2022/05/09 のログ
■ユーリィ > 困惑しながらでも、その表情はころころと変わる。その変化こそが、少年の興味を惹く。
こういう細かい所を気にすることが出来るのも、酒精に酔ってないからだろう。
やっぱり、お茶が正解だったね、と内心で自分の判断を褒めながら。
「だよねぇ、やっぱり一人で食べるとご飯が味気なくてさぁ。
んー、ミンティはスラッとしてるし、ちょっと位なら平気そうだけど」
でもまぁ、理想の体型っていうのはあるよねぇ、等と頷いて理解を示す。
少年など、そもそも性別すら異なる格好だ。可愛く見せる、と言う努力が前提にある。
だからこそ、外見に気を使う苦労は分かるつもりだった。そう、案外大変なのだ。
「成る程ねぇ。その考えが出来ない人も結構多いから、凄いと思うよ。
……それじゃ、ボクが不真面目な生き方をたっぷり教えてあげちゃおうか?」
彼女に比べれば、少年は不真面目で不道徳でいい加減だ。この時間にケーキを食べる程度に。
ならば、彼女を巻き込んで、不真面目を味わってもらうのも良いのではないか、なんて。
生き方を変えるのは大変でも、真面目な中に息抜きがあってもいいよね、という話。
「ボクがミンティを可愛いって思ってるんだから、ボクにとって可愛いんだよ。
例え、ミンティにとってのミンティが可愛くなくても、ボクにとっては可愛い訳。
……そのギャップ、ある程度埋めとかないと、悪いやつに漬け込まれたりしない?」
つけこもうとした奴がどの口で言うのか、とは思いながらも、心配になってきたのだから仕方ない。
その後、褥への誘いに顔を真っ赤にする彼女を楽しみながら、しかし本人は気にするわけでもなく。
「あぁ、そっか。言ってなかったよね。ボク、女の子じゃないんだ。
この方が可愛くて好きだからこういう格好してるけど、ちゃんと女性が好きな男の子さ。
でもまぁ、今日はお近づきの印ってやつだから、ベッドにはまた今度、ちゃんと誘うことにするね」
衆目は皆酔っ払いだ。わざわざ二人の会話を出歯亀している奇特なやつも中々居るまい。
ましてや、少年の正体を知っているならば余計に。うっかり騙されたやつも少なくはないのだ。
それがどうして、彼女には騙し討ちをせずに正直になってしまったのか、これは全くわからない。
ともあれ、ケーキを少しずつ食べ進めて、二人の皿の上が綺麗サッパリなくなったなら。
「はぁ、美味しかったねぇ。酒場なのに、随分とお洒落で素敵――とか言ったら怒られるかな。
さて、それじゃ今日は送っていくよ。夜の一人歩きは危険だし、エスコートしてあげちゃう」
そんな訳で、どうかしら、と彼女にはにっこり微笑みかけて。承諾されたなら、そのまま送り狼を演じることになるだろう。
その後は、王都での楽しみが一つ増えた、と鼻歌交じりの上機嫌で、どこぞの塒に返っていったとか――。
■ミンティ > 放っておくと人形みたいに同じ顔のままながら、コミュニケーション下手な分だけ、感情も揺さぶられやすい。眉は目元は特に、その時の気持ちを反映しやすく。
そんな顔を観察されているのに気がつくと、対応に困って、下を向きがちになった。
振り回されて薄れてしまった落ち着きを取り戻すため、またお茶に手を伸ばし。
「……わたしも、小さいころは、みんなで食べる事が多かったので…なんとなく、わかりました。
おかず、取られたりしないのは……いいんですけど…」
孤児院にいたころの、騒がしい食事風景を思い出す。すこしの間、懐かしむように目を瞼を伏せて。
また容姿を褒めてもらえると、わざとらしいくらいのぎこちなさで、聞こえなかったふりを決めこんだ。
ケーキを口に運んだフォークを咥えたまま動きをとめたから、明らかに不自然だったかもしれないけれど。
「……不真面目な生き方…、できるんでしょうか……わたしに…」
悪い遊びへの誘いだろうかと小首をかしげて考えこむ。どんな事をするのかも思い浮かばないくらい遊び慣れしていないから、想像しようとしたところで、なにも思いつかなかったけれど。
いざとなったら怖気づいてしまいそうだと考えると、はふ、と自分の意気地なさに今から溜息がこぼれてしまい。
そうしている間にも、可愛いという言葉を畳みかけられて、頬どころか、耳まで真っ赤になっていく。
自分自身でもそこまでひどい顔だとは思っていないけれど、地味だ、愛嬌がない、とは考えていて。
そんな自己評価だから、どんな表情を浮かべていいのかもわからず、ぅー、と困ったように小さく唸り、俯いているしかできなくなって。
悪い奴に、という問いには思い当たるふしが多々。
とはいえ、初対面の相手に話す事でもないだろうと、なにもない風を装い。ぱくぱくと、残りすくなくなってきたケーキを口に運び続け。
「……っ…………?!
