2022/11/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にレイリエさんが現れました。
■レイリエ > 「―――どうもありがとう御座いました。………失礼致します。」
店先に立った主人へと深く頭を垂れると共に挨拶を述べ、大通りの雑貨店を後にする。
平民地区の中心部に位置する商店通り。
すっかり夜の帳が落ち切ったその中で、ふぅ―――と人知れず零した溜息混じりに闇空を仰ぐ、エルフの女の姿がひとつ。
「………すっかり、遅くなってしまいましたね………。」
独白と共に、今日一日の予定を振り返る。
依頼されていた魔道具の納品、魔法薬の調合や講義で使う素材の買い付け、その他消耗品の買い出し―――
ここ暫くは学院の講義以外、割り当てられた私室兼アトリエに籠りきりだった所為もあり、
久しぶりの外出で一度に予定を詰め込み過ぎてしまったようだ。
夜の通りを出歩いた経験は決して少なく無いが、平民地区の大通りとは言え決して安全とは言い切れない。
次からは気を付けないといけませんね―――と胸の中で自戒しながら、学院への帰り道を目指して歩いてゆく。
■レイリエ > それから暫く、無言で足を進めていった頃。
商店通りの外れ付近で見覚えのある看板の角を曲がり、小さな通りへ。
何度も利用したことのある、商店通りから学院のある区画へと抜ける通り道―――の筈だった。
「―――あら………?」
しかし、不思議そうに首を傾げるエルフの女の目の前に立ち塞がるのは、袋小路の行き止まり。
久しぶり過ぎて道を間違えたかしら―――と一度商店通りまで引き返してみるものの、
曲がり角にある店の看板や周囲の光景は紛れも無く覚えのあるものであったし、
袋小路の壁は古びた石造りで最近新たに造られたという様にも見えない。
「困りましたね………。」
顎先にそっと指先を添えて悩む素振りを見せる。
此処以外の帰り道を知らない訳では無いが、今から其方を通るとすればかなりの遠回りになってしまう。
肩から提げた買い付けた品の詰まった鞄は重く、つい先程懸念した治安の面からも、
日付が変わってしまうまでには無事学院に辿り着きたいところだが―――
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にマヌエラさんが現れました。
■マヌエラ > かつ、かつ、かつ――穏やかな足取り、硬質なヒールの音が夜の路地に木霊した。
「あら、まぁ――こんなところに、壁なんてあったかしらぁ……?」
おっとり、のんびりした声と共に、同じ袋小路へ目を向けたのは、魔術師然とした女だった。
「困ったわね……ここがお散歩コースなのに……?」
聞こえたのは、"困りましたね”という声。長い髪の合間の目をぱちりとさせて、そちらを見やる。
「こんばんはぁ、お嬢さん。お嬢さんも今おかえり? 遅くまでお疲れ様ぁ~~」
やたらと馴れ馴れしく話しかける相手は、金糸のエルフ。
「こんなところに壁なんて、なかったわよねぇ~~?」
のんびりとした口調で同意を求める。
■レイリエ > どうしたものかと考えあぐねていると、種族特有の長い耳が捉えたのは規則的に響くヒールの靴音。
振り返れば、長い髪のローブ姿の女性を視線の先に認め、小さく頭を垂れて会釈をして見せながら。
「―――今晩は………魔術師、の方でしょうか?
