2021/07/20 のログ
■エレイ > 宿など選ばなければどこでもあるが、それでは面白みがない。
そんな理由で、男は宿を決めかねていた。
「うぅむ……今から一晩泊めてくれそうな親切な人とか現れねぇーかなぁ……」
串焼きをはぐはぐと食べ進めつつ、そんな都合のいい願望を呟きながらきょろりと周囲を見渡す。
果たして、そんな男の願望を叶えてくれるような人物はいるのだろうか。
男自身としても期待値はあんまり高くないかなあ、とは思いつつ、ふと目の前を通った
通行人の一人に声をかけてみることにした。
「あー……そこのお人。ちょいとエエですかねぇ?」
もしその声に振り向いたなら、眉下げた緩い笑みを浮かべながら片手を上げている、
口端に串を咥えた金髪の男の姿が見えるだろう。
■エレイ > 相手の反応は、果たしてどうだったのか──ともかく、夜は更けてゆき……
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 「……困った……」
言葉通り途方に暮れた声で漏れる呟き。
本格的な夏を迎え、昼間はじっとしていても汗がにじむような重苦しい暑さが渦巻いていて、宵闇が街を覆ってもまだ暑気はじっとりと肌にまとわりついている。
涼を求めて人々は冷たいものを口にしたり水辺に集ったり、逆に辛い物を食べたり、思い思いに夏の夜を過ごしていたが。
そんな宵が深まるほどに賑わう都の明るい表情とは裏腹に、少し蒼褪め悄然と焦燥の合間に立ったような顔でそれまで通り過ぎてきた道を引き返しながら、路地の隙間、店の軒先、重なる木箱の合間などを丁寧に覗き込んでは溜息を吐き出す一人の女。
「あぁ……どこに行っちゃったのかな……」
不安を声に滲ませながらついには膝をついて這いつくばって道端に放置された足つきチェストの下を覗き込んでは、目を細くして落ちているものはないか確認し。
「良く、見えない……」
街の光は明るかったが棚の下は当然ながら灯りは届かずに、掌を隙間に差し入れてぺたぺたと軽く上下させてみるが虚しく地面を叩くだけで指先に触れる物はなにもない。
道端とはいえ、人々の行き交う舗道で蹲っているもので時に邪魔くさそうな顔をされ場合に依っては――、
「っぃ……!」
そんなところに人がいると予期されず臀部を蹴飛ばされたりした。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にジャックさんが現れました。
■ジャック >
消耗品の買い物を終え、街をぶらぶら歩いていれば、なにやら地面に這いつくばる女性を見つけた。
何かを探すような彼女を視界の端に捕え、しかし手を貸す素振りも見せず素通り。
困っているらしいのはわかるが、助けを求められているわけではない。
ならば手を貸す道理もないとばかりに見事なスルー。
しかしすれ違って数歩も歩かないうちに、何やら鈍い音。
振り返れば先の女性がどうやら通行人に蹴られたらしい。
「――ふむ」
くるりと向きを変え、来た道を戻る。
そのまま女性の側まで近寄って、
「こんな人の多いところで這いつくばっていると危ないよお嬢さん。怪我はないかね?」
手を伸ばす。
これでも一応医者である。
蹴とばされて怪我でもしたのなら、それはスルーも出来ない。
■ティアフェル > 「ぃたた……」
他人の爪先が柔い箇所にめり込むような衝撃に顔をしかめて唸ったが、蹴っ飛ばした通行人はそんなところに蹲っているのが悪いと、ノーリアクションでさっさと行き過ぎてしまっていた。
確かにこんなところで障害物と化していた自分が悪いのであるが……、
「わたしが悪いのは認めるけどさぁ……せめて一言くらいなんかさぁ……」
思わず不平を零していた、そんな時。
「………え? え、あ……う、うんっ、大丈夫、平気……っ」