ぇ、おとこのこ…………?…え、と…、…………え?」
残り一口だったケーキの小さな欠片を飲みこもうとしたところで、いきなりの告白に咽てしまう。
ぱちぱちとまばたきを繰り返しながら、相手の姿をあらためて見てみるけれど、やはり同性にしか思えない。
嘘を言っているようにも見えないけれど、からかわれているのかと半信半疑のまま。
ベッドへのお誘いを繰り返されると、もう、と小声でこぼし、不貞腐れたように眉を寄せて。
「はい。おいしかった、です。あの、本当に、ありがとう…ごちそうさま、でした。
……あ、えと、じゃあ…、……ん、と、……お願い……します……」
ケーキを食べ終え、お茶を飲み干して。こんな時間に摂取する甘味に罪悪感もあったけれど、おいしかったという感想に偽りはない。もう一度頭を下げて、席から腰を上げて。
そのまま家まで送ろうという申し出に、ぱちくりと目を丸くする。頭に先ほどの告白がよぎると、すこし躊躇する部分もあった。
夜道、男の人に物陰に引きずりこまれるような経験は、この王都で生まれ育った女として、それなりにある。弱気な分だけ多い方かもしれない。
ただ、仮に目の前の相手が本当に男の子だったとしても、おかしな事はされないだろうと思えた。その気があるなら、異性だと明かしもしなかっただろうから。
考えた末、こくんと頷き、同伴をお願いする。帰り道では、あいかわらず会話を振られては固まったり、ぎこちない返答をしたりしていた事だろう…。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からユーリィさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/露店通り」にオルトゥスの棺さんが現れました。
■オルトゥスの棺 > 深夜。
夜の辺りまで賑わっていた露店通り。
流石にこの時間ともなれば人の姿は皆無だ。
品物を取り払った露台がいくつか、寒々しく並んでいるだけ。
商魂たくましい商売人達が、万が一にも商品を忘れるはずもないが
ただ、ひとつだけ。例外があった。
それは、昼間、雑貨商人が使っていた露台。
元冒険者という彼が、冒険や交易で手に入れたものを並べていた店。
いくつも並んでいた商品の中に、それは紛れていたのかも知れない。
それとも、いつの間にかそこにあったのか。
いずれにせよ、露台の端に匣は置いてあった。
職人が注意深く測ったように正確な立方体。
滑らかな金属の表面は、夜の街の風景を映し出す。
表面に不規則に走る切れ目。
まるでパズルのように幾枚、幾十枚の金属板を組み合わせたような隙間から
茫洋と、白い光が零れ落ちる。
まるで光の薄片が夜に散るように、温度を感じさせない光。
『――こちらへおいで。』
さながら、そう告げているように。
ブラックボックスはそこに存在していた。
■オルトゥスの棺 > ――夜が更けて朝が来る頃
再び店を開けた店主は首を傾げるかもしれない。
何か、あった筈のものがなくなっていたような。最初から何もなかったのか。
大事なものを忘れたような、そうでないような――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/露店通り」からオルトゥスの棺さんが去りました。