はい、学院まで戻る道の途中だったのですが………矢張り、此処にこのような壁、ありませんでしたよね………?」
同意を求めるような、のんびりとした彼女の物言いに。
しかし矢張り自分の思い違いで無かったことを確信すると、僅かに安堵の色を含ませながらその言葉に頷いた。
「そういう貴女は………お散歩、ですか………?」
物言いとは裏腹にさして困った風には見えない彼女の漏らした単語に、小さく首を傾げる。
他人の趣味や習慣に口を挟むつもりは無いが、女性が一人で散歩を愉しむには少々夜が更け過ぎているのではないだろうか―――とでも言いたげに。
■マヌエラ > 「はい! 魔法を使います。マヌエラと申します~」
やはり、のんびりとした口調で自己紹介を。
「それは、難儀しましたね~。学園に戻られるという方は、学生さんでしょうか~? それとも、魔法を教える教師の方ですか~? だとしたら、素晴らしい魔力をお持ちなんでしょうね~」
見た目は神秘的といえなくもないが、相好を崩してにこにこと喋る。
「ええ。私は散歩中です。夜は、色々面白いものや、かわいいものと出会えますから~! お昼のぽかぽかした時の散歩もいいですが、夜のさえざえとした時の散歩もいいものですよね~~」
にこりと笑う。浮世離れした物言いではあっただろう。
「……しかし、いつのまに、何があったんでしょうか~? 貧民地区なら、ギャングの方に雇われた魔術師が、魔法でバリケードを作るのは日常茶飯事とお聞きしますけど~……」
ふむん、と小首をかしげた後に、あ、と口を開く。
「そうです! 魔法で壁だって作れるんですから、魔法で壁を抜ければいいんですよ~!」
■レイリエ > 「ミス・マヌエラ………申し遅れました、私はレイリエ―――学院で教師を務めています。
とはいえ、教えているのは専ら魔道具や魔法薬の作成が主で、魔力の量はたかが知れておりますが………。」
目の前の女性の自己紹介に、エルフの女も名乗りを返す。
神秘的な出で立ちに反して、にこやかな笑みとのんびりとした口調で語られる物言いに、
次第につられるようにエルフの女の表情も少しずつ和らいでいって。
「―――そう、ですか………確かに、夜の空気も時には心地良いものですが………。
ただ、この辺りも決して治安が良いとは言えませんので、どうかご注意を………。」
余計なお世話かも知れませんけれど、と付け加えてから。
やがて、彼女の口から語られる言葉に首を傾げる。貧民地区のギャング達の事情にはとんと詳しくないが、
侵入者の防止や身を隠す為に、壁を作り出す魔法というものが存在するという知識は、エルフの女の中には確かにあった。
「魔法で、壁を………?確かに、理論上では可能なのかも知れませんが………。」
生憎、そのような魔法の知識までは無い。そんなことが可能なのかと言わんばかりに、淡い緑色の瞳が不思議そうに向けられる。
■マヌエラ > 「あらあら、まあまあ! "ミス”だなんて……ご丁寧に。そんな風に呼んでいただけたのは初めて~! ありがとうございます、レイリエ先生! まあ、ご謙遜を――」
ほほえみを絶やさずに、物腰柔らかな教師への感謝を口にする。
「あら、心配までしてくださるのね――レイリエ先生、とっても良い方ね~~! きっと学院でも生徒さんに慕われていらっしゃるでしょうね。ありがとうございます!」
身の安全を心配してくれるレイリエに、更ににっこりと微笑みかける。
「見たことはありますよ~~。砦の付近では、防壁を魔法で作ることもあるようですし~」
どちらかといえば、地形変化などの大規模な魔術行使は魔族サイドが得意とするところか。
「ちょっと待ってくださいね~~」
じぃ、と壁を観察。数歩歩いては観察。を繰り返して、そう時も経たないうちに、
「あ、分かりました~~! これでいけそうです~」
月を背にして、マヌエラの長い影が壁にかかった。その状態で、マヌエラは不可思議な呪文を唱える――と。紫色の魔力がマヌエラとその影の輪郭を燐光となって輝き、一瞬後にちょうど、影のかかった部分が溶けるように消失し、「向こう側」が見えた。
「できました~~!」
そして振り向き、手を差し出し。
「ご一緒にいかがです?」
■レイリエ > 「いえ、私の方こそ、本業の片手間に教師をしているようなものですので、先生と呼ばれるようなことはとても………。」
大輪の花が咲く様ににこやかな笑顔を浮かべる女性の感謝の言葉に、何処かむず痒そうに佇まいを直しながら。
続く彼女の言葉には、嗚呼、と納得がいった風に頷いた様子を見せる。
矢張り、エルフの女にとっては馴染みの薄い世界ではあるが、砦や戦場などといった場所では、
確かにそういった魔法は重宝されることが多いのだろう―――と。
「………驚きました。こんな、いとも簡単に行使してしまうとは………。
ミス・マヌエラは、とても力のある魔術師で居られたのですね………。」
魔術師を名乗る彼女の言葉を疑うつもりは無かったが、
不可思議な呪文ひとつで目の前に立ち塞がっていた壁が溶けてしまうかのように穴を空け、
その向こう側に続く道が姿を覗かせる様に、エルフの女は淡い緑色の瞳を丸くする。
自身も決して魔術の心得が無い訳では無いが、今しがた彼女がやって見せた芸当を出来るかと問われれば首を左右に振るだろう。
そんなことを考えていると、振り向いた彼女から差し出された手。
それでは、お言葉に甘えて―――と、そっと伸ばしたエルフの女の白い手が、差し伸べられたその手を取って―――
■マヌエラ > 「兼業で先生ができるなんて、逆に凄いわ~~!