不意に声を掛けられて一瞬目を丸く。それからこちらを気遣ってわざわざ引き返して来てくれたらしい相手に、慌てて立ち上がってぱんぱんと裾を払うと。
「すこーし痛かったけどへっちゃらだわ。ありがとう」
まったくなんでもない訳でもないが、さりとて他人の手を煩わすほども、自分で治癒術を施すほどでもない。放って置けば痛みも気にならなくなるだろう。臀部なので痣もできにくい。
「でも、レディのお尻を蹴っ飛ばしといてスルーってちょーと失敬よ、ねえ?」
なんて、自分にも過失はあったことは重々承知だが、それにしても前方不注意で蹴って置いて無視して行ってしまうなんて良くない話だ、なんて笑い交じりに口にして、ぴこ、とアホ毛を揺らめかせ。
■ジャック >
「ふむ。ならばもし痛みが続くようならばキリサキ医院を尋ねてきたまえ。貧民地区の方だ」
細かい場所は誰かに聞けばすぐわかるだろう。
色々な意味で有名だから。
「それで? 蹴っ飛ばされるリスクを背負ってまで、通行の邪魔になるのも厭わず地面に這いつくばって何を探していたのかな?」
まぁ気持ちはわかる。
自分だって興味を持てば人の目など気にならないタイプの人間?だ。
地面に這いつくばって蹴っ飛ばされたことなどいくらでもある。
彼女と違うのはそれすらも気にしないと言うことだが。
自分よりも頭一つぶんくらい高い位置にある彼女の顔を見上げながら。
■ティアフェル > 「ご親切にありがとう、でもそれには及ばないわ。わたし、ヒーラーだから」
と、判る人には判る、という微妙なヒーラー用白衣を摘まんで。お気持ちはありがたく、軽く会釈をした。
そして蹴っ飛ばされる原因となったものを訊かれれば、
「あ、そうそう、あの、これっくらいの銅の腕輪、見なかった? 細くて鎖でつないであるやつで……この辺かなーと思ったんだけど……」
細い鎖が切れたのか、いつの間にか手首から消えていた腕輪。蹴っ飛ばされて物陰の下にでも入り込んでしまったのかもと思い覗き込んでいたが見当たらない。
落としてからそう時間は経っていないし、古い物で売っても大して価値もないのですぐに探せば見つかるかと思ったのだが……。
行き道を引き返してくまなく見て回っているのだが、宵闇の暗さも手伝ってそれらしいものは見当たらない。
■ジャック >
「なるほどご同業であったか。これは余計なお世話だったな」
ヒーラー、と言われれば肩を竦める。
医者とヒーラーが同業かと言うのは人によって意見の分かれるところであろうが、まぁどちらも人を治すものだ。
大差あるまい、と言うのが自身の意見。
「生憎と見ていないな。ふむ」
あるいは転がっていたのかもしれないが、そうだったとしても自分は気が付かなかった。
ひとしきり周囲を見回していてもそれらしいものは見当たらない。
「銅、と言ったね。ならば、そうだね」
片手に紙袋を抱えたまま、もう片方の手でその中を探る。
取り出したのは何やら生々しい肉の塊。
明らかに何らかの生き物の腕で、緑と赤褐色の金属光沢が見て取れる。
そのグロテスクな何かの腕を躊躇なく自身の口に放り込んだ。
ぎざぎざの歯で硬そうなそれをバリバリと噛み砕いて咀嚼。
■ティアフェル > 「そうねえ、こっちは魔法で処置するのが基本ってとこくらいかしら、違うのは。――ううん、余計なんかじゃないわ。気持ちは癒されたもの」
ふるふる、と首を振ってにっこりと笑いかけた。
蹴っ飛ばされていたがっているところ、全員からスルーされるより、一人でも気遣ってくれる人がいるのといないのとでは気持ち的に大違いだ。
「そう……ここら辺で落としたと思ったんだけどな……」
街の灯りの及ばない場所でひっそりと息をひそめてしまっているのかも知れないが、大人しく鈍く光る銅の装身具はどちらにせよ小さくて見つかり辛い。
だから誰にも気づかれずに、まだ落とした場所で静かに待っていてくれているかも知れないが。
