2021/04/12 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にヴェレニーチェさんが現れました。
ヴェレニーチェ > ついていない時、というのは、どこまでもついていないらしい。
人通りも絶えた夜更けの裏路地を、あてどなくとぼとぼと歩きながら、
少女はもう、何度目かも知れない溜め息を吐いた。

今夜は隣室の修道女に、早い時間から来客があった。
耳を覆ってじっとしているのも辛くなって、礼拝堂へ向かったが、
今夜に限って、そこも、安寧の場所ではなかったので。
ほんのすこし迷ったけれど、外へ散歩に出ることにしたのだ。
まだ王都の地理は良く知らないので、本当に、すこしだけのつもりで。

「………えっ、と」

確か、ここを曲がれば。

独り言ちながら足を向けた曲がり角の先は、見覚えのない界隈。
なんだか、どんどん変なところへ迷い込んでいるような気がしてきた。
道をきこうにも、先刻から誰にも行き会わない。
こんな寂しいところで行き会う人に、声をかけることも危険、なのかも知れないとは、
そろそろ、少女にも分かり始めていた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 王都の平民地区。
荒くれやゴロツキの多い貧民地区に比べて治安が良いと言っても、
それは飽く迄、人通りが多くて衛兵詰所や商店が並ぶ大通りの事。
一歩、通りを逸れて、路地裏にまで足を踏み入れれば、
強盗や暴行、強姦に始まり、果ては殺人に迄、他者に襲われる事も多々ある危険性を孕む。
背徳と退廃の都、マグメールに於いて、真に安全な場所など何処にも存在しないのだ。

そんな一歩間違えば損害を負いかねない危険地帯をのうのうと歩く中年の影が一つ。
片手には酒の入った革袋を掲げ、宿に帰るのに近道という理由だけで路地裏を闊歩する。
静かな路地裏にかつんかつんと靴音を響かせていれば、前方に見覚えのある蜂蜜色の髪を見付け。

「んん? ……若しかして、ヴィーか?
 こんな場所で独りで何をしているんだ?」

双眸を細め、少女の姿を捉えると声を掛けながら近付いていく。
数日前、褥を共にした少女に取ってみれば、彼の存在は安全と危険どちらに傾くのかは定かではなく。

ヴェレニーチェ > どこかで誰かの靴音がして、少女は一瞬身を硬くする。
逃げるべきか、隠れるべきか、それとも勇気を出して道をたずねるか。

しかし一瞬ののちには、迷う必要がなかったことを知る。
すくなくとも靴音の主は、見ず知らずの人ではなかったので。

「あ、―――――― トーラス、さ、ま」

振り返って、わずかに逡巡する間をあけて。
自分から、半歩ほど、相手の方へ歩み寄り、

「お散歩、の、つもりだったんです。
 でも、あの……道が、わからなくなってしまって」

つまりは、迷子です。
そう告白したも同然で、堪え切れずうつむいた頬が、じわりと赤味を帯びていた。

トーラス > 歩み寄ってくる少女が口にする告白する言葉に小首を傾げ、双眸を瞬かせる。
散歩、と云うには時間も、場所も余りそぐわない状況だろう。
彼女のような世間知らずの令嬢が深夜に足を踏み入れる場所では到底ない。

「へぇ、意外とお転婆な不良だったんだな、ヴィーは。
 ……まぁ、だが、母親の男を寝取る程にはワルだったか」

頬を赤らめる彼女に右手を差し伸ばすと、その肌を包み込んで緩く撫でる。
迷子であるとの白状に、そんな揶揄を返しながら、もう片方の左手を差し出し。

「こんな時間じゃ、一緒に飯、という訳にもいかんな。
 道に迷ったならば修道院まで送ってやっても良いが、それとも、俺の宿にでも来るか?」

処女を奪っただけではなく、他の誰よりも血の濃い間柄の少女を、
この場にて放置して、他の好からぬ連中の手付きにする考えは及ばず。
彼女が差し出した手を取るならば、望んだ方へと案内すべく、
路地裏を二人、並んで歩いていき――――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にヴェレニーチェさんが現れました。
ヴェレニーチェ > 「ふ、……不良、って」

お転婆、の方は否定しきれないが、不良扱いはさすがに。
そう思って首を振りかけたけれど、続く言葉に固まってしまう。
頬に触れる掌は、そこが熱くなっているせいかひんやりして、
慈しむような手つきだったのに、なぜだかひどく、ドキドキした。

「ねと、……そっ、そんな、こと………、
 ―――――――あの、とてもありがたいのですけれど、修道院は」

否定出来ない、記憶までは失われていないのだ。
うつむいたまま、送ってくれるという申し出は嬉しいが、
出て来たときの事情を考えると、まだ、帰るのは早いような。
確かにもう遅いし、眠気もあるし、帰りたいとは思うけれど――――、

「――――――え」

ぱちぱちと瞬きながら、頭ひとつぶん以上高い位置にある相手の顔を仰ぎ見た。
単なる親切心だけか、それとも別の意図が絡んでいるのか、
今はもう、まったく考えないわけでもなかった、けれども。

「……わたし、今日は……普通に、眠りたい、です。
 もっとちゃんと、お話、したいですし……」

差し伸べられた手に、小さな手をそっと重ねながら、
だから一応、そう、釘を刺してはおく。
重ねた掌はきっと、眠い時の子ども特有の温さを宿していただろう。
少女が選んだ目的地は、けれども相手の宿の方だ。
彼の大きな手をきゅっと握り、心なしか嬉しげに、足取りは軽く――――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からヴェレニーチェさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からトーラスさんが去りました。