2021/06/26 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にフォティアさんが現れました。
フォティア > ゆるりゆるり、と夏へと傾き始める季節。
白く輝くような陽射しの中を、肘に小さな買物用の籠をかけ、銀色の髪の娘が市場をそぞろ歩く。。
様々な露店も並ぶ市場通りは、活気ある賑わいに満ち溢れていた。
とはいえ、昼下がりと時間的に落ち着いたせいだろうか。
ヒトの通りは多くとも、辛うじてぶつかりそうになる難儀はない。


「──── 夏の果物も、そろそろ市場に出てきてる、みたい…」

品ぞろえを眺めつつ、本日は貸本屋も看板を下ろしての休日。
買物だけではなく、ちょっとした買い食いや噂の拾い集めも目的だ。
「…ん」と小さく唸るような声を漏らすのは、足を向ける方向に悩むのか。
遠くからは喧嘩めいた喧騒。
ピークを終えた屋台から、軽食を割り引く旨の、呼び込みの声。
小さな子供たちが、客の合間を抜けるように蛇行して駆けっこをはじめ、買い物中の母親が怒鳴っている。
そんな微笑ましい光景をしばし眺め。
やがて、一つ頷くと。
冒険者、買い物客、貴族のお忍び、警邏兵──様々な客層の通りへと、足を向けた。
機嫌よく、人と人の間を、ついと小魚が流れをすり抜けるように歩き出す。
翠のショールが、ふわりとはためいた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にミシェリさんが現れました。
ミシェリ > 太陽の眩さも日に日に増していくように思える頃。そろそろ黒尽くめのこの姿も苦しくなってくるかと、ひっそり溜息を零す。
地面からの照り返しを受けて頬にうっすらとした火照りを憶えて、自然と影が落ちる方へ、道の端の方へと向けた足取り。
そんな風に賑やかな市場通りを歩いていると、向かい側に見覚えのある顔。おや、と少女の顔を見つめて、思い出した。
以前、雨に降られた夜に暫しの休息を取らせてもらった貸本屋の主…だったはずだ。

「こんにちは。……憶えていますか?以前、そちらのお店で雨宿りをさせてもらった者、ですが」

少し早足になって少女との距離を詰めると、片手を軽く持ち上げ揺らしてみせた。
気さくな挨拶というていで声を掛けるも以前に一度会ったきり。忘れられている可能性も考えて、どういった状況で出会ったかを先に告げた。

フォティア > 賑わいが高い空に響く市場を、商品や露店を見ながらそぞろ歩く小柄な銀色の髪の娘。
ワンピースは濃い色だが、軽い素材なのかまださして暑そうな様子は見せていない。
ゆえに、ゆるゆると、急ぐ人々には追い抜かされるに任せて、マイペースな脚運び。

ふと。
聞こえて着た声音に、露店へと向けがちな視線が通りへと引き戻された。
二度、三度。繰り返される瞬き、束の間不思議そうな色合いを浮かべ、そして、ふわりとほころんだ。

「────……ぁ。……ああ。 …いつかの。 雨の夜の、お客さま」

それでもしばしは、考えこんでしまったのだろう。
少しだけ、思い出せなかった瞬間があることに、罪悪感を覚えたのか申し訳なさそうな、照れ笑い。

「こんにちは。 ふふ。 夜に見るお顔に…陽の高いうちにお会いするのは、不思議な気持ちです」

ミシェリ > またあの店を訪ねてみようと考えている間に結構な時が経っていた。
改めて雨宿りの礼をと考えながらも機を逸していたからこそ、彼女の顔を一目見て思い出せたのかもしれない。
少女が考え込んでいる間に帽子の両端に手を掛けて、鍔を軽く持ち上げる。そうして自分の顔をはっきりと見せて、暫し待ち…ああよかったと、吐息を零した。

「――よかった。もし思い出してもらえなかったら、どう誤魔化そうかと考えていました」

可憐な照れ笑いを前におどけた仕草で肩を上下。
以前にも可愛らしい少女だと感じていたものの、夜に出会うのと昼に出会うのとでは、いくらか印象が違うようにも見えて。

「それではまるで、夜遊び好きの悪い子のようではないですか。……今日は、これからどちらかへ?」

冗談めかした軽口を返しながら、一歩、彼女との距離を縮める。愛らしいものはもっと間近で楽しみたいと、柔らかく笑う顔をじっと見つめて、小首を傾げた。
特に目的もなくふらふらと歩いては、何か面白い事に出会えないかと考えていた。いわば退屈していた状態だから、偶然にも再会できた少女との時を過ごせないものかと目論んで。

