切れている。
即ち、シチュエーションやら価格帯やらを加味して、及第点なのだろう。
何事にも上から目線なのは相変わらず、傍らに控えていたエールで満たされている木製ジョッキをぐぃっと。

ホウセン > 料理争奪戦は続く。新たな参戦者が現れたかは、まだ見ぬ話ではあるけれど――
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からホウセンさんが去りました。