見ていないという返答に少し項垂れるように俯き。ほんのりと嘆息を洩らしたが。
「え? ええ。そう、ちょっと古ぼけた銅の……――!? ぅわ?! ちょ、な、な…?!」
素材を訊かれて改めて肯いていたが、不意に相手が取り出したものを口に入れた衝撃的光景に目を剥いて絶句した。
何が起こっているのか意味が分からない。
先程の自分とのやり取りでその行為がなんのつながりを持っているのかもまったく読めない。
ただただ、何かの腕を丸かじりして咀嚼する生々しい音を聞いて茫然と立ち尽くしていた。
■ジャック >
バキバキ、バリバリと明らかに硬い、人が歯で噛み砕くには硬すぎる音が響く。
一口ごとにそれはどんどん短くなり、あっという間に全て口の中に納まってしまった。
彼女のみならず周りの人々もあっけにとられた表情で自身を見ているが、一切気にせずバリボリとそれを噛み砕いて飲み込んでしまう。
「ふむ、なるほど。ええと、少し待ちたまえよ」
何かを確かめるように額に手を当て、何やら集中している模様。
そのまましばらくすると、こめかみのあたりからにょきりと一本の角が生えてきた。
色は先ほどの何かの腕とよく似た、赤褐色と緑の混ざったもの。
「あぁ、やはり多いな。そうだろうとは思ってはいたが銅貨に反応するか。しかし大まかな場所で排除できるな。となるとそれらしいのは――」
ぶつぶつと呟きながら歩き出す。
向かう先は通りにある店、その店先の脇に積まれている木箱の方。
朗らかに客を迎える店主を無視して、その木箱を一つずつ退かしていく。
店主から抗議を受けるが、そんなものには一切構わず次々と木箱の山を横合いへ移動させて。
彼女が付いてきたなら、店主の抗議はそちらに向かうだろう。
■ティアフェル > 「は……はい……?」
ただただ、何事かと唖然として棒立ちする周囲の反応などどこ吹く風でマイペースに、あとすごくグロテスクに生腕を食らいつくす様子。
言葉もなくしばし見ていたが、食べ終えて、彼女が発した言葉に気後れしたように首を傾げる。
待て? なにを? なんで?
頭の中で疑問符を満載にしていたが、そんな目の前で。
「ぎゃあ……」
突然こめかみから奇妙な色の角が生えて来ていた。もう何がなんだかわからないままに、悲鳴というには余りにも小さく無感情な一音を零して。
「…………は……、は……、ちょ、待っ…………えぇ……?」
何が起きているのか微塵も理解できなかったが、独語を零しながら先に行ってしまう背中を見送りかけて途中ではっとして、若干恐る恐るとついて行く。
何がどうなっているのかはさておき、動向は気になる。
木箱をがしがし退けている様を目の当たりにして、一瞬、他人の振り……をしようか、というかもともと他人なんだから素通りしようかと思いかけたが、店主ががみがみと抗議してくるもので、
「ぁ、あ……なんだか分からないけどごめんなさい……も、もとに戻しますので……えと……後で……?」
なんでわたし、謝ってんだろう、と思いながら行きがかり上そうしなきゃな気持ちで頭を下げ。
■ジャック >
「店主、少し静かにしたまえ。彼女は無くしたものを見つけたいだけだ。何も品物を盗もうと言うわけではないのだから」
ひょいひょいと木箱を退かしながら、がみがみうるさい店主に言い返す。
明らかに謝るべきはこちらなのだが、自分はただモノを探しているだけで、うるさく言われる筋合いはないとまで思っている。
軽そうに木箱を退かしているのだが、それは地面に置かれるたびにドスンドスンと重そうな音を立てる。
木箱がその音から想像出来る通りの重さであれば、体格に不釣り合いな膂力の持ち主だと言うことがわかるだろう。
「――やぁ見付けた。君、これかい?」
そして彼女に示すのは、古びた銅の腕輪。
こんなものがそこかしこに落ちているわけもないとは思うが、一応彼女に確認を。