フォティア > 客商売ゆえに、お客の顔と好む物語の傾向をセットで覚えるのは得意だが、それが紐ついていなかったのだろう。
迂闊さに少し恥ずかしそうに誤魔化し笑いをしながら、僅かに首を傾ける。

「 正直に言うと……すこぉ、し、危なかったです。 
 基本的に、わたしの対人スキルと記憶力は、お貸しした本などに結び付いておりますので」

それもどうかということを隠さずに口にして、ゆるりと銀の髪を揺らすように首を横に振る。

「そう言うつもりはなかったですけれど…………… 見方を変えれば、ここも…盛り場? かと」

わざといかがわしい方向の言い方をする。
もちろん、盛況な場所ではあるものの、いわゆる「盛り場」ではなし。
表情はわずかにからかうよう。

「今日はお店は定休日ですので、食料品の買い出し。
 あとは噂話を拾い歩いて。それから、露店で何か美味しいものを見つけられれば、なんて」

本当に、なんてことのない若い娘らしい休日の過ごし方。
そういう意味では、少し恥ずかしくなって淡く頬を染めた。

「お客さまは、こちらの市場にはよく赴かれるので?」

ミシェリ > 一応お客という扱いを受けてはいるものの、彼女の店を本来の目的で利用してはいない。
ならば憶えていてくれた事をありがたく思いこそすれ、少し間が開いた程度、気を悪くする理由にもならない。彼女がばつの悪い思いをする事はないと首を振って。

「私がお借りしたものは、天井と屋根と…あとは椅子くらいのものですから。…ついでに何か一冊くらい、借りておけばよかった」

読書はそれなりに好んでいるから、どうして本を借りなかったのか思い出そうとして、ああ雨か、と納得した。
帰るころには止んでいたかもしれないけれど、大切な貸し出し物が湿気で傷むのもよろしくないなどと、あの日は考えていたのだろう。

「ええ、確かに…気の強そうなおばさま方に、元気な子達。ああ…あちらなんて、こうも明るいうちから仲の良さそうな事で」

数人連れで周囲に響き渡るような声での雑談を楽しむ、年配の主婦と思わしき集団。公園への一番乗りを競って走る幼い少年少女。それから、そんなにくっついていては暑いだろうにという男女のカップル。
賑わいの面では、本当の盛り場の夜にも劣らないだろう。そんな光景を見渡して、くすりと笑い。

「のんびりとした、よい休日の過ごし方ですね。私の方は…まあ、時々。それこそ、夜に盛り場をぶらつくような事もありますし…」

先程少女から発せられた盛り場という単語を拾い直して、今度はこちらがからかうような表情を浮かべてみせた。
その後で、ぽん、と胸の前で手を打つ。たった今何かを思いついたと言いたげな切り替えの仕草。

「ああ、そうだ。…よろしければ、冷たいお菓子でもいかがです?以前のお礼も兼ねて、…というより、一人よりは二人の方が退屈しないで済みそうなので」

柔く笑いかけながら、そんな誘いかけ。

フォティア > 「確かに。一冊借りていただけれていれば、きっとしっかりと忘れず覚えていたと思います。
 ……返却期限とともに」

 少しだけ、悪戯っぽく片目を閉じて。
 とはいえ、あの夜は湿気のある雨の夜のこと。本好きほど、気を使う夜であったことは確か。
 それを理解しているがゆえに、責める響きにはならなかった。
 市場通りの行き交う人の顔ぶれは、夜のそれに比べてはるかに多彩で、生命力あふれたもの。
 指し示される方向へと、何気なく視線を流せば、視界に移るむつまじい光景に、まだまだ健全だというのに「あわ」と少し狼狽したように、頬を染めて視線を背けた。
 見るものではないです、と言いたげに、ちょっぴり口唇尖らせて彼女のジャケットの肘の当たりを摘まむように、軽く引く仕草。
 チャレンジしたもののからかって見せるのは、まだまだ熟練不足というところ。

