2021/04/04 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 亡霊桜」に燈篭さんが現れました。
■燈篭 > 春の夜
王都の夜は、港湾に比べれば寂しい
明かりの付く店は酒場や娼館 小さな賭場と 夜を彩る場でしかない
故に、港湾に比べ そっ と桜が時折現れる
名前は亡霊桜 肌肉や桜色に青白い色を重ねるような見事な桜を前に、人は酒に酔い、人を集め、夜を楽しむ
そしてそんな桜を楽しめぬ者を、更に咲く外へと誘うのだ
あれは正に、妖樹と言われた。
「―――おう、今夜も見事な桜だ。」
そんな亡霊桜は、この夜更け 見つけた者らは酒を片手に楽しんでいるだろうが
小鬼が見つけた 王都広場 の桜はまだ誰もいなかった
この桜、咲く場所が決まっているのかすらわからない
故に、人はその一時を まるで楽しみ切れなかったからと時間を割くように 夜更かしの夜 を楽しむのだ。
「夜桜を楽しむにはこいつが一番だっていうのに
都人は、酒を楽しむ場所を店と女だけにしちまっているよ。」
一人そうつぶやきながら、既に酔いどれている小鬼
頬は染まり、酒気が漂い、側頭部から生える一本の片角
右の肘からも映えたそれは正に凶器を思わせる。
手元には、どこから仕入れたのか 器量のいい素焼きの亀瓶を持ち、桜の真下ではなく
その全貌が眺められる広場の階段で腰を下ろし、膝をついた。
小さな体には、腰を掛けるも、背を持たれるも、ちょうどいい広場の段差
瓶の、ぎっしりと固められた縄紐と紙が一つかみで千切られる。
「んー……♡
こいつはいい酒だ。」
瓶には二色の葡萄に山桃の印が刻まれていた
人が見るだけでうまそうに見える酒
それを柄杓や手ですくうなど、勿体ない。
木組みの升が一つ、小鬼の懐から出た
麦や木の実を測るそれにでも使われているのだろうか
それ ぱしゃんっ と魚が綺麗に跳ねたように、水音が鳴った
掬う色は、薄い紫色の中に、月明りで透かすとやや緑色も映る混ざり色
「―――んっ……んっ……んぅっ」
桜が、はらりはらりと青白い花びらを、地面に落とし、それが消えていく
正に亡霊 儚い一夜のそれを眺めながら飲む瓶酒の、なんと甘く、喉から鼻へ出る香りと酒気の熱
「あぁぁ……うまいなぁ。」
目をつむり、思わず酔い痴れる言葉を出す
夜桜と上等な瓶酒 こんな夜を嫌いになれる者など、いるはずがない。
■燈篭 > 今夜もどこぞで、血を啜り、酔い痴れているのだろう 亡霊桜
小鬼の機嫌はなんとも好い
桜 満月 瓶の酒
鬼が喜ばない日ではない。
瓶の大きさ、小鬼は抱えるにはやや大きなそれ
しかし小鬼の胃からすれば、容易く干せる
この夜の間なら、十分に瓶の中身は乾くだろう。
「桜の出来もいいなぁ どれだけ人を誘ったんだい。」
そんな亡霊桜を褒めるように、小鬼は酒を持ち上げ、笑いつぶやく
桜の華量 風が撫でるたびにふわりと表面が弛むほどに花をつけている
下から見上げたのならば、さぞや絶景だっただろうか
しかし小鬼は、敢えて外で散る姿を眺めながら見るのがいいと、広場の土に、多く陰りをつける花の量を楽しんだ
しかし小鬼は、そこで嗚呼、と額に手を一つ ぴしゃりと打っては升に汲んだ酒をみる。
「どうせなら、もっと広い盃を持ってくるんだったか。」
これじゃあ、花が酒に誘われやしない
ひらりと盃に落ちた酒を愛でるのも、酒好きの華だろうにと
小鬼は惜しむ気持ちを持ってしまうものの、この亡霊
まだまだ夜に続く桜なのだ 次は穀物を醸した澄まし酒を手に、赤い盃を持って来よう
次の楽しみが、もうできてしまった
これだから春の夜は、やめられないのだ
「―――くはぁっ……たまんないなぁ。」
升の角から、小さなその口元に注がれる葡萄と山桃の醸し酒
生まれた国の、穀物と水から精した酒がやはり一番だ
しかしそれでも、この口端にこぼれる色づく酒は、中々の上物
西の国もいい酒を造るものだと、小鬼は酔い、頬を色づかせ、吐く吐息は甘く、熱を持つ。
ペロリと口端を舐める、小さな赤い舌は、まるで血を舐めとる鬼のように、酒の雫と重なり、映えていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2 亡霊桜」から燈篭さんが去りました。