ひとにものを教えるのは、とっても大変でしょうから~~」
にこにこと笑いながら、心底からの尊敬の眼差しを向けて。
「うふふ、こういうのは得意なんです~~。魔術師としては大したことはないと思うのだけれど、褒めていただけて、とっても嬉しいわ~~」
てれてれ。ボリュームのある髪を手櫛で梳くように頭を掻いた。
「うふふ、参りましょう!」
――取られた手。しっとりとした柔らかな指先の感触を、レイリエの掌に返しながらも、意外なほどに強い力でその手を引いて、今しがたできた「道」を通り抜ければ「向こう側」へ。「道」は即座にしゅるしゅると消える。
「さあ、行きましょう!」
――だが、その違和に気づくだろうか。
どこか、おかしい。
先程まで、こんな霧は出ていなかったはず。
石畳が、硬質さの中に不可思議な生物的柔らかさを備えてはいなかったはず。
月が、2つは、なかったはず――。
■レイリエ > 「そんな………私など本当に、尊敬される教師の器では………。ですが、ありがとう御座います。」
咄嗟に口をついて出たのは、少量の謙遜と多量の本音が入り混じった否定。
しかしながら、目の前の女性から向けられる嘘偽り無い尊敬の眼差しを真っ向から否定してしまうのも憚られて、
ほんの少しだけ照れた様な表情を見せながら、謝辞を述べた。
「ええ………本当に、助かりました………。」
恐らく一人の侭では延々と途方に暮れていたか、遠回りの帰り道を一晩掛けて歩いていたことだろう。
己の手を引く女性の姿に感謝を述べて、壁に開けられた穴を潜りその先の道を進んでゆく。
けれども、歩みを進めてゆく度にエルフの女の中に生まれた違和感は次第に大きくなってゆく。
先程の壁もさることながら、その先の通りはこんな道だっただろうか。
平民地区の街中で、こんな深い霧に包まれることが今までにあっただろうか。
石畳を踏みしめている筈の靴底が、何か柔らかいものに沈んでゆく感覚に、
きょろきょろと不安げに巡らせた淡い緑色の視線は、やがてある筈の無いふたつの月の姿を映して―――
「―――ミス・マヌエラ………?いったい、何処へ向かって………。」
■マヌエラ > 「ご謙遜が過ぎますよ~~」
にこにこ笑う。あけっぴろげな笑み。礼を述べられれば、ウィンクをして「どういたしまして~!」と答えて見せる。が。
変容する景色と増大する違和に、放たれた質問へ、答える。
「私、お散歩終わりにお家に帰ろうと思っていたところで――」
それ自体は先程の言と矛盾はない。
「でも、レイリエ先生が、本当に可愛らしくておきれいで、優しくて良い方なので、私のお家にご招待したいと思ったんです~~」
問いに答えていないように、聞こえる。
だが気づけば霧の向こうから漂う夜気から冷たさは失われ、むしろ生暖かいほどの……生物の体温めいた生暖かさを備えていて。
「ようこそ、いらっしゃいませ~!」
"かかったな”とか"罠にはめたぞ”というような害意の類は一切見えない表情のまま、どこか生物的に変質した石畳を割って、無数の触手がレイリエの足元から「生え」、その体を捉えんと伸びた。