「ええ。面白みがなくて、恥ずかしいくらいです。
 でも、街の表情はそれこそ、日々、季節、昼夜で、人々で様々ですから。
 書籍に記された出来事のように定まらず、折々の千変万化で飽きません。
 さすがに、お店があるのですべての、夜の表情を見ることはできないですが…

 ──……あ。 よ、よろこんでっ」

 お誘いに、思わず勢い込んで身を乗り出してしまった。
 きゅ、と両手を握りしめて力強く。
 若い娘らしく、甘いもの大好き。
 美味しいもの大好き。

 そして、きっとおしゃべりも大好きなのだ。
 淡く頬を紅潮させて、年頃の少女らしく、貸本や主人としての静かな佇まいを繕えぬほど、無邪気。

 指先が嬉し気に彷徨い、先ほど引いた袖を今度はそっとつまむ。
 まだまだ人通りの多い市場。迷子になるまい、はぐれまいとしてか。

ミシェリ > 「よく、うっかりしてしまうのですよね。図書館の返却期限だとか。自分の家にも本が多いものだから、そこに紛れてしまうと、借り物だという事を失念してしまって」

軽く肩を竦めながらも、あまり悪びれてもいない表情。
そんな話をしていると、また何か借りっぱなしになっているものがないかという心配が頭を過ぎったものの、それは帰ってから確認すればいいだろう。
周囲に目を配った後、彼女も同じように視線を巡らせたのだろう。袖を引く仕草に思わず笑ってしまって、小さな杞憂はすぐに吹き飛んでしまった。
先程の男女をもう一度だけ見遣ってから、わざとらしい視線の動きで目を逸らす。
拗ねた様子の彼女に対して、そんなおどけた素振りを更なるからかいの一端として。

「誰かを楽しませるために休日を取っているわけではないのだから、面白みがなくてもいいでしょう。自分が楽しければ、それで。
分かりますよ。この街には、本当に色んな方が暮らしていますし…色々な事が起きますから、散歩をしているだけでも全然飽きが来ない」

目的もなくぶらぶらと歩き回る時間の使い方も、それはそれで贅沢をしていると言えるだろう。
彼女が語る散歩の楽しみに理解を示して、深く頷いてみせる。
もう一度あの男女の方へ目を向ける事はなかったけれど、改めて周囲を見回さずとも、ちょうど元気な子供達がすぐ近くを駆け抜けていく。脇目もふらない危うさに、ぶつからないように道を譲って。

「よかった。白昼堂々とふられるような事がなくて……ちょうど、近くに気になるお店があったので、付き合っていただけますか」

誘いかけには気持ちのいい返事が返ってきた。再び袖を摘ままれると、見た目の印象以上に幼さを感じて、口元がつい柔らかく緩んでしまう。
甘いお菓子を餌に子供を攫う不審者のようだと自分を客観視したりもするものの、これほど愛らしく乗り気になってもらえたのなら悪くはない。

行きましょうかと目配せをして、エスコートするよう半歩分だけ先を歩く。
夕食のための買い出し目的か、また少しずつ人が増え始めた往来を、少女がはぐれないように連れ歩き。
そんな二人の姿も、やがて人混みに紛れて見えなくなってしまっただろう――。

フォティア > じんわりと汗ばむような季節へと傾いた頃合いの冷菓子などという釣り針の大きさにいっそ危ういほどの素直さで、釣られクマ―といったところ。
そうなれば、食料品の買い出し優先順位は必然的に後へと押しやられ、またお店の休憩時間にでも…などと水は低きに流れるものである。
また少しずつ増えてきた人通りを、時折うっかりとぶつかりながらもすり抜けて、エスコートされるままに市場通りを歩いていく。
 
「もちろんです。 これからの季節、冷たいおいしいお菓子のいいお店を知ることができれば、きっと、楽しめそうですから」

弾んだような声音は、気付けば店主然としておらず。
人通りへと二つの人影は紛れていく。

カルガモの子のように、ちょこちょこと女性の後を付いていく少女の姿が見掛けられたというのは、常連の証言だったかもしれない。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からフォティアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からミシェリさんが去りました。