■ティアフェル > 店先で木箱をがたがた避けているのを咎めたら逆に注意されるという理不尽な事態に店主も絶句していた。こめかみに生えたその角に気づいて、関わるのをよそう……と判断して、とにかくちゃんと片づけておくように、とだけ云ってひっこんでしまった。
「あの……なんかすいません……わたしのせいで……」
何がしたいのかよく分からなかったがやっぱり自分の落とし物を探してくれているらしいと判ればさすがに恐縮気味であったが、やがて重低音を立てながら木箱をどかしていた動きも止まって、銅の腕輪を示されると覗き込んで。
「あ! うん! うん、そう! それ……! そんなところに……木箱の隙間から入り込んじゃったのかしら……」
幾分古ぼけた銅の腕輪は確かに自分が落としたもので、その店の前は先ほど通りかかっていたし間違いない。
ぱあっと表情を明るませて嬉し気に腕輪を手に取ると、
「どうも、ありがとう! なんだかわたしにはさーっぱりよく分からなかったんだけど、あなたすごいのね! 助かっちゃった」
どうしてここにこれがあると判ったのか理解は及ばないがとにかく、何らかの技(?)を駆使して見つけ出してくれたらしいことは解り、思わずその手を握って感謝を表そうと。
■ジャック >
「さっきの腕は銅を摂取し、身体に溜め込んだ銅を体表に纏い武器や防具にする魔族の腕でね。銅を感知する能力を持っているんだ」
木箱をどすんどすんと元に戻しながら。
中に何が入っているのかは知らないが、結構雑に積んでいく。
「一度取り込んで体表に析出させることで結構純度の高い銅となるので、その高純度な銅が欲しくて買ったんだが、まぁ問題はないよ」
木箱を全てもとに戻し終え――とは言え最初よりも幾分か雑な積み方だが――、彼女の方へ向き直る。
何故その魔族の腕を食ったのか、何故食えたのか、そしてその魔族の能力がどう関係してくるかなど一切語らずに彼女の握手に応じる。
手を離し、生えた角に手を伸ばして、それをぺきりと折る。
折れた根元は額に沈む様に動き、何も生えていなかったかのような見た目に戻った。
「ふむ、まぁしかし思ったより純度が低いね。安かったから買ってみたんだが、やはり安かろう悪かろうと言うことか」
しげしげと折り取った角を眺めて渋そうな顔を見せた後、それを紙袋に放り込む。
■ティアフェル > 「??? ふ……ふぅ~ん……? なるほどなるほど? 銅をね……銅して銅が……へえ……」
単語としては理解できるけれど結局何を説明されているのかよく分からなかった。
でもきっとわからないから詳しく、と頼んで説明してもらってもやっぱりよく分からないような気がして、判ったような分からないような微妙な顔をして相槌を打っていた。
「………はー……」
うーん、やっぱり判らない。結局なんなんだろう、と小首を傾げたものの。世話になったことは間違いない。見つけてもらった腕輪を今度はなくさないようにしっかりとウェストバッグの中に仕舞い込んで握手していたが。
「ぅっわ……」
目の前でさっき生えたばかりの角がこともなげに折り取られた。さっきから一体何を見せられているのだろう、と若干遠目になったが。それよりも、少し雑に詰まれた木箱の位置をさり気に直しておこうと、位置の歪みを正そうとするが、案外重たくて「おっも…」と小さく洩らしながら、苦心してきちんと積み重ねて。
「う、うーん……? そ、そうね……安いとね……ははは……。
あ、そ、そーだ、そーだ、探してもらったんだからお礼! お礼しないとね! えっと、わたしティアフェル。あなたは? この後時間あったら、どこかでお酒か……飲めないようだったらお茶とか、お菓子とか、どうかしら?」
相手の云う難解な内容はピンときていないように話しを合せて頷いていたが、お礼、と思い至って尋ねてみる。
もちろん都合もあるだろうから、適わないようならば別の形でなにかと考えてはいたが。